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第二章 運命を壊す方法
41 茶器
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僕は、もう一度彼の入れてくれたお茶を見る。
見ただけでは、僕はわからない。
宰相など離れていた。
何が、彼を怒らせたのか…。
いや…ノルンやマール、ジークハルトもわかっているようだ。
きょとんとしている僕を見て魔術師長がため息をついた。
彼もわかっていないようだ。
「何が、どうしたんだ?」
魔術師長の言葉に宰相は、トリスティの胸倉をつかんだまま低く呟いた。
「茶器ですよ。これは現在私が研究中のものです。」
宰相がある目的で作成しているという。
これは、少々思ったような反応でなかったが、デザインを陛下が気に入って引き取っていったものだという。
普通の茶器につかっても問題ない。
それに反応が、気に入らないだけで性能は合格ラインだったと宰相が言う。
「あの…なんでしょう?その研究とは。」
宰相は、少し戸惑った。
何か反応しているのだろうかと僕は眺めるが、どこに反応がでているかわからない。
ノルンがすっと茶器を持ち上げた。
そこでわかった。
茶器の半分。
お茶の入っている部分が紫に変色している。
「…紫は自然毒です。」
そう、宰相は言う。
毒に反応して色が変わる茶器か。
僕はなる程とそれを眺める。
「毒……」
ノルンは、茶器を小さなトレイにのせて宰相を見る。
「………調べても良いですか?」
宰相は、一瞬戸惑った。
自分の息子が妃に毒を盛った。
王家に対する殺人未遂。
幼いと言ってもトリスティが罪を逃れることは出来ないだろう。
家を取り潰されても文句は言えない。
ノルンが彼に声をかけたのは、この場でこのお茶を調べる命令の権限をもっているのは宰相だからだ。
彼が、そのお茶を捨てろと言えば証拠はなくなる。
宰相は、うなずいた。
「ああ…調べてくれ……。」
しぼりだすような彼の声にトリスティが自分がやったことの重大さに顔を青くした。
ノルンが人を呼ぼうとしたのを、僕は止めた。
「へぇ…すごいですね。毒物を検出するということですか…どうなっているのですか?」
宰相が目を丸くする。
ここでトリスティを罰して逆恨みされるのも危険だなと思う。
それに、宰相はこんな茶器を開発して自ら罪を背負っても王家への忠誠を見せた。
罰するのは、惜しい。
宰相の命令をなかったことに出来るのは、僕しかこの場にはいない。
僕はそれを見ていただけで飲もうとはまだしていなかったのだから。
「少し、毒を入れた茶器を黙って出されたのは、どうかと思いますけれど…僕を驚かせようとしただけでしょう?そこはいたずらっ子ですねと怒っても良いと思いますけど…それだけです。その茶器の性能を見せたかっただけですよね?」
僕は、にこにこと宰相に笑顔を向ける。
「ラスティ様!!!これは…。」
そういうことではないと宰相は僕に説明しようとする。
分かっていないと思われたのだろう。
「今回は、それでよしとしませんか?結局は貴方の研究で僕は何事も無かった…貴方のおかげです。そして貴方の選択も見ました。陛下にとって優秀な貴方は必要だと僕は知りました。トリスティ様は、まだまだこれからの方です…僕は、心が狭いので…暴言を一回、悪戯を一回まで許します。もちろん…二度目はありませんから、そこはトリスティ様の今後の働きで挽回してもらえばいい。」
今回はそれでよいでしょう?
そう僕は宰相に微笑む。
宰相は、トリスティを離した。
僕の前にひざまずき手を取られる。
「ラスティ様の慈悲に…私の忠誠をささげましょう…この御恩は必ず……。」
僕は宰相の手を両手で包む。
にっこりと陛下に天使の笑顔と言われる笑顔を宰相に向けた。
「今、言いましたよ?貴方のおかげで僕は何事もありませんでした。お礼を言うのは僕の方です。」
ゲホゲホとせき込んでいるトリスティを見て僕はマールの名を呼んだ。
マールは肩をすくめるとトリスティの所に行って背をなで始める。
「ほんとは嫌だけど…ラスティ様が言うから…ほら…ちょっと見せて。服のボタンも取れてるし…座り込んだ時にすりむいてるでしょ?手当てするから。」
マールの言葉にトリスティはかまうなと短く言った。
「トリスティ様、そのような状態でこの部屋を出られるわけにはいかないのです。ここは僕の顔をつぶさないために我慢してください。」
トリスティは、ぐっと言葉を飲み込んでマールの世話を受け始める。
「ラスティ様…」
宰相が、何故か感激したような表情で僕を跪いたまま見上げている。
ジークハルトが、横でため息をついた。
「宰相…一応陛下には報告します…母上…だから父上と私は反対したのですよ。分かってもらえましたか?」
ジークハルトの言葉に、宰相は頷き、成り行きを見守っていた魔術師長は、にやりと笑った。
「ああ、よくわかった。それと…ラスティ様を、ぜひ私の息子にしたくなった。ジークハルト、早く陛下からラスティ様を奪ってくれよ。」
魔術師長の言葉に、ジークハルトは苦笑する。
「奪いませんよ。俺は陛下とラスティ様を幸せにするんです。」
見ただけでは、僕はわからない。
宰相など離れていた。
何が、彼を怒らせたのか…。
いや…ノルンやマール、ジークハルトもわかっているようだ。
きょとんとしている僕を見て魔術師長がため息をついた。
彼もわかっていないようだ。
「何が、どうしたんだ?」
魔術師長の言葉に宰相は、トリスティの胸倉をつかんだまま低く呟いた。
「茶器ですよ。これは現在私が研究中のものです。」
宰相がある目的で作成しているという。
これは、少々思ったような反応でなかったが、デザインを陛下が気に入って引き取っていったものだという。
普通の茶器につかっても問題ない。
それに反応が、気に入らないだけで性能は合格ラインだったと宰相が言う。
「あの…なんでしょう?その研究とは。」
宰相は、少し戸惑った。
何か反応しているのだろうかと僕は眺めるが、どこに反応がでているかわからない。
ノルンがすっと茶器を持ち上げた。
そこでわかった。
茶器の半分。
お茶の入っている部分が紫に変色している。
「…紫は自然毒です。」
そう、宰相は言う。
毒に反応して色が変わる茶器か。
僕はなる程とそれを眺める。
「毒……」
ノルンは、茶器を小さなトレイにのせて宰相を見る。
「………調べても良いですか?」
宰相は、一瞬戸惑った。
自分の息子が妃に毒を盛った。
王家に対する殺人未遂。
幼いと言ってもトリスティが罪を逃れることは出来ないだろう。
家を取り潰されても文句は言えない。
ノルンが彼に声をかけたのは、この場でこのお茶を調べる命令の権限をもっているのは宰相だからだ。
彼が、そのお茶を捨てろと言えば証拠はなくなる。
宰相は、うなずいた。
「ああ…調べてくれ……。」
しぼりだすような彼の声にトリスティが自分がやったことの重大さに顔を青くした。
ノルンが人を呼ぼうとしたのを、僕は止めた。
「へぇ…すごいですね。毒物を検出するということですか…どうなっているのですか?」
宰相が目を丸くする。
ここでトリスティを罰して逆恨みされるのも危険だなと思う。
それに、宰相はこんな茶器を開発して自ら罪を背負っても王家への忠誠を見せた。
罰するのは、惜しい。
宰相の命令をなかったことに出来るのは、僕しかこの場にはいない。
僕はそれを見ていただけで飲もうとはまだしていなかったのだから。
「少し、毒を入れた茶器を黙って出されたのは、どうかと思いますけれど…僕を驚かせようとしただけでしょう?そこはいたずらっ子ですねと怒っても良いと思いますけど…それだけです。その茶器の性能を見せたかっただけですよね?」
僕は、にこにこと宰相に笑顔を向ける。
「ラスティ様!!!これは…。」
そういうことではないと宰相は僕に説明しようとする。
分かっていないと思われたのだろう。
「今回は、それでよしとしませんか?結局は貴方の研究で僕は何事も無かった…貴方のおかげです。そして貴方の選択も見ました。陛下にとって優秀な貴方は必要だと僕は知りました。トリスティ様は、まだまだこれからの方です…僕は、心が狭いので…暴言を一回、悪戯を一回まで許します。もちろん…二度目はありませんから、そこはトリスティ様の今後の働きで挽回してもらえばいい。」
今回はそれでよいでしょう?
そう僕は宰相に微笑む。
宰相は、トリスティを離した。
僕の前にひざまずき手を取られる。
「ラスティ様の慈悲に…私の忠誠をささげましょう…この御恩は必ず……。」
僕は宰相の手を両手で包む。
にっこりと陛下に天使の笑顔と言われる笑顔を宰相に向けた。
「今、言いましたよ?貴方のおかげで僕は何事もありませんでした。お礼を言うのは僕の方です。」
ゲホゲホとせき込んでいるトリスティを見て僕はマールの名を呼んだ。
マールは肩をすくめるとトリスティの所に行って背をなで始める。
「ほんとは嫌だけど…ラスティ様が言うから…ほら…ちょっと見せて。服のボタンも取れてるし…座り込んだ時にすりむいてるでしょ?手当てするから。」
マールの言葉にトリスティはかまうなと短く言った。
「トリスティ様、そのような状態でこの部屋を出られるわけにはいかないのです。ここは僕の顔をつぶさないために我慢してください。」
トリスティは、ぐっと言葉を飲み込んでマールの世話を受け始める。
「ラスティ様…」
宰相が、何故か感激したような表情で僕を跪いたまま見上げている。
ジークハルトが、横でため息をついた。
「宰相…一応陛下には報告します…母上…だから父上と私は反対したのですよ。分かってもらえましたか?」
ジークハルトの言葉に、宰相は頷き、成り行きを見守っていた魔術師長は、にやりと笑った。
「ああ、よくわかった。それと…ラスティ様を、ぜひ私の息子にしたくなった。ジークハルト、早く陛下からラスティ様を奪ってくれよ。」
魔術師長の言葉に、ジークハルトは苦笑する。
「奪いませんよ。俺は陛下とラスティ様を幸せにするんです。」
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