不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第五章 変わる関係

103 何か…やはり、おかしい

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エスターのお茶会から奥の間に帰り、ノーマとマールを休ませて僕はジークハルトの様子を見るために彼の部屋を訪ねた。
ノルンが、ジークハルトの様子を見ながら本を読んでいた。
僕に気がついたノルンは微笑んでから人差し指を唇にあてる。

静かに。

僕が頷くとノルンは音もなく椅子を移動させて二つジークハルトのベットの横に置いた。
僕はノルンと並んで座る。
何の本を読んでいるのだろうと覗き込むとノルンは苦笑しつつ本を僕に渡してきた。
彼の学年の魔術教本だ。
開いているページを僕は読んでみる。

攻撃魔法の中の氷属性の魔法のページだった。

僕は、少し首を傾げつつそれを眺めてからノルンに本を返す。
ノルンは、くすくすと楽しそうに微笑むとお茶の準備をすると身振りで示してから立ち上がった。
手間を増やしてしまったなと謝罪を態度で示す。
ノルンは軽く目を見開いてから首を横に振って微笑む。

気にするなということだろう。

お茶の用意が出来るまで僕はジークハルトの顔を眺める。
ジークハルトの眠りは深い。
この部屋自体にジークハルトを休ませるための魔術が組み込まれている。
安心してゆっくりと眠れているだろう。
陛下の術式らしい。
ちなみに陛下の寝室には僕用の同じ術式が組み込まれているようだ。
確かに良く眠れるが。
ジークハルトはよく眠っている。
彼が生きていることは喜ばしい。
ただ、何かおかしな方向に何かの力が動いていることは正解なのだろう。
ノーマは、どこまで正気なのか。
本人は気が付いていないようだが、ところどころでおかしな行動をしている。
先ほどのお茶会でのエスターを煽るような発言もそうだ。
あの場では、ジークハルトの話はNGだろう。
自分の罪をさらけ出すことになるし、エスターの心もえぐることになる。
多少僕も失言をしたなとは思った。
だが、それははやくエスターに陛下の作った彼を守るためのブレスレットを渡したかったからだ。

まだ…影響が残っているか…影響から逃れていないのか。
ノーマは要注意だな。
僕はそう思いながら、目を細める。

リノに続いてロイス、そしてエスターが影響が出ているように思う。
攻略対象が、何かに操られるようになっている瞬間がある。

おかしなことが続くなと、寝ているジークハルトを眺めながら思う。

ノルンがお茶を持ってきて僕に勧める。
僕は、お茶をうけとり口をつける。
ほのかに苦く薫り高く甘いお茶がのどを通っていく。

ジークハルトが身じろぎしたが目は覚ましていない。
僕はほっとしつつジークハルトの綺麗な寝顔を眺めつつ考える。

何が正しくて何が正しくないか。
誰を信じて誰を信じてはいけないか。

曖昧に溶ける思考。
僕は、ぼんやりとジークハルトを眺める。

「…ラスティ様?……どうされました?」

ノルンが僕の肩を掴んている。
はっと僕は意識を保つ。

今の感覚は何だったのだろう。
僕という意識が解けるような。
ノルンは眉を寄せて自分が入れたお茶を鑑定している。

「何もないはずですが…奇妙な胸騒ぎがしますね…」

お茶の成分をノルンは何度も鑑定しているようだった。
何もないかとつぶやくとノルンは、自分が用意したお茶の葉をまとめている。

「念のため…陛下にも見てもらいますね。ご気分は?」

僕は何ともないよと首を横に振る。
ノルンは、そうですかとほっとしつつも眉を寄せる。

「……先ほどのラスティ様は何か…別の何かに取りつかれていくようでした。」

魔術の発動の感じはなかった。
毒という事もない。
ただ、何か不可思議な力によって考えを捻じ曲げられそうになった。

「…ノルン…僕…」

ノルンは、ぎゅうと僕の頭を抱えた。

「……」

彼自身も少し震えている。

「ノルン?」

ノルンは、眉をぎゅうと寄せている。

「もしかしたら…ラスティ様ではなく…私なのでしょうか…」

自分が何かにとりつかれて僕に何かしたのでは…とノルンは小さく呟く。

僕も何も言えない。
確かに僕は先ほど考えていた。

何が正しいのか。

それの答えを僕は持たない。
けれど…僕は顔をあげてノルンを見る。

「…階下に…相談してみようか…」

ノルンは肩を震わせた。
陛下に言うことは抵抗があるだろう。
もしかしたら、陛下にノルンが僕を害したと判断される可能性もあるのだから。
だが、ノルンはそうですねと頷いた。

「うん…陛下は…ノルンを怒ったりしない。それはわかる。大丈夫だよ。」

僕の言葉にノルンは、はいと頷く。
ノルンと僕は黙ったままジークハルトを見つめる。

結構騒いでしまったがジークハルトは寝たままだ。

「……気を使って損をしたかな…」

僕のぽつりと言った言葉にノルンは、軽く噴き出した。

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