不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

文字の大きさ
上 下
87 / 233
第四章 波乱の学園生活

80 ノルンの苦悩

しおりを挟む
王宮にジークハルトを連れて帰り、奥の間の空いている部屋に寝かせる。
ジェン公も泊まることになったので、ノルンとマールが大急ぎで準備してくれた。
僕は、陛下達が打ち合わせなどをしている間に、食事や入浴を終わらせてジークハルト付き添いのために彼の部屋に入る。
ノルンが、ずっとジークハルトの世話をしてくれていた。
ノルンはまだ、食事も入浴もできていない。
世話を交代するつもりだったからだ。

部屋は明かりを落とされていて月明かりが部屋を明るくしている。
見慣れた部屋であるはずなのに。
やけに神秘的に感じる。
月に魔力があるなんて昔誰かが言ってきたように思うけれど。
本当にそうだなとぼんやりと思う。

部屋の中には大きなベットが一つ。
月明かりが、ジークハルトと付き添っていたノルンを照らしていた。
ノルンの優しくジークハルトを見守る表情が月明かりに陰影を深く刻まれてとても慈愛に満ちて見えた。

聖者ってノルンみたいなことを言うのだろうなと思う。

そもそもこの世界の聖者は、教会が定めて聖者と呼ばれる。
能力的には僕に聖者の力があっても、僕は聖者にはなれないしならない。
別にリオンが聖者で試練をしてくれるならそれでいいと思ってしまう。
僕としては、普通にはやくに死なないで普通に生きて、皆で老後にお茶でものみつつまったりしたいだけだ。
俗物の僕が聖者なんて笑える話ではないか。
そう思う。
聖者というのはもっときれいなものを言うだろうに。

「ラスティ様?」

部屋に入ってからぼんやりと立ち尽くしていた僕にノルンが首をかしげた。

「うん、ジークハルトの様子を見に来たんだ。」

ノルンは、ええと頷いてどうぞと場所を譲ってくれた。
僕は遠慮なくノルンが座っていた椅子に座る。

「僕がジークハルトを見ておくから、ノルンも自分のことを終わらせて。」

忙しく走り回っていたノルンは、まだ食事すらしていないのだから。
僕がそう言うとノルンは曖昧に笑った。
ジークハルトの服を寝巻に着替えさせて、体も拭って終わらせてしまっている。
僕が、やれそうなことは終わっているなぁと苦笑する。

「ですが…」

ノルンも心配なのだろうなと僕が思っているとノルンは顔を曇らせた。

「傍にいたのに…ジークハルト様へのリノの悪意を気が付きませんでした…。従者として気を配らねばならないことだったのに。僕がお仕えっしているのはラスティ様です。けれど王家に仕える者としてはジークハルト様を守る立場なのにそれが出来ませんでした…。お叱りを受けるのが当然なのです…でも、皆様は何も言いません。それが…僕は…辛いです。せめて、ジークハルト様が元気になられるまでお世話がしたい…。」

僕は、目を丸くする。
ノルンは責任を感じているようだ。

「……」

なんといってわからなくなった。
軽く考えていたなと反省する。
自分の立場をだ。
王子という立場を改めて思い知らされる。
以前の生で、僕という王子が死んだことによって皆、運命を狂わされた。
おそらく…僕の知らないところでノルンのような従者や使用人たちも狂わされていたのだろう。

「ラスティ様?」

ノルンは僕を覗き込んで心配そうな表情を浮かべている。
以前の生のことで今の人たちを不安にさせるのは違うなと僕はノルンに微笑む。

「ノルンにそんな悲しい表情をさせないように僕も気を付けようと思っただけだよ。」

ノルンは目を丸くした。

「王妃とか王子とか…僕があまり立場が分かってなかったんだなって少し思い知った。ジークハルトや僕の命は自分だけのためのものでは…無いんだなって。ノルンやマールのためにも、危ないことはしないようにしないとなって、そう思ったんだ。」

ノルンは、少し困ったように苦笑した。

「僕…私達だけではないです…料理長に庭師たちも…いいえ騎士団もそうです。王子や王妃…もちろん陛下も…ご自身だけでなく多くの人たちの思いを背負っておられます。」

そうだねと頷く。

「知識ではわかっていたつもりでも…ジークハルトがこうなって実感したよ。だから…ノルンの言っていることはよくわかる。だから、ジークハルトがここにいる間はノルン、よろしくね。」

はいとノルンは微笑んだ。

「うん。でもそれなら余計にまずは食事とお風呂で清潔にしないとね。ジークハルトの世話は長期戦だよ。早く帰ってきてね?」

ノルンは、そうですねと微笑むと少しの間お願いしますと言って部屋を出た。
僕は、眠るジークハルトの顔を覗き込む。
気持ちよさそうに眠っているように思う。

「ふふ…僕だけではないみたいだね。」

僕はジークハルトに微笑む。
ジークハルトを守ろうとしているのは僕だけではない。
きっとみんな待っている。

「絶対に、ジークハルトを元に戻すよ。」

後遺症なんかなくなるように。
僕は、陛下達の訓練を頑張ろうと強く思ったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...