273 / 328
最終章
第264話 使者
しおりを挟む
どこに止まるのだろうと思っていると、馬車はうちの前で止まった。短い馬の嘶きとともに馬車のドアが開く音が聞こえ、カツカツという靴音が近づいてくる。
するとすぐに玄関の扉の音がする。どうやら呼び鈴が鳴る前にヘルガさんがこちらから扉を開け、用件を訊いているようだ。道場の裏に出ていた師匠もなんだなんだと裏手のドアから顔を突っ込んで耳を澄ましている。
「ロンド様、来てください」
ヘルガさんが大きな声で師匠を呼んだので、持っていた練習用の重い剣を置き師匠は玄関へと向かう。師匠が行ってしまってはやることがない俺も師匠と一緒についていく。
「ロンド様、手違いで書状が来てなかったようなのですが、今日は王都に行く日だとこちらの方が」
師匠に状況を説明するヘルガさんの肩越しに扉の向こう側を見ると、そこには見たことのない若い男とその奥には初めて見る馬車が止まっていた。目を凝らすと、馬車の側面には小さく「防衛省」と書かれているから、きっと防衛省の持っている馬車なのだろう。
防衛省の馬車などこれまで来たことはなかったが……他の馬車が出払っていて違う管轄から引っ張ってきたのだろうか。
「本日は冒険者会議がありまして──諸事情で日時が変更になり、こちらから書状をお送りしたはずなのですが、手違いで届いていないようですね。誠に申し訳ないのですが……よほどのご予定がなければこちらにお乗りいただいて、我々と王都までご一緒いただけると……」
「そうですか、予定は特にないのでこのまま向かいたいのですがその前に。なぜいつも迎えに来る方ではなくあなたが来たんですか? それに馬車や御者の方もいつもと違いますよね?」
たしかに冒険者会議は数日後の予定で、あり得ない話ではないが、師匠も俺と同じようにそこが気になっていたらしい。仮に手違いがあったとしても、迎えに来た人や馬車まで違うのは不自然だ。
目の前にいる男は何かの目的で使者を騙っている偽物なのでは──そう訝しむのは当然だ。
「何分、急な変更だったのでこちらもバタバタしていまして──馬車の都合がなかなかつかず、こうして防衛省の馬車になってしまった次第でございます。防衛省にいて門外漢の私がここにいるということは、そのいつも迎えにこちらに伺っている方もおそらく別の仕事に追われているのではないでしょうか」
「なるほど、そういうことでしたか。すぐに準備してきます。ちなみに冒険者会議はなぜ今日になったんですか?」
にこりと微笑み、ついでのように質問を投げかける師匠。偽の使者ならここで動揺したり答えに詰まったりするかもしれないということだろう。きっと行くという意思表示で油断させたところで尻尾を出させようという狙いなのだ。
「ドリュファス王国の使者の都合で」
少し胡散臭いような笑みを崩さずにさらっと答える使者に動揺した素振りはない。
結局、師匠は準備をするために一度戻った後、馬車に乗った。
突然冒険者会議が前倒しになり、書状も届いていないというのはかなり不自然な気もするが、急な変更であれば出した書状が届けられなかったというのもあり得なくはない。日程の変更も外交上の理由なら仕方ない部分があり、納得できるものだ。
それに馬車には防衛省と刻まれているし、使者の方は王宮の文官が着る服を着ていたため、ある程度信用が置けるだろうということらしい。
ドリュファスの使者は何の用だったのだろうなどと思いを馳せながら俺は一人、裏で修行を始めるのだった。
するとすぐに玄関の扉の音がする。どうやら呼び鈴が鳴る前にヘルガさんがこちらから扉を開け、用件を訊いているようだ。道場の裏に出ていた師匠もなんだなんだと裏手のドアから顔を突っ込んで耳を澄ましている。
「ロンド様、来てください」
ヘルガさんが大きな声で師匠を呼んだので、持っていた練習用の重い剣を置き師匠は玄関へと向かう。師匠が行ってしまってはやることがない俺も師匠と一緒についていく。
「ロンド様、手違いで書状が来てなかったようなのですが、今日は王都に行く日だとこちらの方が」
師匠に状況を説明するヘルガさんの肩越しに扉の向こう側を見ると、そこには見たことのない若い男とその奥には初めて見る馬車が止まっていた。目を凝らすと、馬車の側面には小さく「防衛省」と書かれているから、きっと防衛省の持っている馬車なのだろう。
防衛省の馬車などこれまで来たことはなかったが……他の馬車が出払っていて違う管轄から引っ張ってきたのだろうか。
「本日は冒険者会議がありまして──諸事情で日時が変更になり、こちらから書状をお送りしたはずなのですが、手違いで届いていないようですね。誠に申し訳ないのですが……よほどのご予定がなければこちらにお乗りいただいて、我々と王都までご一緒いただけると……」
「そうですか、予定は特にないのでこのまま向かいたいのですがその前に。なぜいつも迎えに来る方ではなくあなたが来たんですか? それに馬車や御者の方もいつもと違いますよね?」
たしかに冒険者会議は数日後の予定で、あり得ない話ではないが、師匠も俺と同じようにそこが気になっていたらしい。仮に手違いがあったとしても、迎えに来た人や馬車まで違うのは不自然だ。
目の前にいる男は何かの目的で使者を騙っている偽物なのでは──そう訝しむのは当然だ。
「何分、急な変更だったのでこちらもバタバタしていまして──馬車の都合がなかなかつかず、こうして防衛省の馬車になってしまった次第でございます。防衛省にいて門外漢の私がここにいるということは、そのいつも迎えにこちらに伺っている方もおそらく別の仕事に追われているのではないでしょうか」
「なるほど、そういうことでしたか。すぐに準備してきます。ちなみに冒険者会議はなぜ今日になったんですか?」
にこりと微笑み、ついでのように質問を投げかける師匠。偽の使者ならここで動揺したり答えに詰まったりするかもしれないということだろう。きっと行くという意思表示で油断させたところで尻尾を出させようという狙いなのだ。
「ドリュファス王国の使者の都合で」
少し胡散臭いような笑みを崩さずにさらっと答える使者に動揺した素振りはない。
結局、師匠は準備をするために一度戻った後、馬車に乗った。
突然冒険者会議が前倒しになり、書状も届いていないというのはかなり不自然な気もするが、急な変更であれば出した書状が届けられなかったというのもあり得なくはない。日程の変更も外交上の理由なら仕方ない部分があり、納得できるものだ。
それに馬車には防衛省と刻まれているし、使者の方は王宮の文官が着る服を着ていたため、ある程度信用が置けるだろうということらしい。
ドリュファスの使者は何の用だったのだろうなどと思いを馳せながら俺は一人、裏で修行を始めるのだった。
0
お気に入りに追加
230
あなたにおすすめの小説
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!
こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。
ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。
最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。
だが、俺は知っていた。
魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。
外れスキル【超重量】の真の力を。
俺は思う。
【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか?
俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!
桜井正宗
ファンタジー
辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。
そんな努力もついに報われる日が。
ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。
日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。
仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。
※HOTランキング1位ありがとうございます!
※ファンタジー7位ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる