不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第六章 運命の一年間

140 浮き沈みする不安

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話がそれてしまったが、僕は今回攻撃が出来ない。
そのため、今回は、回復役として付いていくことになってる。

「ラスティ様、手伝いましょうか?」

マールが僕の様子から声をかけてくる。
つい『俺』と話し込んでしまっていた。

名前の候補もできたしと思いながらマールに大丈夫と答えて僕の荷物を見る。

僕の荷物は武器はレイピア一本。
あとは回復のものばかりだ。
近場だから、荷物は少ない。
数個の予備の魔石と薬草とアクセサリーについている魔石。
魔石の数は、少し過剰なほどだが、予備は多いほうがいいだろう。
あとは非常食。
念のため二日分くらい。
軽いクッキーのようなものと、水を作れる魔道具。
重い水を持って行かなくてもいいのは、身軽に動けるようにするためには助かる。
今回持っていくクッキーのような非常食は、もそもそとした食感でほんのり甘い。
栄養はあるのだが、もう少し食感が滑らかにならないかなぁと思う。

僕の荷物はこんなものだ。
ノルンが前日に準備してくれている。
確認だけなのだから、未だにまわりで話し合いながら荷物の選別をしている皆ほどやることはない。

僕は顔をあげて皆の様子を見た。

マールは、荷物を一から考え直しているようだった。
人数が増え分持っていくものを見直しているとのこと。

リオンは、不貞腐れつつも自分の荷物を確認している。
皆の荷物の準備に時間がかかっていることを不満に思っているようだった。
とは言っても原因はリオンの乱入だ。

ロイスとトリスティは武器を考え直しているようだ。
通常の武器と共に遠距離系の武器何にするか悩んでいるらしい。
トリスティは、投げナイフにつけていた毒を除去している。
リオンの動きが予測不可能だから当たったら困ると確認しつつ拭き取っては浄化の魔法を使っている。
ロイスは、ボウガンと弓を並べて唸っていた。
ちょろちょろしそうなリオンに当たったらどうしようと当初のボウガンをやめるかどうかを考えているらしい。

僕は携帯食をもう少し持って行った方がいいかなと思い立ったが『俺』がいらないだろうとつぶやいた。

『普通に魔物狩って食えばいいのでは?』

不思議そうに『俺』が言った。
結構、『俺』はワイルドだなと思う。

「魔物も全部食用になるわけではないからね。」

毒があったり、骨だったり、スライムだと溶けて蒸発する。
陛下が弱い魔物と言っていたからスライムとか、フラワーバットという名前のカラフルな蝙蝠とか最弱と言われている魔物ばかりだとしたら食べれるところはないなと僕は思う。
そもそも魔物もいないかもしれない。
僕の意見に『俺』は首をかしげた。

『でも…天然の魔石があるところなんだよな。魔石ってさぁ………まぁ…いいか…気のせいだろう。』

困惑している『俺』に僕は心配性だなと苦笑する。
陛下とジークハルトもあの洞窟は良い天然の魔石が取れるが魔物はいないという。
その情報は間違いないだろう。
きちんと荷物を確認してから、やれやれと肩をすくめつつ、楽し気に笑っている仲間たちを再度見る。
手慣れた様子で準備している彼らは緊張などしていない。
ロイスはもちろん、トリスティも近場の魔物討伐などは参加している。

次期騎士団長と言われているロイスは最近は特に実績作りを行っているようだ。
頻繁に魔物退治などの任務に出ることが多くなってきている。
世襲制ではないが、ロイスの貴族としての身分は低めだ。
この国も聖者の教えの力を重視するから、貴族も力関係で地位は変わる。
僕の実家のように王家の血筋でも地位は低い。
基本は、実績がすべてともいえる。
けれど貴族はどうしても、地位も力といえる。
実績を積ませようとしているバルハルト公の気持ちもわからないでもない。

トリスティも、次期宰相として実戦を積み重ねている。
将来のことを考えての彼らの行動に僕は少し胸を痛めた。

「僕だけ…足踏みしている気がする。」

僕の言葉に『俺』が苦笑した。

『まぁ、だから今回のことはいい刺激になるのではないか?』

そうだねと僕はつぶやくと地図を見た。
洞窟は、森の中にある。
地下二階くらいの小さな洞窟だ。
二層になっている。
魔石は、入って少し多くに入ったところにあるらしい。
魔物はそこから更に下に降りた下の層に残っているかもしれないとのこと。
地下一階は結界の力が届いているので魔物は滅多にいないという。
国は結界に覆われて、表層では魔物は、はじかれる。
だが、地下には居ると今回知った。

魔物は王国には基本的には入ってこない。

ロイスは結界の外に行って討伐任務にも参加している。
トリスティは、訓練がてら地下に居る魔物討伐に何度か参加したくらいだと苦笑していた。
結界の効力で地下に魔物はいるが、かなり奥に入らないといないという。
今回の洞窟ではそもそも魔物がでないだろうという。
でもこれから生きていくことを考えたら守ってもらってばかりでいいのだろうか。

やはり…戦闘経験をつめないのは少し…いや…かなり困ったことだなと僕はため息をついた。

魔物がいるかどうかもわからない。
だから、討伐任務というほどではないとトリスティは僕を慰めるようにそう言った。

『まぁ…鬱々するなよ。楽しみは楽しみだろう?』

そう『俺』は言う。
僕は頷き、そうだよ楽しみだと答えた。
けれどもやはり少し鬱々した気分を纏ってしまう。
初めての風景が見れる。
楽しみにしている。
けれども、それにはやはり誰かの手を借りてやっとできることだ。
僕一人で出来ることなどたかが知れている。
分かってるが情けなくもなるのだ。
初めて会った時に小柄で頭は良かったけれど小さかったマールは、僕より今は強い。
マールも騎士団の訓練に参加している時に何度か地下の洞窟には入っている。
僕が足踏みしている間に皆に追い越されて気分だ。

「ラスティ様は、初めてですから今回は石を探すことに集中してくださいね。」

先ほど、隊列を言われ、マールにそう言われた。
騎士のロイスが前衛で、僕とマールとリオンが、真ん中、後方がトリスティ。
やはりというか、過保護と言うか。

…僕は完全にお荷物だなとため息が出た。

立場上仕方がない。
そうは思う。

けれどもやはり何度でも思ってしまう。
なさけないなと。

僕は、皆のお荷物になりたいわけではないのに。

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