不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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閑章 リオンside 月

閑話 14 次のために

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リオンが活動を始めて一年がたった。
かなりのダンジョンを攻略し、リオンは自身が思ってもいないほど準備を終えることが出来ていた。
考えていたこと以上のことは終わらせれたとリオンは感じていた。
上手く行きすぎて気味が悪い程に。
最難関のダンジョンを終えて手に入れたものをディオスに先日送った。
あれがあれば、宝珠の代わりになるだろう。
リオンは、達成感を感じていた。
あれがあれば、聖者の力が無くても、王国は守られる。
王国が守られれば、ジークハルトの両親、バルハルト公やジェン公が戦いで力を失ったり命を失う確率が減る。
ジークハルトの運命も少しばかりは変わってくるだろう。

「小さな齟齬を積み重ねて…修復不可能な齟齬を作り出さないと…。」

次の生では失敗が出来ない。
リオンは、唇を噛みしめる。
安堵している場合ではないと気を引き締める。

「ラスティが…死を選ばないように…周りを変えないと…」

リオンにとってはそれが一番難しかった。
ラスティは、かなり強い強制力に包まれているようにリオンは感じていた。

「それが一歩なんだ…そうしないと…すべて無駄だ。」

そのためには、エスターたち攻略対象達の運命も捻じ曲げる。
リオンは、そのための準備を進めていた。
おそらく…攻略対象の中で現状より悲惨な目に合う者も出てくるだろう。
けれども、リオンはやめる気はなかった。

「一番弊害が出そうなのは…エスターとリノか…」

早々に王城を追われてしまうだろうとリオンは予測する。
けれども、ディオスが戦いに明け暮れねばエスターとの時間も取れるようになる。
きっと…最初は辛くてもエスターにも幸せになる道が開けるようになるはずだ。
結果的には、エスターにとっては良いことになるとリオンは信じたいと思う。

問題はリノだが、彼は器用なのでなんとかするだろう。
かなり混乱はするだろうが、そこはラスティの傍にいるディオスがなんとかするだろう。
全て、完璧なものができるほどリオンは器用ではない。
歪んでしまうもの、今よりひどくなるものもどうしても出てしまうなとリオンはため息をつく。

「すべてが上手く行く方法が出来るのならこんなに苦労しない。」

リオンはそう思いながら先日ディオスから送られてきたアイテムボックスに使えそうなものを詰め込んでいた。
思いのほか、滅びが来ないので、彼も次の生の準備をかなり進めたようだった。
リオンの魔法陣の強化版を作り上げ、建物に刻むものではなく、アイテムボックスの強化版を作り上げたと術式が送られてきたのは三日前。
この生の記憶さえあれば、次の生で今手に入れたアイテムなどが使用できるようになっている。
使えそうなアイテムを集めては収集する。
リオンは幾度も幾度もダンジョンに潜っていた。
ダンジョンの魔法陣だけではない。
どこまでできるだろうとリオンは他の試練もこなすことにした。
結局、リオンの試練と呼ばれるものは、ほぼ終わった。
ディオスとジークハルトの弱体化依頼と呼ばれるもの以外は終わったと言ってもいいくらいに。

「…不気味だな…」

何も起こらないことがリオンの不安を呼んでいた。
普段だったらすでに世界は巻き戻っている。
次で終わりにする、おそらく世界はあと一回か二回で完全に滅びる。
リオンは、眉を寄せる。

「僕らだけではないんだ…きっと…」

おそらく…この世界を早々に壊したいと考えているものも時間を欲しているのではないだろうかと。
相手も、準備を万全にしようとしているのではないかと。
他に思いつくことをリオンは探し始める。
もともと敵の方が圧倒的に強い。準備などいくらやってもやりすぎという事はない。
リオンはそう思うと苦笑する。
そもそも…敵という言い方はオカシイのだ。

「……敵なんかいない…」

リオンにとっての敵はディオスやジークハルトだ。
けれども今は彼らこそ守りたい人たちだった。

全部…全部だ…。

そうリオンは思うとふと視線を感じて振り返る。
やわらかに微笑んでいるレスリルがそこにいた。

「どうかしたの?」

リオンが首をかしげるとレスリルは悲し気に微笑んだ。

「時間切れのようです。」

リオンは目を丸くしたが、ああと頷く。

「そう…なんだ…。」

レスリルは教会側の人間だ。
おそらくは世界を終わらせるもの側なのだろう。

「……とても…残念です…貴方が聖者として活動している姿をずっと見ていたかった。」

レスリルはそう言いながらリオンの手を取る。

「リオン様…貴方は…自らを捨てるほど…ラスティ殿下を愛しているのですか?」

レスリルの言葉にリオンは頷く。

「ええ、私はラスティ殿下を愛しています…そして…ディオス陛下も…ジークハルト騎士団長もです。」

そうリオンが微笑むと、そうですかとレスリルは頷く。

「でも…レスリル…貴方が私を裏切っていたとしても…貴方に私は感謝しています。支えてくれてありがとう。」

リオンの言葉にレスリルは、悲し気に微笑む。

「リオン様…私は…神に貴方を…」

レスリルはそれ以上口を開かなかった。
リオンは、ふぅと息を吐く。

「レスリル…残り時間はそこまでないのでしょう…貴方は…結局何がしたかのですか?」

レスリルは跪くとリオンを見上げた。

「どうか…どうか…聖者様…私は…貴方に…貴方を…貴方を…愛したいと…愛していると…なのに…貴方は…貴方が見ているのは…」

リオンは、はぁと息を吐く…。
最後の…これが最後に出来ることなのだろう。
目の前の男を…次の生で手駒にするために、リオンは微笑む。

「いいのですよ…残り時間を貴方に上げましょう…どうしたいのですか?」
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