不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第四章 波乱の学園生活

85 陛下と僕

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ジークハルトの部屋を出ると陛下はにっこり笑って僕の手を取った。
そのまま、廊下をのんびりと歩く。
客室は、寝室からは結構遠い。
散歩気分である。

「明日は頑張らないとね。」

単純に頑張るのは僕でなく陛下だと思うが。
ちょっと思う。
僕は身を守る?ために一応訓練したけど術は陛下が行うのだ。
陛下はちらりと僕を見ると、苦笑した。

「頑張るのは私だって思ってるでしょ?」

僕は素直に頷いた。

「ラスティが安定して力を出さないと私が無理やり奪うことになるから…そうなったら大変だよ?そのための訓練だ。ラスティは私を魔石だと思って神力を送り込む役目だからね。何もしなかったら…後が辛いよ?」

陛下が小さく流石に今の年齢のラスティを抱くわけにはいかないからなぁ…どうするかなぁとつぶやいた。

聞こえないようにしているつもりだろうけど、聞こえてます陛下。

陛下は最低でも18までは手をだすつもりはないらしいので悩むところだろうな。
しかし…本当にそれでいいものかと思う。
もっと王妃にふさわしい人はいるだろうに。
どうしても金の瞳の王妃が必要ならば、側室を置くのもありなのではと思う。
もやっとするけども。
なんだか、もやっとするけども。
僕の顔を見て陛下が首を傾げた。

「どうしたの?」

僕は、少し考えたが考えを口に出すことにした。

「子供の王妃で陛下は満足ですか?」

これだと意味が分からないか。
そう思っていると陛下はにっこりと微笑んだ。

「うん?もしかして誰かに聞いたのかな?側室おけという声は確かにあるけど…私はそういうことは器用ではないし、私のパートナーはラスティだけがいいんだよ。期待通り美人に育ってくれているからラスティが大人になるのが楽しみだよ。まぁ…ラスティのほうがおじさんの私が嫌だと言い出しそうだけど。」

僕が6歳の時から陛下の外見変わってないですが。
金の瞳の王族は寿命が他の人より長いらしい。
直系の陛下やバルハルト公、ジェン公やジークハルト達はそうみたいだ。
僕は…どうなのかしらないけども。
僕が普通の寿命なら陛下より先に死ぬよなぁとぼんやりと思う。

…いや…そっちではないな。
やっぱり側室の話は出ているんだなぁ。

そのまま寝室へと向かうと陛下は、お風呂入ってくる~と笑って行ってしまった。
ベットに腰かけてぼんやりと天井を見る。

冒険者か…

陛下の先ほどの言葉を思い出す。

窮屈…

ジェン公と楽し気に話す陛下は生き生きとしていた。
あんなこと言ってたけど、陛下は国王の重要性をよく知っている。
ジェン公と話していた陛下の言葉は、気晴らしてしかないのはわかるのだけど。
二人とも半分は叶うことのない、冗談交じりの一部本音の友人同士の話だろうけれど。
少し、うん、少しだけ胸が痛んだ。

僕の前の陛下は、国王の陛下でそこまで本音で話してくれてないよなぁと。
陛下に言ったらそんなことないよと笑うのだろうけど。

「せめて、早く大人になりたいなぁ。」

少しは役に立ちたい。
今はずっと迷惑しかかけていないから。

前の生の経験とかあんまり役に立ってない気もする。

「ジークがあんなことになったから…不安定なのかな…」

ぼんやりとしていると陛下が髪を布で拭きながらお風呂から帰ってきた。
魔法で乾かせばいいのにと思うが、こういう時の陛下は、すぐに寝ずに少し何かをしてから寝る。
寝るまでに時間がかかる時はそうしているようだ。
なんでだろうと思って理由を聞くと、癖だよと少し悲し気に笑っていたから何かあるのだろう。

「あれ?待ってたの?寝ててよかったのに。疲れているでしょう?」

そう笑う陛下に、はいと返事をしつつベットに横になる。
陛下は、ソファに座って、書類を取り出した。
面倒そうに、でも真剣に書類を読んでいる。
僕は横になったまま陛下を眺めていた。
イケメンは何やっても絵になるよなぁなどと思っていると陛下がそんな僕に気が付いて苦笑する。

「明るいから寝れないのかい?」

違いますよと言うと答えたが陛下は少し考えると書類をしまって髪を魔法で乾かしてしまった。

「寝ないと回復しないよ。緊張しているの?」

そう言って陛下はベットに入ってくると明かりを消した。
月明かりだけでも明るい。
青い光に照らされて、濃い陰影が陛下をどこかさみし気に見せた。
なんとなく、本当に何となくだけど陛下が消えてしまうような気がした。
僕は目の前の陛下がここにいると感じたくて抱き着いていた。

「ラスティ?…不安なのかい?」

そう言われて、そうなのかもと思う。
そうなのだろう。
ジークハルトは、うまく目覚めるだろうか。
頭の隅にその思いはこびりついている。
今まで…みんなを置いて先に死んでいたから…自分が置いて行かれるなんて考えたこともなかった。
ジークハルトがいなくなったら…陛下がいなくなったら…。
そんなことを考えたことが無かったのだ。
それが目の前に突き付けられた。

だからだろうか。

何か違う気もするが、その思いも自分の中にある思いだったから、今の不安はそれなのだろうと無理やりに近い形で納得させる。
自分の感情がわからない。
陛下は少し考えてから、僕に顔を近づける。

「陛下?」

と、そのまま僕に陛下は口づけた。

はい?

固まっていると、陛下の手が僕の寝巻の中に入り込んでくる。
まてまて、年齢的にまずいのではと慌てるが、陛下の手は僕の胸の紋章の所で止まった。

「少し、やってみようか。」

ふわりと僕の神力が勝手に発動する。
背筋にぞくりと一瞬だけ何かが走る。
体が暖かくなって、意識がふわふわとする。
がそれだけだ。

「大丈夫でしょう?」

陛下の声が、遠い。
僕は、辛うじて頷く。
きもちいい。
ふわふわとする。
けど、思っていたほどではない。
内心ほっとする。

「眠りなさい。大丈夫、君のジークは目を覚ますから。」

陛下が僕の神力を使って僕を眠らせるつもりなのだろう。
これって、紋章を入れた人が悪い人だったら悪用されるよなぁと少し思う。
陛下は僕の力を悪用しないだろうけど。

すぅっと眠りに落ちる瞬間。
陛下が何かつぶやく。
内容はわからない。
けれど…陛下がとても悲しそうに見えて、僕は手を伸ばした。

僕の手に暖かい何かが触れたのはわかったけれど。
そのまま眠ってしまったのだった。

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