不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第四章 波乱の学園生活

76 第二王子

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ジークハルトの教室に飛び込むと、ぼんやりと立っているリノが床を眺めていた。
その視線の先には、苦しんでいるジークハルトが倒れている。
状況が特分からないが僕はリノを見た。

「どうなってるの!!」

リノは僕を無視して黙ったまま、ジークハルトを見ている。
いや…薄く笑ってジークハルトを見ているのだ。
リノの手には、僕には見慣れすぎたものが握られている。
毎回僕の命を奪う王家の毒の入った指輪だ。
ジークハルトが倒れているすぐ横の机には、飲みかけの紅茶。
僕は、焦ってとにかく…と鑑定を使った。

毒が入ってる。
それくらいはわかる。。
かなり強力のようだが、僕の鑑定スキルの腕では種類までわからない。

ジークハルトがここまでになるということはかなり強い毒なのは確実だ。
王家の毒を使われたのだと、思いつつも別の可能性も考える。

どこか…信じたくなかったのだ。
元々、防毒スキルなど持っている者にすら効くようにできている王家の毒は強力だ。
僕のように防毒などないものは即効性に近く苦しむ前に死ぬが、ジークハルトのように防毒のスキルがあるものは、スキルによって抵抗してしまうので、かなり長く苦しむと聞いたことがあるような気がする。
ただ…防毒スキルがあっても助からないとも聞いていた。

「お前…まさか…お前が…ジークハルトにその毒を盛ったのか!!」

リノは、僕をそこで初めて見た。

「エスターさまを害するものなんてこの世にいたらダメなんだ。君はリオン様のお気に入りだし、仕方ないけど…こいつはいらないよね?」

そう言って笑うリノに戦慄する。

「第二王子なんていらないんだよ。」

第二王子という言葉に悪寒が走った。
まさか、ジークハルトは僕の身代わりになったというのか??
ともかく何とかしないと、と僕はジークハルトの横に座り込む。
陛下に作ってもらったブレスレットを全部取り出して、ジークハルトの胸に押し付けて一気に発動させた。
淡い光がジークハルトを包んだ。
ジークハルトが、薄く目を開く。
息は荒いが、少しだけ楽になったのだろう。

「ラス……」

ジークハルトが、大丈夫だと言わんばかりに…、僕を安心させようと笑おうとする。
ムカついた。
こんな時まで、僕を優先するなと思う。

「この馬鹿!!やせ我慢するな!!」

僕はジークハルトをしかりつけてからブレスレットをとにかくにぎらせた。
解毒の石は全部弾け飛んだが、防毒の石が輝いている。
魔石は、これ以上ジークハルトの体内に毒が広がらないように防いでいるのだろう。

「なにしてるのさ…邪魔するなよ!!」

リノに腹を蹴られる。
その勢いで僕は、一度床に転がったがそこまでダメージは無かった。
かすり傷や服がしわになったがそれだけだ。
腹を蹴られたのに、腹の方はわずかに痛むくらいだ。

そこで気がつく。
もう一つある。

そう、もう一つプレスレットを内ポケットに入ったままだ。
たぶん、これが僕の防御力を上げてくれていた。
内ポケットに入っている僕の分を取り出し、ジークハルトに押し付ける。
解毒の石がはじけ飛んだ。

くそ…これでも、ダメか…。

ジークハルトの様子は少し顔色が良くなった。
けれどもまだ、顔色は悪いし、苦しんでいる。

あとは…持っている薬を飲ませてみるしかない。

その前に、リノを何とかしないと…と僕がリノをにらむとリノは再度僕を蹴ろうと足を上げているところだった。
いや…僕の方ではなくジークハルトの方向に足が向いている。
狙っているのは、ジークハルトに握らせたブレスレットの束だ。
僕はジークハルトを庇うように、彼に覆いかぶさった。

ガンと扉が吹き飛ぶ音がしてリノが弾き飛ばされた。

「何をしているんだ!!リノ!!お前…お前がやったのか!!」

エスターが魔法でリノを吹き飛ばしたらしい。
そのまま、リノを押さえつけている。

「なんでですか?僕は貴方のために…」

リノの声にエスターの叫びが聞こえる。

「全然、私のためにならない。私はこんなことを望んではいない…ジークハルトは…私の…私の兄弟なような者なのだぞ!!それを傷つけて…私のためなどというな!!!」

エスターの声が泣いているように聞こえた。
ノルンとマールが僕の傍まで走ってくる。
僕を見て、二人がにリノの方向をにらむ。

「どうなってるんだ!これは…ジーク!!ラスティ様!!…くっ…先生を呼んでくる!!」

トリスティの声が扉のほうからした。
彼は、教師を呼びに走ったようだ。
足音の方向を確かめようと、顔を上げると、扉のところでリオンが、呆然と口を開けて立っているのが見えた。

「ラスティ様…しっかり…」

マールが、蒼白になりながら僕を支えようとする。
ノルンは顔を青くしてジークハルトの状態を見ていた。
泣きそうなノルンの状態から危険な状態のままだということは察することができた。

やはり、このままではダメだ。
体内の毒をとにかくすべて消す。
内ポケットの中の薬は効いてくれるだろうか。
不安がよぎる。

でも…とにかく…薬を飲まさないと…。

ジークハルトの状態では錠剤の解毒剤は喉を通らないだろう。

「ノルン!!水ある??」

ノルンはすぐに水筒を出して水をコップについで僕に渡してくれる。
僕は内ポケットから解毒剤を取り出して、口に放りこんだ。
奥歯で砕いて水を口に含む。

「え?…ラスティ様?」

マールが戸惑っているがそれどころではない。
僕はジークハルトの顔を上に向かせてその唇に僕の口を押し付ける。
そのまま、薬を流し込んだ。
ジークハルトが飲み込んだことを確認してから顔を放す。

「これでどう??」

ジークハルトの顔色がずいぶんよくなってきているように見えた。
この薬は即効性があったはずだ。
ノルンは鑑定を使い続けている。

「落ち着いたみたいです…ラスティ…適切な処置です。」

ジークハルトの体内の毒の除去が進んだのだろう。
僕はほっとしてマールにもたれかかった。
ノルンは、きょろきょろと何か探すそぶりをして紅茶の方へとむかった。
紅茶を鑑定して毒の種類を特定しようと考えたのだろう。
今後の治療の方針を決めるためにも毒の種類が何かの把握は必要だ。
ノルンならば、薬物の鑑定は研究者レベルの鑑定が出来る。

「これは…毒ですか…見たこともない…でも…すごく強力な…成分から…なんてこと!!!ジークハルト様だから…時間が稼げたのですね…他の方なら…数分で命を落とされています…。」

でも…とノルンは目を伏せた。
おそらく、彼でも後遺症が残るだろうと。
ジークハルトは、薄く目を開いた。
僕はマールに支えられてジークハルトを覗き込む。

「ジークハルト…」

僕の呼びかけにジークハルトは少し安堵したような表情を見せた。

「…ラ…スっ………………」

ジークハルトの腕が僕を抱きしめる。
マールの手が僕から離れた。
ジークハルトは、震えている。
弱い力で縋りつくようなジークハルトの様子に胸が締め付けられる。
僕はジークハルトの背中に手を回した。
いつも大きな彼の背中が少し頼りなく感じる。

「怖かったな…よく頑張ったね…僕が守るから…寝てて、大丈夫だよ…。」

僕はジークハルトの耳元でそう囁く。
ジークハルトは頷くと薄く開いていた目を閉じた。

「大丈夫だ…僕がついてるから…。」

僕はただ、彼を抱きしめ、背中をなでていた。



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