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第六章 運命の一年間
125 青い蝶
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結局、ラスティは誕生日をしっかり皆に祝われた。
いつもより豪華な夕食、デザートに大きなケーキ。
王宮側の使用人たちにも、いろいろ贈り物をされた。
貴族達からの祝いの品は一旦調べてから、奥の間に移されることになっているから明日か、明後日になるだろう。
ラスティが眠りにつき、彼の寝顔を少し眺めていた陛下が眠りに落ちる。
ゆっくりと『俺』はベットから抜け出した。
そっとバルコニーに出ると夜風がやわらかく『俺』を包んだ。
『うん…いい日だったなぁ…』
ラスティが祝われると『俺』も祝われているような気がしてうれしい。
ぼんやりと俺は空に浮かぶ月を見た。
月に、手を伸ばす。
『ああ…良い夜だ。』
いつもならば効くことも無いだろう陛下も疲れている所為で魔法がよく効いている。
俺の使う魔法は、まがい物だ。
陛下のような人には効かない。
今日は陛下が疲れているから少し効いたのかなと思う。
彼の眠りを邪魔したいわけでもない。
陛下は、たぶん『俺』を警戒していないから下手な『俺』の魔法も受け入れてくれているだけだろう。
度量の大きい男だと思う。
陛下はうすうす、ラスティの中の異物である『俺』のことも分かっているだろう。
けれど、彼は『俺』を見逃してくれている。
『優しい方だからなぁ』
『俺』は異物なのだと思う。
ラスティの体にいるのはオカシイ存在。
色々ラスティは勘違いしているようだけれども『俺』は、彼の考えているようないいものではない。
王家のおとぎ話の子供でもない。
ラスティでもない。
たぶん、この世界に転生した男の妄執。
生まれ変わっても残ってしまっているすてれなかった妄執でしかない。
生まれ変わるときに綺麗に無くなっていなければならない余分な記憶や感情、繰り返しの生でラスティが受け止めきれなくなった記憶の塊。
『俺』はそんなもので出来ているのだと思っている。
『たぶんラスティになれなかった男の妄執ってとこだろうな。』
…『俺』は異物で…ラスティにとって邪魔なのもの。
だが、ラスティが拒絶した記憶の中にもこの世界を進めるための情報があることも確かだった。
もし、『俺』に存在価値があるというのならば、『俺』の価値はそれだろう。
『たぶん…今の薬にはあれではダメなんだよなぁ』
ラスティの死因の三番目の薬を完全に防ぐための方法。
彼は必死に解毒剤を用意しているが、そもそもを防がねばならない。
体に吸収しない方法を考えねばならない。
ラスティとは別のアプローチで防ぐ方法を考えることができる。
『俺』の存在価値だろう。
そのために別々に行動できるようになった。
おそらくは…ラスティの中に眠る五番目の子どもの仕業なのだろうと『俺』は思う。
ラスティに近い存在だろうなとは思っているが。
『たぶん…仕掛けてくるのは別の人間だろうし…方法も異なるかもしれない。』
使い魔である蝶を数十匹生み出し空に放った。
ラスティが生み出す使い魔は、光の蝶だ。
金色に輝く美しい太陽の蝶。
けど、『俺』の生み出す蝶は青いガラスのような薄っぺらい蝶だった。
青白い薄い光を放つ透明な蝶。
綺麗ではあるが…すぐに壊れてしまいそうな…脆いいや、実際脆いものだ。
借り物の力だからだろう。
飛んでいく自分の使い魔を眺めながら『俺』はため息をついた。
今にも消えそうな不格好な使い魔たち。
少し、かなり申し訳ない。
仕方がない…だって自分は見様見真似の魔術でしかない。
学ぶラスティの眼を通して、ぼんやりと眺めていたからだろう。
『まぁ…消えるのは…『俺』だろうからなぁ…』
ぼんやりとそんなことを呟いた時だった。
ふわりを後ろから抱きしめられた。
「何をしているの?」
先ほどの使い魔の魔力の流れを感じたのだろう。
陛下が起きてしまった。
自分の魔術の下手さ加減に呆れつつ『俺』は、そのまま答えた。
『探し物を思いついて…』
そうと陛下は、苦笑する。
「同じなのに…違うね…君の蝶は、月の蝶か…」
耳元でそう陛下はつぶやく。
月と見てくれるのかと少し思う。
そんなに良いものではないだろう。
『俺』がそう思っていると陛下が、苦笑した。
「そんな憂い顔をされてしまうと…我慢しきれなくなるよ?ラスティ…」
そんな顔をしていただろうかと『俺』は陛下を見る。
陛下は、はぁと小さくため息をついた。
「分かっていないみたいだねぇ?」
そもそもそんな顔をした覚えがないので仕方ないだろう。
そう思いながら陛下を見ると、陛下の笑顔が深くなる。
「『ラスティ』…君もラスティの一部だという事を君が忘れたから…そうなっているんだ…」
『俺』は首をかしげる。
一部ではあるだろう。
不要な彼だと『俺』は自分をそう思っている。
いらない部分だ。
そう思っていると陛下に口づけられた。
ゆっくりと陛下の手が寝巻の中に入ってくる。
熱い手が軽く撫でられ体が震える。
「こういう事を覚えているのは…君の方なのだろう?いつのもラスティはあまり覚えていないなと思う。…君が『ラスティ』であることを否定するなら…いつもの、ラスティは私のことを嫌っているのだろうか?」
陛下の瞳が不安げに揺れた。
そんなことはないと『俺』は思う。
けれど…なら…どうしてなのだろう。
『俺』でない時のラスティのこういう時の記憶も『俺』が、持っている。
考えられるのは…『俺』は思いついた言葉をそのまま陛下に伝えていた。
『わかりません…ただ…僕は…陛下を嫌っていません…もしかしたら…独占欲を感じてしまうことが…陛下に依存していることを貴方に知られるのが…怖いと思っているのかもと思います…。』
そう…と言いながら微笑む陛下の瞳が、何故か怖いと『俺』は感じていた。
いつもより豪華な夕食、デザートに大きなケーキ。
王宮側の使用人たちにも、いろいろ贈り物をされた。
貴族達からの祝いの品は一旦調べてから、奥の間に移されることになっているから明日か、明後日になるだろう。
ラスティが眠りにつき、彼の寝顔を少し眺めていた陛下が眠りに落ちる。
ゆっくりと『俺』はベットから抜け出した。
そっとバルコニーに出ると夜風がやわらかく『俺』を包んだ。
『うん…いい日だったなぁ…』
ラスティが祝われると『俺』も祝われているような気がしてうれしい。
ぼんやりと俺は空に浮かぶ月を見た。
月に、手を伸ばす。
『ああ…良い夜だ。』
いつもならば効くことも無いだろう陛下も疲れている所為で魔法がよく効いている。
俺の使う魔法は、まがい物だ。
陛下のような人には効かない。
今日は陛下が疲れているから少し効いたのかなと思う。
彼の眠りを邪魔したいわけでもない。
陛下は、たぶん『俺』を警戒していないから下手な『俺』の魔法も受け入れてくれているだけだろう。
度量の大きい男だと思う。
陛下はうすうす、ラスティの中の異物である『俺』のことも分かっているだろう。
けれど、彼は『俺』を見逃してくれている。
『優しい方だからなぁ』
『俺』は異物なのだと思う。
ラスティの体にいるのはオカシイ存在。
色々ラスティは勘違いしているようだけれども『俺』は、彼の考えているようないいものではない。
王家のおとぎ話の子供でもない。
ラスティでもない。
たぶん、この世界に転生した男の妄執。
生まれ変わっても残ってしまっているすてれなかった妄執でしかない。
生まれ変わるときに綺麗に無くなっていなければならない余分な記憶や感情、繰り返しの生でラスティが受け止めきれなくなった記憶の塊。
『俺』はそんなもので出来ているのだと思っている。
『たぶんラスティになれなかった男の妄執ってとこだろうな。』
…『俺』は異物で…ラスティにとって邪魔なのもの。
だが、ラスティが拒絶した記憶の中にもこの世界を進めるための情報があることも確かだった。
もし、『俺』に存在価値があるというのならば、『俺』の価値はそれだろう。
『たぶん…今の薬にはあれではダメなんだよなぁ』
ラスティの死因の三番目の薬を完全に防ぐための方法。
彼は必死に解毒剤を用意しているが、そもそもを防がねばならない。
体に吸収しない方法を考えねばならない。
ラスティとは別のアプローチで防ぐ方法を考えることができる。
『俺』の存在価値だろう。
そのために別々に行動できるようになった。
おそらくは…ラスティの中に眠る五番目の子どもの仕業なのだろうと『俺』は思う。
ラスティに近い存在だろうなとは思っているが。
『たぶん…仕掛けてくるのは別の人間だろうし…方法も異なるかもしれない。』
使い魔である蝶を数十匹生み出し空に放った。
ラスティが生み出す使い魔は、光の蝶だ。
金色に輝く美しい太陽の蝶。
けど、『俺』の生み出す蝶は青いガラスのような薄っぺらい蝶だった。
青白い薄い光を放つ透明な蝶。
綺麗ではあるが…すぐに壊れてしまいそうな…脆いいや、実際脆いものだ。
借り物の力だからだろう。
飛んでいく自分の使い魔を眺めながら『俺』はため息をついた。
今にも消えそうな不格好な使い魔たち。
少し、かなり申し訳ない。
仕方がない…だって自分は見様見真似の魔術でしかない。
学ぶラスティの眼を通して、ぼんやりと眺めていたからだろう。
『まぁ…消えるのは…『俺』だろうからなぁ…』
ぼんやりとそんなことを呟いた時だった。
ふわりを後ろから抱きしめられた。
「何をしているの?」
先ほどの使い魔の魔力の流れを感じたのだろう。
陛下が起きてしまった。
自分の魔術の下手さ加減に呆れつつ『俺』は、そのまま答えた。
『探し物を思いついて…』
そうと陛下は、苦笑する。
「同じなのに…違うね…君の蝶は、月の蝶か…」
耳元でそう陛下はつぶやく。
月と見てくれるのかと少し思う。
そんなに良いものではないだろう。
『俺』がそう思っていると陛下が、苦笑した。
「そんな憂い顔をされてしまうと…我慢しきれなくなるよ?ラスティ…」
そんな顔をしていただろうかと『俺』は陛下を見る。
陛下は、はぁと小さくため息をついた。
「分かっていないみたいだねぇ?」
そもそもそんな顔をした覚えがないので仕方ないだろう。
そう思いながら陛下を見ると、陛下の笑顔が深くなる。
「『ラスティ』…君もラスティの一部だという事を君が忘れたから…そうなっているんだ…」
『俺』は首をかしげる。
一部ではあるだろう。
不要な彼だと『俺』は自分をそう思っている。
いらない部分だ。
そう思っていると陛下に口づけられた。
ゆっくりと陛下の手が寝巻の中に入ってくる。
熱い手が軽く撫でられ体が震える。
「こういう事を覚えているのは…君の方なのだろう?いつのもラスティはあまり覚えていないなと思う。…君が『ラスティ』であることを否定するなら…いつもの、ラスティは私のことを嫌っているのだろうか?」
陛下の瞳が不安げに揺れた。
そんなことはないと『俺』は思う。
けれど…なら…どうしてなのだろう。
『俺』でない時のラスティのこういう時の記憶も『俺』が、持っている。
考えられるのは…『俺』は思いついた言葉をそのまま陛下に伝えていた。
『わかりません…ただ…僕は…陛下を嫌っていません…もしかしたら…独占欲を感じてしまうことが…陛下に依存していることを貴方に知られるのが…怖いと思っているのかもと思います…。』
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