不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第一章 終わりと始まり

27 幼馴染は明後日思考

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ジークハルトが、馬車に戻ってきた。
バルハルト公も同時に帰ってきたから、遠くから様子をうかがっていたようだ。

馬車はゆっくりと動き出した。

「一応、納得していただきました。」

ジークハルトは少し疲れているようだった。
途中で泣き出して大変だったとジークハルトは言った。
エスターは泣きながら教会の中に戻ったとジークハルトは言う。

そうなるだろうなとは思う。
前の生のエスターを思い出す。
彼は、僕を見下していたし、ジークハルトが、大嫌い。

エスターは王位継承権しか自分に価値が無いと思っていた。
いつ、ジークハルトに王位継承権を脅かされるかおびえて過ごしていた。

そのジークハルトが騎士団長になったことで、彼は自分の地位は安泰だと思っていた。

けどだ…。

前の生でもその傾向はあった。
エスターはたぶん気が付いていた。
でも、見ないふりをしていた。

大事な外交に陛下が連れて行くのは騎士団長のジークハルト。
王位継承権を持つはずのエスターは城にずっと居た。

別の国の来賓が来た時も、エスターは一応紹介されはするけれど、応対は主にジークハルトが行っていた。
誰が見たって分かることだ。

陛下の後継者はジークハルトだと。

エスターにとっては、僕を見下すことで自分の自尊心を支えていたのだろう。
ジークハルトが大切にしているとエスターは思っていただろう僕を。

努力すればエスターもいい線行くはずなんだけどな。
前まで生では僕の生きている間のエスターは最悪だった。

ジークハルトは、別に王の地位を望んでい居るわけではない。
いつだってエスターを支えると言っていたのに。
肝心のエスターが、どんどんダメになる一方だった。

心配そうなジークハルトはたぶん前も今も、その気持ちは変わっていないと思う。

今のエスターはどうするのだろう。
ここから這い上がるだろうか。
ダメになっていくのだろうか。

「陛下…よいのですか?」

このまま教会に置いておいても…とジークハルトは言う。
ジークハルトの問いかけに陛下は、ああと頷く。

「エスターがどうするか…見守るさ…あとは教会の出方も。」

そうなのだよなぁと思う。
そもそも教会は、金の瞳の一族の王族をよく思っていない。
そのために、エスターを手元に置いたのだ。

次代の王として。

でも、ジークハルトという候補者がいる。
今のままではエスターは望みが薄い。
教会はどうするだろう。
エスターを王にふさわしい者に育てる?

どうだろう…。
陛下に会うことすらまともに促せないのに?

他の王族を排除してエスターを王にと願う可能性だってある。
ジークハルトは確認のように再度陛下に問いかけた。

「エスター殿下を教会に置いていてよかったのでしょうか。」

ジークハルトの言葉に陛下は頷く。

「ああ…教会には正式に、エスターは私の血は引いていないと伝えている。あれを利用しようとした時点で国民にも公開することになっているよ。教会の上部にも影は居るからね。」

教会もそれを承知の上でエスターを引き取ったと陛下は言う。

「教会がエスターを王にするためには、ここにいる私たちを秘密裏に排除しないと無理だろうね。」

怖いかい?とジークハルトに陛下はにこにこと笑顔を見せた。
少し意地悪な笑顔だ。

「今なら王位継承権から降りれるよ?」

陛下の言葉にジークハルトは首を傾げた。

「降りたらラスティを頂く機会がなくなりますよね?」

陛下は苦笑した。
ジークハルトの行動の理由が僕だということに。
一体僕の何がジークハルトのツボにはまっているのだろう。

「君がエスター側について私を倒して奪うという手がある。」

ジークハルトは、呆れたようにため息をついた。

「私は陛下ごとラスティを幸せにする気なのでそれはできません。」

陛下は、少し呆れたような顔をしてジークハルトを見る。

「君ねぇ…こんなおじさんに何言ってるの。君の父と同い年だよ?」

ジークハルトは、首をかしげる。

「陛下は父よりかなりお若く見えますし、実際王家の年の取り方は普通のものとは違うでしょう。それこそ神の御業と言われているのでは?」

陛下は、血でいったら君の父親も濃さは同じくらいなんだがと陛下は頭を抱える。
それは僕は聞いたことがないなと、陛下を見る。

「おや?ラスティは知らないのか…うん…知らない方がいいかな…」

だが、ジークハルトは、にっこりと笑った。

「王族は、愛されると年の取り方が緩やかになると言われています。この中では、ラスティ様が一番ゆっくり年を取りそうですね?」

陛下と私の愛をいっぱい注がれてますからとジークハルトは満面の笑みをみせた。

え…やだよ。
子供のままとか。

ジークハルトの言葉を陛下は否定した。

「あくまで伝承でしょう。外見が若いって言うのは、童顔か老け顔が多いからではないかい?若い頃から顔があまり変化ないだけかも。中々体力とかが衰えない傾向は確かにあるけど、寿命が長いってわけではないからねぇ。愛されるって曖昧だろう?それだったら私と君の父親で言ったら君の母親と愛し合っているわけだから君の父親の方が若さを保っているはずだよ。」

陛下が、ちらちらと僕を見ながらジークハルトの言葉を否定した。

童顔って僕のことですね?陛下…。

ジークハルトは首をかしげる。

「父も母も、お互いより陛下を愛していると言い切っていますが……。できれば陛下を嫁に欲しいと。」

中々勝てないから、お前は頑張れと両親から応援されていますとジークハルトは握りこぶしを握っている。
陛下がなんとも言えない顔をした。

「あのバカどもは……ジークハルトが思考が明後日なのは、あいつらの所為かぁ???……」

陛下もどうやら、ジークハルトの思考が明後日の方向に向かっているは思っていたらしい。
うん…なんかまともなようで微妙にずれてるんだよなぁ。

「陛下に私は両親の分も愛をささげますね。」

とりあえず、頭をかかえる陛下の代わりに僕は口を開いた。

「…ジークハルト、僕と一緒にしっかり勉強しようね。」

うん。ジークハルトは軌道修正しないと大人になったらとんでもないことになりそうだ。
なんとなく、真面目なジークハルトをからかっている騎士団長と魔術師長のにやにや笑いが浮かんだ。


だめだぞ。
冗談を本気にしてジークハルトがとんでもないことになってる気がする。
今、軌道修正しないと陛下と僕が危険だ。


首をかしげながら、はいと頷くジークハルトに僕は引きつった笑いを返した。


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