不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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閑章 リオンside 月

閑話 11 夜の出発

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リオンは、王城を夜の闇に紛れるように出発した。
深い森の中。
リオンは、ランプの淡い灯りに必死についていく。
一人での旅立ち。
そうリオンは思っていたが、ディオスはリオンに一人の供をつけた。

礼だと。

そうディオスは言った。
律儀だなとリオンは思う。
ディオスとリオンは数日の間に次の世界への対策を練った。
まずはリオンはディオスの神力を借り自分とディオスの魂に奇跡を起こした。
ディオス自身も聖者と匹敵する神力を持つ。
だが、彼自身は信徒ではないため、教会の言う奇跡は起こせないと言うのがこの世界の常識だった。
そうはいってもリオンは、神力の使い方は誰よりも長けている。
だからこそ知っていた。
そんなことはないという事を。
神力も力だ。
ただの力で正しく使えば使えるのだ。、
己の中で魔力に変換してしまうという奇妙な力の使い方をしていたディオスにそのままで使える方法を提案した。
その力でリオンは、自分とディオスの魂から記憶を記録し出力する方法を提案したのだ。
とは言っても、この世界では魂は元々繰り返しの生を記録しているようだ。
そうでなければ、自分のように繰り返しの生を覚えているという者はいないだろう。
出力しやすくなる方法と言った方がよいだろうか。
ジークハルトも思い出すことが今までの生で何度かあったようだ。
リオンはディオスに、ジークハルトにもと言ったがそれはディオスに却下された。

『ジークハルトには…覚えていてほしくない。思い出したらジークハルトは君を殺して、自分も死ぬだろう。そんな悲しい結末は不要だよ。』

ディオスのその言葉にリオンは、自分が魔王と思っていた男が優しい人だったことを思い知る。
そして、かつて恐怖ばかり感じていたジークハルトも普通の青年だったことを。
ゲームの世界だと、感情を殺してここは自分にとっての現実ではないと思い込んで行ってきたこと…それが重くのしかかった。
神力があったころならば…今の自分の知識ならば試練など簡単なものだったのに。
それなのに、いじけて引きこもって無用な苦しみを何度も与えた。
ディオスは特に、そうだっただろう。
思い出して、思い出すたびによく狂わなかったものだ。

いや…狂っていたから、狂っているからこそ彼は狂王と呼ばれたのか。
それでも人としての自分を捨てない、捨てきれない彼にリオンはただ頭を下げた。
下げるしかなかった。
言葉が思いつかなかったのだ。

そしてもう一つ。
リオンは王城そのものに神力を強める仕掛けを作った。
ディオスは、少し眉を寄せたが、今更かと了承してくれた。
リオンの頭では、罠を仕掛けるなど考えても無駄だろうと。
ディオスの力ならばリオンが仕掛ける程度の罠など簡単に解除できるだろう。

リオンが王城に仕掛けたのは、精神防御と神力の上昇。
あともう一つは、神との分離だ。
神というのはリオンの視点で。ディオスの視点ならば御伽噺の子供達になるが。
王城には、ディオスとラスティという神の魂と融合したものが生まれる。
彼らを天に返す。
それがリオンの使命の一つだ。
教会の神は、リオンが試練を果たし宝玉という彼の代わりになるものを大地に設置すれば、解放される。
ラスティは死が、ディオスは本人の死と鍵の死、リオンが力ずくでという方法がある。

次は…ラスティもディオスも敵にしたくない。
死なせたくはない。

リオンは融合した彼らの魂を徐々に分離する仕掛けを王城に仕込んだ。
王城…建物は崩壊後再構成されるのは、知っていた。
以前の生で傷や落書きなどで試していたのだ。
最初の頃は必死だった。
何とかしてラスティを死なせたくなかった。
運命を変えたいと思った。
だから思いついたことを色々試していたのだ。
その時は、だからどうしたって言うのだと流してしまっていたこと。
最初の事の必死な自分に感謝する。
無駄ではなかったよと。
そう落書きはそのままだった。
おそらくは、聖者であるリオンへの何者かからの恩恵。
リオンが残したいと思ったものは残るのだ。
建物限定だが。
術式を書き込む。
それはそのままにして時間が戻る。
どうしてそんなことが起こるのかと何度も考えた。
おそらくは、そうすることでこの世界を…この世界に落ちたままの神たちを天に返そうとしている意思は、何とかしてこの世界の繰り返しを人に気が付いてほしいのだろう。

だからその意思の望みをかなえる。

神と人の部分を分離させて…神の部分だけ帰ってもらうう。
リオンが使命を果たせば…今度こそ果たせば、世界はギリギリだが、何とかなるのではないか。
まだ、神の魂の部分だけを帰す方法が分かっているわけではないが、リオンは何もしないという選択肢を捨てた。

何でもいい…試すとリオンは思っていた。

王城に色々仕掛けさせてもらった。
もちろん、ディオスの許可はもらってからだが、いくつかわからないように仕掛けたものがある。
もちろん…彼らに悪いことが起こるものではない。

メインのしかけは、神と人の魂の分離だ。
神を帰した所為でリオンやディオスの死なれてしまうのは違うだろう。
リオンはそこで、ふと疑問を持つ。
ディオスに人の部分があるのだろうかと。

少し考えたがまぁいいかとリオンは、ディオスに関しては置いておくことにした。

人と神の魂を分離させてどうなるかはわからない。
それでも…とリオンはそれを選択した。

他にも仕掛けたものはあるが。
黙々と、自分が仕掛けたもののことを考えながらランプの灯りを追う。

「お疲れに…なっていますか?」

少し気づかわし気に前を歩いていた男はつぶやいた。
リオンの供になってくれた男。
レスリル・アネモネ。
元々は熱心な聖者を信仰していた男。
今は、どうなのかはわからない。
魔術に長けている彼は学園の教師だった。

「大丈夫です…ありがとうございます。先生」

いいえ、とレスリルは微笑む。
変わらないやわらかな笑みだ。
だが…リオンは少し違和感を感じる、
彼の笑みに見慣れた何かを感じたからだ。
ただ、リオンはその何かを思い出せなかった。

「もう少し先に、町があります。そこで休みましょう。」

レスリルの言葉にリオンは、はいと返事をする。
自分の忘れたものは何だっただろうかと考えながら。

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