cross of connect

ユーガ

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絆の邂逅編

第七話 川沿いの調査員

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「・・・トビは・・・初めて誰かを殺したのはいつなんだ?」
牢屋から脱出し、どこへ向かうでもなく歩いていたトビにユーガは声をかけた。蒼い眼が、ユーガに向けられる。
「・・・七歳の時」
「七歳⁉︎」
「・・・ああ。兵士に殺されそうになったところを俺が短剣で刺したんだ」
ユーガは驚いたようにトビを見た。七歳ー、七歳で人の命を奪った。自分なら耐えきれない、とユーガは確信する。
「人を殺す事は怖いか?」
不意に、トビにそんな事を聞かれてユーガは俯いた。
「・・・怖くない、わけじゃないけど・・・」
「・・・俺達は地震調査、魔物の凶暴化の原因は恐らく元素の不安定が原因だろう。だが、それを調べていくなら今回のようにミヨジネアの奴らが襲ってくるっつー訳だ。わかるか?」
トビは少し俯き、視線を地面に落とす。
「俺達がこれからやろうとしてる事は、ミヨジネアにとって害な事。それを阻止するために、奴らは俺達を襲いに来るって訳だ」
「・・・また、誰かの命を奪うって事か・・・」
ユーガは自分の掌を見つめて呟く。そこでルインも口を開いた。
「このような場所ー、街中以外での殺人等は家族や議会から立証されない限り、法とはなりません。ユーガも知っているでしょう?」
「ああ・・・けど・・・」
「あなたが人の命を奪う事が怖い事はわかります。ですが・・・下手をすれば、こっちが殺されかねない」
ルインは顔を引き締めてユーガを見る。ユーガは少し顔を上げて、
「うん・・・そうだよな・・・」
と呟いた。
「俺は・・・まだ死にたくないよ」
自分に言い聞かせるように。奪った命を忘れないように、ユーガは自分の胸の前で拳を握りしめた。
「あれは・・・街、か?」
先頭を歩いていたトビが声を上げた。何かを発見したようだ。ユーガはトビの横へ走って、じっと眼を凝らす。
「・・・うん、街だ。・・・セロ、ツール・・・って門に書いてあるな」
トビはもう一度眼を凝らすが、全くそんな文字は読めない。
「ユーガ。お前のその異常な視力は、恐らく緋眼を生まれつき持つ者の特権のようなもんだ」
え、とユーガは立ち上がってトビを見た。
「この視力が・・・?確かに、生まれつき視力はずっと良かったけど・・・」
「ああ。特殊な眼を持つ者は、何かしらの能力が飛躍的にぶっ飛んでるらしい。お前の場合、それが『視力』なんだろう」
ユーガはへぇ、と自分の眼を手をかざした。
「この眼が・・・か・・・」
世界を滅ぼすほどの力を持っているが、実際視力が良くて助かっているのは事実だ。
「とにかく、あそこに行きましょう。ここがどこなのか、どうすれば帰れるのか聞いてみませんか?」
そう言って、ルインは歩き出す。だな、とトビも頷いてルインの後を追って歩き出す。ユーガは掌ををまじまじと見た。
(・・・・・・よし)
ぐっ、と手を握り締めて顔を上げ、トビとルインを追いかけて走り出した。

「ようこそ、鉱山の街、セロツールへ」
ユーガ達が門をくぐると、そんな声と共に男性が出迎えた。トビは、ふーん、と辺りを見渡す。そこら中に巨大な穴があり、その中では男性がつるはしを持って何かを掘り出していた。
「鉱山の街、か・・・」
「すみません、お尋ねしたい事があります」
そう言って、ルインは男性に声をかけた。
「ここの国名はどこですか?」
「ここはミヨジネアさ。我らが四大幻将様が収める国だ」
ユーガがそこへ口を挟み、質問をする。
「四大幻将・・・ってのは何なんですか?」
おや、という顔をして男性は腕を組んだ。
「知らないのかい?もしかして、放浪者かい?まぁ良いけどさ。四大幻将様は、ミヨジネアの首都であるメレドルに拠点を構えるミヨジネア王国騎士団のエリートの四人さ」
「王国騎士団・・・」
ユーガは顎に手を当てて呟く。トビも男性を見てさらに質問を重ねる。
「すまないが、俺達はケインシルヴァに行きたいんだが・・・どうすればケインシルヴァに行ける?」
トビがそう聞くと、男性は手を振った。
「残念だが、今はミヨジネアから出る事はできないよ。もし出ようものなら、四大幻将様方が飛んできて捕まっちまうんだ」
「捕まる⁉︎なんでミヨジネアから出ようとするだけで捕まっちまうんだ⁉︎」
「さぁねぇ・・・緊急事態だとかで、連絡船も出してもらえないからね。それに、この国には港がメレドルにしかないんだよ。・・・と、仕事に戻らないと。もういいかい?」
はい、とユーガは頭を下げる。
「ありがとうございました」
「いや、じゃあね」
そう言って、男性はつるはしを手に持って先程の穴の中へ入っていった。それを見送って、ユーガは腕を組んだ。
「・・・くそ、ミヨジネアから出られないって・・・早くケインシルヴァに戻って調査を再開したいのに・・・」
「なんとか」とトビ。「ミヨジネアから出たいもんだが・・・どうする?」
でしたら、とルインがユーガとトビを見る。
「情報も無いですし・・・メレドルに向かってみるのも手かと思います」
トビは顎に手を当て、
「しかし、四大幻将の本拠地だろ?危険じゃねぇのか?」
と言った。確かに、危険ではある。いつ四大幻将に襲われてもおかしくない。しかし、港がメレドルにしかないのであればー。
「・・・行くだけ行ってみないか?このままここで待って何もできないよりは良いと思うし」
ユーガは二人を見て言った。トビは一瞬渋い顔をしたが、すぐに首をやれやれと振った。
「行動あるのみ、ってか・・・わかったよ、行けば良いんだろ?でも、四大幻将には見つかるなよ」
ユーガはうん、と頷いた。そして、あ、と何かを思い出したように声を上げた。
「なぁ、トビ。ソルディオスで何で村長さんの家にずんずん入って行っちまったんだ?」
「・・・ちょっと気になる事があったんだよ。それだけだ」
それだけ言うと、歩幅を広げてどんどんメレドルに向かって歩いた。それを呆然と見ていたユーガに、ルインが声をかける。
「トビは自分のせいで捕まった事を気にしてるんですよ。ヘマをした、と。それと、ユーガ。一つお伺いしたい事があります」
ルインにそう言われ、ユーガは眼をルインに向けた。
「あなたのその眼・・・緋眼は、前のように力を発動する事はできますか?」
「・・・いや、あん時はトビを助けるのに必死で・・・どうやってあの力を使うのかわかんねぇんだ」
そうですか、とルインは何かを考え込む。ユーガは首を傾げて、何でだ?と尋ねた。
「いえ、あの緋眼の力・・・無闇に力を使うようなら、本当に世界を滅ぼしかねませんから・・・少し気になったんですよ」
「・・・そうか・・・」
もう既に知っていた事ではあるが、自分自身がそんな力を持っている、と思うと、恐怖心が膨れ上がる。いや、と首を振って、
(俺の事は後だ・・・今は早くケインシルヴァに帰るためにメレドルに行かないと)
と自分に微かな苛立ちを覚えながら、一人先を歩くトビに追いつくために走り出した。それを追いかけながらルインは、ふっ、と笑い、
「・・・緋眼と対になる存在は蒼眼・・・ですか・・・。これも何かの運命、なのでしょうかね・・・」
前を並んで歩くユーガとトビを見つめて呟いた。

「・・・見張りがいるみたいだな」
トビが物陰に隠れながら呟く。と言っても、ここはメレドルではない。メレドルへ向かう途中、巨大な橋に差し掛かったのだがそこには検問が張られていたのだ。
「・・・ええ・・・何のためかはわかりませんが、脱獄した私達を捕まえる為のものだとしたら厄介ですね」
「くそ、早くメレドルに行って船に乗りたいのに・・・」
ユーガが拳を握り締めて呟く。その時、ん?とトビが何かを見つけたように声を上げた。どうした、とユーガが聞く。
「・・・この橋、川を跨いでる。下を通れるんじゃないか?」
なるほど、とルインが手を叩く。確かに、それしか手はないかもしれない。この検問を見つからず、とは難しいだろうし、見つかった時にまた命を奪う事になるのだ。できるなら、戦闘は避けたい。
「わかった、そうしよう。どこかから下に降りれるかな・・・?」
ユーガが提案すると、トビが、お、と声を上げてとある一点を指差した。そこは傾斜になっており、下に降りられるようだ。ユーガ達は頷き合い、兵に見つからないように慎重にそこを目指す。川まで降りて、ようやくふぅ、と息をつく事ができた。
「何とか見つからずに済んだな・・・」
「ええ・・・ですが、中々な大きさの川ですね・・・これは普通に渡るのは難しいかもしれませんよ」
ルインの言う通り、川は中々川幅も広く、流れも急だ。どうしよう、とユーガは腕を組む。
「橋は渡れないし、川は泳いで行くのも難しそう・・・打つ手がないか・・・」
また人に剣を向けるのか、とユーガは気落ちして俯く。歯を噛み締め、剣の柄に手をかけた、その時。
「あの・・・」
そう声がかかり、ユーガは、え、と顔を上げた。そこには、長い茶髪で茶色のコートを見に纏い、紫の瞳で少し恥ずかしげにユーガを見つめる少女ーおそらく歳はユーガより少し下くらいーが立っていた。
「・・・向こう岸に渡りたいのであれば、その方法をお教えしますけど・・・」
少女は少しか細い声でそう言った。ホントか、とユーガが呟くが、トビは銃を引き抜いて少女に向けた。
「トビ⁉︎」
「・・・いきなり出てきて、んな上手い話を持ちかけてくる・・・そんなの、誰が信用するんだ?」
切れ長な眼を少女に向け、トビは銃を逸らそうとしなかった。ー恐らく、信用しかけたユーガに向けた嫌味が含まれているだろうが。
「・・・ですよね。この先に私の住む小屋があるんです。ひとまず、そこへ来ていただけませんか?」
「断る」
「即答⁉︎」
「いきなり出てきた怪しい奴の家に来て話しましょう?虫が良すぎねぇか?」
眼を細めて、トビは少女を睨んだ。そこへ、まぁ、とルインが少女に向けて微笑んだ。
「トビ、待ってください。・・・たしかに、あなたの事は信用できませんが・・・あなたは誰なんですか?あなたの素性を教えてください」
「・・・私はミナ・アクセリアと申します。突然話しかけてしまってごめんなさい。私はミヨジネア国王から世界で起こっている地震の調査を任されている、王城直属の調査員です」
ユーガは、え、と少女ーミナを見た。
「ミナ・・・だったよな?俺達も地震の調査をしているんだ!目的が一緒なんだな!」
ユーガがミナに笑顔を向ける。トビが、おい、とミナに銃を向けたままユーガに眼を向けた。
「俺達の目的をこいつに話しちまっても良いのか?まだ信用できるとは限らねえぞ」
「けど、目的は一緒なんだろ?なら、俺達を陥れる意味はないんじゃないか?」
こいつはーユーガは、疑う事を基本的にしない。こんな性格だから、どうせ今までも騙され続けてきたんだろう、とトビは確信する。ちっ、と舌打ちをして銃を下ろす。
「・・・どうなっても知らねぇからな」
ああ、とユーガは頷いてミナに視線を向けた。
「こっちです」
ミナがそう言って、歩き出す。ユーガ、トビ、ルインはそれに伴って着いて行った。ー最後までトビは納得いかない顔をしていたが。

「どうぞ」
ミナが住んでいる、という小屋へ案内されたユーガ達に、ミナが紅茶を出した。ユーガは礼を言って、紅茶を口に入れる。ほわっと口に茶葉の香りが広がる。久しぶりに高級な紅茶を口にした、とユーガは思い出す。ーと、横を見るとトビが紅茶を手に持ってユーガをまじまじと見ていた。ーどうやら、ユーガに毒見をさせたらしい。ユーガは苦笑いし、椅子に座ったミナを見た。
「・・・ミナは地震の調査はどこまでわかっているんだ?」
「今わかっているのは、地震が発生し始めた事で魔物が凶暴化。凶暴化の原因は元素フィーアの不安定化が原因だと思われます」
トビは紅茶のカップを皿に置き、それは、と前置きをする。
「俺達がソルディオスで調べたかった事だな・・・やはり元素の不安定化が原因なのか・・・」
トビが腕を組む横で、ルインは顎に手を当ててミナに眼を向けた。
「ミナ。その元素の原因はわかりますか?」
「いえ・・・ですが、とある場所で異様に元素を使用している場所があります」
ユーガはその言葉を聞き、首を傾げる。
「とある場所?それってどこなんだ?」
ミナはまっすぐ、ユーガを見る。
「それは・・・メレドルです。メレドルで異様な量の元素を使用しているんです」
「メレドルで⁉︎・・・やっぱり、メレドルには行くべきなのか・・・」
ユーガはうーん、と腕を組む。あの、とミナがユーガに紫の瞳を向けた。
「ユーガさんは・・・緋眼の持ち主ではありませんか?」
緋眼。この言葉がミナの口から出てきて、ユーガは眼を見張った。
「あ、ああ・・・そうだけど・・・」
「・・・実物は初めて見ましたが・・・しかしこれは・・・」
ミナがユーガの眼を覗き込むように見つめ、ユーガは自分の体温が上昇するのを感じた。元々、女性と話すのは得意ではないのだ。ユーガが助けを求めようとトビとルインに視線を向ける。トビは切れ長な眼を細めてユーガを見ている。・・・呆れている眼だ。ーしかし、ルインは何もない天井をただ見つめて固まっていた。どこか上の空になっている。
「・・・ルイン?どうした?」
ミナから顔を逸らし、ルインを見る。しかし返事はなく、虚空を見つめて動かない。
「おーい、ルイン?」
トビが頬をぺちぺちと叩くと、ルインが口を開いた。
「・・・元素の、流れが・・・おかしい・・・」
ユーガとトビとミナは顔を見合わせて、もう一度ルインを見た。はっ、と目が覚めたようにルインは目をぱちくりとさせてぽかんと口を開けている。
「・・・あれ、私は・・・」
「・・・ルイン、大丈夫か?どうしたんだ?」
「・・・いえ、ちょっと疲れているみたいです・・・」
大丈夫か、とユーガが聞くと、ルインはいつも通りの人懐っこい笑顔に戻っていた。少しほっとして、ユーガはミナに視線を戻す。
「ミナ、俺達はさっき話した通り、ケインシルヴァに帰りたいんだ。なんとか帰れないか?」
そうですね、とミナは腕を組む。
「やはり、メレドルに行かないと船には乗れませんから・・・メレドルに向かうのが良いと思います」
「でも、どうやって橋の向こうに渡るんだよ」
トビがそう聞くと、ミナは、ふふ、と笑みを浮かべて全員を見回した。
「それは、明日のお楽しみです」
ユーガ達は顔を見合わせた。何か得策でもあるのか、と思いながらその方法はやはりユーガ達には浮かばなかった。

「こ、これは・・・」
ユーガはミナの家から出て、言葉を失った。昨日まで川に流れていた水がすっかり干上がっており、川底を通れるようになっていたのだ。
「なるほど・・・この川は人口川なのか・・・」
トビとルインが納得したように頷く。ユーガは首を傾げてどういう事だ?と尋ねる。
「・・・つまり、この川は最上流がダムのように人工的に堰き止めたりする事ができる、という事です。その止める日がたまたま今日だった、という事でしょう。これはラッキーでしたね」
ようやく理解したユーガはなるほど、と呟いて川底を見る。魔物はいるが、兵士などはいないようだ。
「・・・よし、行こう」
ユーガはそう言って、川底へジャンプして降りた。トビとルインも同じようにして川底へ降りる。ユーガはまだ上にいるミナを振り返って、
「ミナ?来ないのか?」
と尋ねた。ええ、とミナは頷いて顔を俯かせた。
「行きたいのは山々ですが・・・私はここで調査を続けなければいけませんし・・・」
「でも、目的は一緒だろ?地震の調査、だからさ」
「ええ、まぁ・・・」
「なら、俺達と一緒に来ないか?世界を色々回れば、地震の原因も本格的に消滅させる事ができるかもだろ?」
ユーガはそれでいいかな、とトビとルインを振り返った。ルインは、良いんじゃないでしょうか、と笑顔を向ける。トビは・・・渋い顔をしていたが。
「どうかな、ミナ?」
「・・・わかりました、ご一緒させていただきます。よろしくお願いします、ユーガさん、トビさん、ルインさん」
「ああ、よろしくな」
ユーガはミナに笑顔を向けて言った。トビはやれやれ、と首を振る。ーどうやら、反対するのは諦めたようだ。
「そういや、ミナは何の武器で戦うんだ?見たところ武器とか持ってないけど・・・」
ユーガがそう尋ねると、ミナはコートの中からナイフー短剣のようなものーを取り出した。
「このナイフで戦います」
ふーん、とトビが口を開いた。
「・・・ま、近距離で戦うのはユーガしかいなかったしな。助かるっちゃ助かるか。おい、ミナ。お前、俺達と来るならそれなりの働きを見せろよ」
「ええ、わかっています」
ひゅ、と空を切る音が聞こえた。トビの顔すれすれをミナの投げたナイフが切ったのだ。トビの切れ長な眼が見開かれ、トビはミナに視線を移す。ー怖い笑顔を浮かべてそこに立っていた。
「・・・ふふ♪」
・・・怒らせちゃやべぇ奴だ。ユーガ達は同時に、そう確信した。

川の底を渡り、橋の反対側まで来る事ができたユーガ達は何度も野宿を繰り返し、何日経ったのかもわからなくなった頃、ようやくメレドルの入口が見えてきた。
「・・・やっと着いたな・・・」
ふぅ、と息をついてユーガはメレドルの入り口を見上げた。街の入り口にはミヨジネア兵が立っていたが、ミナが友人だ、と説明をしてくれたお陰でさほど怪しまれる事なくメレドルに入る事ができた。
「・・・ユーガさん、私はミヨジネア国王ー、ヘルトゥス王に調査の現段階の報告をしなければいけませんので、宿で待っていてもらえますか?」
ミナがユーガにそう言って、城に向かって歩き出した。ユーガ達はミナの言われた通り、宿に向かう。すぐにミナは来るだろうと思い、一通り風呂に入ってミナを待っていたが全く来る気配はなかった。
「・・・まだかなぁ」
「ま、報告っつって王サマに俺らの事を密告しに行ってるかもな」
トビが意地悪い笑みを浮かべて呟く。
「トビ。見境なく疑うのは良くありませんよ」
ルインが本を読みながらトビに注意を促す。トビは、へいへい、と首を振ってベッドへ寝転んだ。ーその時。
「ー!」
三人は同時に扉の外を見た。誰かの悲鳴が聞こえ、確かに聞こえてそれぞれの武器を手に取って扉を開けて宿から出る。そこへ、商人がユーガ達のそばへ寄ってきて、
「ああ、あんた達!今出るのは危険だ!」
と叫んだ。
「なにがあったんですか⁉︎」
「それが、四大幻将が・・・突然この街で暴れ出したんだ!」
「なんだって⁉︎」
ユーガ達は顔を見合わせる。トビが顎に手を当てて商人を見る。
「今そいつらはどこに?」
「・・・それが、城に何とかがあるって言って城に・・・」
ユーガは息を呑んだ。城には、王がー、それに、ミナもいるはずだ。ユーガは街の中心に聳え立つ城に向かって走り出した。トビとルインが呼び止めたように聞こえたが、止まるわけにはいかない。ミナが危ないのだから。ユーガは黒い髪を揺らし、夜が近づくメレドルの街を駆けた。

「おい、ユーガ!」
一人脇目も振らず走り出したユーガを止めようとトビは叫んだが、聞こえていないのか全く止まる気配がない。
「・・・行ってしまいました・・・」
ルインが呆然と呟くのを聞いて、トビは頭を抱えた。
「あの馬鹿が・・・どうしてすぐに突っ込むんだ・・・」
ちっ、と舌打ちをしてその後をトビ、ルインと追いかける。ユーガは仲間に何かがあるとすぐに後先考えずに突っ込む悪い癖がある。何も考えず、ただ仲間を助ける。その想いだけで動くのだ。
「・・・くそ、あんな奴放っときてぇのに・・・」
怒りを覚えながらトビは呟いた。おや、とルインが少し意地の悪い笑顔を浮かべる。
「もしそうなら、放っておいても良いのではありませんか?」
「・・・ここで放っておいたら、あの馬鹿何するかわかんねぇだろ。下手したらミヨジネア全域を敵に回すかもしれねぇし、あいつは緋眼の使い手だ。あいつの力を四大幻将が手に入れたら危険な事間違いなしだろ」
なるほど、とルインは頷く。なんだよ、とトビが切れ長な眼をルインに向ける。
「いえ、別に」
中々こいつも・・・アレだよな、とトビは眼を細めてマハから眼を逸らせ、ユーガの走った後を追いかけた。どこまでも単純な馬鹿を恨み・・・しかし、笑みを浮かべられる。面倒事は嫌いだったはずなのだが、とトビは考えを巡らせた。
(・・・あの馬鹿が移ったか?情けねえ・・・)
トビは微かに、誰にも分からないほど小さく笑みを浮かべて完全に夜が更けてだんだんと暗くなるメレドルの街をルインと共に走った。
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