パーティを抜けた魔法剣士は憧れの冒険者に出会い、最強の冒険者へと至る

一ノ瀬一

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最終章

第289話 トレトのダンジョン探索 其の二

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「それじゃ、そろそろ行こうかの」

 全員のグラスがほとんど空になったところで、レオンさんが切りだす。俺の向かいに座る師匠がときどきダンジョンのことを考えているのか微妙にそわそわとしているのを察知したのかもしれない。

まだ本来の集合時間にもなっていないが、早い方が注目されなくていいだろう。



 ダンジョン入り口前の列は以前より短く、俺たちはすんなりとダンジョンに入ることができた。待っている間に前後に並んでいた人たちから「あれレオン様とサラ様じゃない?」という声がいくつか聞こえてきたが、結局誰も話しかけてくることはなかった。

 こんな時間帯に多忙な二人が道場から遠いトレトに──しかも揃って居るなんて思いもしないだろうから、むしろ他人の空似と考える方が自然かもしれない。

 ダンジョンに入って早くも一体倒した師匠が、目を輝かせながら魔力結晶を拾っている。

「師匠、今回の目的は探索ですからね」
「あ、ああ。もちろん分かってるさ」

 俺たちがダンジョンに来たのは魔力結晶の確保のためでもあるにはあるが、探索が目的だ。どこまで続いているのか全く分からないトレトのダンジョンを探索するという名目で師匠が二人を誘ったのだ。

前回は途中で引き返さざるを得なかったが、今回は前回作った地図を利用して素早く下層へと進んでいく。

「そこの角は右、次は二つ目の角を左ですね」

 俺は地図を見ながら後方でどこに行けばいいのか指示を出す。前衛がレオンさんと師匠、中衛がサラさん、後衛が俺という陣形を取っていて、至近距離での戦闘に向かないサラさんを三人で囲むようになっている。

 俺の言った通りに前にいる三人がサッと角を曲がるので、俺もそれに続く。俺たちは老人が二人いるとは思えないペースでダンジョンの中を駆け抜けていく。

 剣士であるレオンさんはそれなりに動けるとは思っていたが、サラさんは魔法使いで体を鍛えているわけでもないし、てっきり肉体は人並みだと思っていた。

 しかし、実際は普通の若者より速いくらいで走っているのだ。ストライドが異常に大きく、身長の三、四倍くらいはありそうなことから明らかに魔法に関するものは使っているだろう。

 見たところ、地面に足がついていない間に体を魔力操作あるいは何らかの魔法で大きく移動させているのだと思われる。地面に足がついているときには摩擦が発生するので合理的だ。

 おそらくは魔力操作と何かの魔法の組み合わせなのだろうが、魔法の強力さはもちろん制御がすさまじい。

 これは予定より速く前回潜ったところまで着けそうだ。
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