cross of connect

ユーガ

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絆の未来編

第五話 『共鳴』と『  』

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「ぐぁぁぁ⁉︎」
「ネロ‼︎」
ユーガは、凶暴化した『災魔族』の鋭い爪の攻撃の直撃を受けて吹き飛ばされたネロに視線を向けた、その刹那ー。
「・・・くっ・・・⁉︎」
背中に強い衝撃が走り、ユーガはネロ同様に宙へと投げ出される。背骨大丈夫だよな、とうっすら考えを浮かべながら、痛みに顔を顰める。体が降下を始めたと思った瞬間、暖かな光がユーガとネロを包み込み、ユーガ達は体に力を込めて着地の体制をとる。上空から周囲を見渡すと、トビがユーガに、シノがネロにそれぞれ回復魔法をかけてくれていた。ユーガはそれを確認してトビに微笑むとトビは、集中しろ、と言うように視線を再度『災魔族』へと向けた。ユーガは笑みを浮かべながら着地し、ふぅ、と小さく息を吐いてー彼の『眼』に宿る力を解放させる。
「・・・『緋眼』‼︎」
体に力がみなぎるのを感じながら、ユーガは『災魔族』へと視線を戻す。『災魔族』はユーガの方へ視線を向けて、じりじり、と一定の距離を取る。ユーガはそれを確認して、落ち着いた光を放つ瞳で、トビが教えてくれた、「よく『見て』、よく『聞く』」事を思い出してーしっかりと、観察を始める。
「ルインさん」
「合わせますよ、シノ」
ルインとシノが魔法の詠唱に入ったのを聞いて、リフィアは固有能力スキルー『魔神』の力を解放して、思い切り『災魔族』の顔を蹴り飛ばす。一瞬怯んだその隙に、ネロ、ミナがそれぞれ固有能力スキルを解放させて、攻撃を体に叩き込む。さらに『災魔族』は苦しげな雄叫びを上げながら膝をつく。その足元にーシノとルインが作り上げた魔法陣が浮かび上がり、その魔法陣が放つ光が強くなる。
「「ブリザード‼︎」」
吹き荒れる風と氷によって『災魔族』の体に次々と傷がつきーその体が、少しだけーそれでも確実に、ふわりと浮き上がる。雄叫びを上げながら回転し、『災魔族』は地面に叩きつけられる。そして、ふらり、と『災魔族』の体がふらついたのを見て、ユーガとトビはハッとして視線を見合わせる。
「トビ‼︎」
「・・・気付いたか」
「おう‼︎」
「・・・ネロ、ルイン‼︎風魔法と攻撃を叩き込め‼︎」
「俺達も合わせる‼︎二人とも、頼んだ‼︎」
ネロとルインがトビとユーガの言葉に頷き、それぞれが攻撃を叩き込む準備をする。ルインが魔法の詠唱を始めると同時に、ネロが『災魔族』の体に剣撃を叩き込む。
「・・・烈牙、墜斬翔‼︎」
「いきますよ、ネロ・・・巻き上げよ、吹き荒れる烈風・・・サイクロン‼︎」
「任せろ・・・‼︎地面に叩きつけられちまえ‼︎断雷、墜牙翔‼︎」
ルインの魔法で打ち上げられた『災魔族』の体をネロが叩き落とす。地面に打ち付けられたように動かない『災魔族』の体を、赤と青の光が捉える。
「トビ‼︎」
「・・・雪風吹き荒れろ・・・ブリザード!」
「はぁぁぁっ‼︎断焔、墜牙翔‼︎」
再度地面に叩きつけられた『災魔族』の姿を確認して、ユーガはメルに視線を向けて声を上げた。
「メル、頼む‼︎」
「・・・やります‼︎」
先ほど立てた作戦ーそれは、メルの固有能力スキル、『藍紫眼』の力を用いて作り出した結晶で、とどめをさす、というものなのだがー、この『災魔族』には特徴がある。それは、『体内の元素フィーアを感知する能力』がある、という事だ。だから、先ほどユーガが『緋眼』を解放した際にこの『災魔族』はユーガから離れて、一定の距離をとった。さらに、この『災魔族』は風に飛ばされると大きな隙ができるー。
「まったく、こんな事を考えるなんてね」
リフィアがトビに向けてそう首を振って言い放つと、ミナもまた感心したようにトビに視線を向けた。
「私達ではおそらく思いつかなかったでしょうね」
「・・・限界までメルの結晶クリスタルを作る力を収縮させて、それを『災魔族』に悟られないようにできるだけ強い元素フィーアを放ちながら戦う・・・」
シノはトビの作戦を反芻し、メルの方へ視線を向けるとー彼女は、完成した巨大な結晶クリスタルを今まさに『災魔族』めがけて落下させるところであった。右手をゆっくりと上げ、思い切りその手を振り下ろす。刹那、『災魔族』の上空から巨大な結晶クリスタルが降り注ぎ、地面にその巨大な体は叩きつけられる。その体が元素フィーアに返っていくのを確認してユーガは、ほっ、と安堵した。
「さて、そのままノルディンに向かいたいところですが・・・どうします?少し休憩しますか?」
ルインの言葉に、メルは近くの洞窟の壁に寄りかかって座り、仲間達を一瞥して口を開く。
「少し休憩していきましょう。この後ユーガ君には大仕事をお願いしていますから」
「そうだな。少し休憩して、体力を万全にしよう」
ネロがメルに同意して、剣を腰から外して座り込む。仲間達もそれに倣って地面に座り込む中、トビは腕を組んで壁に寄りかかる。やれやれ、と小さく嘆息してトビは呆れたようにメルに視線を向け、頭をわしわしと掻いた。
「・・・大仕事、ね」
「何か気になることでも?」
ミナがトビに視線を向けて尋ねると、トビは顎に手を当てて考え込むように呟いた。
「・・・ノルディン中を覆ったメルの結晶クリスタルを全て無くす事なんてできるのか?できたとしても、この馬鹿にとんでもねぇ負担がかかるんじゃねぇのかよ」
「・・・そうでしょうね」
トビの質問に答えたのは、ルイン。なら、とミナがユーガに視線を向けて心配そうな視線を向けてくる。
「やはり、他の方法を探すべきではありませんか・・・?ユーガさんの体にとんでもない負担がかかってしまうのであれば・・・」
「いや、やるよ」
ミナの言葉を遮り、ユーガは緋色の瞳を仲間達にートビに向けた。トビが怪訝そうな表情を向けてくるのを受け止めて、ユーガは自身の眼に手を重ねた。
「・・・それが俺にできる事ならやりたい。それに、他の方法を探してる間にノルディンの人達が手遅れになっちまうかもしれないんだろ?」
そう。他の方法を模索している場合ではないかもしれない。それに、今休んでいる間にもノルディンの人々はー。
「なぁ、ルイン」
「なんです?ネロ」
「ユーガの体にかかる負担って推定でどのくらいだ?」
「・・・そう、ですね・・・ノルディンの町の大きさを憶測で考えたとしても・・・最低でも、かなりの期間はまともに動けなくなるかもしれません。最悪、死に至る可能性も・・・」
「・・・そうか・・・」
ネロが嘆息しながら、ユーガに視線を向けてくる。その視線には、やるのか?という疑問が込められているように感じて、ユーガは強く頷くとーネロは眼を閉じて頷き返し、そうだな、と小さく呟いた。リフィアはそれを見て、どこか心配そうに仲間達を一瞥した。
「・・・どうにかユーガくんのその体の負担を軽減させられないのかなぁ」
「・・・ルイン」
考え込んでいたトビが組んでいた腕を解き、ルインに視線を向ける。ルインは怪訝そうにトビに視線を向けると、トビはまっすぐにルインを見つめていた。
「『共鳴』ならどうだ」
「・・・なるほど、『共鳴』・・・ですか」
『共鳴』?と仲間達が首を傾げると、これまで黙っていたシノが仲間達を一瞥してから小さく口を開いた。
「『共鳴』・・・それは、互いの体内に存在する元素フィーアを同調させて更なる力を引き起こす、というものです」
「つまり、ユーガの『緋眼』の力に誰かの元素フィーアの力を共鳴させる事でさらに『緋眼』の力を出せる・・・って事か?でも、なんでそれが今有効な手段になるんだ?」
「『共鳴』には使用した力を分散させる特性もある。つまり、単純に言えば一人の体にかかる負担を半分にできる」
「へぇ~、すごいじゃん‼︎じゃあ、それをやってみようよ‼︎」
「・・・ですが、それと同時に『共鳴』にはデメリットも存在しているんですよ」
「・・・デメリット?」
ユーガがルインに尋ねると、ルインは頷いてユーガに視線を返す。そして告げた彼の言葉はどこか、遠慮がちにー小さく呟いた。
「・・・最悪の場合、お互いの元素フィーアが混ざり合い・・・消滅します」
「・・・し、消滅・・・?」
リフィアがルインの言葉を反芻すると、洞窟内の水溜まりに水が一滴落ちる音が響き渡り、その音が切なく静まり返った洞窟内には大きく聞こえた。
「・・・ええ。その危険性を知っていたから今まで言わなかったのでしょう、トビ」
「・・・ふん」
トビのその反応からして、事実なのだろう、と嫌でもわかってしまう。それに、トビはこの危険性に関しては察していたのかもしれない。だから、今この話をしたのだろう。我ながら、性格の悪い、とトビは自嘲してしまう。もはや逃げられないところまで、仲間をーユーガを追い込んでからこの話をするとは。
「・・・ユーガ」
トビがユーガに視線を向けて、眼を細めながら告げる。
「『共鳴』をするなら俺がやる。お前の能力と対になる俺の能力なら、なんとかなるかもしれねぇしな」
「・・・トビ・・・」
「どうする。『共鳴』をするのかしないのか・・・お前が決めろ」
「・・・俺は・・・」
ユーガは少し考え、立ち上がってトビに手を差し出した。それは、つまりー。
「トビ、頼む。俺と『共鳴』してくれ」
「・・・だろうと思ったぜ」
トビはユーガから差し伸べられた手を無視し、ユーガに視線を向けてー小さく笑みを浮かべた。それは、トビにとっての『了解』だ。
「・・・あなた方のサポートは、私とシノとメルがします。ネロ、ミナ、リフィアは町の皆さんをお願いします」
「おう、任せろ」
「はい」
「りょ~かい」
仲間達は全員立ち上がり、洞窟の奥へと歩き出す。ユーガは歩き出した仲間達の背中を眺めて、歩き出そうとしートビがこちらを見ている事に気付いて、どうした?と声をかける。
「・・・ユーガ」
「ん?」
「・・・死ぬなよ」
トビはユーガにだけ聞こえる声で呟いて、トビも仲間達の背中を追って先を歩いて行った。先を歩くトビの背中を見つめて、小さく頷きー。
「・・・トビもな」
と、彼に聞こえるかもわからないような声で言うと、トビは小さく鼻を鳴らしてさらに足を早めた。ユーガもトビと仲間達の背中を追って、足を踏み出した。

「着きました・・・ここが、アルノウズです」
メルが悲しげな表情で見上げた町はーメルの話通り、結晶クリスタルに覆われた町であった。家も、噴水も、そして人もー何もかもが、メルが見せてくれた結晶クリスタルに包まれている。
「・・・本当に、何もかもがメルの結晶クリスタルで町が覆われちまってるんだな・・・」
ユーガは結晶クリスタルの中でぴくりとも動かない人々を眺めながら呟いた。これを目の当たりにして、いかに固有能力スキルの力が凄まじいものなのか、目に見えて分かった気がする。
「ちなみにこの結晶クリスタルって壊れないのかな?」
リフィアが誰にとは言わずに尋ねると、その問いにはシノが答える。
「やめておいた方がよいかと思われますよ」
「なんで~?」
「この結晶クリスタルはメルの固有能力スキルから成る物です。下手に壊せばこの結晶クリスタルの中にいる人が死んでしまうかもしれませんし、世界中の元素フィーアの均衡が崩れてそのまま世界崩壊、ということにもなりかねませんので」
淡々と告げるシノに、リフィアは背筋が凍るような感覚を覚えて握りしめていた手を開いた。やはり、ここはユーガ達に託すしかないようだ。リフィアはユーガに視線を向けると、ユーガは結晶クリスタル内にいる人に向けて、目を閉じて何かを念じているように見える。
「・・・何してるんですか?ユーガさん」
ユーガは目を開いて、自身の横にミナが立っているのを確認して、小さく頷いた。
「・・・必ず助けるからな、って言ってたんだ」
そうだな、とネロが頷いて、ルインに視線を向けた。
「ルイン、ユーガの固有能力スキルを使うのはここでいいのか?」
「いえ」とルインはネロの問いに首を振り、町の中央に見える噴水へと視線を向けた。「町の中心で開放するのがいいでしょう。使用する力が少しではありますが軽減されるでしょうからね」
ユーガ達は頷いて、町の中心の噴水へと向かう。その道中にも、多くの人々が結晶クリスタルに閉じ込められていて、ただ沈黙のみがその場を流れていく。仲間達も口を開かず、ただユーガの後ろを着いてきてくれた。町の中央部の噴水まで来ると、どこか張り詰めた空気が辺りを包んでいく。
「このまま固有能力スキルを解放すればいいのか?」
ユーガが尋ねると、いえ、とルインは首を振った。
「まずは、ユーガの元素フィーアとトビの元素フィーアを共鳴させる必要があります。まず、お二人で手を合わせてください」
ユーガとトビは言われた通りートビは若干嫌そうではあったがーそれぞれ片手を重ね、ルインの方へ視線を向ける。すると、ルインがユーガとトビの手を包むように両手で包み込むと、緑色の光がユーガとトビの手を温かく包み込んでいき、ルインはその状態のままユーガ達に口を開く。
「このまま、あなた方はこの手のひらー緑色の光に、体の中の元素フィーアを集中させてください」
ユーガとトビは互いに頷き合い、目を閉じて意識を合わせた手へと集中させる。魔法を使ったことがあればなんとなく感覚を掴めていただろうが、生憎ユーガは魔法を使えない。もっと勉強しとけば良かった、と今更ながらに後悔するが、それはもはや今更だ。ーと、ユーガとトビの合わせている手を包んでいた光が、次第に緑色から紫色へと変化していく。
「・・・できました、もう手を離して大丈夫ですよ」
ユーガとトビが言われた通りに手を離すと、先程の紫色の光はユーガの右手へと移っており、その光からはかなり強く、トビの力を感じる。ユーガは仲間達へ視線を向けて、続いてトビに視線を向ける。仲間達はユーガに向けて強く頷きかけ、その絆を信じるようにーユーガの瞳が、強く輝き出す。そして、その力に反応するかのようにートビの瞳も強い光を放ち出した。仲間達は少し離れたところから見守り、どこか心配そうな視線を向けている。ユーガはその視線を受けながら、右手を前に突き出して左手を二の腕へと添える。すると、ユーガの固有能力スキルである『緋眼』の力が発動し始め、メルの結晶クリスタルが段々と溶けるように消滅が始まった。
「く・・・っ」
凄まじい風が吹き荒れ、ユーガは手に滲むように感じる痛みに顔を顰めた。ーと、その瞬間ユーガの右手が弾かれるように後ろに弾かれ、家の屋根の一部を消滅させた。
「集中させろ、ユーガ!」
トビの声が響き、ユーガは意識を再度右手に集中させ、メルの結晶クリスタルの消滅を再開する。
「・・・やはり、無茶ですよ!やめましょう!」
その様子を眺めていたミナがそう叫ぶのが聞こえたが、ユーガは意識を集中させながらも、叫んだ。
「・・・嫌だ!これは、俺が・・・やらなきゃいけないことなんだ!・・・俺は、メルを助けたいんだ!」
「え・・・?」
「・・・このままやめたら、メルは・・・ずっと自分の罪に苛まれて生きる事になる・・・!それを、俺の力でなんとかできるなら・・・仲間なら、助けたい!」
罪を負わせないために。仲間が、自分を追い込まないようにするために。ユーガは、それだけの思いで行動しているのだ。その気持ちに、嘘がないことなどートビには、簡単に理解できる。
「・・・ユーガ君・・・」
メルが小さく呟くのが聞こえ、ユーガとトビを心配そうに眺めるメルが見えた。

ユーガはそれを確認して、安心させるように少しその口に穏やかな、優しい笑みを浮かべてメルに笑顔を見せる。
(・・・っ!)
とは言ったものの、このままではまずい。どんどん意識が散漫しているような感覚がユーガの体を包んでおり、今度は屋根だけではなく、町ごと消滅させかねない。ユーガは顔を下げ、顔を顰めてー。
「・・・くそ・・・!」
「諦めてんなよ、馬鹿野郎」
「・・・え?」
ユーガがその声に顔を上げると、隣にトビが立ってー左手を突き出してユーガの紫色の光を共に支えるように、そこに立っていた。
「・・・さっきの言葉に嘘がねぇなら・・・諦めてんじゃねぇよ」
「と、トビ・・・!」
「・・・俺の『相棒』は・・・こんなとこで諦めるような腑抜けじゃねぇぞ、ユーガ・サンエット」
「・・・っ!」
そうだ。一人で戦っているのではない。皆がいたから、ここまで来れた。メルを助けたい、と心から思えた。そして何よりートビが、相棒がいるじゃないか。
「・・・そうだな、諦めてらんねぇよな‼︎」
「一気にやるぞ、気合い入れろよ」

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ‼︎」」

ーそして、視界は紫色の光へとーどこか温かい光に、包まれていった。

強い風に吹き飛ばされ、倒れていた仲間達は痛みに顔を顰めながら体を起こし、頭を振って脳を覚醒させる。ふ、と周囲の景色を見るとー先程まで町中を包み込んでいたメルの結晶クリスタルは完全に消滅しており、人々も、家も、噴水もー何もかもが、結晶クリスタルから解放されていた。まだ結晶クリスタルの中にいた人々は目を覚ましていないが、じきに目を覚ますだろう。
「・・・ユーガとトビは・・・⁉︎」
ネロの言葉に、仲間達は辺りを見渡して彼等の姿を探しーミナが、一点を指さして声を上げた。そこにいたのは、埃と土まみれになってしまった、ユーガとトビの姿でー二人が繋いでいる手には、いまだに紫色の光が残っていた。ーひとまず、成功、と言っていいのだろうか。
「ユーガ、トビ‼︎しっかりしろ‼︎」
ネロが二人に呼びかけると、小さく二人は唸ったがー目は覚まさず、その眼は閉じられたままだ。しかし、とにかく今は生きている事がわかっただけでも一安心だ。ルインはユーガとトビの体内の元素フィーアを確認しーほっ、と安堵の息をつく。とりあえず、現状ユーガとトビの元素フィーアの消滅は発生していない。実録されていた結果でも、すぐに消滅が始まるようであったので、ひとまずユーガ達が消滅する可能性は限りなく低くなっただろう。
「ひとまず無事ですが・・・とにかく今は彼等を安静にしないといけません。それに、解放された人々の治療も行わないと」
「そうですね」とシノもルインの言葉に同意して、仲間達を一瞥する。「ネロさんとルインさんでユーガさんとトビさんを運んでください。他の方々は各々で救助活動を行いましょう」
「わかった」
ネロはルインと共にユーガとトビをひとまず安全な場所へ移動させ、ユーガとトビの顔を交互に眺めた。
「・・・大した野郎どもだな、本当に」
「そうですね・・・それにしても、驚くべきはお互いの精神力の強さというべきか・・・」
そうだな、とネロは同意してルインに視線を向け、一応大丈夫なんだよな?と尋ねると、ルインは頷いてネロを安心させるような優しい声で口を開いた。
「どちらか一人はここに残った方がいいかもしれませんね、彼等が目を覚ました時に成功した旨を伝えなければ」
「んじゃ、ルイン頼むわ。俺は他の人達の救援に行くからさ」
「わかりました。そちらはお願いします」
おう、とネロは頷いてその場から立ち去り、ルインは近くにあった椅子に腰をかけた。ーそれにしても、と考え込む。ユーガとトビの固有能力スキルを共鳴させた際のあの紫色の光ー。あの光は、文献でのみだが見覚えがある。まさか、あの光はー。
「・・・いや、ありえませんよね」
何を考えているんだ、と首を振って思い直し、再度ユーガとトビへと視線を向ける。いまだに残った紫色の光が、わずかにルインに応えるように小さく光ったように、ルインには見えた。
一方、ネロはー。仲間達が歩いて行った方向の人々が目を覚まし始めているのを見ると、どうやらだんだん意識を取り戻す人々が増えてきたようだ。ほっと安堵して周囲を見回すと、たった今起きたばかりなのであろう男性が座り込んでおり、その体は弱々しく震えていた。ネロはゆっくり男性に近付いて、その横に座り込む。
「よぉ大将、大丈夫か?」
「あ、あぁ・・・大丈夫だ」
「ほれ、ポーションいるか?」
ふ、と差し出しながら笑みを浮かべると、男性は差し出したポーションを一気に飲み干した。どうやら、よほど弱っていたのだろう。
「すまないね、助かったよ」
「別に気にすんなよ、困った時はお互い様だろ」
ついでに食料もわずかに男性に差し出すと、彼は貪るように食料に手をつけた。しかし、とネロは少し疑問になっていたことを男性に尋ねてみた。
「あんたら、メルの固有能力スキル結晶クリスタルに閉じ込められちまったんだよな?その前に予期することとかできなかったのか?」
「・・・いや、それが急に『暴走』が始まったもんでね・・・どうにもできなかったんだよ」
「・・・そっか、大変だったな」
「あぁ、ありがとうな」
「礼なら、俺じゃない奴等に言ってやってくれ」
立ち上がりながらネロが言うと、え、と男性は怪訝そうにネロに視線を向けた。
「そうだな・・・『最強の相棒コンビ』が目を覚ましたらそれを言ってやってくれ」
男性はなんとなく不思議そうに、ただ確かに頷いた。他の人達は、とネロが周囲に視線を向けると、先程の男性が歩き出そうとしたネロを呼び止めた。
「そういえば、この町に来てた旅人さんがいたんだよ」
「旅人?そりゃまた珍しいな」
「俺もそう思ったんだけどね、その人は目を覚ましたのかな」
「・・・まぁちょっと探してみるわ。その人の名前は?」
「あぁ、確か・・・」

             フルーヴ、だったかな?

「・・・は?」
ネロは、ついその名を聞き返してしまった。
「・・・フルーヴが・・・ここに来てたのか?」
「なんだ、あんた達の知り合いかい?メルの『暴走』が始まる前に、確かにこの町にやってきていてね」
「なんだと・・・⁉︎」
フルーヴが、ここに来ていた、だと?まさか、メルの『暴走』が事故ではなくフルーヴによって引き起こされたのだとしたら?その事を、メルが忘れてしまっていたら?逆を言えば、それ以外の要因が思いつかない。『暴走』が起こる直前にフルーヴがここに来るなど、偶然にしても出来過ぎだ。ーと。
「うぉっ⁉︎」
轟音と共に地響きがアルノウズの町に響き渡り、ネロは思わず体勢を崩した。刹那、先程仲間達が歩いて行った方向が紅色の輝きを放ち、そしてその光が消えていく。あの光は、まさかー。
「すまん、おっさん、俺行くわ」
「あ、あぁ。気をつけてな」
あの光は、噂をすればー。まさか、あいつがー?ネロは騒ぐ胸を押さえつけながら、響き渡っている轟音の方へと走り抜けた。ーと、次第に誰かが戦っている音が間近で聞こえるほどのところまで来ると、その轟音の正体が、目の当たりになる。
「・・・やっぱりお前か、フルーヴ・・・‼︎」
「・・・へぇ、貴様もいたか」
フルーヴの足元には、すでに敗れたのであろうリフィアが横たわっており、ネロは腰の剣に手をかけた。
「・・・貴様・・・‼︎」
「どけ。僕の目的はお前達ではないのだからな」
「・・・断る‼︎」
「・・・どけ」
「・・・なら力づくでやってみろ‼︎」
まだ立っているミナ、シノ、メルと合流し、ネロはフルーヴに向き直る。フルーヴもまた持っていた槍を握り直して、ネロにその鋒を向けてー。その瞳に纏った輝きが、さらに強くなっていく。
「・・・強くなったのは、お前達だけではないんだぜ」
フルーヴが彼の固有能力スキルー『紅眼』を発動させると、次第に周囲の空気が張り詰めたように、ピリピリとし始める。ネロはその空気を振り払うようにフルーヴに向かって思い切り駆け出して目にも止まらぬ速さで抜刀し、フルーヴの体にその剣を叩き込んでいく。ーが、ネロがふと自分の体に目をやると、横腹の部分が切り裂かれており、そこから次第に血が溢れ出してくる。何が起こったのかわからず、フルーヴへ視線を戻すとー彼の身体には、切り傷どころか汚れすらない。
「な、なんだと・・・⁉︎」
確かに、身体に剣を叩き込んだはずだ。自分の剣がなまくらであるとか、フルーヴが防具を装備しているだとか、そんなものではない。なにか、とてつもなく大きな壁を見ているような、そんな感覚だ。
「・・・どうした、もう終わりか?」
「・・・っ!」
まずい、と思った刹那ーネロは横から思い切り突き飛ばされ、自身が元々立っていた場所に槍が突き出されていた。自分を突き飛ばした主を見るとそれはシノであり、ネロに咎めるような視線を向けた。
「ぼーっとしていると死にますよ」
「あ、あぁ・・・悪い、助かった!」
ネロは再度剣を構えて、仲間達の隣に立つ。確かに、圧倒的な力の差はある。ただ、諦めるわけにはいかないのだ。『彼』がー『彼等』が諦めなかったように、自分達が諦められるはずがないのだ。ネロは自身の固有能力スキルー『神速』を解放させて、自身の周囲に雷を纏わせる。
「・・・行くぞっ‼︎」

「・・・この感じ・・・フルーヴがここに・・・⁉︎」
その頃、ルインはまだ目を覚まさないユーガとトビの元で、仲間達を助けに行けないもどかしさを感じていた。このままではまずい事も確かだが、彼等をーユーガとトビを置いていくなど、それこそ仲間を見捨てるようなものだ。
「どうすれば・・・」
考えろ。自分はそうしてきたじゃないか。自身で考え、自身で動いてきたんじゃないか。周囲にいる人達に任せるか?いや、起きたばかりの彼等にそれを押し付けるのは、かなり酷だろう。ーと、その時。ユーガとトビに宿っていた紫色の光が、強い光を放ち始めたのだ。
「・・・な、何が・・・?」
周囲の人々も何事かと見守る中ーユーガとトビの体が紫の光の中へと消えていき、次第に目を開けていられないほど強い光が周囲を包み込んでいく。だが、その中でルインは自身の固有能力スキルである『元素感知』で、何が起こっているのかーようやく理解した。その紫色の光が収まっていくと同時に、そこにはーユーガでも、トビでもない誰かが、そこにはいた。だが、ルインにはわかる。『彼』はー紫の瞳を輝かせ、『緋眼』の主と『蒼眼』の主を足したような髪を持ち、本来紺色のクィーリアの軍服が、濃い赤色に染まった服を身に纏っていて黒いズボンを身につけている、『彼』こそが、ユーガであり、トビなのだ、とわかる。
「「・・・これは・・・?」」
『彼』が口を開くと、その口からはユーガとトビの声が同時に聞こえてくる。どうやら、自分の立てたこの説は正しかったようだ。
「・・・なるほど・・・あなた方は対となる存在・・・奇跡的に、それぞれの元素フィーアが完全に混じり合ってしまったのですか・・・」
「「・・・あぁ、なるほど・・・『合体』しちまったのか」」
恐らく、『彼』はユーガとしての記憶とトビとしての記憶を合わせ持った、彼等とはまた違う別人格、といったところだろうか。
「「・・・ルイン」」
「は、はい」
「「今はとにかくこのままでいい。皆が危ないんだろ」」
気付いていたんですか、と驚くルインに『彼』は、まぁな、と答えて、行けるか?と尋ねる。
「私はもちろんですが・・・あなたはもう大丈夫、なんですか・・・?」
「「まぁ、この身体に慣れてはねぇけど・・・皆が危ねぇってのに、そんな事言ってられっかよ」」
その言葉に、ルインはーそうですね、と頷いて答え、視線を『彼』に返した。
「急ぎましょう。フルーヴが来ています」
「「・・・あいつがか、わかった。行くぞ」」
凄まじいスピードで町を駆け抜けていく『彼』を見つめて、ルインは不思議な感覚になる。この現象ー『合体』は、本来無機物にしか反応しない、特殊な性質なのだ。そうであるにもかかわらず、ユーガとトビは奇跡的に、とはいえそれをやってのけてしまった。全く、彼等といると本当に飽きない。ルインが思考を巡らせていると、不意に『彼』は足を止めて一点を見つめた。そこには、元素フィーアを感じていたフルーヴとー彼に敗れて地面に横たわる、仲間達の姿があった。
「・・・皆さん・・・⁉︎」
ルインが倒れている仲間達を一瞥していると、『彼』は一歩、また一歩と確実にフルーヴに近付いて行った。その瞳は閉じられており、フルーヴからは見えない。だがー確実に、その身体は怒りに震えている。『彼』は倒れている仲間達の元まで歩いて足を止めると、顔を後ろにいるルインに向けて、口を開いた。
「「・・・ルイン、皆と町の人を避難させて下がっててくれ」」
「え、あなたは・・・⁉︎」
「「こいつは俺一人でやる。危ねぇから下がってろ」」
そう言うと同時に、『彼』は眼をー紫色に輝くその瞳をフルーヴに向けて、その紫色の光が増していくのをルインは感じた。ここにいては、まずい。ルインは『彼』が安全な場所に自分が行くのを待っているのだと理解して、まだ歩ける仲間達と共に動けない仲間を背負ってその場を離れた。それを確認して、『彼』はー右手には背中に横に付けていた鞘から剣を引き抜いて持ち、左手には太ももにあるホルダーから引き抜いた銃を手に取った。ふっ、と『彼』は笑みを浮かべて、剣の先をフルーヴに向けた。その様子はどこか、余裕すら感じさせる表情でー。
「「ほら、来いよ。相手になってやるぜ」」
「・・・お前、調子乗ってるのか?」
「「ちげぇよ。俺が直々に相手してやるから来いって言ってんだよ」」
『彼』は構わず、フルーヴに挑発を続ける。フルーヴは槍をおおきく振りかぶって、思い切り『彼』へと突き出した。ーが。その突き出した槍の先に『彼』はおらず、いつの間にかーフルーヴの腹へと剣の持ち手を叩き込んでいた。その攻撃は、先程のネロの攻撃とは違い、間違いなく体へと叩き込まれている。
「「ほら、どうした?まだ一撃だぜ」」
「・・・舐めんじゃねぇぞ」
「「舐めてねぇよ」」
フルーヴは『彼』に向けて、攻撃、攻撃、攻撃。しかしそのフルーヴの攻撃をいとも簡単に、流れるように『彼』はかわし、かわし、かわし。しかし、それでも『彼』は確実に、自身へと攻撃は叩き込んでくる。
「す、すごい・・・」
離れたところから傍観することしかできないルインは、『彼』とフルーヴの戦いを見守りながら、仲間達の治癒を行っていたのだが、『彼』の戦い方はどこか引き込まれるような、そんな感覚でー踊っているような『彼』に、つい言葉が漏れた。
「・・・ぐっ、・・・」
「「・・・流石にまだ全力、ってわけじゃなさそうだな」」
そう言いながら、『彼』は戦闘開始後初めて、その剣を振るった。その剣から溢れ出す焔は、蒼炎。
「「瞬焔・・・烈火斬っ‼︎」」
その技は、ユーガのそれと同じでありながら同じではなくー左右に切り裂いたのちに地面に打ち付けた込んだ蒼炎を纏った剣が、その焔がー焔柱のように立ち上がった。あまりの威力にフルーヴは怯み、思い切り吹き飛ばされる。そのまま蒼炎を身体に纏いながら地面を転がり、その衝撃で蒼炎がぶすぶすと音を立てて消え去る。ー刹那、フルーヴの下の地面に魔法陣が展開されていき、そこから脱出はもはや、不可能ー。
「「荒れ狂え水流、悪しき力を飲み込み塵と化せ‼︎・・・アクアディテクト‼︎」」
魔法が発動すると同時にとてつもない水柱が立ち上り、フルーヴの身体を空中へと放り投げた。その身体へと、『彼』が思い切り跳躍して蹴りを、背中に拳を叩き込んで、地面へと叩き落とす。
「が、っ・・・‼︎」
遅れて地面に着地した『彼』は、余裕すら感じさせる笑みを消さないまま、どこか見下すような視線をフルーヴに向けた。
「「・・・もっと本気出してくれてもいいんだぜ?」」
ー見て明らかに、フルーヴを圧倒している。ネロ達が四人がかりでも勝てなかったあのフルーヴを、たった一人で余裕すら感じさせながら圧倒しているのだ。ルインは『彼』の姿を目に捉えながら、ぞっと背中に悪寒が走る感覚に身を震わせた。ーと、意識を失っていたネロが呻き声をあげたのを確認して、ルインはネロに呼びかけた。
「ネロ、しっかりしてください」
「・・・る・・・ル・・・イン・・・?フルー・・・ヴ・・・は・・・」
「大丈夫です、『彼』が・・・『彼等』が戦っています」
「・・・そう・・・か・・・目、覚ましたんだな・・・」
ネロは座り込んだ状態で身体を起こし、フルーヴの方へ視線を向けーん?と眼を疑った。見間違いかな?なんかー。
「・・・な、なんか、融合してね?あいつら」
「・・・どうやら、そのようです」

『彼』は視界の端でネロが目を覚ましたのを確認して、ほっ、と安堵の息を心の中で漏らした。
((良かった、無事だったか))
にしても、とフルーヴから意識は外さないまま、両手を広げたり握ったり、身体を揺らしたりを繰り返し、うん、と頷いた。
((・・・この身体にも、まぁ慣れてきたな))
ーと、フルーヴが頭に向けて槍を突き出してくるが『彼』はそれを自身の膝を崩して体勢を崩す事で回避し、よ、と小さくつぶやいて身体を半回転させ、フルーヴの顎に蹴りを入れる。怯んだフルーヴに魔法をいくつか詠唱して追撃を重ね、さらにフルーヴを吹き飛ばしていく。
「「力よ爆散せよ、穿ち抜け」」
その吹き飛ばした体の先に魔法を発動させ、魔法が爆散すると同時にフルーヴの体がその魔法に直撃する。魔法の反動で地面に叩きつけられたフルーヴに視線を向けて、へぇ、と小さく呟いて口を開いた。
「「なるほど、確かに『合体』の力ってのは凄そうだな」」
『彼』はトビの記憶を読み解いて、『合体』の能力を思い起こす。二人の力が混じり合い、一つになることでとてつもない力を生み出すとの事だったが、正直半信半疑であった。ただ、この力を見る限りではー。
「「本当っぽいな・・・。ま、『絆の力』ってやつか」」
「・・・絆、だと・・・?」
「「おいおい、まだやんのかよ?力の差は一目瞭然なんだし、諦めた方が身のためだぜ?俺だって、アンタを殺したくはないからな」」
「・・・なるほど、貴様らが合体すると・・・生意気さも増すようだな」
「「はっ、そりゃど~もっ!」」
『彼』はそう言い放つと、フルーヴの懐へ一瞬で入り込んでその腹に思い切り膝蹴りを入れる。フルーヴが怯んで僅かに浮いた体にすかさず横蹴りを叩き込み、フルーヴの体を横倒しにさせる。さらに間髪入れず、ユーガの剣とトビの銃でフルーヴへ連撃を狙うが、フルーヴはそうはさせじと素早く起き上がって槍を構え、『彼』を睨みつける。
「やはりあの時・・・ゼロニウスの処刑の時に、計画もかなぐり捨てて貴様は殺しておくべきだったかもしれねぇな、トビ・ナイラルツ」
「「・・・そうかもな、てめぇの判断ミスで俺は・・・『俺達』は生きている。てめぇにしては随分と滑稽なミスだな」」
「・・だが、今ここで貴様ら二人とも殺せば何の問題もない」
おかしい。フルーヴは口を開きながら、そう考えた。なぜ、コイツは僕を殺さない?先程もコイツが言っていたように、力の差は正直明らかだ。僕はこのままでは、負ける。それはコイツも確実にわかっているはずだ。なのに、なぜ本気を出さない?僕を殺さない?
「・・・何故だ」
そう思うと、自然に言葉が口からこぼれ出た。あ?と『彼』は怪訝そうな表情でフルーヴに視線を向ける。その紫の瞳は、全てを見透かされているような感覚がして、どこか居心地が悪い。
「何故・・・貴様は僕を殺さない。力の差は歴然なのは貴様もわかっているのだろう」
「「・・・・・・」」
「答えろ」
「「・・・理由なんかねぇ。ただてめぇは計画のためとはいえ『俺』を助けた。・・・まぁ恩返し的な?」」
その言葉を聞いて、フルーヴはハッとした。僕はコイツを殺すために来た。では、コイツはどうだ?僕を殺しに来た?否、コイツは『仲間』を守るために戦っていた。フルーヴの脳内に、『彼』との戦いが掘り起こされる。挑発こそしてきていたが、コイツは僕を殺そうとしていたか?むしろ、力の差は歴然だから諦めろ、とまで言った。『僕を殺さないために』。
「「はっきり言って」」と、『彼』はさらに言葉を継ぐ。「「てめぇを殺してぇのは山々。だが、借りた恩を借りっぱなしは俺は性じゃねぇからな」」
「・・・貴様も・・・甘いな、僕達は敵だぞ」
「「だったら尚更、敵からの恩は返させてもらうさ」」
「良心・・・いや、甘さか」
この甘さは、きっとユーガだけの甘さではない。少なからずトビもまた、ユーガに触発されて甘さが出ているのだろう。ちっ、とフルーヴは舌を打って槍を背中に納め、『彼』に視線を向ける。
「・・・ここは引く。正直、貴様の力は想定外だ」
「「・・・そりゃどーも」」
「だが、次だ・・・。次は殺す」
「「俺も・・・俺達も、次は全力だ。負けねぇぜ」」
剣と銃を納めた『彼』を見て、フルーヴは嘆息してその場から立ち去ろうと踵を返しー、何かを思い出したように、『彼』へ視線を向ける。
「・・・オマエ、名前は」
「「は?」」
「『あいつら』とはまた違う存在なんだろうが。なら、名前の一つくらいあってもいいだろ」
「「・・・名前か・・・」」
『彼』は少し唸って、しばらく考えた後にふと閃いたような表情で顔を上げた。そうだな、と前置きを置いて、右の拳を握りしめてその紫の瞳をまっすぐにフルーヴに向ける。
「「トビとユーガが合体して・・・」」

「「トーガだ」」

「「おい、皆大丈夫か」」
フルーヴが立ち去った後、倒れている仲間達の側に座り込んだ『彼』ートーガに、回復をしてもらった仲間達は頷いて、トーガに視線を向ける。
「・・・お前ら、何で合体しちまったんだ?」
ネロがトーガに向かってそう尋ねるとトーガは、さぁ、と首を傾げて腕を組んだ。
「「さっき俺が『緋眼』の力を解放した時、トビが力を貸してくれたんだが・・・そしたらいつの間にか混ざっちまってな」」
「・・・恐らく、対となる『緋眼』と『蒼眼』を持つお二人が『共鳴』した事で、前代未聞の元素フィーアの融合が発生してしまったのでしょう」
「それが、『融合』・・・?」
そう言ったルインにミナが尋ねると、えぇ、とルインは頷いてトーガに視線を向けると、トーガもまたルインに視線を向けていて、なぁ、とルインに問いかける。
「「『融合』したら、もう二度と元に戻れないとかあるのか・・・?トビの記憶では、戻るための術がわからねぇんだ」」
「いえ、それに関しては大丈夫ですよ。あなた方を繋いでいる元素フィーアはもうすぐ完全に乖離して、元のお二人に戻れると思います」
「んじゃ、この合体もそんなに長くは持たないってことね~、やっぱり力には代償があるよねぇ」
リフィアが呟くと、メルが考え込むように腕を組んで口を開く。
「大体、三十分くらい・・・という事でしょうか」
と、メルが呟くと同時に、トーガの体が眩い光を放ち出して仲間達の視線がトーガへと集まる。その眩い光が収まると同時に、トーガの姿はもはやそこには無くそこにはいつもの二人がー、ユーガとトビの姿が、そこにはあった。
「あ、戻った!」
「・・・やれやれ、まさかお前と『融合』する事になるとはな・・・」
呆れたように口を開くトビに、ユーガは笑みを浮かべて視線を向ける。
「でも、すげぇ力だったな・・・!」
「それは否定できませんね」とシノがユーガとトビ、交互に視線を向ける。「しかも、あの力でまだ本気ではなかった・・・」
えぇ、とルインもその言葉に同意して、ところで、と地面に座り込んだユーガとトビの疲弊具合を確認して口を開く。
「どうやら、ただ疲れるだけ・・・ではないようですね」
「・・・あぁ」
トビは頷いて自分の右手を眺め、自身の元素フィーアが指向性を持って動かせない事に舌を打ち、目の前に立っているルインに視線を向ける。
「・・・上手く元素フィーアの操作ができねぇ。多分、『融合』のとんでもねぇ力の反動だ・・・」
「・・・俺も、剣に元素フィーアが込められない・・・多分しばらくしたら直るけど、諸刃の剣かもな・・・」
「まぁ」とネロが髪を掻きながら、少し呆れたような表情を浮かべた。「そもそもユーガの力やトビの力自体が諸刃の剣だし、二人分の力を解放させたんだ」
「反動はそれ相応、という事ですかね・・・」
メルがそう言うと、とにかく、とリフィアが手を叩いて話を切り替えるように口を開く。
「今はユーガ君とトビ君、それにアタシ達も休まないとね。今はとにかく休む事に専念しよーよ」
「ですね」
とルインも同意して頷き、ユーガをネロが、トビをリフィアが支える形で宿屋へ足を踏み出す。明日からアルノウズの人々のサポートなどで、さらに忙しくなるだろうな、とユーガは思考を巡らせながら、重い足取りで宿屋への道を一歩一歩、踏みしめた。

「・・・ッ、はぁ、はぁ・・・」
その頃。元の世界に戻ったフルーヴは、先程トーガから受けた傷の痛みに顔を顰めながら、木の陰に座り込んで、自身に回復魔法をかける。殺すつもりではないと言うのに、トーガのあの力。ふっ、とフルーヴは小さく笑みを浮かべて、その紅色の眼を閉じる。
「・・・素晴らしい、素晴らしいぞ・・・あれが、『合体』の力か・・・」
先程、トビを殺しておくべきだったと言ったが、やはり生かしておいて正解だった。自分の『計画』に、『彼』はー『彼等』は、目指す力のその先を見せた。
「・・・中々良いものが見れた・・・。これでまた一歩、僕の計画に近付いた・・・」
フルーヴは僅かにその口元に笑みを浮かべ、自身を癒す回復魔法をかけ続ける。その回復魔法の輝きはどこか禍々しく、かつ怪しく光を放ちながらフルーヴの体へと吸収されていった。
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