パーティを抜けた魔法剣士は憧れの冒険者に出会い、最強の冒険者へと至る

一ノ瀬一

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第十章 Aランク昇格編

第228話 トレトのダンジョン 其の六

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「採れた採れた~」

 魔力結晶で膨らんだ袋を覗き込みながら幸せそうに師匠が呟く。ちらりと中を見ると、かなりの量の魔力結晶が詰まっており、袋の容量は残り三割といったところだろうか。

 一つ一つの魔力結晶が大きいうえにここまでそれなりの数を倒してきたからな。俺も自分で倒した分は自分の持ってきた袋に入れているのだが、もう少しでいっぱいになりそうだ。

「そろそろ戻ろうか」
「はい」

 いくら魔力結晶が好きな師匠でもここで欲張りはしない。さすがに二つ以上の袋を持っていると戦闘や移動に支障が出る。

 帰りは行きで倒しながら来た分だけ数が減っている。帰りのモンスターは行きの半分くらいだと仮定すると、七割というのは引き返すにはちょうどいいタイミングだろう。

 二階層もかなり探検したが、下へ続く階段はまだ見つかっていない。まだ調べていない分かれ道はあといくつかしかないので、次来たときの楽しみに取っておこう。少し惜しい気はするが、ここらが引きどきだろう。



 マップを見ながら出口に近づいていくと、徐々に喧騒が戻ってくる。悲鳴以外に喋り声も聞こえるが、来たときに比べると少し静かな気がする。

 角を曲がると出口が見える。外との境界ではこちらに背を向けたサイクロプスが立っていて、低い唸り声を上げている。きっと追いかけていた相手がダンジョンから出てしまったのだ。

 その巨躯でダンジョンの出口を塞いでいるサイクロプスをスパッと倒してから、よいしょと大きな袋を置き、魔力結晶を拾いはじめる師匠。当然その姿は外にいる人全員の注目を集めることとなる。

 サイクロプスの巨体で隠れていたために向こうからは俺たちがいきなり現れたように見えたであろうこともそうだが、何より危険なモンスターが跋扈するダンジョンで入り口とはいえ、のんきに屈んでいる師匠は場違いすぎる。

 モンスターが突然消え、それを倒したであろう男が輝く結晶を回収している──突然さあダンジョンに入るぞと待ち構えていた次のお客さんは口をあんぐり開けているし、すでに帰ろうとしていた前のお客さんも振り返ったまま固まっている。

「あはは……すぐ出ますので」

 頭を掻きながら誤魔化していると、袋のひもを締めた師匠がよいしょと立ち上がる。ハハハと軽く笑いながらそそくさとその場を後にする。

「し、失礼しました~……」

 列の横を抜けて帰っていくと、並んでいる人たちの視線が俺たちに沿って移動するのを感じる。

 じろじろと見られていい気はしないが、見たくなる気持ちも分からんでもない。ダンジョンの中に入って魔力結晶を採ってくる人が珍しいからだろう。そもそも市場に出回らないのだから魔力結晶自体初めて見る人も多いんじゃなかろうか。

 これだけ派手に魔力結晶を採れば注目を集めるのは分かりきっていたが、やはり気にはなってしまう。しかし横を歩く師匠をふと見るとホクホク顔だったので、どうでもよくなってしまった。

 師匠が幸せならそれでいい。
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