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第五章 変わる関係

113 聖堂

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バルハルト公は僕を抱えあげると音の方へと走り出した。
ものすごい勢いだったので声が出せなかったが、ちょっと待とう。
僕を置いていくか、音の方向ではない方へ行くのは普通では??
突っ込むかな??
危ないよ。
両手がふさがっている状態では不測の事態では戦えないし、そのまま危険地帯に護衛対象を連れて行くのもおかしいだろう。

ガンというすごい音と軽い衝撃。
バルハルト公が聖堂の扉を蹴り上げたのだ。
おいおい流石にそれはどうかと思う。
振り落とされないようにバルハルト公にしがみつく。
それに気が付いたバルハルト公は僕を落とさないように抱えなおした。

「エスター!!」

バルハルト公の声に彼の顔が向いている方向を見る。
そこには、血まみれのエスター王子と頭の先までマントのようなものを被った男が戦っていた。
バルハルト公は僕を下した。

「ラスティ…怖いいだろうが…エスターに向かって走れ。俺があの男を食い止める。魔石は持っているな?」

なる程…バルハルト公は僕を戦力と考えてくれていたのか。
僕は頷く。
それを合図にバルハルト公が走り出した。
僕は念のため防御用の魔石を発動してから走りだす。
これならば、万が一にも剣で切りつけられても二、三回は大丈夫だろう。
バルハルト公が男を阻んだ。

気が抜けたのだろうエスターが、崩れ落ちた。
僕は倒れたエスターに、回復の魔石を押し付けて発動させる。

突然、教会の鐘が鳴り始めたが気にしない。
とにかく、エスターを癒すことへと集中する。
別の扉が開き陛下がリオンをつれて走ってくるのが見えた。

「エスター!!!」

リオンの悲鳴のような叫びを聞きながら僕は魔石に力を注ぐ。
結構傷は大きいのだなというのは床に広がった血の量でわかる。

「…エスター…くそ…」

陛下らしからぬ言葉を吐きながら陛下は僕の手の上に自分の手を重ねた。

「バル!!」

陛下の言葉にバルハルト公は応とだけ返した。
リオンはガタガタと震えながらエスターの横に座りこむ。

「どうして…どうして??そんな…」

陛下はリオンを見る。

「しっかりしろ!聖者リオン。君のすべきことはなんだ。」

リオンは、陛下を見た。

「わからない…わからないよ…だって僕には…力が…。」

陛下は仕方ないなとため息をつく。

「力だけではないだろう。敵はあいつだけかどうかわからない。まずは、あたりを警戒しろ。可能なら神官たちに退避を命じるんだ。ここは私たちにまかせろ。君は、君の神官たちを守ることを考えるんだ。」

陛下の言葉にリオンは頷く。

「聖者…その餓鬼か…」

低い耳慣れない声が響いた。
振り返ると、バルハルト公と距離をとり警戒してい様子の男がこちらを見ている。
虚ろな穴のような瞳がこちらをみている。
その顔は…ロイスによく似ている。
けれど…まるで人形のようだった。

「ひぃ…」

リオンの引きつった声を聴きながら僕は眉を寄せた。
あれは…生きているっものなのか?
あまりに虚ろな瞳に僕はそう思ってしまう。
あれは…見ていない。
人を見ていない。
まるで、人形。
与えられたことしかできない人形だ。

「なるほど…」

陛下は眉を寄せる。

「バル、こっちを使え!!!」

陛下が自分の剣をバルハルト公に投げた。
バルハルト公は器用に受け取り、受け取った剣を男に向ける。
男がひるんだのがわかった。

「神力におびえるか…。」

バルハルト公はため息をついた。
僕が首をかしげると陛下は頷く。

「私の剣は、常に私の力を受けているから神力を持っているんだ。不浄な者にはよく効くだろう。」

不浄?と僕は首をかしげる。
陛下は少し躊躇していたが口を開いた。

「…正直言えば…正確な正体は…分からない。分かりたくないと言った方がいいだろうか。」

リオンが口を開いた。
彼の蒼白な顔色に僕は息をのむ。

「…人形に死んだ人の魂を入れたり…死んだ人の霊を操ったりしているってことだよ。」

陛下はそうだなと眉を寄せる。

「聖堂まで…入れるなんて…王国の結界を超えたというの?」

リオンの言葉に陛下はそうだなと頷く。
強い個体だろうと。

「リオン…気配からしてあれ一体だ。はやくに神官たちを対比させて。」

リオンは、心配そうにエスターを見てから走り出した。
男がリオンを追いかけようとしたがバルハルト公がそれを阻止する。
男はでたらめに剣を振り出した。
陛下は、僕を見ると唇を一瞬噛みしめた。

「…あいつだけだと思うが…ラスティ…エスターを頼んだよ。バルと交代してくる。」

そう言って陛下は立ち上るとバルハルト公の方へと向かう。
心得ていたのだろう。
バルハルト公は、男の剣筋を避けるために後ろに下がる、少し男と距離が出来たところで陛下が走りこんでくる。
陛下がバルハルト公の横を通る瞬間にバルハルト公は剣を渡して一気に下がった。
男の剣を陛下が受ける。
バルハルト公は、僕の所まで来てふぅと息をついた。

「すまん…ラスティ…少し手を貸してくれ。」

陛下の言葉に首を傾げつつ片手をエスターから離すとバルハルト公が僕の手を握った。
バルハルト公の手をとても冷たく感じる。
僕の手から体温が流れるように少しずつバルハルト公の手は暖かくなる。

「すまんな…ああいう者に長く近くにいることが準備無しでは難しくてな。」

僕が首をかしげるとバルハルト公は息を吐く。

「あいつらが不浄の者と呼ばれるのは…周りの者にも悪い影響を与えるからだ。大体生きる力を奪われる。神力が使えるから俺も多少は持つが…今回は強力だった。ああなると…現状ではディオスくらいしか対処できん。まぁ…ジェンなら遠距離から魔法に神力を混ぜて攻撃できるかもしれないが…あいつは強いからな…どこまでやれるかわからんな。ディオスにまかせるしかない。」

バルハルト公は、苦く笑う。
守らねばならない王を前線に出さねばならないと。

「彼はどうやって入ってきたのでしょう。」

僕の言葉にバルハルト公は、首を横に振る。

「…あいつは…おそらく…この国のどこかで作られたんだ。」
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