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第一章 終わりと始まり
25 陛下の後悔
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「弟は教会の決定である国に嫁ぐことになったんだ。」
突然それは告げられたことだった。
前国王陛下もそれを断ろうとはしたらしい。
だが、弟君をほしいと言った国は強大な国だった。
近隣諸国を攻め落として、この世界で一番の大国と言っていい国だったという。
弟君は、教会の決定に従った。
皆のために。
その時は教会は、その国に依存していた。
教会に逆らえば、それを口実に国に攻めてくるのはわかり切ったことだった。
「まだ14だったんだ。」
まだ子供だった弟君は、嫁いでからは後宮に入ったという。
弟君のパートナーとなった王は、子供の弟君には興味はなかった。
パートナーとして、嫁いだが結局は人質のような扱いだった。
弟君は後宮で閉じ込められるような形で過ごしていたという。
「弟が嫁いで少し経った時だった…パートナーとなった男を弟が殺そうとして返り討ちにされたと言われたんだ。」
淡々と陛下は僕に囁くように話す。
感情が抜け落ちたような冷静な声。
弟君は、パートナーになった王を殺そうとして、逆に殺されたという。
だが…嘘だとすぐにわかることだった。
本当に弟君が王を殺そうとしたならば、魔法を使っていただろう。
弟君は、魔力でならばかなりの実力の持ち主だったのだっから。
それに、そういう王だった。
分かっていたことだ。
いくつもの国から王族を嫁がせて、パートナーになった者を殺しては、それを攻める理由にしてきた。
そうやって国を大きくしていった王だった。
弟君が嫁いだのは…時間稼ぎだった。
彼の稼いでくれた時間で、前王は戦の準備を整えられた。
間に合わなかった。
そう陛下は言った。
そういう王だとわかっていた。
だから、弟君が殺される前に取り返すつもりだった。
そのために、戦う準備を行っていた。
だから…勝てた。
そう陛下は言う。
「私が、前の戦いで戦果を挙げたのは…ただの私怨だ。」
弟の仇だったから。
そう陛下は言う。
まるで取り付かれたように、たくさんの人を殺したと。
憎しみに取りつかれたように。
戦の理由にするためだけに弟を殺したその王を…わかっていて差し出すしかなかった自分たちの不甲斐なさを…その怒りのまま、暴れて…王を殺しただけだと陛下は言う。
「教会は、戦いに勝った途端に…王に脅されたんだと言ってすり寄ってきたよ。」
だから保護してほしいと、前王に申し出てきた。
弟を無理やりに近い形で、残酷な王に嫁がせた教会。
前王は、それでも教会を受け入れた。
ただ…前王はそこまでで限界だった。
前王は陛下に王位を渡して一貴族に戻り、辺境へと行ってしまった。
今は、小さな館にパートナーの前王妃と共に静かに暮らしている。
陛下は、前王はことのほか弟君を可愛がっていたから、守れなかったことがつらかったのだろうとつぶやいた。
それは陛下もなのだろう。
「私がこの国を議会制にしたのも教会の意見を聞きたくなかっただけだ。」
自分勝手だろう?と陛下は言う。
「エスターの母親は…その王の腹違いの兄弟でもある。」
元々は小さな国だった。
請われるままに生まれた金の瞳の王族を差し出しすように嫁がせていた時代があるのだと陛下は言う。
エスターの母親は、そうやって差し出された金の瞳を持つ王族の子だと。
悲劇を繰り返して繰り返して何がしたかったのだろうと陛下は深い息を吐いた。
「瞳の色が珍しいだけだ…そんな風に扱われて良いはずはなかったんだよ。みんな普通の人だったんだ。」
突然それは告げられたことだった。
前国王陛下もそれを断ろうとはしたらしい。
だが、弟君をほしいと言った国は強大な国だった。
近隣諸国を攻め落として、この世界で一番の大国と言っていい国だったという。
弟君は、教会の決定に従った。
皆のために。
その時は教会は、その国に依存していた。
教会に逆らえば、それを口実に国に攻めてくるのはわかり切ったことだった。
「まだ14だったんだ。」
まだ子供だった弟君は、嫁いでからは後宮に入ったという。
弟君のパートナーとなった王は、子供の弟君には興味はなかった。
パートナーとして、嫁いだが結局は人質のような扱いだった。
弟君は後宮で閉じ込められるような形で過ごしていたという。
「弟が嫁いで少し経った時だった…パートナーとなった男を弟が殺そうとして返り討ちにされたと言われたんだ。」
淡々と陛下は僕に囁くように話す。
感情が抜け落ちたような冷静な声。
弟君は、パートナーになった王を殺そうとして、逆に殺されたという。
だが…嘘だとすぐにわかることだった。
本当に弟君が王を殺そうとしたならば、魔法を使っていただろう。
弟君は、魔力でならばかなりの実力の持ち主だったのだっから。
それに、そういう王だった。
分かっていたことだ。
いくつもの国から王族を嫁がせて、パートナーになった者を殺しては、それを攻める理由にしてきた。
そうやって国を大きくしていった王だった。
弟君が嫁いだのは…時間稼ぎだった。
彼の稼いでくれた時間で、前王は戦の準備を整えられた。
間に合わなかった。
そう陛下は言った。
そういう王だとわかっていた。
だから、弟君が殺される前に取り返すつもりだった。
そのために、戦う準備を行っていた。
だから…勝てた。
そう陛下は言う。
「私が、前の戦いで戦果を挙げたのは…ただの私怨だ。」
弟の仇だったから。
そう陛下は言う。
まるで取り付かれたように、たくさんの人を殺したと。
憎しみに取りつかれたように。
戦の理由にするためだけに弟を殺したその王を…わかっていて差し出すしかなかった自分たちの不甲斐なさを…その怒りのまま、暴れて…王を殺しただけだと陛下は言う。
「教会は、戦いに勝った途端に…王に脅されたんだと言ってすり寄ってきたよ。」
だから保護してほしいと、前王に申し出てきた。
弟を無理やりに近い形で、残酷な王に嫁がせた教会。
前王は、それでも教会を受け入れた。
ただ…前王はそこまでで限界だった。
前王は陛下に王位を渡して一貴族に戻り、辺境へと行ってしまった。
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それは陛下もなのだろう。
「私がこの国を議会制にしたのも教会の意見を聞きたくなかっただけだ。」
自分勝手だろう?と陛下は言う。
「エスターの母親は…その王の腹違いの兄弟でもある。」
元々は小さな国だった。
請われるままに生まれた金の瞳の王族を差し出しすように嫁がせていた時代があるのだと陛下は言う。
エスターの母親は、そうやって差し出された金の瞳を持つ王族の子だと。
悲劇を繰り返して繰り返して何がしたかったのだろうと陛下は深い息を吐いた。
「瞳の色が珍しいだけだ…そんな風に扱われて良いはずはなかったんだよ。みんな普通の人だったんだ。」
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