上 下
57 / 233
第三章 学園生活の始まり

53 陛下の悪戯

しおりを挟む
陛下は僕の下腹あたりで円を描く。
くすぐったいと笑う僕に楽しそうに目を細めた。

「ふふ…まだまだ小さいねぇ~。」

陛下は、楽し気に目を細める。
くるくると下腹に円を描く陛下にくすぐったいと笑いながら抗議する。
陛下はうんうんと頷いているけどやめる気配がない。
すごく楽しそうだ。

「も…へ…いかぁ…くふふ…やめ…」

流石に陛下を蹴るわけにもいかず、ぱたぱたと足を動かす。
けれども、陛下にはわずかな抵抗だろう。
すごく楽しそうな陛下に困ってしまう。

仕事のストレス溜まっているだろう。
僕で遊んでいるだけだ。

とはいっても僕で遊ばないでほしい。

「も~くふふぅ~……んぅ~」

くすぐったいと手もぱたぱたしてみるが効果なし。
このままだとノルンとジークハルトが帰るまでこのまま遊ばれるのだろうか。

それはちょっときついかもしれない。
そんなことを思っていると陛下の手が止まった。

流石にそこまではしなかったかと内心苦笑する。
背中にソファのふわふわの感覚を感じながら息を整えていると陛下がまた下腹に円を描く。
またか…と思ったが一回だけで陛下は、口を開いた。

「紋章が、このあたりに移動するんだよ。」

もしや…さっそくの教育でしょうか。
このままだと僕のほうが子供産むことになるよなぁ。
などと思っていると陛下は苦笑している。

「ねぇ…ラスティは危機感とか無いのかな?」

陛下に危機を感じろと言うことでしょうか?と僕は首を傾げた。
目を丸くする陛下に言う。

「僕は陛下の妃でしょう?陛下は僕がいらなくなりました?」

陛下が本気で僕に何かしようとしたら、僕は止めれない。
実力差がどれだけあると思うんだ。
陛下は顔をゆがめるとため息をついた。
いらなくなるはずないでしょ?と。

「そこまで信用されると…ちょっと…からかおうとした私の良心が痛むんだが…」

まいったなぁと陛下は、またくるりと僕の下腹に円を描く。
くすぐったいですと抗議する僕にうんと陛下は頷いた。

「ここにね…いつか受け入れてくれたらいいなと思うけど…嫌なら本当に言ってほしい。」

陛下の暖かい大きな手が僕の下腹を覆う。

「ここに…私を受け入れてくれたら…赤ちゃんができるんだ。」

僕の体はまだまだ小さいなぁと陛下の手の大きさを感じて改めて思う。

「もう少ししたら…きちんと方法も教えないとだね…でも…ごめんね…まだ…子供でいてほしいかな。」

陛下は寂しそうに微笑みながら僕の服を整えている。

違和感。
そう違和感だ。
陛下は、何かと比べながら言葉を紡いでいる。
といった陛下は誰と比べているのか。

もしかしたら、陛下自身と?
おそらくすぐにでも教育されそうな、ジークハルトという可能性もある。
王族は早々に色々教育されるから、子供時代は短いだろう。

けど…何か違うと思う。

「……君の意思で…決めてほしい。」

陛下の眼が僕ではない何かを見ている。
そんな風に感じた。

「そう…君の意思で。」

陛下の瞳に暗い影がよぎる。

「私のものになるかどうか…。」

何かを思い出しているような陛下に心臓が跳ねた。
もしかしたら…あの時のこと?
本当に陛下は、繰り返しの世界のことをわかっている?

知っているから王妃にしたのだろうか。
僕が、王子だと死んでしまうから?

でも、僕はそのことを口にしようとしてやめた。

もし、そうだとして…陛下が僕がそのことを覚えていると知ったら…。

僕が覚えていると知って陛下は喜ぶかな。

僕がエスターに言われるがままに毒を飲んでいたことを?
ふらふら出歩いて冒険者に殺されたことを?
薬の所為だとしても…僕を助けるためでも…自我の無い僕を抱いていたことを?

そんなことを僕が覚えていると知って陛下は喜ぶだろうか。
僕だったら嫌だな。
陛下が覚えていたとしても…僕には覚えていてほしくないと思う。
僕も陛下に覚えていてほしくない。

それに、今の言葉に当てはまる人は、過去の僕とは別に、陛下の周りには、二人いる。
僕の知っている範囲だけど。

一人は、陛下の前の王妃様。
彼は、自分の意思で陛下の妻になったわけではない。

政略結婚でうまく行っていないわけだし。
陛下は、自分の子供でないエスターを育てることになった。

もう一人は陛下の弟君。
自分の意思と言えない政略結婚の末に亡くなった。

陛下の家族。
暗い瞳の陛下を思い出す。

あの時の陛下と今の陛下は同じ瞳の色だ。
そんな瞳をさせる人は僕は陛下の弟君の話の時くらいしか見ていないと思う。
たまに暗い瞳を見せるときはあるけど…ここまで暗い瞳の陛下を見たのはあの時だろう。

そうか…たぶん…弟君のことを陛下は思い出したんだ。

僕は、起き上がると陛下の膝の上に収まった。
陛下は首をかしげつつ僕の行動を見守っていた。

「陛下」

僕は陛下を呼ぶと自分の口を陛下の口に押し付ける。
軽くだけども。
陛下は目を丸くした。

「違いました?」

かわいらしく首をかしげて何も知らないふりをする。
このくらいの反撃をしてもいいよね。
陛下は、苦笑すると僕の頭を撫でた。

「ラスティ…それは別の人にしないこと。パートナー同士しかしてはダメだからね?」




はいと頷きつつ、僕は陛下大好きと笑顔を向ける。
僕の陛下への好きという感情は家族…なのかなと少し疑問に持ったけど…。
陛下がまだ子供でいいというから見ないことにした。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

まだ、言えない

怜虎
BL
学生×芸能系、ストーリーメインのソフトBL XXXXXXXXX あらすじ 高校3年、クラスでもグループが固まりつつある梅雨の時期。まだクラスに馴染みきれない人見知りの吉澤蛍(よしざわけい)と、クラスメイトの雨野秋良(あまのあきら)。 “TRAP” というアーティストがきっかけで仲良くなった彼の狙いは別にあった。 吉澤蛍を中心に、恋が、才能が動き出す。 「まだ、言えない」気持ちが交差する。 “全てを打ち明けられるのは、いつになるだろうか” 注1:本作品はBLに分類される作品です。苦手な方はご遠慮くださいm(_ _)m 注2:ソフトな表現、ストーリーメインです。苦手な方は⋯ (省略)

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。 第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?

「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。 王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り 更新頻度=適当

処理中です...