不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第一章 終わりと始まり

24 陛下と教会

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僕と陛下は馬車に乗った。
まだ、バルハルト公は、帰ってきていない。
帰ってきていたとしても、ジークハルトを置いて帰ることはできない。
僕らは、馬車の中でジークハルトを待つことになった。

「ラスティ…少し退屈かもしれないけど…ごめんね。」

陛下は、少し落ち込んでいるようだった。

「だいじょうぶです。のんびりまちます。」

僕の返事に陛下は、少し楽し気に微笑んだ。
陛下の膝にのせられて、撫でられる。
もしかして僕ってば、陛下にとっては飼い猫とかそういう立場なのだろうか。

……まぁいっか。気持ちいいし。

僕は陛下の膝の上で、ジークハルトの様子を見ていた。
エスターは、馬車のほうを気にしながら話を聞いているようだった。
時折、下を向いて唇を噛みしめている。

やっぱり…悔しいのかな。

その悔しさをばねに真面目になったらいいのだけど。
僕はそんなことを思いながら教会の扉の方を見た。
扉の前に居たリオンはすでに教会の中に戻っているようで姿はない。
厳めしい顔の神官も姿がなかった。
老神官が一人、エスターの傍で話を一緒に聞いている。

ジークハルトは、二人を相手に背筋を伸ばして話をしてる。
しっかりしているよなぁと思う。

陛下は、じっと教会とは反対の街並みを見ていた。

「だめだなぁ…」

ぽつりと陛下はつぶやいた。

僕は陛下の方に目を向ける。

陛下は、街並みから目は外していない。
教会から目をそらしているようにも見えた。

見るのも嫌なのだろうか。

陛下は、無表情で街並みを見つめている。
感情の無い表情。
いや…感情が抜け落ちたような…そんな表情と言った方がいいのだろうか。

陛下はじっと街並みを見つめている。
僕もそちらに目を向けた。

真っ白な無機質な街並み。
大通りはあんなに温かみがあるのに。

ほんの少しの色の差なのに。

教会のある地区はどこか白すぎて落ち着かない。
白しか許さない。
どこか僕は拒絶されているように感じた。

常にない表情の抜け落ちた陛下が心配になる。

「陛下?」

なんとかしたくて、声をかけた。
けど…その後に言葉が続かない。

うんと、陛下は頷くと僕を抱きしめた。
陛下は、ラスティは暖かいねぇとつぶやく。
この町を陛下も無機質と感じたのだろうか。
拒絶されていると感じたのだろうか。

無表情だった表情は、今は悲し気に眉を寄せている。

「エスターが悪いわけではないんだ。」

と陛下はつぶやく。
僕に話しかけているようで、自分に言い聞かせているような言葉だった。
陛下は、少し考えていた。
僕に話していいことなのかどうか考えているようだった。

「私は、教会が嫌いなんだ。大切なものを奪う。」

ようやく、陛下は口を開く。
ここに来ると人の心など、どうでもいいと言っているように感じると陛下はつぶやいた。
ここに居たくないと陛下は、さらに言葉を続ける。
僕と同じようにことを思っていたのだなと思う。

でも…僕より陛下のほうが根深い何かを感じる。
僕を抱きしめる腕の力が今までより強いように感じた。
陛下は何かにおびえているようにも感じた。
僕を抱きしめる腕が、まるで縋り付いているようにも感じられた。

「陛下?何か…こわいことでもありますか?」

陛下は、はっとしたように僕を見た。
また、少し陛下は考えて長く息を吐いた。

「ラスティ…私に触ってくれるかい?」

はい?と思いつつも僕は陛下に抱き着いた。
たぶん、陛下は何かを怖がっている。
とても強い陛下が、何におびえているのだろう。
僕で少しでも慰めになるなら。
そう思って広い陛下の胸にもたれかかるように抱き着いていた。

「また…大切なものを…ラスティを…ジークを…奪われるように感じるんだ。」

それが怖いし、嫌いだと陛下は囁く。
エスターを奪われたと感じているのだろうか。
陛下は目を閉じた。

「ラスティは…暖かいな…うん…傍に…生きてくれている…」

一瞬心臓が跳ねた。

生きてくれている?

それはどういう意味?
もしかして陛下は、繰り返しの状態を知っている?

確認したほうがいいだろうかと思っていると陛下の手が僕を優しく撫でた。

「ラスティは…ラスティとジークは…守りたいと思うんだ。」

ゆっくりと陛下は目を開いて僕を見る。
陛下の眼に暗い光が宿っていた。

その瞳は僕を見ていなかった。
陛下はゆっくりと教会を見てまた目をそらす。

「教会の教えは知っているね。その教えの所為で金の瞳のものは王家から貴族や他国に嫁いでいった。」

僕しか今はいないが、本来は金の瞳の者はもっと居た。
金の瞳は何故かこの国に住んでいる王族の元にしか生まれない。

他国の王族や貴族、いや…他国だけではなく自国の貴族も。
よい子供を産むという金の瞳をもつものを欲しがった。
魔力の高い子が生まれる傾向があったからだ。

よい子供というのはそういう意味だったようだ。

僕のような末席の王族にも生まれるから昔は、たくさんいた。

「僕には弟がいたんだ。その子は金の瞳だった。ラスティは弟によく似ているよ。」

そう言いながら陛下は僕の頭をなでる。
僕は陛下の母に似ていると言った人も居たので弟君は母親似だったのだろう。

「2歳年下でね…とてもかわいい子だった。」

陛下は優しく微笑んで話してくれた。
可愛らしい弟君だったようだ。
読書が好きでおとなしい子だった。
けど、弱いわけではない。
魔力がとても高く、強かった。
それをおごることなく人々のために使っていた。

「とても…自慢の弟だったよ。」

陛下は、ゆっくりと言葉を吐いた。







「弟は…教会に殺されたんだ。」






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