あなたが私を手に入れるまで

青猫

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第四章

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 背中からすっぽりとレオンに包まれて、セリーナの呼吸は次第に深く、熱く染まっていく。レオンの手が夜着越しにセリーナの肌を彷徨うと、今まで知らずに強張っていた身体の芯まで溶けていくようだ。
 レオンはベッドの上で枕に背を預け、足の間にセリーナを抱き込んで、うなじにキスを繰り返していた。セリーナの傷に気を使いながらも、腰を引き寄せて肩や耳をついばんでいく。
 彼の吐息や眼差し、ゆっくりセリーナの夜着をはだけさせていく手つきから、真摯な愛情が伝わってくる。
 セリーナは全てを委ねながらも、「最初は何も知らなかったくせに」と心の中でつぶやいた。
 結婚して初めの頃は、キスさえも躊躇して、私をずっとベッドで独りにさせていたくせにと。
「セリーナ……」
 彼の手がそっとセリーナの頬に添えられ、後ろを向くように促す。唇同士が重なり、優しく下唇が食まれた。舌がそっと探るように差し込まれ、次第にキスは深くなっていった。
 この年下の夫は結婚するまで女を知らなかったはずなのに、いつの間にこんな繊細な愛撫を覚えたのか。最初の頃のようなぎこちなさは、もうほとんど残っていない。彼の指や舌が、セリーナの官能を確実に引き出していた。
 セリーナは、大きな安楽椅子に身を預けるように、夫の熱くなっている身体に寄りかかる。腰に硬いものが当たった。けれど、後ろ手にそこに触れようとすると、やんわりと手を捕らえられて牽制される。
「俺が、貴女に触れたいんです」
「私だって」
 首を振って、レオンはさらにセリーナの腕から袖を抜き、全てを取り払ってしまう。情事の主導権さえも、いつの間にかレオンの手中にあった。
 セリーナが「せめてあなたも脱いで」と頼むと、彼は躊躇なく身につけていたものを脱ぎ捨てた。けれどやはり、一方的に妻を抱きかかえる姿勢は変えようとしない。
「させてください。貴女の全てを確かめたい」
 大きな彼の手のひらが、セリーナの胸を包み込む。親指で尖りに触れゆっくりと柔らかさを堪能している。
「……あ」
 セリーナの声が零れ落ちた。レオンの手が胸から腹部、そして足の付け根へと辿っていく。彼は後ろから注意深くセリーナの表情を確かめ、秘部の花芯にそっと指を当てた。
「ん……ぁ、あ」
 丁寧すぎると、逆にもどかしい。セリーナは身をよじるようにして、後ろの夫の熱欲も刺激しようとした。しかし諌めるように、肩に軽く噛みつかれる。
「ど、して、私ばかり……」
「だめ、です。貴女を堪能させてください」
 そして、彼の指がセリーナの秘裂を優しくなぞった。すでに蜜が滲んでいるのが自分でもわかり、羞恥で足をとじ合わせてしまう。するとまた花芯を刺激され、思考が甘く溶かされる。
 レオンはゆっくりと、そして確実にセリーナを快楽に追いやっていた。これまでは若さゆえの情熱に押し流されるような情事だったのに、今はセリーナのわずかな呼吸の乱れや肌の温度までつまびらかに視線をそそぎ、繊細な愛撫を繰り返している。
 セリーナは彼の腕の中ですっかりされるがままになって、与えられる刺激を享受していた。時間が経つにつれ足が力なく投げ出され、彼の指が蜜をまとってナカに抜き差しされる。
 無骨な指が、セリーナの内側を探る。ある一点に触れられると、勝手に声が漏れて蜜口が彼の指を締め付けた。後ろから熱い息遣いが聞こえたと思ったら、肉厚な彼の指の腹がさらにその場所を優しく押し上げ、何度もその刺激を繰り返す。
 そして快楽のさざ波が忍び寄ってきていた。抑えられない吐息がかすれた声になり、セリーナは足掻くようにつま先でシーツを蹴る。
「……レオ……っ。ぁ、あ」
 彼の指がいっそう深く差し込まれ、反射的に逃げようとする腰がガシリと固定される。後ろから耳朶を食まれ、その刺激に引火したように、甘い痺れが背筋を駆け上った。
 後ろのレオンの肩に頭を預け、セリーナはその開放感を素直に受け入れた。彼が与えてくれるただ純粋でささやかな快楽に、うっとりとなって目を閉じる。
 なのに、軽く達した感覚が緩やかに落ち着こうかという瞬間、レオンはさらにセリーナのナカを刺激し続けてきた。
「や……ぁ、また。だ、めぇ……ぁ、ああ」
「ほら、もっと……」
 新たな愉悦にさらに押し上げられ、無意識に太腿で彼の手をきつく挟んで、弓なりになる背につられて腰が浮く。
 気がつくと、外界の全てから遮られた彼の腕の中で、絶頂の余韻に呆然となって漂っていた。やっと秘所から濡れそぼったレオンの指が抜かれ、セリーナは息を切らせながらとろりと瞼を上げる。
 レオンが微笑んで、こちらを覗きんこんでいた。セリーナの額に唇を押し当て、「美しかった」と囁く。
 上気している頬がさらに熱くなる。今さら恥ずかしくなって、セリーナは足を折りたたんで彼の視線から身体を隠そうとした。その時、身体の向きを変えた途端、不意に彼の昂ぶった欲望が視界に入ってしまう。
 こくりと一度固唾をのんで、セリーナはそれにそっと手を添えた。
「セリーナ……っダメです、ぁ……」
 鎧のような彼の腹部がひるむように波打つ。セリーナはその熱を両手で包み込み、上下にさする。その先端に雫が滲み、次々と溢れて筋を作ってこぼれ落ちた。その蜜で手の動きが滑らかになる。
 しかし突然それを制するように、レオンの手ががしりとセリーナの腕を掴んだ。
「俺……貴女の、ここに……」
 レオンは奥歯を噛み締め、焦げるような眼差しをセリーナの腹部に注いでいる。ギリギリまで張り詰めた欲望と彼の優しさが拮抗しているのだろう。セリーナを押し倒そうとする一歩手前で、妻の背中にある傷の手当てをハッと見遣った。
「ここで、やめましょう」
 絞り出されたその言葉が、彼の本心だとはとても思えなかった。セリーナは苦笑して、膝立ちになって彼と向き合った。
「どうして? 私もこの先を望んでいるのに」
「……本当に?」
 セリーナは彼を跨いで、こちらを仰ぎ見る彼の唇を奪う。そのまま情熱が二人を押し流す。
 身体に添えられた彼の手に導かれるまま、セリーナは腰を落とした。
「……ん。……ぁっ」
「あ、セリ、……ナ」
 彼の熱欲が下からセリーナを押し開く。浅いところで既にその質量に怯んでしまうが、懇願するようなレオンの表情に負けて、セリーナはさらに結合を深くした。
「……んぁ、あ……っ」
「痛い、ですか……?」
 うわずった声で気遣われて、セリーナはゆるゆると首を振った。
「お……き、くて」
 やっと答えると、レオンの喉の奥で押し殺したうなり声のようなものが響いた。たくましい腕がセリーナの腰にまわされ、ぐっと引き寄せられる。
 最奥まで届く熱量に、セリーナは声さえ失って打ち震えた。あとほんの少しの刺激で、またあの快楽の限界に投げ出されるという予感が、脳髄からつま先までを甘く溶かしている。
 その時、唇にかすめるようなキスの感触があった。いつの間にかきつく瞑ってしまっていた目を開けると、この体位のせいでわずかに下からの目線でレオンがこちらを見返してくる。
 言葉にならない全てが、彼の眼差しにあった。痛々しいほどの愛情と、まっすぐな誠意。それらを揺るぎ無く持ち続ける、彼の危うさ。
 レオンはセリーナを見つめたまま、一度二度と下からゆっくり突き上げてきた。快楽に彼の眉が寄り、声にならない喘ぎが唇を震わせている。その彼の表情だけで、セリーナの中に渦巻く快楽がさらに研ぎ澄まされる。
 ヒップを掴まれ、一度抜かれた彼の熱欲が再びセリーナの内側を淫猥になぞり上げた。たったそれだけで、これまでにないほど深い絶頂に突き落とされる。
「レオ、……ぁ、ああ……っ」
「っ……。俺、も……」
 レオンは一時もセリーナから視線を外さずに、欲望をさらに奥へと押し付けながら果てに行き着く。か細い声や吐息を至近距離から交換して、二人はお互いの絶頂の気配に耳を澄ましていた。
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