不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第六章 運命の一年間

124 王宮の執務室

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王宮に入ったとたん、リオンに襲撃された。
つまり、どーんと抱き着かれ支えきれずコロコロ二人で転がったわけである。
床がふわふわ絨毯で良かったななどと思う。
リオンは結構思慮深い部分もあるのだが、未だにこう子供っぽい。
勢いがついていて本当に転がってなんだか絡まった。
リオンの服に紐が多いからだろう。
若干冷静に考えつつもどうしてこうなるかなぁと思う。

「リオン!!!」

ノルンの怒りの声にジークハルトとトリスティとロイスが走って来た。
なんだか絡まった状態で転がっている僕とリオンを見て三人は大きくため息をついた。

「なにをやっているんだよ…」

ジークハルトの言葉にトリスティとロイスが頷く。
頷きつつどうするかなと絡まったリオンの服の紐を外し始めた。

「ごめーん」

リオンの明るい声にジークハルトの呆れた声が重なった。

「まったく…ラスティが甘いからこいつがつけあがるんだぞ?」

えへへと笑って僕はごまかす。
まぁごまかしきれてはいないけれど。
ジークハルトの真剣に考えろという言葉に僕は首をすくませた。
そもそも僕は悪くない。
なんで怒らせるんだよと口をとがらせる。
ようやく絡まった紐が取れてジークハルトが僕に手を差し伸べた。
僕が彼の手を取るとそれを合図のようにトリスティとロイスがリオンをつかんだ。
ロイスとトリスティがリオンをぶらさげるようにして起こした。
その後、ジークハルトとノルンが僕をゆっくり起こしてくれた。
リオンが差別だと、ロイスとトリスティにぶら下げられたまま怒っている。

「……微妙なタイミングになったが…誕生日おめでとう」

ジークハルトの言葉に僕は、えへへと笑う。
そうだったとリオンが、おめでとうと笑い、ロイスとトリスティもおめでとうと言葉をくれる。

ジークハルトにエスコートされて、僕に王宮にある執務室へ行くとプレゼントだと本が数冊おかれていた。
華美なものも別にいらないし、宝石なども僕は必要をしていない。
皆で、僕の喜ぶものと考えたら本だったと笑う。

ありがとうと礼を言い、僕は心の中で皆に謝る。
こんなに、僕を思ってくれる人がいるのに前の生の記憶に足をすくませてまた元通り引き籠ろうとしてしまった。

「うれしいな…大切に読むね。」

そう言いながら半分無理やりこの場に僕を連れ出してきた『俺』にも謝る。
それにしても…とふと思う。
『俺』のことだ。
僕が引きこもってしまえは、彼は僕に気を遣うことなく表に出ていられる。
僕に記憶を隠すなどのこともできる『俺』のほうがラスティの体の主導権を…いや…彼の方がラスティなのではないとも思う。
けど、彼は僕を表に出したいと考えている。
何故だろうとふと考える。

「どうした?」

考え込んだ僕に、ジークハルトが心配そうにのぞき込んできた。

「んー…なんでもない…というか…どうしたらいいのかなぁって。」

首をかしげるジークハルトに僕は、別の心配事をつげる。

「16からって色々やらないとならなくなるでしょ?」

ジークハルトがまぁなぁと周りを見た。
そう王宮の執務室も本格的に使うのは今日からになる。
王妃として、陛下を補助する執務も僕の仕事になるのだ。
とはいえ、未だに学生と言う身分もあるから毎日、ずっとということもないけれど。
ジークハルトは王宮で王子として執務を行っている。
騎士団のほうにも顔を出しているが、主には王子の方の執務が主になっている。
トリスティは宰相の補佐として、ジークハルトの右腕としても活動中。
リオンは、現在聖者して、あとそろそろ大神官としての修行にも入るのだという。
陛下の渡した魔石のおかげで彼は神力が使えるようになっている。
この場には居ないがノーマは、王宮の侍従の一人として働いている。
基本はジークハルトとエスターの補助だ。
エスターも第二王子として、執務を行っている。

以前の生とは大きく変わった環境。
僕自身もかなり変わった。
未だに暇を見つけては温室に通い、薬学の研究はしている。

いくつか新薬を作って、その開発料などが僕自身の資産になってきている。

主に解毒剤。
僕の三番目の死因の薬についての症状を緩和させるくする薬も作った。
それも申請済みだ。
あの薬が出始めたのは一年前。
それまでも水面下では使われていたようだ。
普通の市民にも被害が出始めたのが一年前くらいといった方がいいだろうか。

別の目的で作っていた薬がその薬にも効果があった。

そういう意味では、ラスティという存在は国に認知されている。
陛下の年の離れたお妃は、社交界には出てこない。
行事などで陛下の隣に立つことはあっても。

国民には、研究ばかりしている変わり者のお妃さまという話になっているらしい。
ジークハルトが次期王というのは好意的に受け止められている。
次期騎士団長はこのまま行くとロイスだろうという話だ。
次期宰相は、トリスティになるだろう。
リオンは、18で聖者を引退することを発表している。
神力が安定していないため、次期聖者が現れるだろうと言われているためだ。
リオンは、育ててもらった教会に恩を返すという理由で大神官を目指すという。

ということで僕は…どうだろう。

まぁ妃してると思う。
でも先が見えていなかった。
生き残る。
生き残ることだけ目標で、その先を考えていなかった。

先。
未来。

やはりここでも足踏みだ。

「まったく…また考え込んでる。」

そう言ってジークハルトの大きな手がぽんぽんと頭を叩いた。

「今日くらい悩むな。めでたい日なんだから。」

苦笑するジークハルトに僕は頷く。
そして、ふと気が付いた。
『俺』が何も言わなかったなと。

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