パーティを抜けた魔法剣士は憧れの冒険者に出会い、最強の冒険者へと至る

一ノ瀬一

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第十章 Aランク昇格編

第211話 Aランク昇格への挑戦 其の五

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 二十四日目。もう三日連続で討伐に行っていない。今日こそは行かないとという気持ちもあったが、三日前に二体倒せてるからいいかという言い訳で、今日も宿屋でぼーっとしたり街をふらふらと歩いたりしていた。

 日が落ちきって、街の灯りが次々と燈りだすのを宿屋の窓から眺める。通りの向かいにある飲食店には特にたくさんの人が吸い込まれていく。きっと繁盛しているのだろう。

 そうだ、夏は日の入りが遅いから、外は暗くなったばかりでもそれなりの時刻のはずだ。そろそろご飯を食べに行かなくちゃ。明日こそはギルドに行くために早く寝るって決めたじゃないか。

 座っていたベッドから立ち上がり、階段を下りていくと突然声をかけられる。この声は──いや、こんなところにいるはずは……

「コルネくん!」
「……ヘルガ、さん?」

 俺のことを知っているということは他人の空似というわけでもなさそうだ。

「どうしてここに?」
「少し様子を見にきました。『元気』にやっていますか?」
「……ッ!」

 ──しまった。俺がしてしまった反応は、そうではないと言っているようなものだ。本当に元気ならさらりと答えるだろう。

 実際、俺は『元気』ではないだろう。なんとなくギルドに行く気が起きなくて三日連続でクエストを受けてすらいないのは、明らかに元気とは言えない。

 なんで隠していたのかと責められるんだろうかと考えていると、ぐぅ、という音がヘルガさんのお腹から聞こえてくる。

 ちょうど他のお客さんも静かなタイミングだったので、今の音は全員に聞こえてしまっただろう。

「……ご飯を食べながらゆっくり話しましょうか」

 そう切りだしたヘルガさんの顔は少し赤い気がした。



「──というわけで、私はここに来ました」

 ご飯を食べながら、まずはヘルガさんが来た経緯を聞く。手紙からそれが書かれたときの俺の状態を推測する──嘘みたいな話だ。

 俺は何も気にせず手紙を書いただけなのに……いや、たしか二通目を書くときは「元気」と書いていいのか逡巡はした。それが字に現れてしまったのかもしれないが、出す前に気付かないほどの微妙なものなはず。

 たったそれだけから俺の状態に気付くなんてヘルガさんは本当に何者なんだろうか。

「それで、このまま続けますか?」

 説明を終えて、ヘルガさんはいきなり本題に入ってくる。

「……ここまで来てやめたくはありません。せっかく師匠と長い間準備してきましたし、今までのペースなら三ヶ月に間に合うと思います。でも……」
「──気が滅入ってしまってペースが落ちてきている、のではありませんか?」

 俺が言おうとしたことが先にヘルガさんの口から出てくる。まるで俺が今どんな状態なのかを全て知っているかのようだ。

「……はい。だからこのままではいずれ予定よりも遅くなってしまうのは明らかで……」
「──なら、一度ラムハまで帰ってみてはどうでしょう」
「え?」
「コルネくんなら移動は速いですし、戻って何日かは序盤のペースで討伐できるのならば、十分に帰る余裕はあると思います」

 ラムハに帰る──か。そんな選択肢は思いつきもしなかった。ここからならラムハまで二日くらいだろうか──行って戻るのに四日なら、取り戻せる範囲だ。

 正直ずっと帰りたかった。でも今までは早く帰るためにはさっさと全部のモンスターを倒さないといけなくと思ってて……でも途中で帰っても大丈夫なら、今すぐ帰ろう。

 どうせこのまま続けてもどんどんペースが落ちていくだけだ。
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