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絆の邂逅編
第二話 トビという男
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「・・・遅いと置いてくぞ」
足を合わせて歩くユーガとネロを振り返って、一人スタスタと先を歩くトビは言った。
「・・・なんだよ、偉っそーに・・・」
ネロは小さく舌打ちをして、呟いた。ユーガはそれを気にせず、トビの横へと走って、
「・・・なあ、トビ?なんでこんな森の中へ来たんだ?」
と聞いた。そう、少し気になっていた事だ。調査というのだから、シレーフォを出てから近くの辺りを調べるものだと思っていたが、トビはそうではなくとある森へ向かっていたのだ。
「・・・ここが地盤崩壊を起こしかけている場所だからだ」
「地盤崩壊・・・」
そういえば、ルーオス公爵も言っていた。しかし、本当にこんな森の中で地盤崩壊など起こっているのだろうか?
「・・・百聞は一見にしかずだ。黙って付いて来い」
そう言うと、トビは再び歩幅を広げた。ネロはトビの後ろを不機嫌そうに付いて行ったが、ユーガはトビの横に何度も何度も並んで歩いた。ーと。
「・・・止まれ」
唐突に、トビが横に手を出した。ユーガはなんだよ、と聞こうとしたが、トビに睨まれて口をつぐんだ。
「・・・来る!」
トビがそう言い、軍服の中の太ももから二丁拳銃を引き抜いた。何が、と聞く前にユーガはその正体を知った。それは、狼のような見た目。その眼は赤く、牙は血に染まっている。魔物だ。それも、四体。
「戦えるのか?」
トビが聞いた。ユーガは腰に横に取り付けてある剣を引き抜いた。続けて、ネロも。
「当たり前だろ!実践経験だってあるさ!」
ユーガはそう言うと、剣を構えて魔物ー、ウルフに突っ込んだ。その後ろを、ネロが付いてくる。
ウルフに向けて、剣を振り下ろす。しかし、それはひゅ、と風を切る音を立てただけで終わった。
「!」
かわされた、と思った時にはもう遅かった。同時に二体のウルフがユーガに飛びかかり腕を噛まれ、痛みで叫んだ。そこへ、銃の乾いた音と剣を振る音が聞こえ、二匹のウルフが倒れた。ネロとトビだ。
「悪い、助かった!」
ユーガは噛まれた右腕を押さえて立ち上がる。ーと、急速に右腕がほわ、と暖かい光に包まれた。光が収まると、血が溢れていた右腕の傷が塞がっていた。
「・・・これは・・・!」
ネロが辺りを見渡すと、トビがユーガに回復術をかけていた。
「・・・魔法か!」
「・・・闇の力よ、縮小せよ・・・」
トビの詠唱が聞こえ、前衛で戦っていたユーガはウルフから離れた。
「・・・シャドウレッグ!」
トビの魔法は指向性を持ち、ウルフに一直線に襲いかかった。残るは一体。ユーガは剣を構えてウルフに走った。
「烈牙斬っ!」
ユーガの軌跡を描いた剣がウルフを襲った。ギャウ、と小さく悲鳴を上げ、ウルフは地に倒れた。
ふぅ、とネロが息をつくのが聞こえた。ユーガは剣を振って剣についた血を落とした。剣を鞘にしまって、ユーガはトビに飛びかかった。
「なぁ、トビ!さっきの・・・魔法!すげぇな!なぁ、俺にも教えてくれよ!」
ユーガは目を輝かせてトビを見た。トビは小さくため息をつき、
「・・・行くぞ。この先だ」
と言って森の奥へ早足で向かった。
「あ、待ってくれよ!」
「やれやれ・・・」
ユーガとネロはトビを追いかけて走り出した。
「着いたぞ。ここだ」
「うわ・・・」
トビが立ち止まった所は、地面がボロボロになり、とても植物など生える事のできないほどの地面だった。
「酷いな、こいつは・・・」
ネロが呟く。と、ユーガが足元に視線を向けると、花が何本も落ちていることに気づいた。
「・・・この花達も、全部命があったんだよな・・・」
くっ、とユーガが俯く。地震でこうなる?とすると、ガイアやシレーフォにこんな事が起こったら・・・ユーガは鳥肌を抑えきれなかった。
「とにかく、まずは調査だ。三手に分かれればそれなりに分担はできるだろう」
トビの言葉に、ユーガはわかった、と言って辺りを見渡し、足を踏み出した。ボロボロになった地面は足場も不安定であるため、ユーガは一歩一歩を慎重に踏んだ。
「ただの地震で地盤がこんなにもなっちまうのか・・・」
ネロがそう呟き、地盤を見る。ーと、その時。
「・・・ん?」
ボロボロになった地面の一部が動き、確かに動きネロは目を凝らせた。
「・・・何かいる。気をつけろ」
トビの忠告が聞こえ、ユーガは剣に手をかけた。同じく、ネロも。
「ー!横に飛べ!」
ユーガとネロは反射的にその言葉に従った。その瞬間、ユーガとネロが立っていた場所が爆発したように土が舞い上がった。
「な、なんだ⁉︎」
体制を立て直し、ユーガは舞い上がった土に顔を隠しながら目を凝らせた。そこには、巨大なミミズー恐らく体長二十メートルはあるーがユーガに顔を向けていた。
「なるほど・・・ただの地震じゃねぇって事か」
トビは体内の元素を高めて言った。ユーガも剣を引き抜き、ネロと共に魔物に向けて走った。魔物は奇声をあげ、ユーガに噛み付いた。ユーガは体を捻ってそれをなんとかかわし、そこから体をくるっと回して剣を横に振った。ぷつ、と魔物の皮膚が切れ、肉が溢れる。
「・・・水流よ弾けよ。ウォータショック」
魔物の顔に水が張り付いたと思うと、それは突如爆発した。トビの魔法だ。それをまともに受けた魔物は大きな体を横倒しにしてきた。ユーガとネロはそれをかわし、剣を魔物の体に突き立てた。魔物は奇声をあげて暴れた。
「裂瞬牙っ!」
「裂瞬牙!」
「水流よ、我が弾丸に力を与えよ。スプラッシュバレット」
ユーガとネロとトビは同時に吼え、魔物を切り裂いた。魔物は大きな音を立てて倒れ、元素へと返った。
ふぅ、と息をついてユーガがトビを見ると、トビは座り込み何かをしていた。
「トビ?何してるんだ?」
ユーガはトビの隣に座り込むと、トビは小さな機械のカケラのような物を手に持っていた。
「・・・元素機械のカケラだ」
元素機械とは、元素を動力に変換して動く機械の事だ。しかし、なぜこんな所にー?
「元素機械のカケラが、何でこんな森の中にあるんだ?元素機械は普通、街とかにしか無いだろ?」
ネロが周囲の見回りをしつつ聞いた。
「誰かが落としたとかじゃねぇの?ほら、俺たちの前にこの森を調査しに来た人とかがさ」
「・・・・・・」
トビはそのカケラを黙って胸のポケットにしまい、何事も無かったように踵を返した。
「え、お、おい!どこに行くんだ⁉︎」
ユーガが呼び止めてもトビは振り返る事なく、
「・・・気づいた事がある。それを陛下に報告しに行くんだ」
と言って歩き出した。ー気づいた事って・・・それらしい事なんてあったっけ?ユーガは首を傾げてトビを追いかけた。
「・・・攻撃と魔法を組み合わせて戦う、か・・・何者なんだ、あのトビって奴」
ネロは空を見上げて自問したが、答えが空から降ってくる事は、もちろん無かった。
「・・・魔物の凶暴化、だと?」
ログシオンがトビを見る目を細めた。トビがシレーフォに帰り、開口一番にそう言った。
「ええ。本来あの魔物ー、フォレスワームはあのように凶暴ではありません。むしろ、森を守る存在として地盤沈下を起こす訳がありません」
フォレスワーム、というのが先程の巨大なミミズの魔物の事だろう、とネロは納得した。しかし、森を守る存在が何故ー?
「あの、その魔物・・・フォレスワーム?は何故凶暴化なんてしてしまったんですか?」
ユーガがネロの思いを読んだかのように言った。
「・・・わからぬ。トビの言う通り、フォレスワームは人を襲うことは無いはずなのだが・・・」
「けど、実際俺たちは・・・」
ネロがそこまで言ったところで、話を遮った。いや、遮らざるを得なかった。謁見の間の扉の外から、大きな叫び声が響き渡った。
「何事だ!・・・近衛兵!確認を取れ!」
ログシオンが椅子から立ち上がり、近くにいた近衛兵に叫んだ。近衛兵は無線機を取って無線機越しに聞こえてくる声に対して叫んだ。
「どうした!」
『敵襲だ!ミヨジネアの兵が・・・!うわぁぁぁ!』
「おい!応答しろ!おい!」
それきり、返事はこなかった。聞こえてくるのは、耳障りなノイズの音。
「・・・ミヨジネアの兵だと?」
トビが鋭い眼を謁見の間の扉に向けた。ユーガとネロも剣を抜く体制に入る。
「・・・けど、おかしくないか?」
ユーガがそう呟くと、全員の視線がユーガに集まった。
「だって、ミヨジネアはケインシルヴァとクィーリアの二国と協定を結んでる国だ・・・です。そのミヨジネアから襲ってくるなんて事・・・」
「だが、現に今クィーリアはミヨジネアの兵に襲われている。戯言を抜かすな」
トビはユーガに冷たい視線を送った。たしかに中枢部の国かもしれないが、現実はそうじゃない、と言うように。ーと、謁見の間の扉が激しい音を立てて開いた。
「・・・?」
ユーガは剣を引き抜きかけた手を止めた。開いた扉の先にいたのはー。
「・・・女の、子?」
「あれぇ・・・?まだ兵の残りはいたんだ」
少女は抑揚のない声で呟いた。髪は長く、銀色。目も同様の色をし、長いコートを見に纏っている。歳は、ユーガの少し下くらいだろうか?
「君は・・・?」
ネロが少女に近づく。ーと。
「避けろ、馬鹿!」
「うわっ⁉︎」
トビに服を引っ張られ、横倒しになる。何をする、とネロは言いかけ、口をつぐんだ。先程までネロの立っていた場所に、氷の柱が何本も立っている。
「な、何だ⁉︎」
「これはまさか・・・固有能力、『無詠唱』か⁉︎」
ログシオンが固有能力、という聞き覚えのない単語を口にした。ユーガはその言葉を聞きながら、氷の柱を右へ、左へと避けながら剣を構えて少女へ走った。ユーガが少女の正面からまっすぐ走る。
「はぁっ!」
剣を振り、同時にネロ、トビの2人が合わせて剣を、銃を放つ。それらを全て持っていた杖で弾いた少女は薄ら笑いを浮かべた。
「・・・ふふ、楽しめそうなんだけどなぁ・・・けど、もう時間みたい」
「時間?時間って・・・」
ユーガが言い終わる前に、少女は袋から爆弾のような物を取り出した。それを地面に叩きつけると、煙が立ち上がった。
「煙幕か・・・!」
「くそ、待ちやがれ!」
トビの叫びが消えると共に煙幕も消えたが、そこには既に少女の姿はなかった。逃げられたようだ。
「あれが、四大幻将か・・・」
「ええ、そのようです」
ログシオンとトビの会話を聞き、ユーガは剣を鞘に収めてゆっくりと振り返った。
「四大幻将・・・?」
知らないのか、とネロが前置きする。
「四大幻将は、ミヨジネア王国にある王国兵団のトップ四人の事さ。だが、あんな子が四大幻将だったのか・・・」
「ああ。四大幻将には四人いる。『無垢のレイ』、『鬼将のローム』、『絶雹のキアル』、『煉獄のフィム』の四人だ」
トビがそう言うと、ログシオンがうむ、と頷いた。
「先程のが『無垢のレイ』であろうな。しかし・・・」
ログシオンが言葉を切る。ユーガとネロも、その意味はわかる。そう、ミヨジネアはケインシルヴァ、クィーリアの二国と協定を結んでいたはずだ。しかし、そのミヨジネアの王国兵団が攻めてきたという事は・・・
「・・・まずいな、協定無視って訳か」
トビが腕を組んで考え込んだ。しばらく沈黙が続き、口を開いたのはユーガだった。
「・・・あの、ログシオン陛下。先程口にしていた、固有能力というのは何ですか?」
ログシオンが驚いたように眼を開く。そんな事も知らないのか、とトビが呆れたように腰に手を当てた。
「固有能力ってのは、人が生まれつき持ってる・・・まあ、個性みたいなもんだ」
「じゃあ、さっきの奴・・・レイだっけ?そいつの固有能力が・・・」
「『無詠唱』の固有能力だ。『無詠唱』はその名の通り、詠唱する事なく魔法を発動できる」
ユーガの言葉をログシオンが引き継いだ。
「っつーことは、俺達にも固有能力があるって事だよな?それってどうやって確認するんだ?」
ネロが固有能力に興味を持ったな、とユーガは少し笑う。
「・・・国の教会にあるはずだ。お前らはケインシルヴァの人間だろ?だったらガイアにでもあるじゃねぇの?」
自分で確認しろ、と言ってトビは顔を背けた。
「固有能力、か・・・なんか面白そうだな!」
「一通り調査が終わって、ガイアに帰る事になったら調べてみるか」
ユーガとネロがそんな会話をしているのを横にトビは顔を背けたまま、
「・・・お前の固有能力?そんなのわかりきってるもんだろ・・・」
と小さく、誰にも聞こえない声で呟いた。
「お前の固有能力は・・・」
『緋眼』
「そういえばさ」
夜、ユーガ達はトビが普段世話になっているという宿屋でベッドを取り、ユーガはそう前置きし、隣で寝転がるトビに顔を向けた。
「トビの眼の色って、珍しいよな。なんていうか・・・紺と青の間の色っていうかさ」
たしかにな、とネロが言う。トビは髪に隠れた右眼を押さえて、
「・・・まぁな」
と言ってユーガに背を向けた。その眼はどこか苛立ちを、不機嫌さを表すかのように怪しく光った。
足を合わせて歩くユーガとネロを振り返って、一人スタスタと先を歩くトビは言った。
「・・・なんだよ、偉っそーに・・・」
ネロは小さく舌打ちをして、呟いた。ユーガはそれを気にせず、トビの横へと走って、
「・・・なあ、トビ?なんでこんな森の中へ来たんだ?」
と聞いた。そう、少し気になっていた事だ。調査というのだから、シレーフォを出てから近くの辺りを調べるものだと思っていたが、トビはそうではなくとある森へ向かっていたのだ。
「・・・ここが地盤崩壊を起こしかけている場所だからだ」
「地盤崩壊・・・」
そういえば、ルーオス公爵も言っていた。しかし、本当にこんな森の中で地盤崩壊など起こっているのだろうか?
「・・・百聞は一見にしかずだ。黙って付いて来い」
そう言うと、トビは再び歩幅を広げた。ネロはトビの後ろを不機嫌そうに付いて行ったが、ユーガはトビの横に何度も何度も並んで歩いた。ーと。
「・・・止まれ」
唐突に、トビが横に手を出した。ユーガはなんだよ、と聞こうとしたが、トビに睨まれて口をつぐんだ。
「・・・来る!」
トビがそう言い、軍服の中の太ももから二丁拳銃を引き抜いた。何が、と聞く前にユーガはその正体を知った。それは、狼のような見た目。その眼は赤く、牙は血に染まっている。魔物だ。それも、四体。
「戦えるのか?」
トビが聞いた。ユーガは腰に横に取り付けてある剣を引き抜いた。続けて、ネロも。
「当たり前だろ!実践経験だってあるさ!」
ユーガはそう言うと、剣を構えて魔物ー、ウルフに突っ込んだ。その後ろを、ネロが付いてくる。
ウルフに向けて、剣を振り下ろす。しかし、それはひゅ、と風を切る音を立てただけで終わった。
「!」
かわされた、と思った時にはもう遅かった。同時に二体のウルフがユーガに飛びかかり腕を噛まれ、痛みで叫んだ。そこへ、銃の乾いた音と剣を振る音が聞こえ、二匹のウルフが倒れた。ネロとトビだ。
「悪い、助かった!」
ユーガは噛まれた右腕を押さえて立ち上がる。ーと、急速に右腕がほわ、と暖かい光に包まれた。光が収まると、血が溢れていた右腕の傷が塞がっていた。
「・・・これは・・・!」
ネロが辺りを見渡すと、トビがユーガに回復術をかけていた。
「・・・魔法か!」
「・・・闇の力よ、縮小せよ・・・」
トビの詠唱が聞こえ、前衛で戦っていたユーガはウルフから離れた。
「・・・シャドウレッグ!」
トビの魔法は指向性を持ち、ウルフに一直線に襲いかかった。残るは一体。ユーガは剣を構えてウルフに走った。
「烈牙斬っ!」
ユーガの軌跡を描いた剣がウルフを襲った。ギャウ、と小さく悲鳴を上げ、ウルフは地に倒れた。
ふぅ、とネロが息をつくのが聞こえた。ユーガは剣を振って剣についた血を落とした。剣を鞘にしまって、ユーガはトビに飛びかかった。
「なぁ、トビ!さっきの・・・魔法!すげぇな!なぁ、俺にも教えてくれよ!」
ユーガは目を輝かせてトビを見た。トビは小さくため息をつき、
「・・・行くぞ。この先だ」
と言って森の奥へ早足で向かった。
「あ、待ってくれよ!」
「やれやれ・・・」
ユーガとネロはトビを追いかけて走り出した。
「着いたぞ。ここだ」
「うわ・・・」
トビが立ち止まった所は、地面がボロボロになり、とても植物など生える事のできないほどの地面だった。
「酷いな、こいつは・・・」
ネロが呟く。と、ユーガが足元に視線を向けると、花が何本も落ちていることに気づいた。
「・・・この花達も、全部命があったんだよな・・・」
くっ、とユーガが俯く。地震でこうなる?とすると、ガイアやシレーフォにこんな事が起こったら・・・ユーガは鳥肌を抑えきれなかった。
「とにかく、まずは調査だ。三手に分かれればそれなりに分担はできるだろう」
トビの言葉に、ユーガはわかった、と言って辺りを見渡し、足を踏み出した。ボロボロになった地面は足場も不安定であるため、ユーガは一歩一歩を慎重に踏んだ。
「ただの地震で地盤がこんなにもなっちまうのか・・・」
ネロがそう呟き、地盤を見る。ーと、その時。
「・・・ん?」
ボロボロになった地面の一部が動き、確かに動きネロは目を凝らせた。
「・・・何かいる。気をつけろ」
トビの忠告が聞こえ、ユーガは剣に手をかけた。同じく、ネロも。
「ー!横に飛べ!」
ユーガとネロは反射的にその言葉に従った。その瞬間、ユーガとネロが立っていた場所が爆発したように土が舞い上がった。
「な、なんだ⁉︎」
体制を立て直し、ユーガは舞い上がった土に顔を隠しながら目を凝らせた。そこには、巨大なミミズー恐らく体長二十メートルはあるーがユーガに顔を向けていた。
「なるほど・・・ただの地震じゃねぇって事か」
トビは体内の元素を高めて言った。ユーガも剣を引き抜き、ネロと共に魔物に向けて走った。魔物は奇声をあげ、ユーガに噛み付いた。ユーガは体を捻ってそれをなんとかかわし、そこから体をくるっと回して剣を横に振った。ぷつ、と魔物の皮膚が切れ、肉が溢れる。
「・・・水流よ弾けよ。ウォータショック」
魔物の顔に水が張り付いたと思うと、それは突如爆発した。トビの魔法だ。それをまともに受けた魔物は大きな体を横倒しにしてきた。ユーガとネロはそれをかわし、剣を魔物の体に突き立てた。魔物は奇声をあげて暴れた。
「裂瞬牙っ!」
「裂瞬牙!」
「水流よ、我が弾丸に力を与えよ。スプラッシュバレット」
ユーガとネロとトビは同時に吼え、魔物を切り裂いた。魔物は大きな音を立てて倒れ、元素へと返った。
ふぅ、と息をついてユーガがトビを見ると、トビは座り込み何かをしていた。
「トビ?何してるんだ?」
ユーガはトビの隣に座り込むと、トビは小さな機械のカケラのような物を手に持っていた。
「・・・元素機械のカケラだ」
元素機械とは、元素を動力に変換して動く機械の事だ。しかし、なぜこんな所にー?
「元素機械のカケラが、何でこんな森の中にあるんだ?元素機械は普通、街とかにしか無いだろ?」
ネロが周囲の見回りをしつつ聞いた。
「誰かが落としたとかじゃねぇの?ほら、俺たちの前にこの森を調査しに来た人とかがさ」
「・・・・・・」
トビはそのカケラを黙って胸のポケットにしまい、何事も無かったように踵を返した。
「え、お、おい!どこに行くんだ⁉︎」
ユーガが呼び止めてもトビは振り返る事なく、
「・・・気づいた事がある。それを陛下に報告しに行くんだ」
と言って歩き出した。ー気づいた事って・・・それらしい事なんてあったっけ?ユーガは首を傾げてトビを追いかけた。
「・・・攻撃と魔法を組み合わせて戦う、か・・・何者なんだ、あのトビって奴」
ネロは空を見上げて自問したが、答えが空から降ってくる事は、もちろん無かった。
「・・・魔物の凶暴化、だと?」
ログシオンがトビを見る目を細めた。トビがシレーフォに帰り、開口一番にそう言った。
「ええ。本来あの魔物ー、フォレスワームはあのように凶暴ではありません。むしろ、森を守る存在として地盤沈下を起こす訳がありません」
フォレスワーム、というのが先程の巨大なミミズの魔物の事だろう、とネロは納得した。しかし、森を守る存在が何故ー?
「あの、その魔物・・・フォレスワーム?は何故凶暴化なんてしてしまったんですか?」
ユーガがネロの思いを読んだかのように言った。
「・・・わからぬ。トビの言う通り、フォレスワームは人を襲うことは無いはずなのだが・・・」
「けど、実際俺たちは・・・」
ネロがそこまで言ったところで、話を遮った。いや、遮らざるを得なかった。謁見の間の扉の外から、大きな叫び声が響き渡った。
「何事だ!・・・近衛兵!確認を取れ!」
ログシオンが椅子から立ち上がり、近くにいた近衛兵に叫んだ。近衛兵は無線機を取って無線機越しに聞こえてくる声に対して叫んだ。
「どうした!」
『敵襲だ!ミヨジネアの兵が・・・!うわぁぁぁ!』
「おい!応答しろ!おい!」
それきり、返事はこなかった。聞こえてくるのは、耳障りなノイズの音。
「・・・ミヨジネアの兵だと?」
トビが鋭い眼を謁見の間の扉に向けた。ユーガとネロも剣を抜く体制に入る。
「・・・けど、おかしくないか?」
ユーガがそう呟くと、全員の視線がユーガに集まった。
「だって、ミヨジネアはケインシルヴァとクィーリアの二国と協定を結んでる国だ・・・です。そのミヨジネアから襲ってくるなんて事・・・」
「だが、現に今クィーリアはミヨジネアの兵に襲われている。戯言を抜かすな」
トビはユーガに冷たい視線を送った。たしかに中枢部の国かもしれないが、現実はそうじゃない、と言うように。ーと、謁見の間の扉が激しい音を立てて開いた。
「・・・?」
ユーガは剣を引き抜きかけた手を止めた。開いた扉の先にいたのはー。
「・・・女の、子?」
「あれぇ・・・?まだ兵の残りはいたんだ」
少女は抑揚のない声で呟いた。髪は長く、銀色。目も同様の色をし、長いコートを見に纏っている。歳は、ユーガの少し下くらいだろうか?
「君は・・・?」
ネロが少女に近づく。ーと。
「避けろ、馬鹿!」
「うわっ⁉︎」
トビに服を引っ張られ、横倒しになる。何をする、とネロは言いかけ、口をつぐんだ。先程までネロの立っていた場所に、氷の柱が何本も立っている。
「な、何だ⁉︎」
「これはまさか・・・固有能力、『無詠唱』か⁉︎」
ログシオンが固有能力、という聞き覚えのない単語を口にした。ユーガはその言葉を聞きながら、氷の柱を右へ、左へと避けながら剣を構えて少女へ走った。ユーガが少女の正面からまっすぐ走る。
「はぁっ!」
剣を振り、同時にネロ、トビの2人が合わせて剣を、銃を放つ。それらを全て持っていた杖で弾いた少女は薄ら笑いを浮かべた。
「・・・ふふ、楽しめそうなんだけどなぁ・・・けど、もう時間みたい」
「時間?時間って・・・」
ユーガが言い終わる前に、少女は袋から爆弾のような物を取り出した。それを地面に叩きつけると、煙が立ち上がった。
「煙幕か・・・!」
「くそ、待ちやがれ!」
トビの叫びが消えると共に煙幕も消えたが、そこには既に少女の姿はなかった。逃げられたようだ。
「あれが、四大幻将か・・・」
「ええ、そのようです」
ログシオンとトビの会話を聞き、ユーガは剣を鞘に収めてゆっくりと振り返った。
「四大幻将・・・?」
知らないのか、とネロが前置きする。
「四大幻将は、ミヨジネア王国にある王国兵団のトップ四人の事さ。だが、あんな子が四大幻将だったのか・・・」
「ああ。四大幻将には四人いる。『無垢のレイ』、『鬼将のローム』、『絶雹のキアル』、『煉獄のフィム』の四人だ」
トビがそう言うと、ログシオンがうむ、と頷いた。
「先程のが『無垢のレイ』であろうな。しかし・・・」
ログシオンが言葉を切る。ユーガとネロも、その意味はわかる。そう、ミヨジネアはケインシルヴァ、クィーリアの二国と協定を結んでいたはずだ。しかし、そのミヨジネアの王国兵団が攻めてきたという事は・・・
「・・・まずいな、協定無視って訳か」
トビが腕を組んで考え込んだ。しばらく沈黙が続き、口を開いたのはユーガだった。
「・・・あの、ログシオン陛下。先程口にしていた、固有能力というのは何ですか?」
ログシオンが驚いたように眼を開く。そんな事も知らないのか、とトビが呆れたように腰に手を当てた。
「固有能力ってのは、人が生まれつき持ってる・・・まあ、個性みたいなもんだ」
「じゃあ、さっきの奴・・・レイだっけ?そいつの固有能力が・・・」
「『無詠唱』の固有能力だ。『無詠唱』はその名の通り、詠唱する事なく魔法を発動できる」
ユーガの言葉をログシオンが引き継いだ。
「っつーことは、俺達にも固有能力があるって事だよな?それってどうやって確認するんだ?」
ネロが固有能力に興味を持ったな、とユーガは少し笑う。
「・・・国の教会にあるはずだ。お前らはケインシルヴァの人間だろ?だったらガイアにでもあるじゃねぇの?」
自分で確認しろ、と言ってトビは顔を背けた。
「固有能力、か・・・なんか面白そうだな!」
「一通り調査が終わって、ガイアに帰る事になったら調べてみるか」
ユーガとネロがそんな会話をしているのを横にトビは顔を背けたまま、
「・・・お前の固有能力?そんなのわかりきってるもんだろ・・・」
と小さく、誰にも聞こえない声で呟いた。
「お前の固有能力は・・・」
『緋眼』
「そういえばさ」
夜、ユーガ達はトビが普段世話になっているという宿屋でベッドを取り、ユーガはそう前置きし、隣で寝転がるトビに顔を向けた。
「トビの眼の色って、珍しいよな。なんていうか・・・紺と青の間の色っていうかさ」
たしかにな、とネロが言う。トビは髪に隠れた右眼を押さえて、
「・・・まぁな」
と言ってユーガに背を向けた。その眼はどこか苛立ちを、不機嫌さを表すかのように怪しく光った。
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主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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