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第十章 Aランク昇格編
第230話 幸せ
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なにかすごいことを知ってしまった気がする。俺だって行く日ごとに二体倒していたわけではない。余裕がありそうだったら二体分のクエストを受けるようにしていただけだ。
最初から二つ受けようとは思っていなくても、例えばすぐにモンスターが見つかって昼前にクエストが終わってしまったときにもう一つ受ける──ということもないんだろうか。
「そうだよ。普通のパーティは一回一回の闘いが長いからね。盾で攻撃を防ぎながら剣でダメージを少しずつ与えていく。魔法もあるけど、Bランク相当となると避けられることもよくあるし、系統によってはほとんど効かないから基本は長期戦なんだ。だから一日二戦はしない。道中で他のモンスターに見つかって襲われることも多いしね」
そうか──Bランクくらいになると魔法って避けられるんだ。直接魔法を使うことはほとんどなかったから知らなかった。
「その点コルネくんは効率がすごくいいんだ。闘い自体はすぐに終わるし、移動が速いから意図しない闘いもほとんどない。消耗が少ないとはいえ、二戦できるメンタルは強いと思うけどね」
師匠から俺はメンタルが強いと思っていたのには驚いた。つい最近病みかけて宿屋で腐っていたというのに。
「私も一日二体と聞いたときは驚きました。でも以前コルネくんは毎日ヴィレアに通ってましたし、冒険者はみんなそんなものなのかな、と……」
ラムハに帰りながらでも余裕を持って間に合ったことを考えると、もしかして俺のペースは桁外れに速かったのかもしれない──そう認識を改めた。
その日、俺は一人ベッドに入り考える。ご馳走は美味しかったし、クエストの旅が終わって二人とじっくり話せてよかった。途中で帰ってきたときは二人が大丈夫かなと心配しているのがなんとなく分かり少し申し訳なさがあったが、今日はもうそれもなくなっていた。
それだけでなく、明日からはゆっくりできるという充実感も相まってとても楽しい時間だった。
……なんだか妙に目が冴えて眠れないな。
たくさん飲んだせいかトイレに行きたくなってきて、俺はそろりとベッドを抜け出しトイレに向かう。二人は寝ているときも警戒してわずかな物音に反応してしまうから、音を立てないように抜き足差し足でトイレに向かっていると、食堂の扉から明かりが漏れているのを見つける。
ヘルガさんが遅くまで片付けをしてくれているのだろうか。たくさん料理があったからここまで遅くなってしまうとは──手伝いにいこうか。そう思い、食堂に向かおうとすると中からヘルガさんの声が聞こえてくる。
「……本当に上がってしまいましたね、ロンド様」
「そうだね。これでコルネくんもトップクラスの冒険者か──師匠としては嬉しい限りだよ」
寝ているであろう俺を起こさないようにといつもよりは抑えめの声だが、食堂のドアに隙間があることもあって静かな夜の廊下までは届いている。どうやら食堂で師匠とヘルガさんが話しているらしい。
「でももし指名があればコルネくんとは離れて生活することになります。そうなると……やっぱり寂しいですね。最近Aランクパーティの数は足りてますし、しばらくはないとは思いますけど」
「それに他のパーティとは違って一人のパーティだから指名もされにくいとは思うけどね。でも、Aランクに上がりたいってことはコルネくんはここを離れて違う場所を拠点にしたいのかも。僕は三人で暮らせるだけで幸せなんだけど、コルネくんは違うのかな……」
しばらくしてヘルガさんが落ち込む師匠に優しく言葉をかける。
「そんなことはないと思います。もしコルネくんがここを出るという選択をしても、ここでの暮らしは好きに決まっています。ただ他にやりたいことができた──それだけのことです」
そこまで聞くと俺は、またそろりそろりとベッドまで戻った。師匠にとっての一番の幸せはここで三人暮らせること……か。
二人が食堂から出ていく音が聞こえるまで俺はトイレに行きたいのを我慢しながら、さっき聞いたことを考えていた。
最初から二つ受けようとは思っていなくても、例えばすぐにモンスターが見つかって昼前にクエストが終わってしまったときにもう一つ受ける──ということもないんだろうか。
「そうだよ。普通のパーティは一回一回の闘いが長いからね。盾で攻撃を防ぎながら剣でダメージを少しずつ与えていく。魔法もあるけど、Bランク相当となると避けられることもよくあるし、系統によってはほとんど効かないから基本は長期戦なんだ。だから一日二戦はしない。道中で他のモンスターに見つかって襲われることも多いしね」
そうか──Bランクくらいになると魔法って避けられるんだ。直接魔法を使うことはほとんどなかったから知らなかった。
「その点コルネくんは効率がすごくいいんだ。闘い自体はすぐに終わるし、移動が速いから意図しない闘いもほとんどない。消耗が少ないとはいえ、二戦できるメンタルは強いと思うけどね」
師匠から俺はメンタルが強いと思っていたのには驚いた。つい最近病みかけて宿屋で腐っていたというのに。
「私も一日二体と聞いたときは驚きました。でも以前コルネくんは毎日ヴィレアに通ってましたし、冒険者はみんなそんなものなのかな、と……」
ラムハに帰りながらでも余裕を持って間に合ったことを考えると、もしかして俺のペースは桁外れに速かったのかもしれない──そう認識を改めた。
その日、俺は一人ベッドに入り考える。ご馳走は美味しかったし、クエストの旅が終わって二人とじっくり話せてよかった。途中で帰ってきたときは二人が大丈夫かなと心配しているのがなんとなく分かり少し申し訳なさがあったが、今日はもうそれもなくなっていた。
それだけでなく、明日からはゆっくりできるという充実感も相まってとても楽しい時間だった。
……なんだか妙に目が冴えて眠れないな。
たくさん飲んだせいかトイレに行きたくなってきて、俺はそろりとベッドを抜け出しトイレに向かう。二人は寝ているときも警戒してわずかな物音に反応してしまうから、音を立てないように抜き足差し足でトイレに向かっていると、食堂の扉から明かりが漏れているのを見つける。
ヘルガさんが遅くまで片付けをしてくれているのだろうか。たくさん料理があったからここまで遅くなってしまうとは──手伝いにいこうか。そう思い、食堂に向かおうとすると中からヘルガさんの声が聞こえてくる。
「……本当に上がってしまいましたね、ロンド様」
「そうだね。これでコルネくんもトップクラスの冒険者か──師匠としては嬉しい限りだよ」
寝ているであろう俺を起こさないようにといつもよりは抑えめの声だが、食堂のドアに隙間があることもあって静かな夜の廊下までは届いている。どうやら食堂で師匠とヘルガさんが話しているらしい。
「でももし指名があればコルネくんとは離れて生活することになります。そうなると……やっぱり寂しいですね。最近Aランクパーティの数は足りてますし、しばらくはないとは思いますけど」
「それに他のパーティとは違って一人のパーティだから指名もされにくいとは思うけどね。でも、Aランクに上がりたいってことはコルネくんはここを離れて違う場所を拠点にしたいのかも。僕は三人で暮らせるだけで幸せなんだけど、コルネくんは違うのかな……」
しばらくしてヘルガさんが落ち込む師匠に優しく言葉をかける。
「そんなことはないと思います。もしコルネくんがここを出るという選択をしても、ここでの暮らしは好きに決まっています。ただ他にやりたいことができた──それだけのことです」
そこまで聞くと俺は、またそろりそろりとベッドまで戻った。師匠にとっての一番の幸せはここで三人暮らせること……か。
二人が食堂から出ていく音が聞こえるまで俺はトイレに行きたいのを我慢しながら、さっき聞いたことを考えていた。
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