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閑章 リオンside 蝶

閑話 06 金の蝶

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金色の蝶を追いかけて、赤や青の光の中、石畳の道をひらひらと舞うようにリオンは走っていた。
男たちの卑下な視線を感じつつも、ただ蝶を追いかけて走っていた。

いつの間にか裏路地に入り込んでいた。
危険な行為だとわかっていた。
襲ってくれと言わんばかりの行動。
後ろを付けてくる男の気配を感じつつリオンは必死に蝶を追いかける。

「どこにいくんだ?」

声をかけられ、ぐいと強引に肩をつかまれる。
後ろを付けてきた男だ。
こんなところにリオンのようなものが入り込めば、襲ってくださいと言っているようなものだ。
体目当てか金品目当ての男だろうとリオンは、思いながら男をどうするか考える。
手早く眠らせてしまおうとリオンは判断した。
リオンが肩をつかんできた男を振り払おうとした時だった。
その男は、地に叩きつけられた。
深くフードを被った背の高い男が二人。
リオンを守ろうとしたというわけではないだろう。
ただ、男が邪魔だった。
一人が男を、引きずるようにして通りの方に歩いていく。
もう一人は、リオンが追っていた蝶を指に止まらせて愛でていた。
裏路地の暗闇にいてもその男は華やかな印象をリオンに与えた。
ただ、その瞳に宿る暗い光は、恐怖をリオンに与えているが。

「お久しぶりです…。」

蝶を愛でる男の身分を考え、リオンは彼の名がわからないように挨拶を行う。
誰が聞いているかわからないところで、彼の名と身分を出すことは出来ない。
蝶を愛でる男は、鷹揚に頷くだけだった。

「君も…相変わらずのようだ。結局君は、あの子の命を無駄に散らさせただけかい?」

リオンは、目を丸くする。

「無駄……?」

彼は、今の今まで気が付いてすらいなかったのかと、ため息をつく。

「君がこの世界を救える器かどうか図るためだけにあの子の命は神に使われた。君に試練を与えるという理由があの子の死の理由だ。君は、試練を放棄して逃げた。試練から逃げて、世界を放棄して…享楽の終わりを願った…君は、あの子の死の理由を放棄したことだ。あの子は、そんなことのために命を散らしたのかと思ってしまうな。」

リオンは、言うべき言葉を失っていた。

「君の気持ちがわからないわけではないよ。けれども、あの子の死んだ理由が。神が君に世界を救わせるためだったということになっているのだから…それを放棄した時点で君はあの子の死を蔑ろにしたということにならないかい?君はその使命のために生まれた聖者なのだから…役目をはたしてこそあの子の死を無駄にしないことが出来たのではないかと…私は持ってしまうな。使命を果たすも果たさないも…君の自由だけれども…。」

リオンの目の前の男、狂王と呼ばれるようになったかつての賢王は、静かにリオンを見つめている。
いつの間にか帰ってきたもう一人の男、騎士団長ジークハルトは黙ったまま彼らを見つめていた。

「君は…聖者の力を保てていないだろう?」

リオンは頷く。

「ええ…いえ…最初からです…聖者に選ばれた時点で僕の力は…神力は…徐々に消えていく状態でした。」

教会に選ばれるまではあった神の力は、選ばれた途端に霧散した。
それを教会は知りつつリオンを聖者として扱った。
別にリオンの能力を教会が欲したわけではないのだから。
聖者という象徴が教会は、欲しいだけなのだから。
奇跡などはいくらでも作ればいい。
元々聖者は嘘にまみれた存在。
試練などと言わなくとも、ラスティの死がなくとも…。
リオンは教会に見出された時に、すでに嘘にまみれた名ばかりの聖者でしかなかった。

「僕は…神様の認めた聖者ではありません…所詮は欲にまみれた人が選んだ聖者という名の只人です…試練とかそんなことを言われても…僕は、友人が…好きだった彼を自分の嘘で死なせたということを乗り越えなんかできない。いつもいつも…彼に聖者と呼ばれるだけで心が痛んだ。音が聞こえるんです。壊れる音が。貴方は…知ってたんでしょう?僕ではない…本当の神に…この世界の聖者は…ラスティだったんでしょう?…彼が死んだ時点でこの世界が壊れるのは確定していた…そうなんでしょう!!」

王は、じっと泣き叫ぶリオンを見て眉を寄せた。

知っていた。

何故執拗に教会がラスティを殺そうとしているかの理由も。

王は知っていた。

教会の教えは、金の瞳の王族は教会とは相いれないものとしていた。
それなのに…最後の金の瞳の王子が聖者に選ばれたとなれば教会の教えは破綻する。

エスターを惑わし毒を飲ませたのは、教会だということは調べがついていた。





目の前の少年が、被害者だということを王は知っていた。
そして、同時に…やはり彼は聖者なのだということを王は知っていた。




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