不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

文字の大きさ
上 下
43 / 233
第二章 運命を壊す方法

41 茶器

しおりを挟む
僕は、もう一度彼の入れてくれたお茶を見る。
見ただけでは、僕はわからない。
宰相など離れていた。
何が、彼を怒らせたのか…。
いや…ノルンやマール、ジークハルトもわかっているようだ。

きょとんとしている僕を見て魔術師長がため息をついた。
彼もわかっていないようだ。

「何が、どうしたんだ?」

魔術師長の言葉に宰相は、トリスティの胸倉をつかんだまま低く呟いた。

「茶器ですよ。これは現在私が研究中のものです。」

宰相がある目的で作成しているという。
これは、少々思ったような反応でなかったが、デザインを陛下が気に入って引き取っていったものだという。
普通の茶器につかっても問題ない。
それに反応が、気に入らないだけで性能は合格ラインだったと宰相が言う。

「あの…なんでしょう?その研究とは。」

宰相は、少し戸惑った。
何か反応しているのだろうかと僕は眺めるが、どこに反応がでているかわからない。

ノルンがすっと茶器を持ち上げた。
そこでわかった。
茶器の半分。
お茶の入っている部分が紫に変色している。

「…紫は自然毒です。」

そう、宰相は言う。
毒に反応して色が変わる茶器か。
僕はなる程とそれを眺める。

「毒……」

ノルンは、茶器を小さなトレイにのせて宰相を見る。

「………調べても良いですか?」

宰相は、一瞬戸惑った。
自分の息子が妃に毒を盛った。

王家に対する殺人未遂。
幼いと言ってもトリスティが罪を逃れることは出来ないだろう。

家を取り潰されても文句は言えない。

ノルンが彼に声をかけたのは、この場でこのお茶を調べる命令の権限をもっているのは宰相だからだ。
彼が、そのお茶を捨てろと言えば証拠はなくなる。
宰相は、うなずいた。

「ああ…調べてくれ……。」

しぼりだすような彼の声にトリスティが自分がやったことの重大さに顔を青くした。
ノルンが人を呼ぼうとしたのを、僕は止めた。

「へぇ…すごいですね。毒物を検出するということですか…どうなっているのですか?」

宰相が目を丸くする。
ここでトリスティを罰して逆恨みされるのも危険だなと思う。
それに、宰相はこんな茶器を開発して自ら罪を背負っても王家への忠誠を見せた。

罰するのは、惜しい。

宰相の命令をなかったことに出来るのは、僕しかこの場にはいない。
僕はそれを見ていただけで飲もうとはまだしていなかったのだから。

「少し、毒を入れた茶器を黙って出されたのは、どうかと思いますけれど…僕を驚かせようとしただけでしょう?そこはいたずらっ子ですねと怒っても良いと思いますけど…それだけです。その茶器の性能を見せたかっただけですよね?」

僕は、にこにこと宰相に笑顔を向ける。

「ラスティ様!!!これは…。」

そういうことではないと宰相は僕に説明しようとする。
分かっていないと思われたのだろう。

「今回は、それでよしとしませんか?結局は貴方の研究で僕は何事も無かった…貴方のおかげです。そして貴方の選択も見ました。陛下にとって優秀な貴方は必要だと僕は知りました。トリスティ様は、まだまだこれからの方です…僕は、心が狭いので…暴言を一回、悪戯を一回まで許します。もちろん…二度目はありませんから、そこはトリスティ様の今後の働きで挽回してもらえばいい。」

今回はそれでよいでしょう?
そう僕は宰相に微笑む。
宰相は、トリスティを離した。
僕の前にひざまずき手を取られる。

「ラスティ様の慈悲に…私の忠誠をささげましょう…この御恩は必ず……。」

僕は宰相の手を両手で包む。
にっこりと陛下に天使の笑顔と言われる笑顔を宰相に向けた。

「今、言いましたよ?貴方のおかげで僕は何事もありませんでした。お礼を言うのは僕の方です。」

ゲホゲホとせき込んでいるトリスティを見て僕はマールの名を呼んだ。
マールは肩をすくめるとトリスティの所に行って背をなで始める。

「ほんとは嫌だけど…ラスティ様が言うから…ほら…ちょっと見せて。服のボタンも取れてるし…座り込んだ時にすりむいてるでしょ?手当てするから。」

マールの言葉にトリスティはかまうなと短く言った。

「トリスティ様、そのような状態でこの部屋を出られるわけにはいかないのです。ここは僕の顔をつぶさないために我慢してください。」

トリスティは、ぐっと言葉を飲み込んでマールの世話を受け始める。

「ラスティ様…」

宰相が、何故か感激したような表情で僕を跪いたまま見上げている。
ジークハルトが、横でため息をついた。

「宰相…一応陛下には報告します…母上…だから父上と私は反対したのですよ。分かってもらえましたか?」

ジークハルトの言葉に、宰相は頷き、成り行きを見守っていた魔術師長は、にやりと笑った。

「ああ、よくわかった。それと…ラスティ様を、ぜひ私の息子にしたくなった。ジークハルト、早く陛下からラスティ様を奪ってくれよ。」

魔術師長の言葉に、ジークハルトは苦笑する。






「奪いませんよ。俺は陛下とラスティ様を幸せにするんです。」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

処理中です...