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閑章 リオンside 蝶
閑話 05 知らない男 ※
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窓の外には赤や青の光がチカチカと瞬いている。
今日の糧を得るために、体を売る者のための安宿が乱立する場所。
リオンは、己に突き立てられた欲望の象徴を感じながらゆらゆらと揺れていた。
媚る声で自分を抱く男を煽る。
「はぁ…もっと…もっとうごいて…。」
リオンの願いの通りに荒い息を吐きつつ男はリオンを揺さぶる。
白い肢体を快楽のまま揺らしながらリオンは両手を男の方へと広げる。
男が己の胸に吸い付く感覚に声を上げる。
「ん…んぅ…ああ、いいよ…きもちいいの…」
ゆらゆらと揺れる自分の手を暗闇にあげ、男の肩越しに喘ぎながら眺める。
抱かれなれた体は、快楽を拾い上げつつも他所事を考える余裕をリオンに与えていた。
今日を生きるために、糧を得るために力を失ったリオンが選択したのは己の体を売ることだった。
今夜もリオンは知らない男に抱かれている。
ーどうして…お前は自分を傷つける選択をするんだ?ー
そうリオンに問うた男の顔を思い浮かべる。
普段ピクリとも動かない表情筋を珍しく動かして男は、悲し気な表情を浮かべていた。
罪悪感からだろう。
皆に捨てられたリオンを男は助けようとしてくれていた。
心に抱えた嫌悪感に蓋をして。
己の抱える感情が、自分に降りかかってくる世界。
リオンは、一人の除いてこの世界の人々が嫌いだ。
そのたった一人は、早々にこの世界から消えてしまう。
どんな選択をしても、彼は毒によって儚く消えてしまう。
もう世界は狂っている。
そうリオンは感じていた。
ただ、ただ、愛しいものが失い世界が壊れるのを待つ生。
世界全てが嫌いになった。
彼以外、すべてに嫌悪の感情しかない。
皆に嫌悪を感じている自分を、皆に好かれるとは思っていない。
だから、愛しい彼を殺した彼らがどんなにリオンに優しく愛そうとしてもその手を取ることはない。
誰にも愛されない選択。
…リオンはこの選択を繰り返していた。
一人になり、その日暮らしで知らない男たちに抱かれ終わりの日を待つ日々。
今日も、知らない男に自分の体を売る。
繰り返す生で、快楽を求めることを覚えた己の体。
それを鎮めるためにこの生活はリオンにはちょうどよかった。
いや…快楽に逃げる術を覚えたこの体をと言うべきだろうか。
愛しい彼を殺す男たちに抱かれるのはもう嫌だった。
知らない男たちに、抱かれる方がましだった。
愛しい彼を愛した自分を憎む騎士と国王に殺される方がましだと思っていた。
リオンは、繰り返しの生に疲れていた。
嫌いな世界を救おうなんて思わない。
今回も早々に、神の試練など放棄していた。
あとは、世界が終わるのを待つだけだ。
ひとしきり快楽をむさぼり男の欲を体に受ける。
腹の中に、感じる熱い欲とは反対に心は凍る一方だった。
満足げな男の吐息に、リオンはあでやかに笑って見せる。
嘘だ。
笑いたくなどなかった。
いや、笑いたかった。
ただ、男を誘う笑みではなく、あまりに愚かな自分の選択に声を上げて笑いたかった。
また、明日も来てね。
心にもないことを言って男を部屋から追い出した。
そうでなければ、泣き出しそうだった。
自分の選んだ選択肢だというのに。
体は、欲を鎮めて満足していた。
心は、狂ったように乱れていた。
いつになったらこの地獄は終わるのか。
僅かに残った神力で自らの体を清める。
おそらく、もう数日で消えてなくなるであろう力。
「次の生では…もう使えないかな……。」
繰り返す生の中、リオンはあることに気が付いていた。
自分の聖者としての能力の低下。
おそらくは、繰り返しの生の制限だろうとリオンは思っていた。
神力がなければ、そもそも自分が聖者になることはない。
ようやく終われる。
そうリオンは、信じることで自分を保っていた。
ふと、未だに愛しい彼を救おうと無駄な努力を繰り返す二人の男の顔を思い浮かべた。
愛しい彼を救うことすらあきらめた自分と違い、なんとかしようと未だに試しては失敗する。
飽きもせず絶望を繰り返す男たちを愚かだなと思いながらも、うらやましくも感じる。
彼から生を繰り返していることを完全に理解してるかどうかはリオンにはわからない。
だが、ある程度はわかっているのだろう。
「ばかだなぁ…。あのひとたち…。」
言葉を出してみても、罪悪感しか感じなかった。
風にあたりたくなって窓を開ける。
籠っていた隠微な空気の部屋に少し寒さを感じる風が入ってくる。
ふわりと風と共に金色の蝶がひらひらと部屋に入ってきた。
「な…なんで……」
金の蝶。
それは、愛しい少年が使っていた使い魔。
彼がいなくなって消えたはずのそれが、幻のようにひらりひらりと舞っている。
彼のものではない。
おそらく、彼を愛した男たちのもの。
この色の使い魔を使えるのは、二人。
狂王 ディオス。
騎士団長 ジークハルト。
未だに、愛しい彼を…ラスティを諦めていない男たち。
魔力から感じるのは、狂王のモノ。
その男の使い魔である蝶がひらりひらりとリオンの前を舞っていた。
今日の糧を得るために、体を売る者のための安宿が乱立する場所。
リオンは、己に突き立てられた欲望の象徴を感じながらゆらゆらと揺れていた。
媚る声で自分を抱く男を煽る。
「はぁ…もっと…もっとうごいて…。」
リオンの願いの通りに荒い息を吐きつつ男はリオンを揺さぶる。
白い肢体を快楽のまま揺らしながらリオンは両手を男の方へと広げる。
男が己の胸に吸い付く感覚に声を上げる。
「ん…んぅ…ああ、いいよ…きもちいいの…」
ゆらゆらと揺れる自分の手を暗闇にあげ、男の肩越しに喘ぎながら眺める。
抱かれなれた体は、快楽を拾い上げつつも他所事を考える余裕をリオンに与えていた。
今日を生きるために、糧を得るために力を失ったリオンが選択したのは己の体を売ることだった。
今夜もリオンは知らない男に抱かれている。
ーどうして…お前は自分を傷つける選択をするんだ?ー
そうリオンに問うた男の顔を思い浮かべる。
普段ピクリとも動かない表情筋を珍しく動かして男は、悲し気な表情を浮かべていた。
罪悪感からだろう。
皆に捨てられたリオンを男は助けようとしてくれていた。
心に抱えた嫌悪感に蓋をして。
己の抱える感情が、自分に降りかかってくる世界。
リオンは、一人の除いてこの世界の人々が嫌いだ。
そのたった一人は、早々にこの世界から消えてしまう。
どんな選択をしても、彼は毒によって儚く消えてしまう。
もう世界は狂っている。
そうリオンは感じていた。
ただ、ただ、愛しいものが失い世界が壊れるのを待つ生。
世界全てが嫌いになった。
彼以外、すべてに嫌悪の感情しかない。
皆に嫌悪を感じている自分を、皆に好かれるとは思っていない。
だから、愛しい彼を殺した彼らがどんなにリオンに優しく愛そうとしてもその手を取ることはない。
誰にも愛されない選択。
…リオンはこの選択を繰り返していた。
一人になり、その日暮らしで知らない男たちに抱かれ終わりの日を待つ日々。
今日も、知らない男に自分の体を売る。
繰り返す生で、快楽を求めることを覚えた己の体。
それを鎮めるためにこの生活はリオンにはちょうどよかった。
いや…快楽に逃げる術を覚えたこの体をと言うべきだろうか。
愛しい彼を殺す男たちに抱かれるのはもう嫌だった。
知らない男たちに、抱かれる方がましだった。
愛しい彼を愛した自分を憎む騎士と国王に殺される方がましだと思っていた。
リオンは、繰り返しの生に疲れていた。
嫌いな世界を救おうなんて思わない。
今回も早々に、神の試練など放棄していた。
あとは、世界が終わるのを待つだけだ。
ひとしきり快楽をむさぼり男の欲を体に受ける。
腹の中に、感じる熱い欲とは反対に心は凍る一方だった。
満足げな男の吐息に、リオンはあでやかに笑って見せる。
嘘だ。
笑いたくなどなかった。
いや、笑いたかった。
ただ、男を誘う笑みではなく、あまりに愚かな自分の選択に声を上げて笑いたかった。
また、明日も来てね。
心にもないことを言って男を部屋から追い出した。
そうでなければ、泣き出しそうだった。
自分の選んだ選択肢だというのに。
体は、欲を鎮めて満足していた。
心は、狂ったように乱れていた。
いつになったらこの地獄は終わるのか。
僅かに残った神力で自らの体を清める。
おそらく、もう数日で消えてなくなるであろう力。
「次の生では…もう使えないかな……。」
繰り返す生の中、リオンはあることに気が付いていた。
自分の聖者としての能力の低下。
おそらくは、繰り返しの生の制限だろうとリオンは思っていた。
神力がなければ、そもそも自分が聖者になることはない。
ようやく終われる。
そうリオンは、信じることで自分を保っていた。
ふと、未だに愛しい彼を救おうと無駄な努力を繰り返す二人の男の顔を思い浮かべた。
愛しい彼を救うことすらあきらめた自分と違い、なんとかしようと未だに試しては失敗する。
飽きもせず絶望を繰り返す男たちを愚かだなと思いながらも、うらやましくも感じる。
彼から生を繰り返していることを完全に理解してるかどうかはリオンにはわからない。
だが、ある程度はわかっているのだろう。
「ばかだなぁ…。あのひとたち…。」
言葉を出してみても、罪悪感しか感じなかった。
風にあたりたくなって窓を開ける。
籠っていた隠微な空気の部屋に少し寒さを感じる風が入ってくる。
ふわりと風と共に金色の蝶がひらひらと部屋に入ってきた。
「な…なんで……」
金の蝶。
それは、愛しい少年が使っていた使い魔。
彼がいなくなって消えたはずのそれが、幻のようにひらりひらりと舞っている。
彼のものではない。
おそらく、彼を愛した男たちのもの。
この色の使い魔を使えるのは、二人。
狂王 ディオス。
騎士団長 ジークハルト。
未だに、愛しい彼を…ラスティを諦めていない男たち。
魔力から感じるのは、狂王のモノ。
その男の使い魔である蝶がひらりひらりとリオンの前を舞っていた。
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