102 / 233
第五章 変わる関係
92 新しい従者
しおりを挟む
「次は、廊下の掃除だよ。ノーマ。」
ノルンの声にノーマは、はいと返事をして走り出す。
「急いでいるのはいいけど走ったらだめだよ。ノーマ」
ノーマはあわてて、早歩きで歩き出す。
どことなくぎこちないノーマの姿に僕の隣に座っていたジークハルトが苦笑する。
ジークハルトの様子に僕は首をかしげるしかなかった。
どうして、そんなに落ち着いていられるのだろうと。
自分を殺そうとしたものが目の前にいるのに。
ジークハルトは、怪訝そうな僕に気が付いたのだろう。少し困ったように微笑んだ。
「言いたいことがありそうだな?」
僕は、そうだねと頷く。
「自分を殺そうとした人間が、そこにいるのに…ジークハルトは…何とも思わないの?」
ジークハルトは、ああと頷く。
「それは思うさ。」
ジークハルトは、まだ動きにくい手を僕に見せた。
「数日前までできていたことができないんだ。つらいよ。」
僕はうんと頷く。
「けど…だからといって彼のすべてを俺は憎めない。あいつは…あいつなりに大切なものを守ろうと必死だった。あいつの立場に俺がなっていたら…なにをしていただろうと思ったら…俺だって同じなんだ。俺だったら、例えば…ラスティが虐げられていたら…俺はそいつを殺してでも助けようと思う。そいつは悪くなくてもだ。」
ジークハルトは、僕を見て優しく微笑む。
「でも…それがもっと…大切な人を苦しめるんだと…見てしまったからな…。」
首をかしげる僕にジークハルトは、少し考えてから口を開いた。
「ラスティが…ノーマを迎えにいっている時に…エスターが来た。」
陛下が言っていたことかと僕は頷く。
ジークハルトは、目を細めた。
「あのエスターが俺に頭を下げてきたんだ…あの子が…俺にしたことを許さなくていい。けど…あの子に機会を与えてやってくれと。あの子だけが…エスターにとって友なんだって。」
ジークハルトは、目を伏せる。
「数日前まで…俺は全てを守れると思っていた。けど…そうではなかった。今回のことは…俺にとっていい教訓になった…それに…この体になって…いろいろ考えさせられた。全部が悪いことばかりでもない…こうやってラスティといっしょに過ごせるなんてこんなことにならないと無理だっただろうし。」
僕は呆れた顔でジークハルトを見る。
「体が不自由になったことと僕と過ごせることを天秤にかけるなよ…。」
ジークハルトは、そうかなと苦笑する。
「これで…ラスティが俺のことをジークっていつも呼んでくれたら、いいのにって思うな。」
僕は首をかしげる。
「ジークハルト…僕は結構真剣なんだけど。」
ジークハルトは、くすくすと笑う。
「それで?エスター様がきたところで話がそれてるんだけど?ジーク。」
ジークハルトは、目を丸くして少し照れている。
自分で呼べと言っておいて困った子だなと僕は苦笑する。
「王位継承権を俺に譲る、俺が第一王子になってエスターは第二王子になる。」
ジークハルトは、そういって眉をよせた。
「陛下も了承した。リノが死んだことになったから…俺は、はやくこの体を治せと無茶ぶりだ。」
ジークハルトは、そういうと目を閉じる。
「けど…戻してみせるよ。ラスティが頑張ってくれたって陛下や父さんと母さんに聞いたよ。それに…目が覚めた時にラスティと陛下がいて…俺はうれしかった。もうダメなんだろうなって思ったし…うれしかった。」
そういうとジークハルトは、僕を見る。
「俺…やっぱり…ラスティこと…好きだと思った。守りたいって思った。それとおんなじくらい…陛下のことも好きで守りたいと思った…ロイスも…マールもノルンも…父さんも母さんも弟たちも…皆守れるくらい強くなりたいって思った。直接的な戦う力だけではなく…心ももっとだ。」
だから…とジークハルトはノーマを見る。
「俺は…ノーマを許せない。けど…ノーマも守ってやらねばと思う。エスターの大切な友だからだ。陛下は頭を下げるエスターを悲しそうに見ていた。何も言わなかったけれど…でも…エスターは…やっぱり陛下の大切な息子なんだよ。エスターからの…ノーマは預かったんだから…俺はノーマも守ろうと思う。」
僕は、やっぱりジークハルトは、優しくて強いなと思う。
きっと、僕には無理だろう。
以前の生で僕を殺した人たちと今普通に過ごせているのは…陛下やジークハルトが傍にいるからだろうし、彼らは別人だと思っているからだ。同じ人だろうとは思うけど…育った環境で人はいくらでも変わるから。
けど、ジークハルト違う。
「ジークハルトは…やっぱりすごいな…」
僕の言葉にジークハルトは、悲しそうな顔をした。
「もう…もとに戻っちゃった。」
そうしょんぼりとするジークハルトが妙に幼く見えて僕は苦笑した。
「はいはい、ジークはすごいね。」
ジークハルトは不満そうに口を尖らせた。
けれど…少し彼の頬がゆるんでいることを…僕は見ないふりをすることにしたのだった。
ノルンの声にノーマは、はいと返事をして走り出す。
「急いでいるのはいいけど走ったらだめだよ。ノーマ」
ノーマはあわてて、早歩きで歩き出す。
どことなくぎこちないノーマの姿に僕の隣に座っていたジークハルトが苦笑する。
ジークハルトの様子に僕は首をかしげるしかなかった。
どうして、そんなに落ち着いていられるのだろうと。
自分を殺そうとしたものが目の前にいるのに。
ジークハルトは、怪訝そうな僕に気が付いたのだろう。少し困ったように微笑んだ。
「言いたいことがありそうだな?」
僕は、そうだねと頷く。
「自分を殺そうとした人間が、そこにいるのに…ジークハルトは…何とも思わないの?」
ジークハルトは、ああと頷く。
「それは思うさ。」
ジークハルトは、まだ動きにくい手を僕に見せた。
「数日前までできていたことができないんだ。つらいよ。」
僕はうんと頷く。
「けど…だからといって彼のすべてを俺は憎めない。あいつは…あいつなりに大切なものを守ろうと必死だった。あいつの立場に俺がなっていたら…なにをしていただろうと思ったら…俺だって同じなんだ。俺だったら、例えば…ラスティが虐げられていたら…俺はそいつを殺してでも助けようと思う。そいつは悪くなくてもだ。」
ジークハルトは、僕を見て優しく微笑む。
「でも…それがもっと…大切な人を苦しめるんだと…見てしまったからな…。」
首をかしげる僕にジークハルトは、少し考えてから口を開いた。
「ラスティが…ノーマを迎えにいっている時に…エスターが来た。」
陛下が言っていたことかと僕は頷く。
ジークハルトは、目を細めた。
「あのエスターが俺に頭を下げてきたんだ…あの子が…俺にしたことを許さなくていい。けど…あの子に機会を与えてやってくれと。あの子だけが…エスターにとって友なんだって。」
ジークハルトは、目を伏せる。
「数日前まで…俺は全てを守れると思っていた。けど…そうではなかった。今回のことは…俺にとっていい教訓になった…それに…この体になって…いろいろ考えさせられた。全部が悪いことばかりでもない…こうやってラスティといっしょに過ごせるなんてこんなことにならないと無理だっただろうし。」
僕は呆れた顔でジークハルトを見る。
「体が不自由になったことと僕と過ごせることを天秤にかけるなよ…。」
ジークハルトは、そうかなと苦笑する。
「これで…ラスティが俺のことをジークっていつも呼んでくれたら、いいのにって思うな。」
僕は首をかしげる。
「ジークハルト…僕は結構真剣なんだけど。」
ジークハルトは、くすくすと笑う。
「それで?エスター様がきたところで話がそれてるんだけど?ジーク。」
ジークハルトは、目を丸くして少し照れている。
自分で呼べと言っておいて困った子だなと僕は苦笑する。
「王位継承権を俺に譲る、俺が第一王子になってエスターは第二王子になる。」
ジークハルトは、そういって眉をよせた。
「陛下も了承した。リノが死んだことになったから…俺は、はやくこの体を治せと無茶ぶりだ。」
ジークハルトは、そういうと目を閉じる。
「けど…戻してみせるよ。ラスティが頑張ってくれたって陛下や父さんと母さんに聞いたよ。それに…目が覚めた時にラスティと陛下がいて…俺はうれしかった。もうダメなんだろうなって思ったし…うれしかった。」
そういうとジークハルトは、僕を見る。
「俺…やっぱり…ラスティこと…好きだと思った。守りたいって思った。それとおんなじくらい…陛下のことも好きで守りたいと思った…ロイスも…マールもノルンも…父さんも母さんも弟たちも…皆守れるくらい強くなりたいって思った。直接的な戦う力だけではなく…心ももっとだ。」
だから…とジークハルトはノーマを見る。
「俺は…ノーマを許せない。けど…ノーマも守ってやらねばと思う。エスターの大切な友だからだ。陛下は頭を下げるエスターを悲しそうに見ていた。何も言わなかったけれど…でも…エスターは…やっぱり陛下の大切な息子なんだよ。エスターからの…ノーマは預かったんだから…俺はノーマも守ろうと思う。」
僕は、やっぱりジークハルトは、優しくて強いなと思う。
きっと、僕には無理だろう。
以前の生で僕を殺した人たちと今普通に過ごせているのは…陛下やジークハルトが傍にいるからだろうし、彼らは別人だと思っているからだ。同じ人だろうとは思うけど…育った環境で人はいくらでも変わるから。
けど、ジークハルト違う。
「ジークハルトは…やっぱりすごいな…」
僕の言葉にジークハルトは、悲しそうな顔をした。
「もう…もとに戻っちゃった。」
そうしょんぼりとするジークハルトが妙に幼く見えて僕は苦笑した。
「はいはい、ジークはすごいね。」
ジークハルトは不満そうに口を尖らせた。
けれど…少し彼の頬がゆるんでいることを…僕は見ないふりをすることにしたのだった。
0
お気に入りに追加
505
あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる