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第五章 変わる関係

117 『俺』と僕の話

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僕は、マールの持ってきてくれた冷めた紅茶と砂糖菓子をのろのろと口に運ぶ。
なんのだろう。
どうしてだろう。
少し落ち着いたところで、『俺』の意識が再び浮上してきた。
体の自由が利かない。
『俺』に取られたようだ。
小声で『俺』がつぶやくように言った。

『落ち着いたか?』

体とられたんだけど!!

と僕が言うと『俺』がため息をついた。

『『俺』のほうが元気だからだろう…弱ってんだよ。お前。』

少し休めと『俺』が囁く。

僕は休まるか!!

と言ったモノの…結構休まっている。
ぬくぬくふわふわだ。

なんだこれ?

『俺』は、意識が固まってからはそこにいたと苦笑した。
結構快適で懐かしい感覚だなと思う。
異常なことの連続でこれも結構異常なのだが、落ち着いている自分がいる。
変な話だが、安心しているのだ。

これが二重人格というものか。

僕の考えたことに『俺』がそんなところだろうなと頷く。

『まぁ…王家の御伽噺はともかくだ。この体には、君と『俺』の魂が同居している状態だったみたいだ。『俺』はたぶん…あれだ、はっきりと区別しているわけでもないが…君も多少持っているだろうが…この世界をゲームとして見ていた者の魂なのだと思う。元々は分かれている意識はなかったんだが…最近、分かれてきたのは…たぶん、誰かの望みなんだろう。ちなみに『俺』には何も力が無いからな。普通の一般人だ。魔法も使えないから…はやく立ち直ってくれよ。』

やれやれという『俺』に僕は首をかしげる。

どうしてこんなことに?

『俺』はしばらく考えていた。
思考の中が見えないから彼が何を考えているかわからない。

『たぶん…時ってやつが近づいてきているのだろう。時間切れという奴だよ。』

彼の言葉に僕は首をかしげた。
憶測と推測の塊だがと『俺』は続けた。

『繰り返している世界の痕跡が残っているのはおかしいと思わないか?』

僕は頷く。

『時が戻っているのは世界の表面のみってことだと思う。世界は時を刻んでいる。あくまでも人の営みだけが遡っている…この世界はそのたびに力を奪われ弱ってしまっている。限界なんだと思う。世界が。そして…世界が弱っているから…誰かが君だけでも救いたいと、君を回収しようとしている。だから『俺』と離してしまおうとしている。回収のための準備だ。』

僕は首をかしげた。
何故君はそんなことを知っているのかと。

『一つ誤解しないでほしいのは…君の知っていることとそこまで差があるわけでもない。『俺』が選ばれたのは君と相性が良かったのと…あのゲームの記憶を持っていたからで、俺に何か力があるわけでもない…君の邪魔にならない平々凡々の魂が選ばれたんだろう。』

『俺』という存在が、僕の知っている前世の記憶を持った魂ならば彼は苦労はしているが普通の人だ。
けれど…彼の記憶だというあれを僕は自分が体験したように感じている。
それを人のものだと言われても実感はない。
僕の感覚では『俺』も僕だもの。
僕はよくわからないよと彼に言う。
彼は『俺』もだよと笑う。

『このまま世界が壊れたら君も消えてしまう。『俺』を君と同化させた人…なのかな??人??うーん??まぁ人でいいか。その人はみんなを助けたいのだと思う…王家の御伽噺だったら…一番目と二番目のどちらかではないかな?…その人も手は出せないらしい。…今のままなら彼らの所に帰る権利のある君だけこの世界から回収されるのだろう。』

僕は目を丸くする。
どうして???という僕に彼は悲し気になんでだろうなという。

『同族殺しと兄弟の同士の婚姻はそれだけ罪なんだろう。陛下の中の人?は、二番目の人?に帰る権利を渡しているから今のままでは帰れないし、彼と君と関係を持ったら君も権利はく奪される。四番目の人?は、罪を償う面倒を嫌って代わりに試練を押し付けれるリオンを作ったらしいけど…ずいぶん勝手だよな。力があったら何でもしていいのかって感じだ。』

僕は少し考えてちょっとまってと思う。

でも…僕…三回目の時に陛下と関係持ってない???

僕の言葉に『俺』は、大きく感情を揺らした。

『君の魂はその時は…体にいない状態になっていた。『俺』は元々は君に情報だけ運んで眠りにつく役目だったらしいのだけど…持ってきた情報にそのルートがあることを知った、一番目か二番目の人?が君の魂を守るために身代わりの魂として『俺』を君の魂と一緒に生まれ変わらせていたようだ…』

『俺』は顔を赤くしている。

なんだか…ごめん。

僕がそういうと『俺』は首を横に振った。

『『俺』…陛下好きだし…殆ど薬にやられてた所為かもだけど…別に…そこまで嫌でもなかったから…まぁ…その時は君が『俺』から消えているというのはわからなかったしね。気が付いていなかった。』

『俺』が眉を寄せる。

『たぶんなんだが…今回のリノ…いや…ノーマにあってから君と『俺』が違うと自覚した。それまでは…表と裏というか…分かれたものだとは思っていなかったからな。今回の生の最初から少しずつずれてはいたのだと思う。けど…あいつへの感想の違いが、明確だった…。君は…思った…妹かもしれないと。だから…ノーマを助けた。『俺』は 似てるとは思ったが別人だと確信した。あいつは…本人の記憶を言っていない。あいつが話しているのは…別の誰かの記憶だ。直感だけどな。』

僕が何故と聞くと『俺』は肩をすくめた。

『笑い方だ。あいつの記憶が本当にあるなら…そうだな…あいつは…きっとマールやノルンみたいに笑う。ノーマのような…皮肉めいた笑いはしない。ああ…そうだな…もしあいつがこの世界にいるならきっとマールやノルンみたいに人を気遣うように笑うだろう。それで…家族のことばかり気にしている。一人では不安でどうしようもないのに…それなのに自分一人でできるって意地を張ってしっかりしているふりをして、寂しいのを我慢して…前を向くような人間だ…。ノーマにはそれを『俺』は感じなかった…それだけだ。』

『俺』は立ち上ると僕に少し休めと囁いた。
僕が放置していた執務をやるつもりらしい。
研究室の方へと移動すると大きな鏡が目に入る。
鏡には、大人びた確かに僕はしないであろう落ち着いた笑みを浮かべた僕の顔がある。

『さて…と…PCが恋しいな…』

そう言いながら『俺』は書類と格闘を始めた。


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