不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第五章 変わる関係

92 新しい従者

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「次は、廊下の掃除だよ。ノーマ。」

ノルンの声にノーマは、はいと返事をして走り出す。

「急いでいるのはいいけど走ったらだめだよ。ノーマ」

ノーマはあわてて、早歩きで歩き出す。
どことなくぎこちないノーマの姿に僕の隣に座っていたジークハルトが苦笑する。
ジークハルトの様子に僕は首をかしげるしかなかった。
どうして、そんなに落ち着いていられるのだろうと。

自分を殺そうとしたものが目の前にいるのに。

ジークハルトは、怪訝そうな僕に気が付いたのだろう。少し困ったように微笑んだ。

「言いたいことがありそうだな?」

僕は、そうだねと頷く。

「自分を殺そうとした人間が、そこにいるのに…ジークハルトは…何とも思わないの?」

ジークハルトは、ああと頷く。

「それは思うさ。」

ジークハルトは、まだ動きにくい手を僕に見せた。

「数日前までできていたことができないんだ。つらいよ。」

僕はうんと頷く。

「けど…だからといって彼のすべてを俺は憎めない。あいつは…あいつなりに大切なものを守ろうと必死だった。あいつの立場に俺がなっていたら…なにをしていただろうと思ったら…俺だって同じなんだ。俺だったら、例えば…ラスティが虐げられていたら…俺はそいつを殺してでも助けようと思う。そいつは悪くなくてもだ。」

ジークハルトは、僕を見て優しく微笑む。

「でも…それがもっと…大切な人を苦しめるんだと…見てしまったからな…。」

首をかしげる僕にジークハルトは、少し考えてから口を開いた。

「ラスティが…ノーマを迎えにいっている時に…エスターが来た。」

陛下が言っていたことかと僕は頷く。
ジークハルトは、目を細めた。

「あのエスターが俺に頭を下げてきたんだ…あの子が…俺にしたことを許さなくていい。けど…あの子に機会を与えてやってくれと。あの子だけが…エスターにとって友なんだって。」

ジークハルトは、目を伏せる。

「数日前まで…俺は全てを守れると思っていた。けど…そうではなかった。今回のことは…俺にとっていい教訓になった…それに…この体になって…いろいろ考えさせられた。全部が悪いことばかりでもない…こうやってラスティといっしょに過ごせるなんてこんなことにならないと無理だっただろうし。」

僕は呆れた顔でジークハルトを見る。

「体が不自由になったことと僕と過ごせることを天秤にかけるなよ…。」

ジークハルトは、そうかなと苦笑する。

「これで…ラスティが俺のことをジークっていつも呼んでくれたら、いいのにって思うな。」

僕は首をかしげる。

「ジークハルト…僕は結構真剣なんだけど。」

ジークハルトは、くすくすと笑う。

「それで?エスター様がきたところで話がそれてるんだけど?ジーク。」

ジークハルトは、目を丸くして少し照れている。
自分で呼べと言っておいて困った子だなと僕は苦笑する。

「王位継承権を俺に譲る、俺が第一王子になってエスターは第二王子になる。」

ジークハルトは、そういって眉をよせた。

「陛下も了承した。リノが死んだことになったから…俺は、はやくこの体を治せと無茶ぶりだ。」

ジークハルトは、そういうと目を閉じる。

「けど…戻してみせるよ。ラスティが頑張ってくれたって陛下や父さんと母さんに聞いたよ。それに…目が覚めた時にラスティと陛下がいて…俺はうれしかった。もうダメなんだろうなって思ったし…うれしかった。」

そういうとジークハルトは、僕を見る。

「俺…やっぱり…ラスティこと…好きだと思った。守りたいって思った。それとおんなじくらい…陛下のことも好きで守りたいと思った…ロイスも…マールもノルンも…父さんも母さんも弟たちも…皆守れるくらい強くなりたいって思った。直接的な戦う力だけではなく…心ももっとだ。」

だから…とジークハルトはノーマを見る。

「俺は…ノーマを許せない。けど…ノーマも守ってやらねばと思う。エスターの大切な友だからだ。陛下は頭を下げるエスターを悲しそうに見ていた。何も言わなかったけれど…でも…エスターは…やっぱり陛下の大切な息子なんだよ。エスターからの…ノーマは預かったんだから…俺はノーマも守ろうと思う。」

僕は、やっぱりジークハルトは、優しくて強いなと思う。
きっと、僕には無理だろう。
以前の生で僕を殺した人たちと今普通に過ごせているのは…陛下やジークハルトが傍にいるからだろうし、彼らは別人だと思っているからだ。同じ人だろうとは思うけど…育った環境で人はいくらでも変わるから。
けど、ジークハルト違う。

「ジークハルトは…やっぱりすごいな…」

僕の言葉にジークハルトは、悲しそうな顔をした。

「もう…もとに戻っちゃった。」

そうしょんぼりとするジークハルトが妙に幼く見えて僕は苦笑した。

「はいはい、ジークはすごいね。」

ジークハルトは不満そうに口を尖らせた。
けれど…少し彼の頬がゆるんでいることを…僕は見ないふりをすることにしたのだった。



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