5 / 15
4(シリウスside)
しおりを挟むあのあとシリウス殿下への手紙を失礼のないように書き直して封筒に入れ、家令のハリーに託してベッドに横になった。
いつの間にか本格的に寝てしまったらしく目が覚めたのは夕方近くだった。
泳いだ後ってやたらと眠くなるのよね。と自分に言い訳しながらふとサイドテーブルを見ると綺麗に折られた便箋が目に入り、なにげに開いてみたらハリーに託したはずの手紙が......寝起きのぼんやりした頭が急速に覚醒していく。
確かに封筒に入れてハリーに託したはず......自分の仕出かしたミスに一瞬思考が止まる。
「ハリーーーーッ」
コンコン
「入れ」
「失礼いたします。
シリウス殿下へソフィア.ロールデン侯爵令嬢様よりお手紙が届いております。」
「へー、意外。手紙なんか送りあってるいるんだ。世間が思っているより仲良くやっているみたいだな。」
と、兄で王太子のランスロットが行儀悪く机に置かれた手紙を摘まみ上げた。
「人の手紙を勝手に触らないでください。一応婚約者なのだから手紙のやり取りくらいはするでしょう。」
シリウスはランスロットから手紙を奪うとペーパーナイフで綺麗に開封していく。
「今朝のお見舞いへのお礼状でしょ。」
シリウスの休憩時間に合わせて遊びに来ていた従姉妹のマーガレットがすかさずただの礼儀的なものだと言う。
「お見舞いって......彼女、本当にあの池に飛び込んだの?」
「ええ、急に池に飛び込んだから私までボートから落ちそうになって本当にこわかったわ。」
と、自身を両手で抱きしめるようにしてぶるぶると震えてみせる。
「それにしてもドレスでよく岸までたどりつけたな。彼女、侯爵令嬢なのに泳げるのか?」
と、ランスロットがシリウスに視線を向けると、
「っ!!」
そこにはあまり感情を表に出さないシリウスが耳を赤く染めて笑いを堪えている姿があった。
「プッ......あっははは......」
「シリウス......」
「シリウスお兄様!」
ランスロットとマーガレットの声が重なるがシリウスはソフィアからの手紙を握りしめてただただ肩を震わせて笑いつづけている。
「シリウスの婚約者殿はすごいな。あのシリウスを手紙で笑わせるなんて。」
「あら、シリウスお兄様は私とお茶をする時もいつも笑っていま......」
負けず嫌いなマーガレットがすかさず言ったところでシリウスの笑い声に尻すぼみになっていく。
ひとしきり笑ったところで手紙を丁寧に封筒にもどすもその日のシリウスは誰の目から見ても機嫌がいいように見えた。
ただその理由が絶世の美女といわれた王妹を母にもち、母親以上の美貌といわれる従姉妹マーガレットとのお茶会のせいだと誰もがそう認識していた。
その夜シリウスはベッドに横になるもなかなか寝付けづ、窓際に腰掛けて夜空を見上げる。
満点の星空を見ながら高揚している気持ちを自覚する。
婚約はしていたものの領地で過ごしている婚約者とは婚約時に一度あっただけで、婚約者ではあったが学園の同級生達よりも遠い存在に感じていた。
しかし、昨日の王妃主催のお茶会でボートから池に飛び込みドレス姿で岸まで泳ぎきったと聞いた時、なんと変わった令嬢だろうと思った。飛び込んだ理由が知りたい!がそういう気持ちはおくびにも出さず、お見舞いの花と形式的なカードを送った。
しかし、今日もらった返信は侯爵令嬢が書いたものとは思えないくらい自由すぎで、楽しく、愉快で笑いがとまらなかった。
一気に婚約者への興味が沸き上がり、大人しいだけの侯爵令嬢でなかったことが単純にうれしくてたまらなかった。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
嘘つきな私が貴方に贈らなかった言葉
海林檎
恋愛
※1月4日12時完結
全てが嘘でした。
貴方に嫌われる為に悪役をうって出ました。
婚約破棄できるように。
人ってやろうと思えば残酷になれるのですね。
貴方と仲のいいあの子にわざと肩をぶつけたり、教科書を隠したり、面と向かって文句を言ったり。
貴方とあの子の仲を取り持ったり····
私に出来る事は貴方に新しい伴侶を作る事だけでした。
忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛
Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。
全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)
もうすぐ、お別れの時間です
夕立悠理
恋愛
──期限つきの恋だった。そんなの、わかってた、はずだったのに。
親友の代わりに、王太子の婚約者となった、レオーネ。けれど、親友の病は治り、婚約は解消される。その翌日、なぜか目覚めると、王太子が親友を見初めるパーティーの日まで、時間が巻き戻っていた。けれど、そのパーティーで、親友ではなくレオーネが見初められ──。王太子のことを信じたいけれど、信じられない。そんな想いにゆれるレオーネにずっと幼なじみだと思っていたアルロが告白し──!?
婚約者とその幼なじみの距離感の近さに慣れてしまっていましたが、婚約解消することになって本当に良かったです
珠宮さくら
恋愛
アナスターシャは婚約者とその幼なじみの距離感に何か言う気も失せてしまっていた。そんな二人によってアナスターシャの婚約が解消されることになったのだが……。
※全4話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる