不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第五章 変わる関係

89 地下牢の従者

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暗い地下へとロイスとマールと一緒に降りる。
王宮の地下牢。
今は一人の少年が入っている。

「ラスティ様、大丈夫か?」

ロイスが少し抑えた声で僕に話しかけてきた。
僕は頷く。
ジークハルトをあんな目にあわした本人がこの先にいる。
ロイスとしては彼が憎いだろうと思う。

陛下に彼に会いたいというと少し困った顔をされた。

ー彼は…聖者リオンと仲の良い君には危害を加えないと言っていたらしいし… ー

しばらく考えた陛下は、頷いてくれた。
ただし、ロイスとマールと一緒に行くこと。
陛下も心配だからあとから様子を見に来ると言っていた。
はやく終わるようなら、陛下と入れ替わりにならないように報告にいかないとなと思う。
従者リノの扱いには、陛下も困っていたようだ。
ジークハルトをリノが殺そうとしたということを今のところ、公表をしてはいない。
エスターの従者というところが引っかかっているからだろう。
第二王子の称号を持つジークハルトを第一王子のエスターの従者が害したのだ。
そもそもジークハルトに立場を明らかに奪われているエスター。
そのエスターも関与していると思われるだろう。
実際は、どうかは僕にはわからない。
けれどもあの驚きと叫びが嘘だとしたらエスターは、あの立場に追いやられていないとも思う。
リノの独断。
そうだとは思うが何かひっかかる。

「やけに足音が多いと思ったら…王妃様が罪人の見学?第二王子死んだ?」

地下の床を踏んだとたんにそんな声が聞こえた。
リノの牢からこちらが見えたらしい。
冷たい壁にもたれて小柄な彼は、面倒そうに顔をあげていた。

「ジークハルトは生きているよ。」

僕が、そういうとリノはそう…とうなだれた。

「…なら…君が死なないとこの世界は動かないのかな?」

ふふっとリノは笑う。

「何を言っているの?」

僕の言葉にリノはうふふと笑う。

「言っても信じないよ。でも…今回ならお兄ちゃんが昔言ってたことが実現できるかなって思ったんだけどな…どうやら無理っぽいな…すごく…残念。リオン様もやる気あるみたいだったから試練を超えるかもって思ったんだけど。」

諦めきったようなリノの言葉に僕は首をかしげる。
リノの言ったお兄ちゃんという言葉に違和感を覚えた。

「…君に…兄弟がいたのか?」

僕の言葉にリノは、じっと僕を見つめる。

「お兄ちゃんは…すごく昔に…昔なのかな…あっちと時間の流れがどうなってるかわからないし。まあぁいいや…ずっと前に死んだの。ここでは…リオン様しかしらないの。『私』も偶然知っているだけでリオン様は『私』がそれを知っていることも、『私』がここに居るなんてしらないけどね。うふふ、きょとんとしている。何言ってんだ??って感じよね?」

リノは、どこか覚えのある言い方で僕を見る。

「乱心した者の言葉だって思って流していいわよ。でも、いい機会だもの。貴方に忠告。かわいい王子様。お兄ちゃんが貴方の生きる道がないかって私に言ったの。お兄ちゃんには迷惑ばっかりでだったから…お兄ちゃんにとってはただの疑問だったのはわかってるけど…あるって言ってあげたかったわ。画面越しでない貴方は…どこかお兄ちゃんを感じる子だったし。私の自己満足だけど一回くらい貴方が死なない道を探したかったの。だから…忠告。この状態になった私にはもうこれしか出来ないでしょ。貴方が16になったら…毒と薬、冒険者に気をつけなさい。もしかしたら…今回はここまでルートが違うんだから生き残れるかもしれないわ。」

マールとロイスが、横で眉を寄せている。

「何を…不吉なことを言っている…呪いでもかけるつもりか…」

ロイスが、押し殺した声でリノに言う。
リノは、じっとロイスを見てから微笑んだ。

「記憶が…いいえ、記録のない貴方には…わからないでしょうけど。ジークハルトに僕は何度も殺されてるんだから一回くらいやり返したっていいじゃないか。君だって殺されてるのに…そんなにあいつが大切?いいじゃない…あいつが身代わりに死んだら第二王子が16で死んで第一王子が没落する。聖者リオンは第一王子の庇護をしていたんだから責任として一緒に追放されるでしょう。あの子達が試練を超えれば…この世界はもう壊れない…ラスティ様は陛下と幸せに暮らせる…一回くらい…あいつが身代わりになったって…」

「ふざけるな!!!!」

僕は思わず叫んでいた。
マールとロイスが目を丸くする。
リノも言葉を飲み込んだ。

「人の命をなんだと思っている!!一回くらい?ジークハルトをなんだと思っているんだ。ああ、そうだろうな…繰り返し殺される記憶なんて…そんなものを覚えているなら辛いだろう。きついだろう。憎いだろう。だが…だからと言って身代わりに死なれて僕はうれしくない。ジークハルトは僕にとって弟のような存在だ。僕の幸せは…僕が決める。君に決めつけられたくはない!!」

リノはじっと僕を見て微笑んだ。

「うふふ…そういうところもお兄ちゃんみたいね…。でも…だから…ねぇ、お願い聞いて…貴方は…。」

「待って!」

僕はリノの言葉を止めた。
リノは泣きそうな顔で黙った。
僕はマールとロイスの方を向く。

「ごめん、僕はここから絶対に彼に近づかないから…少しだけ二人きりにさせて…彼が…僕の考えている通りなら…君たちが聞いてはダメなことを彼は知っていることになるから…」

マールとロイスは少し考えて頷く。

「ディーを出しておいてください。陛下が言っていました。あの子はラスティ様に危機が及びそうになった時にも役に立つと。」

僕は頷くとディーを肩に呼び出す。
マールとロイスは、階段を上がっていく。
あまり大きな声をしなければ、聞き取りにくい位置まで離れてくれたのだろう。
完全に離れてくれとは、僕の立場から言えない。
それに、彼らはたとえ聞いても言いふらすようなこともないのはわかっている。
少し離れてもらったのも、彼らは聞いていないということを後から来る陛下に見せるためだ。
彼らは…関係ないのだと。
もしかしたらという、都合のいい妄想だ。
けど…その妄想が当たっていたら…僕はリノを助けなければならなくなってしまう。
言い方がおかしいな…。
リノを守りたいときっと思ってしまう…。
こっちだろうか。
僕は確かめるために、言葉を吐く。





「リノ…僕は…この世界が繰り返していて…僕がいつも死んでいることは覚えているよ。」





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