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第五章 変わる関係
114 教会の鐘
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陛下の剣が男を切り裂いた途端に、男は塵になった。
僕は唖然とするしかない。
人が血も流すことなく、塵になったのだ。
「何…何が…起こったんですか…」
治療のために握っていたエスターとバルハルト公の手を僕は恐怖のために握り締めた。
怖い。
そう感じた。
とにかく足元から這い上がってくる黒く冷たいものに血の気が引いていく。
「ラスティ!!」
バルハルト公の声にはっとする。
僕の様子にバルハルト公は、はぁと息を吐く。
「きついだろうが…あれはそういう生き物なんだ…いや…生きることすら許されていない存在だ。あんな風に…命を弄ぶ存在もこの世界には居る。神力を持つというのは…ああいうものと戦わねばならないんだ…。聖者と…王家はそのための存在なんだ…。」
バルハルト公の言葉に僕は体の震えが止まらなった。
リオンの顔が浮かぶ。
そうか…と。
僕は、早々にあきらめて彼にこの役目を押し付けていた。
世界が先に進まなくなったのはリオンが試練を超えられなかったから。
でもだ…。
あんなのとずっと立ち向かわなければならなかったのだ。
リオンはずっとずっとあんなものと戦っていたのだ。
何と言えばいいのだろう。
生物ではない。
けれども確かにそれは生きている存在だったもので動いている。
自分だけが戦える。
そんな状態でリオンは戦って戦って…戦えなくなった。
そういうことなんだろう。
たった一人に出会っただけで僕はこんなにも怖くて結局バルハルト公と陛下に守られているだけだ。
聖者であるリオンは…守らねばならない立場にあんなか弱い体でならねばならなかったのだ。
目の前にその存在が来てようやく、彼の辛さがわかった気がした。
いや…たぶんわかった気がしているだけなのだろう。
リオンに神力が無いというならば…たぶん…僕があれを何とかしないとならなくなった。
だから…僕の前に現れた。
そういうことなのではないか。
あれが何か…。
僕にはわからない。
分からないはずなのに何かが頭の中で嘆きながら囁いた。
繰り返した世界の中で死んでいった魂の嘆き、苦しみそんな負の感情が堕ちて堕ちてああなるんだ。
あれは…『俺』たちが生み出した悲しい存在なんだよと。
僕は、息が止まる気がした。
そんなの…どのくらいいるというのだ。
何回世界は繰り返した。
あれはどのくらいいるんだ。
混乱して叫び出しそうになった僕の耳に小さなうめき声が聞こえる。
「う…」
エスターが意識を取り戻したのだ。
陛下が戻ってきて覗き込む。
「ラスティ…怖かっただろう…ありがとう。」
陛下がふわりと笑う。
それからエスターを覗き込んだ。
「エスター…少しは楽になったか?」
そう言いながら陛下が僕の手に自分のそれを重ねる。
暖かい力が流れ込んでくる。
僕は、集中し再度神力を意識した。
と再び教会の鐘が鳴り響く。
なんだろうと持っていると陛下が舌打ちした。
「失敗したな…これがやつらの狙いか。」
バルハルト公は、すまんと陛下に言う。
陛下は仕方ない、適切な処置だったとバルハルト公に言葉を返した。
「あの…鐘の音ですか?」
僕の言葉に陛下が頷く。
「あれは…聖者を識別して鳴るんだよ。普段はリオンの務めに合わせて教会側が手動で鳴らしているがね。今は…ラスティの神力に反応して鳴っている。つまり…聖者に反応しているわけだ。」
陛下は、まいったなと言いながらエスターを見る。
「顔色も良くなったな…なんとか…持ち直しそうだ…」
バタバタと音がしてリオンを数人の神官が飛び込んできた。
「ああ…なんという…エスター様は大丈夫ですか?」
おそらく位の高い神官なのだろう老人の神官はそう言いながら僕の方を見る。
「金の瞳とは…この方は…」
神官の言葉に陛下がにっこりと笑う。
「私の妻が何か?」
神官は、少し眉を寄せてからそうでしたなと頷く。
「…先ほど鐘がなりました…。その方が…エスター様を救われたのでは?」
神官の言葉に陛下は、首を傾げた。
「ああ、この子が私が渡していた魔石を使ってな。」
神官は眉を寄せた。
リオンは黙っている。
「なかなかに魔法の筋がいい。それで?何か不都合なことでもあるのか?」
神官はいいえとつぶやいた。
「確かに…お妃さまは魔力の扱いに長けているようですね。」
神官は少し考えてから微笑んだ。
「お妃さまは…聖者リオンと友人と聞いております。リオンが困った時にはぜひ助けてやってほしい。」
陛下は、そうだなと頷く。
「時が来ればな…。」
陛下の言葉に僕は首をかしげる。
「ラスティは嫌かい?」
いいえと僕は首をとこに振る。
陛下はそうかと頷くとエスターを抱えた。
陛下に帰るよと言われて僕はあわててリオンに駆け寄った。
「リオン」
リオンは少しぎこちなくラスティと安堵したような笑みを浮かべた。
「もう少し…学園に行けそうに無くて…これ、お守り。」
ブレスレットを渡すとリオンは嬉しそうに笑った。
「またね?」
そう笑う僕にリオンはうんと頷いて抱き着いてきた。
「またね…」
そう笑うリオンに僕は頷いた。
少し…ポケットに違和感を感じながら。
僕は唖然とするしかない。
人が血も流すことなく、塵になったのだ。
「何…何が…起こったんですか…」
治療のために握っていたエスターとバルハルト公の手を僕は恐怖のために握り締めた。
怖い。
そう感じた。
とにかく足元から這い上がってくる黒く冷たいものに血の気が引いていく。
「ラスティ!!」
バルハルト公の声にはっとする。
僕の様子にバルハルト公は、はぁと息を吐く。
「きついだろうが…あれはそういう生き物なんだ…いや…生きることすら許されていない存在だ。あんな風に…命を弄ぶ存在もこの世界には居る。神力を持つというのは…ああいうものと戦わねばならないんだ…。聖者と…王家はそのための存在なんだ…。」
バルハルト公の言葉に僕は体の震えが止まらなった。
リオンの顔が浮かぶ。
そうか…と。
僕は、早々にあきらめて彼にこの役目を押し付けていた。
世界が先に進まなくなったのはリオンが試練を超えられなかったから。
でもだ…。
あんなのとずっと立ち向かわなければならなかったのだ。
リオンはずっとずっとあんなものと戦っていたのだ。
何と言えばいいのだろう。
生物ではない。
けれども確かにそれは生きている存在だったもので動いている。
自分だけが戦える。
そんな状態でリオンは戦って戦って…戦えなくなった。
そういうことなんだろう。
たった一人に出会っただけで僕はこんなにも怖くて結局バルハルト公と陛下に守られているだけだ。
聖者であるリオンは…守らねばならない立場にあんなか弱い体でならねばならなかったのだ。
目の前にその存在が来てようやく、彼の辛さがわかった気がした。
いや…たぶんわかった気がしているだけなのだろう。
リオンに神力が無いというならば…たぶん…僕があれを何とかしないとならなくなった。
だから…僕の前に現れた。
そういうことなのではないか。
あれが何か…。
僕にはわからない。
分からないはずなのに何かが頭の中で嘆きながら囁いた。
繰り返した世界の中で死んでいった魂の嘆き、苦しみそんな負の感情が堕ちて堕ちてああなるんだ。
あれは…『俺』たちが生み出した悲しい存在なんだよと。
僕は、息が止まる気がした。
そんなの…どのくらいいるというのだ。
何回世界は繰り返した。
あれはどのくらいいるんだ。
混乱して叫び出しそうになった僕の耳に小さなうめき声が聞こえる。
「う…」
エスターが意識を取り戻したのだ。
陛下が戻ってきて覗き込む。
「ラスティ…怖かっただろう…ありがとう。」
陛下がふわりと笑う。
それからエスターを覗き込んだ。
「エスター…少しは楽になったか?」
そう言いながら陛下が僕の手に自分のそれを重ねる。
暖かい力が流れ込んでくる。
僕は、集中し再度神力を意識した。
と再び教会の鐘が鳴り響く。
なんだろうと持っていると陛下が舌打ちした。
「失敗したな…これがやつらの狙いか。」
バルハルト公は、すまんと陛下に言う。
陛下は仕方ない、適切な処置だったとバルハルト公に言葉を返した。
「あの…鐘の音ですか?」
僕の言葉に陛下が頷く。
「あれは…聖者を識別して鳴るんだよ。普段はリオンの務めに合わせて教会側が手動で鳴らしているがね。今は…ラスティの神力に反応して鳴っている。つまり…聖者に反応しているわけだ。」
陛下は、まいったなと言いながらエスターを見る。
「顔色も良くなったな…なんとか…持ち直しそうだ…」
バタバタと音がしてリオンを数人の神官が飛び込んできた。
「ああ…なんという…エスター様は大丈夫ですか?」
おそらく位の高い神官なのだろう老人の神官はそう言いながら僕の方を見る。
「金の瞳とは…この方は…」
神官の言葉に陛下がにっこりと笑う。
「私の妻が何か?」
神官は、少し眉を寄せてからそうでしたなと頷く。
「…先ほど鐘がなりました…。その方が…エスター様を救われたのでは?」
神官の言葉に陛下は、首を傾げた。
「ああ、この子が私が渡していた魔石を使ってな。」
神官は眉を寄せた。
リオンは黙っている。
「なかなかに魔法の筋がいい。それで?何か不都合なことでもあるのか?」
神官はいいえとつぶやいた。
「確かに…お妃さまは魔力の扱いに長けているようですね。」
神官は少し考えてから微笑んだ。
「お妃さまは…聖者リオンと友人と聞いております。リオンが困った時にはぜひ助けてやってほしい。」
陛下は、そうだなと頷く。
「時が来ればな…。」
陛下の言葉に僕は首をかしげる。
「ラスティは嫌かい?」
いいえと僕は首をとこに振る。
陛下はそうかと頷くとエスターを抱えた。
陛下に帰るよと言われて僕はあわててリオンに駆け寄った。
「リオン」
リオンは少しぎこちなくラスティと安堵したような笑みを浮かべた。
「もう少し…学園に行けそうに無くて…これ、お守り。」
ブレスレットを渡すとリオンは嬉しそうに笑った。
「またね?」
そう笑う僕にリオンはうんと頷いて抱き着いてきた。
「またね…」
そう笑うリオンに僕は頷いた。
少し…ポケットに違和感を感じながら。
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