不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第六章 運命の一年間

133 ぶるぶる魔石の使い道

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バンと音を立てて扉が開いた。
男はつまらないなと口を尖らせた。
怒気を纏ったジークハルトとロイスが同時に扉を蹴りで壊したらしい。
ぶらぶらと大きく左右に揺れる扉が、ギイギイをきしんだ音を立てている。
リオンとマールがお互いを庇うように立っていた。
そして、呆然とした表情のトリスティが男を見つめている。
トリスティが、絞り出すような声でつぶやく。

「ウェルタ…」

ウェルタ、と聞いて僕は目だけで男を…ウェルタを見る。
記憶の中のウェルタはもっと華やかで陽気な男だったと眉を寄せる。
どこか陰気な気配を纏ったウェルタは、ひひっと少し不気味に絞り出すような声をだした。

「…どうしてこんなことを…」

トリスティの言葉にウェルタはさらに笑う。

「あはは…頭のいい君がわからないの?本当に??」

蔑むように、気が付いてもらえないことを悲しむようにウェルタは笑う。
僕は、顔を上げて彼らを見た。
マールが一瞬ほっとしたような表情を見せてからジークハルトを見る。
ジークハルトはロイスを見た。
ヴェルタは、そんな様子を見てにやりと笑う。

「はは…お妃さまを助けたいの?いいよ…もう用は無いから。」

ジークハルトはウェルタを睨む。

「どういうことだ…」

ウェルタは笑う。

「ああ、お妃さまには薬を飲ませただけで何もしていないよ。可哀そうだから身動きできないように縛ってあげただけ。あの薬って効果がすごいみたいだからね。」

トリスティの顔色が変わった。

「まさか…お前…最近問題になっている中毒性のあの薬をラスティ様に…」

ウェルタはそうだよと笑った。

「そうだよ、でもいいでしょ?この子はもう旦那様がいるのだから、可愛がってもらえばそれでいいのだから。」

トリスティは首を横に振った。

「お前…本当にどうしたというんだ。…解毒剤を飲ませないと…ジークハルト…」

ジークハルトが頷いてウェルタを警戒しながら僕に近づいた。
ウェルタは動かない。
ロイスもジークハルトを守るように一緒に僕の傍に座った。

「ラスティ…ごめんな…俺たちが傍にいたら…」

ロイスがジークハルトの肩をつかむ。

「しっかりしろ…大丈夫だ。ラスティは正気の眼をしている。今なら間に合う。はやく解毒剤を飲まして…いや…その前に薬を吐かせないと。」

そうだなとジークハルトが僕の猿轡をとる。
僕は、ほっと息を吐いた。

「……おもったより…平気そうか?」

おやっとジークハルトが首をかしげる。
ロイスも、あれという風に僕を見た。
聞きたいのは僕の方だ。
何ともないのだから。
解毒剤飲んでないけど。

ウェルタはそんな僕を見て首をかしげた。
ジークハルトとロイスは僕の様子を見て縄を全て外してくれた。

『ねぇ…きみさ…ブレスレット返して。あれ陛下にもらった大切なものなんだ。』

ウェルタはぎょっとしたように僕をみる。
トリスティは首をかしげた。

「ウェルタ…おまえ…脅しただけか?」

ウェルタは首を横に振った。

「そんなはずない…飲ませた…確かに飲んだのに…なんで…」

だから僕が聞きたいと思っていると、『俺』がため息をついた。

『飲んでないよ。』

ジークハルトとロイスがぎょっとしたように僕を見る。
『俺』は手首を動かしながらめんどくさそうにウェルタに言う。

『まぁ…こういう事の予測の範囲だ。王妃という者は、狙われるのが前提にあるからね。危険なことにならないように、意外に色々仕込んでいるんだよ。口にはいれられたけど…こっそり出した。それだけだ。』

そう言って『俺』はポケットからハンカチを出す。
ハンカチを広げると、プルプル魔石が何か液体を包んで揺れていた。

『奥歯にこの魔石の部品を仕込んでいたんだ。奥歯を噛みしめたら口の中のものをこの魔石の中に転送して封じることができるようになっていてね。君に飲まされた薬を飲んだふりをして転送させたというわけ。』

内心唖然としている僕に『俺』はやれやれと苦笑する。

『解毒剤を作っても、その解毒剤を効かないようにしている改良版がでて、解毒剤を役に立たなくさせているのには、気が付いていたよ。作っても作っても次の時にはうまく効かないってことがつづいていたからね。何か問題点があるのかって色々工夫してたけど…どうにもダメだった。巧妙にやってたみたいだから…解毒剤を改良しても改良しても上手く行かなかったのは…そういうことだったのろう?』

ウェルタがひひっと笑う。

「そうだよ…」

『俺』はだろうなと頷く。

『だからさ…そういうことがあったから…別の方法を考えていた時に思いついたんだ。まぁ…失敗作の魔石に面白い性能があったことを気が付いて…魔石を改良したらこうなった。』

どうなったらそうなるんだ!!

僕の心の中の叫びが、外に聞こえるわけもなく。

『俺』が楽し気にウェルタを見た。
僕はほっと息を吐く。
とりあえず助かったのだから。
ウェルタは、呆然と僕を見ている。
ばかなと彼の唇が音を出さすにそう動いた。

『残念でした。おとなしくしなさい。』

唖然としているウェルタをトリスティが抑え込んだ。
ジークハルトとロイスは僕をぺたぺた触って異常がないか調べている。

「…この馬鹿…」

ジークハルトの言葉に僕はごめんねと言いながら頭を下げる。

「やめろ…頭なんて下げるな…これも仕事だ…でも…これ以上仕事を増やすな。」

ジークハルトの言葉を聞きながら、僕はほっと息を吐いた。

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