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第五章 変わる関係
91 リノの罰
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階段の所に陛下がにこにこと笑って立っていた。
まったく音がしなかったし、リノは青くなっている。
小さく…どうして…とリノはつぶやいた。
おそらく、リノは誰かが下りてくるのを見てくれていたのだろう。
僕達がここに降りてきた時は、リノはすぐに気が付いていたから。
「陛下…その…」
どこから聞かれていたのか。
そう思っているとずっと大人しくしていたディーが陛下の肩にのる。
陛下は、苦笑した。
「ディーが教えてくれるからね?」
私に内緒にしたかったらディーは放しなさいと陛下は言う。
そうだったと僕は忘れていたと眉を寄せた。
「ラスティが稀人だろうなとは思ってたけれど…リノもそうだったんだね?」
僕が首をかしげると陛下は、稀人というのは生まれる前の記憶がある人のことだよと笑った。
バレてたのか…と焦る。
陛下は僕の頭をなでるとリノを見た。
「エスターの従者リノは死んだことにするよ。マール、降りてきてくれるか?」
トントンと軽い音がしてマールが下りてきた。
「お呼びでしょうか。陛下。」
陛下はにっこりとマールに微笑みかけた。
「あの子を鍛え直してくれるかい?」
マールは首をかしげる。
少しだけ陛下に非難の眼を向けているのはジークハルトの状態を見ているからだろう。
僕も、陛下に何らかの罰は必要だろうと思いながら陛下を見た。
「今のリノにとっては…生きている方が罰になるだろう。自分のやったことを冷静に判断できる…そうだね?」
リノは、うつむいた。
「僕…いえ…『私』は…」
陛下は、目を伏せた。
「エスターが自分を廃嫡してほしいと申し出てきた。」
マールが、え…と小さく声をあげた。
僕は、エスターから申し出てきたということに目を丸くする。
「…その代わりに…と、リノの助命を願っている。あの子は…自分についてきてくれた君に感謝しているようだよ。リノ…。エスターは今回のことは、自分が命じたのだと言っている。」
リノが目を見開いた。
「違います!エスター王子は関係ありません。僕の独断です。」
陛下は頷く。
「ああ、私は…一応あの子の親のつもりだ。あの子の嘘くらいはわかるさ。嘘の下手な子だからね。」
陛下は、ため息をついた。
「ジークハルト本人が今回のことは内密に処理したほうがいいと言っている。バルハルト公とジェン公も了承している。けれど…エスターは王位継承権を放棄した。エスターの処遇はこれから協議されることになるが…ジークハルトが次の国王になる。」
リノは、少し考えていた。
「エスター様は…どうなるのですか?」
追放だろうかと僕は思う。
陛下は、少し考えてから首を横に振る。
「エスター自身は…神官になりたいと言っているけどね。」
リノは、眉をよせる。
「それは…」
陛下は肩をすくめる。
「あの子は…内側から教会を変えたいと言ってきた。あの子もそこまでおバカではないよ?リノ。」
リノはうつむく。
「僕がしたことは…全部無駄ってことですね…」
陛下は、そうでもないよと笑った。
「マール、この子はラスティに預けようと思う。君とノルンでしっかりとしつけてくれ。」
マールは少し考えていたが、はいと頷いた。
「しっかりかっちりしつけます。」
陛下は、じっとリノを見る。
「リノ…君は…今日からノーマと名乗りなさい。リノは…毒を飲んで死んだ。君という人はいなくなる。学園で誰かだ毒を飲まされて王宮に運ばれたということはすでに噂になっている。だから…罰として君の…リノという人間の存在を奪う。それが君の罪だ。ジークハルトはしばらくラスティの所で休ませることにした。彼には治療が必要だからね。君には…ジークハルトの従者になってもらう。」
リノ…いや…ノーマが、目を伏せる。
「ジークハルトは、君を許さない。彼の両親も、私も君を許す気はない。その中で君は生きなければならなくなる。エスターにも二度と会えない。そう思っていなさい。」
ノーマは頷く。
「はい…。」
ロイスが、階段のところでため息をついているのが見えた。
僕は、彼に事情を言わねばとロイスの傍に行く。
「あのね…。」
ロイスは首を横に振る。
分かっていますと。
「リノ…いえ…ノーマについては…少し俺も複雑ですが…たぶん…ジークハルトは許してしまうのだろうなと少し思っただけですよ。あいつは…自分のことには無頓着だから…。ラスティ様…ありがとうございます。」
僕は首をかしげる。
「俺は…たぶんあいつを簡単には許せないけど……でも…リノ…ノーマに機会を与えてくれたことを感謝します。」
ノーマは下を向いてしばらく肩を震わせていた。
が…あ…と小さく呟くと履いていた靴を脱ぐ。
そして脱いだ靴のかかとの部分を少し触っていた。
ぽろりとかかとがずれ、ノーマはいくつかの錠剤を取り出した。
隠していた場所が場所なので危ない薬なのでは…と少し思う。
ノーマは真剣な顔で陛下を見る。
「陛下…これを……これらを調べてもらえませんか」
まったく音がしなかったし、リノは青くなっている。
小さく…どうして…とリノはつぶやいた。
おそらく、リノは誰かが下りてくるのを見てくれていたのだろう。
僕達がここに降りてきた時は、リノはすぐに気が付いていたから。
「陛下…その…」
どこから聞かれていたのか。
そう思っているとずっと大人しくしていたディーが陛下の肩にのる。
陛下は、苦笑した。
「ディーが教えてくれるからね?」
私に内緒にしたかったらディーは放しなさいと陛下は言う。
そうだったと僕は忘れていたと眉を寄せた。
「ラスティが稀人だろうなとは思ってたけれど…リノもそうだったんだね?」
僕が首をかしげると陛下は、稀人というのは生まれる前の記憶がある人のことだよと笑った。
バレてたのか…と焦る。
陛下は僕の頭をなでるとリノを見た。
「エスターの従者リノは死んだことにするよ。マール、降りてきてくれるか?」
トントンと軽い音がしてマールが下りてきた。
「お呼びでしょうか。陛下。」
陛下はにっこりとマールに微笑みかけた。
「あの子を鍛え直してくれるかい?」
マールは首をかしげる。
少しだけ陛下に非難の眼を向けているのはジークハルトの状態を見ているからだろう。
僕も、陛下に何らかの罰は必要だろうと思いながら陛下を見た。
「今のリノにとっては…生きている方が罰になるだろう。自分のやったことを冷静に判断できる…そうだね?」
リノは、うつむいた。
「僕…いえ…『私』は…」
陛下は、目を伏せた。
「エスターが自分を廃嫡してほしいと申し出てきた。」
マールが、え…と小さく声をあげた。
僕は、エスターから申し出てきたということに目を丸くする。
「…その代わりに…と、リノの助命を願っている。あの子は…自分についてきてくれた君に感謝しているようだよ。リノ…。エスターは今回のことは、自分が命じたのだと言っている。」
リノが目を見開いた。
「違います!エスター王子は関係ありません。僕の独断です。」
陛下は頷く。
「ああ、私は…一応あの子の親のつもりだ。あの子の嘘くらいはわかるさ。嘘の下手な子だからね。」
陛下は、ため息をついた。
「ジークハルト本人が今回のことは内密に処理したほうがいいと言っている。バルハルト公とジェン公も了承している。けれど…エスターは王位継承権を放棄した。エスターの処遇はこれから協議されることになるが…ジークハルトが次の国王になる。」
リノは、少し考えていた。
「エスター様は…どうなるのですか?」
追放だろうかと僕は思う。
陛下は、少し考えてから首を横に振る。
「エスター自身は…神官になりたいと言っているけどね。」
リノは、眉をよせる。
「それは…」
陛下は肩をすくめる。
「あの子は…内側から教会を変えたいと言ってきた。あの子もそこまでおバカではないよ?リノ。」
リノはうつむく。
「僕がしたことは…全部無駄ってことですね…」
陛下は、そうでもないよと笑った。
「マール、この子はラスティに預けようと思う。君とノルンでしっかりとしつけてくれ。」
マールは少し考えていたが、はいと頷いた。
「しっかりかっちりしつけます。」
陛下は、じっとリノを見る。
「リノ…君は…今日からノーマと名乗りなさい。リノは…毒を飲んで死んだ。君という人はいなくなる。学園で誰かだ毒を飲まされて王宮に運ばれたということはすでに噂になっている。だから…罰として君の…リノという人間の存在を奪う。それが君の罪だ。ジークハルトはしばらくラスティの所で休ませることにした。彼には治療が必要だからね。君には…ジークハルトの従者になってもらう。」
リノ…いや…ノーマが、目を伏せる。
「ジークハルトは、君を許さない。彼の両親も、私も君を許す気はない。その中で君は生きなければならなくなる。エスターにも二度と会えない。そう思っていなさい。」
ノーマは頷く。
「はい…。」
ロイスが、階段のところでため息をついているのが見えた。
僕は、彼に事情を言わねばとロイスの傍に行く。
「あのね…。」
ロイスは首を横に振る。
分かっていますと。
「リノ…いえ…ノーマについては…少し俺も複雑ですが…たぶん…ジークハルトは許してしまうのだろうなと少し思っただけですよ。あいつは…自分のことには無頓着だから…。ラスティ様…ありがとうございます。」
僕は首をかしげる。
「俺は…たぶんあいつを簡単には許せないけど……でも…リノ…ノーマに機会を与えてくれたことを感謝します。」
ノーマは下を向いてしばらく肩を震わせていた。
が…あ…と小さく呟くと履いていた靴を脱ぐ。
そして脱いだ靴のかかとの部分を少し触っていた。
ぽろりとかかとがずれ、ノーマはいくつかの錠剤を取り出した。
隠していた場所が場所なので危ない薬なのでは…と少し思う。
ノーマは真剣な顔で陛下を見る。
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