不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

文字の大きさ
上 下
65 / 233
閑章 リオンside 蝶

閑話 05 知らない男 ※

しおりを挟む
窓の外には赤や青の光がチカチカと瞬いている。
今日の糧を得るために、体を売る者のための安宿が乱立する場所。
リオンは、己に突き立てられた欲望の象徴を感じながらゆらゆらと揺れていた。
媚る声で自分を抱く男を煽る。

「はぁ…もっと…もっとうごいて…。」

リオンの願いの通りに荒い息を吐きつつ男はリオンを揺さぶる。
白い肢体を快楽のまま揺らしながらリオンは両手を男の方へと広げる。
男が己の胸に吸い付く感覚に声を上げる。

「ん…んぅ…ああ、いいよ…きもちいいの…」

ゆらゆらと揺れる自分の手を暗闇にあげ、男の肩越しに喘ぎながら眺める。
抱かれなれた体は、快楽を拾い上げつつも他所事を考える余裕をリオンに与えていた。

今日を生きるために、糧を得るために力を失ったリオンが選択したのは己の体を売ることだった。
今夜もリオンは知らない男に抱かれている。

ーどうして…お前は自分を傷つける選択をするんだ?ー

そうリオンに問うた男の顔を思い浮かべる。
普段ピクリとも動かない表情筋を珍しく動かして男は、悲し気な表情を浮かべていた。
罪悪感からだろう。
皆に捨てられたリオンを男は助けようとしてくれていた。
心に抱えた嫌悪感に蓋をして。
己の抱える感情が、自分に降りかかってくる世界。

リオンは、一人の除いてこの世界の人々が嫌いだ。
そのたった一人は、早々にこの世界から消えてしまう。
どんな選択をしても、彼は毒によって儚く消えてしまう。

もう世界は狂っている。
そうリオンは感じていた。
ただ、ただ、愛しいものが失い世界が壊れるのを待つ生。

世界全てが嫌いになった。
彼以外、すべてに嫌悪の感情しかない。
皆に嫌悪を感じている自分を、皆に好かれるとは思っていない。

だから、愛しい彼を殺した彼らがどんなにリオンに優しく愛そうとしてもその手を取ることはない。

誰にも愛されない選択。
…リオンはこの選択を繰り返していた。
一人になり、その日暮らしで知らない男たちに抱かれ終わりの日を待つ日々。
今日も、知らない男に自分の体を売る。

繰り返す生で、快楽を求めることを覚えた己の体。
それを鎮めるためにこの生活はリオンにはちょうどよかった。
いや…快楽に逃げる術を覚えたこの体をと言うべきだろうか。

愛しい彼を殺す男たちに抱かれるのはもう嫌だった。
知らない男たちに、抱かれる方がましだった。
愛しい彼を愛した自分を憎む騎士と国王に殺される方がましだと思っていた。

リオンは、繰り返しの生に疲れていた。
嫌いな世界を救おうなんて思わない。
今回も早々に、神の試練など放棄していた。

あとは、世界が終わるのを待つだけだ。

ひとしきり快楽をむさぼり男の欲を体に受ける。
腹の中に、感じる熱い欲とは反対に心は凍る一方だった。
満足げな男の吐息に、リオンはあでやかに笑って見せる。

嘘だ。
笑いたくなどなかった。
いや、笑いたかった。
ただ、男を誘う笑みではなく、あまりに愚かな自分の選択に声を上げて笑いたかった。

また、明日も来てね。
心にもないことを言って男を部屋から追い出した。

そうでなければ、泣き出しそうだった。
自分の選んだ選択肢だというのに。

体は、欲を鎮めて満足していた。
心は、狂ったように乱れていた。

いつになったらこの地獄は終わるのか。
僅かに残った神力で自らの体を清める。

おそらく、もう数日で消えてなくなるであろう力。

「次の生では…もう使えないかな……。」

繰り返す生の中、リオンはあることに気が付いていた。
自分の聖者としての能力の低下。
おそらくは、繰り返しの生の制限だろうとリオンは思っていた。
神力がなければ、そもそも自分が聖者になることはない。

ようやく終われる。
そうリオンは、信じることで自分を保っていた。

ふと、未だに愛しい彼を救おうと無駄な努力を繰り返す二人の男の顔を思い浮かべた。
愛しい彼を救うことすらあきらめた自分と違い、なんとかしようと未だに試しては失敗する。
飽きもせず絶望を繰り返す男たちを愚かだなと思いながらも、うらやましくも感じる。

彼から生を繰り返していることを完全に理解してるかどうかはリオンにはわからない。
だが、ある程度はわかっているのだろう。

「ばかだなぁ…。あのひとたち…。」

言葉を出してみても、罪悪感しか感じなかった。
風にあたりたくなって窓を開ける。
籠っていた隠微な空気の部屋に少し寒さを感じる風が入ってくる。
ふわりと風と共に金色の蝶がひらひらと部屋に入ってきた。

「な…なんで……」

金の蝶。
それは、愛しい少年が使っていた使い魔。
彼がいなくなって消えたはずのそれが、幻のようにひらりひらりと舞っている。

彼のものではない。
おそらく、彼を愛した男たちのもの。

この色の使い魔を使えるのは、二人。

狂王 ディオス。
騎士団長 ジークハルト。

未だに、愛しい彼を…ラスティを諦めていない男たち。
魔力から感じるのは、狂王のモノ。





その男の使い魔である蝶がひらりひらりとリオンの前を舞っていた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

処理中です...