パーティを抜けた魔法剣士は憧れの冒険者に出会い、最強の冒険者へと至る

一ノ瀬一

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最終章

第280話 会談

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「これはこれは、サラ様自らに出向いていただけるとは」
「何を今さら──私が行くと最初から言ってあるさね」

 連日の激務で溜まった疲れを隠し、おどけた様子でサラ様を出迎える。今日は王国魔法師団での用事があった後にここに寄って話したいことがあると聞いている。

「人払いを頼めるかねぇ」

 応接室にサラ様を招き入れてすぐ、言われるままに人払いをする。もともと予定になかった会談だ、きっとあまり時間がないので手短に済ませようという意思表示だ。

 サラ様の方から急遽申し出があったこの会談──内容はあらかた察しがついている。まず間違いなく巷で噂になっている一人で巨大ケルベロスを退けた謎の少女のことだろう。

 世間一般が予想している通り、その正体はおそらくサラ様の門下生の一人。何らかの褒賞を与えると同時に、地位を与え保護してほしいといったところか。

「今日時間をとってもらったのは、例の謎の少女の件さね。まず彼女は私の道場のじゃないよ」
「え……」

 一言目に想定と全く違う言葉が出てきて、思わず戸惑いの声が漏れてしまう。

 サラ様の門下生ではないとしたら一体誰なんだ。あそこには冒険者ギルドももうないから冒険者は寄り付かない。街に住む元冒険者や元魔法師団の者だろうか──いや、それだと少女とは形容される可能性は低い。

「あの子──アドレアはアクスウィルの生徒さね。学校のない週末にうちの道場まで通ってるのさ。正真正銘私の弟子だけど、道場にいるわけではないよ」

 なるほど、例のテロが起きたのはちょうど週末だ。道場に向かう途中でたまたま現場に居合わせたといったところか。

「うちに来ていたアクスウィルの生徒がたまたまモンスターを倒した──これだけならいいんだけど、あの子はケルベロスを倒すときにある魔法を使ってしまってねぇ。<ゲヘナ>と言えば分かるかい?」
「そんな、まさか……」

 「ゲヘナ」はサラ様のオリジナル魔法で、私の知る限りでは個人で使える魔法の中では一番強力なものだ。青い炎に包まれた者は一瞬で骨だけとなってしまう。

 おまけに「炎を借りてくるだけ」だからとかなんとかで、その威力に対して魔力消費はさほど多くないらしいという欠点が全くない異次元な魔法。

 サラ様がそれを編み出されたのは晩年と聞いている。国一番と謳われた魔法使いが晩年に習得した魔法を、サラ様の手ほどきがあったからとはいえ、学生のうちに習得してしまった──にわかには信じがたい話だが、もし本当ならば天才だ。王国史に残る魔法使いになる。

「まだ使えるようになったばかりで私のように使いこなせるわけじゃないけど、それでも炎系統の使い手で彼女の右に出る者は王国中探してもいないだろうねぇ」

 まだアクスウィルの学生でありながら、サラ様に自身に次ぐ二番目と言わしめる実力……王国魔法師団が聞きでもしたら熱烈なスカウトが待っていることだろう。

「アドレアがゲヘナを使ったことは口外しないようにとは目撃した街の人に言ってはあるが、漏れるのは時間の問題さね。その前に何かしらの地位を彼女に与えて、意思にそぐわない政治的利用や軍事的利用をしようとする輩を牽制してほしいのさ。例えばそう……Sランク冒険者というのはどうだい?」

 ニヤッと笑うサラ様。Sランク冒険者に仇なすことは国家への反逆と見なされる。牽制としてはこれ以上ないが、さすがに他に実績もないのにSランク冒険者に任命するのは無理だ。

「さすがに今のは冗談だけど、早いうちに何か頼むさね」

 サラ様はそう残し、席を立つ。

 ……ただでさえ考えることがたくさんあるのに、また一つ考えることが増えてしまった。
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