あなたに聞いてほしい

チャコ

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4(シリウスside)

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  あのあとシリウス殿下への手紙を失礼のないように書き直して封筒に入れ、家令のハリーに託してベッドに横になった。
いつの間にか本格的に寝てしまったらしく目が覚めたのは夕方近くだった。
泳いだ後ってやたらと眠くなるのよね。と自分に言い訳しながらふとサイドテーブルを見ると綺麗に折られた便箋が目に入り、なにげに開いてみたらハリーに託したはずの手紙が......寝起きのぼんやりした頭が急速に覚醒していく。
確かに封筒に入れてハリーに託したはず......自分の仕出かしたミスに一瞬思考が止まる。


「ハリーーーーッ」




  コンコン

「入れ」

「失礼いたします。
シリウス殿下へソフィア.ロールデン侯爵令嬢様よりお手紙が届いております。」

「へー、意外。手紙なんか送りあってるいるんだ。世間が思っているより仲良くやっているみたいだな。」

と、兄で王太子のランスロットが行儀悪く机に置かれた手紙を摘まみ上げた。

「人の手紙を勝手に触らないでください。一応婚約者なのだから手紙のやり取りくらいはするでしょう。」

シリウスはランスロットから手紙を奪うとペーパーナイフで綺麗に開封していく。

「今朝のお見舞いへのお礼状でしょ。」

シリウスの休憩時間に合わせて遊びに来ていた従姉妹のマーガレットがすかさずただの礼儀的なものだと言う。

「お見舞いって......彼女、本当にあの池に飛び込んだの?」

「ええ、急に池に飛び込んだから私までボートから落ちそうになって本当にこわかったわ。」

と、自身を両手で抱きしめるようにしてぶるぶると震えてみせる。

「それにしてもドレスでよく岸までたどりつけたな。彼女、侯爵令嬢なのに泳げるのか?」

と、ランスロットがシリウスに視線を向けると、

「っ!!」

そこにはあまり感情を表に出さないシリウスが耳を赤く染めて笑いを堪えている姿があった。

「プッ......あっははは......」

「シリウス......」
「シリウスお兄様!」

ランスロットとマーガレットの声が重なるがシリウスはソフィアからの手紙を握りしめてただただ肩を震わせて笑いつづけている。

「シリウスの婚約者殿はすごいな。あのシリウスを手紙で笑わせるなんて。」

「あら、シリウスお兄様は私とお茶をする時もいつも笑っていま......」

負けず嫌いなマーガレットがすかさず言ったところでシリウスの笑い声に尻すぼみになっていく。

  ひとしきり笑ったところで手紙を丁寧に封筒にもどすもその日のシリウスは誰の目から見ても機嫌がいいように見えた。
ただその理由が絶世の美女といわれた王妹を母にもち、母親以上の美貌といわれる従姉妹マーガレットとのお茶会のせいだと誰もがそう認識していた。


  その夜シリウスはベッドに横になるもなかなか寝付けづ、窓際に腰掛けて夜空を見上げる。
満点の星空を見ながら高揚している気持ちを自覚する。
婚約はしていたものの領地で過ごしている婚約者とは婚約時に一度あっただけで、婚約者ではあったが学園の同級生達よりも遠い存在に感じていた。
しかし、昨日の王妃主催のお茶会でボートから池に飛び込みドレス姿で岸まで泳ぎきったと聞いた時、なんと変わった令嬢だろうと思った。飛び込んだ理由が知りたい!がそういう気持ちはおくびにも出さず、お見舞いの花と形式的なカードを送った。
しかし、今日もらった返信は侯爵令嬢が書いたものとは思えないくらい自由すぎで、楽しく、愉快で笑いがとまらなかった。
一気に婚約者への興味が沸き上がり、大人しいだけの侯爵令嬢でなかったことが単純にうれしくてたまらなかった。



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