不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

文字の大きさ
上 下
128 / 233
第五章 変わる関係

118 『俺』という存在

しおりを挟む
僕は、『俺』の仕事を眺めながらぼんやりと考える。

ねぇ…君は…どうしたいの?

『俺』はそうだなと囁く。

『どうしたいというのは…あまりないかな…正直いえば…『俺』が自分に気が付いたのは…最近だから…君の望みと別にずれていないし…陛下への感情とノーマへの感想くらいか?違うの。他にもあったようにも思うけど…大きいのはそれくらいか…。最近『俺』たちも…周りも混乱してたし…まぁ…『俺』は…生きたいと思っているだけだ。』

『俺』の言葉に僕は、首をかしげる。

君は何もないの?…たとえば…そうだな…まずノーマをどうしたい?

『俺』は興味なさげにさらさらとペンを動かしながらそうだなとつぶやく。

『何も…すでに陛下が手を打っているだろう?ノーマはジークハルトの従者になる。ここでは陛下の眼に監視されているし、ジークハルトのところに行ったら今度はバルハルト公とジェン公が見張るだろう。『俺』たちが何かしようとしたら邪魔かもしれない。今のところはなにもしないほうがいいだろう。陛下の考えに任せる。』

僕はやっぱりなぁと思う。
『俺』は陛下大好きだなと。
その考えが伝わったのだろう。
『俺』の動揺が伝わってくる。
確かに『俺』の推測が当たっているなら彼は成人男性だ。
性別のある世界で偏見は無いが恋愛対象は女性の人。
けど…陛下が抵抗がないみたいに感じる。
『彼』の中では陛下は別格のようだ。
ジークハルトも問題なさそう…。
別人だと『俺』は言うけど…好みは同じようだ。

『文句あるのか?』

別にと僕は答える。
同じ感覚で過ごした所為だろう。
彼の感情は結局僕と変わらない。
出力の方法が違うだけのようだ。
変な感覚だけど…どう例えたらいいのか。
大元同じだけど育ちが違うから同じ能力を持っているけれど鍛えた能力が違う自分。
情報の出力の方法が増えた感じ?
なんだとも思った。
僕と『俺』に意識が分かれて混乱したけど…やっぱり僕と『俺』は僕なのだなと思う。
『俺』が何言ってんだ??と首を傾げつつ書類と格闘している。
僕はそれを眺めつつ、苦笑する。

君は僕で僕は君というのは変わらないなと思って。

『まぁ…長年一心同体だ。そうそう変わらないだろうさ。』

たぶん、少しずれた感情が僕らを元の位置に配置しただけで僕という個体の構成要素は変わらない。
僕と『俺』別れたのは…。
『俺』の言葉を信じるならば。
信じるけど…もしかしたら『俺』の勘違いもあるかもと少し悪あがきしている。

『お前なぁ…まぁいいけど。』

ぼやく『俺』に苦笑しつつ自分の考えをまとめる。
未来に僕が帰らないとならないということが決定したから…。
『俺』が僕を守るために切り離したのだろう…。
逆の立場なら僕もそうする。
自分を守るためというよりは…前進むことにつなげるために。

たぶん、今回死んだら…僕らはもう繰り返さないのだろう。
世界は滅んだままになるのだろう。
そして…ルートが一応決まったと思っていいのだろう。
たぶん…故意に。

エスターに毒を飲まされて死ぬルートはジークハルトが身代わりにさせられた。
ロイスに殺されるルートもエスターが…。
残ったルートは…トリスティに薬を飲まされて正気を失うルート。

ノーマが言っていた続編は一旦おいておく。

ノーマの言葉をそのまま信じるのは危険だという『俺』に同意する。
彼自身が、疑わしいという風に僕は思わないけれど…単純に僕自身がこんな変な状況になったのだ。
ノーマに何か秘密があっても驚かない。
ということで三番目のルートについて考える。
トリスティが、僕に薬を飲ませるようなことが起こるのだろうか。
僕がそう思うと、『俺』がため息をつく。
トリスティに限定するなと。

『商人の息子がやる可能性が残っている。もちろん関係のない…あの冒険者みたいなやつだっているってことだ。…考えたくないが…トリスティがラスティを憎むように仕向けられる可能性だってある。商人の息子は接点がないから今のところはどうしようもないだろう。王族と接点のできない攻略対象だったはずだ。直接出会うことは…16までないと思った方がいい。現状ではトリスティの対策だろう。今のトリスティがラスティを憎むようになるには何個か候補はあるが…』

僕は目を丸くする。

ええ??候補あるの??

『俺』は、はぁ??とため息をつく。

『…少しは頭を働かせてくれよ。一番簡単なのは大事な者がラスティが原因でひどい目にあったり死んだりすることだろう。トリスティの大事なものはなんだ?』

僕は、マールを思い浮かべる。

『そうだ…あとは…家族とかだろうな。』

ラスティがトリスティの家族に関わることはあまりないだろう。
宰相とは接点はあるが、トリスティの一件で宰相自体はラスティに悪い感情はないと思いたい。

『ん…今日のノルマ終わったぞ。』

『俺』はそう言うと軽く伸びをする。

『よし…『俺』は引っ込むか。』

ふっと体の感覚が切り替わるように僕は椅子に座っていた。
書類は綺麗に埋まっている。

「…ねぇ…君…もしかして……。」

僕はそこで言葉を飲み込む。

たぶん…いや…そうなのだ…。

「…嘘つきだな…君は……」

僕の中で『俺』は苦笑する。



『嘘はついていない…隠してはいるけどな。』

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

処理中です...