パーティを抜けた魔法剣士は憧れの冒険者に出会い、最強の冒険者へと至る

一ノ瀬一

文字の大きさ
上 下
308 / 328
最終章

第299話 エミルからの手紙

しおりを挟む
 どうやら足音の主は俺に手紙を届けに来たらしく、封筒を渡すとそそくさと去っていった。ラムハでは珍しい冒険者の恰好をしていたので、違うギルドで誰かからの依頼があったのだろうか。

 誰からの手紙だろうかと封筒を裏返して差出人を見ると、なんとそこにはエミルという文字があった。

 ずっと音信不通だったエミルからの連絡への驚きから、夢中で封筒を開け中の手紙を取り出す。

「これは──」

 手紙の内容は今ちょうどラムハにいるから会えないかというものだった。だったのだが──

「……果たし状みたいな文面だな」


 呟きながら少し笑ってしまう。

 直接会ってからいろいろ話そうということなのか、手紙に書かれた文章は簡素なもので軽い挨拶と会う場所や日時の指定──そしてSランク冒険者になったことへの祝福が添えてあるだけだ。「明日の夕方、ラムハの冒険者ギルドで待っている」など決闘の申し込みでしか使わないだろう。

 エミルに会うのはパーティを抜けて以来だから……かれこれ三年ぶりになるのか。三年もあれば背丈も伸びただろうし、顔つきも大人っぽくなっているだろうか。でも引っ込み思案で、それでいて頑固なところはやっぱり変わってないんだろうな。

 サラさんに頼んで探してもらったときに無理には会わないという選択をしたものの、それでよかったのか、エミルから会おうという日は来ないのではないか──そう考えたこともあった。

でも、今回手紙が来てエミルから会おうとしてくれてあの選択も間違ってなかったんじゃないかと思った。

 今から会うのが楽しみで仕方ない。話したいこともいっぱいある。あ、ラムハにいるのなら適当に街をうろついていたら出会えるんじゃ──いや、それではわざわざ手紙で約束を取り付けたエミルに悪いな。

 * * *

 コルネに手紙を届けに行ってきた冒険者は、少し離れた飲食店に入って、すでに冒険者と思しき集団の座っているテーブルに向かう。

「まったく、ひやひやしたぜ……珍しくエミルが頼みごとをしたと思ったら、あのSランク冒険者のロンド様とコルネ様の家に行って手紙を渡してこいだなんて──まあ、内容を聞く前にやるって言っちまったからやったけどよ」

 緊張から解き放たれたようにため息をつきながら、椅子を引いて腰かける。

「ごめん……でも自分で渡しに行ったらバレバレだからさ」
「まあそれじゃあ手紙にした意味がないか──にしても驚きだよな。エミルがあのコルネ様と古い知り合いだなんてよぉ」
「ちょっと、それよりもロンド様の道場はどうだったの? やっぱり広かった? いい匂いした?」

 エミルと呼ばれた青年と話しているのに構わず、少女の魔法使いがずずいと身を乗り出して疲れた様子の冒険者に問いかける。

「そんなの気にしてる余裕ないって。こちとら生ロンド様と生コルネ様と話して心臓バクバクだったんだぞ。緊張で倒れなかっただけで褒めてもらいたいくらいだっての。とにかく──エミル、約束は明日なんだろ? 頑張れよ」

 そう言われてポンと肩に手を置かれた青年は控えめにはにかむ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...