191 / 328
第九章 ルミーヴィアへの旅編
第185話 初弟子(レネ視点)
しおりを挟む
宿屋にアルノが入ってきたときは驚いた。それは彼が変わってしまっていたからではない。彼の周りが変わっていたのだ。
彼と一緒にいたのは教会の烏の他のメンバーではなく、彼よりも一回り年下の少年と少女──そして、甘いマスクの優しそうな男性。
少女の方はおそらく手紙にあったマリーちゃんだろう。不安そうな表情を浮かべているのを見て少し心配になるが……まあ、こんなのが自分の師匠だと知ったら不安にもなるか。
彼女は記念すべきアタシの初弟子になる子だ。アタシにとって、弟子とは大きな意味をもつ。
アタシは王都の教会でシスター候補として育てられた。王都の教会にはいつもたくさんの人が回復魔法をかけてもらうためにいろいろな場所からやってくる。
シスターになる条件として回復魔法を使えなければならないため、全てのシスターは回復魔法を使えるのだが、その中でも王都のシスターは特別だ。回復魔法の腕が抜群によく、そのためだけに遠くから病体に鞭打ってやってくる人もなかにはいる。
だから王都の教会ではシスター候補を育成して、より効果の強い回復魔法を使える人材を選りすぐる。常に周りと競わされて、落ちこぼれだと判断されれば追い出される。だからアタシは毎日毎日必死に回復魔法を練習した。
元から才能があったのか、他の子と比べると中の上くらいでしばらくは追い出されることはないと思っていた。
ある日、アタシは廊下を歩いている司教様たちの会話を偶然聴いてしまった。
「今日も馬鹿みたいに朝から晩まで働いてやんの、いくら頑張ってもシスターにはお金はほとんど入らないのにな! ほんと、いい金儲けの道具だぜ。まあ本人たちは回復魔法を自分にもかけてるから働きすぎてる自覚すらないかもしれないがな!」
「おいおい、言ってやるなよ。あいつらのおかげで俺らは美味い酒が飲めるんだからさ」
誰もいないと思っているのか、ギャハハと大きな笑い声をたてながら柱の陰に隠れているアタシの横を通り過ぎていく。いつも厳格な司教様たちは裏でシスターたちを嘲けり笑っていたのだ。
それからアタシは信者に回復魔法をかけているシスターに本当にお金が入っていないのか、たまに回復魔法を教えにきてくれるときを見計らって訊いてみた。
司教様の話は本当だったようで、アタシにはキラキラしているように見えていたシスターの生活も実際は働きづめらしく、魅力的とは到底思えなかった。
神に仕える身だからお金はちょっとでいいの──話を聴いたシスターはそう言っていたが、それなら司教様だってお金はちょっとでいいはずだ。
来る日も来る日も回復魔法を必死に練習してやっとシスターになったというのに、働きの対価である信者から入ったお金は司教様へと渡り、シスターたちは報われないまま司教様たちだけが甘い汁を吸っている──アタシはこの構造が許せなかった。
しかし、だからといって何の権力もないただの小娘のアタシには何もできなかった。
アタシは次の日、教会から追い出されるために精神を病んでしまったふりをした。計画通り、アタシはすぐに教会から放り出された。
毎日同じことの繰り返すのといつ追い出されるか分からない恐怖で、精神が荒んでしまう子はたくさんいたから、大して確かめもされなかった。
そこからアタシは冒険者になった。王都にはたくさんパーティを組んでいない冒険者がわんさかいたから、幸いにも教会で渡された小銭が尽きる前にパーティを組めた。
アタシはしばらく教会に対抗する術を考えてようやく思いついた。今、腕のいい回復魔法使いはみんな教会に属している。
教会以外の回復魔法の使い手が増えれば、少しはあいつらの懐も寂しくなるはずだ。そして質の高い回復魔法は教会の専売特許ではないと民衆が分かれば、教会に行く人も回復魔法を上達させるために教会に入る子どもたちも減るだろう。
最終的に教会に入る子どもを減らすためには、他に回復魔法を学べる場所が必要になる。現在、私塾という形で大人数を抱えていて知名度もあるのはSランク冒険者のレオンとサラの二人のところだけ。
Sランクとまではいかなくとも、人を集めようとすると教える側にはある程度の知名度は必要だ。だからとりあえずアタシはパーティのランクを上げていく必要がある。もちろん回復魔法の腕も、だ。
せめて現役で活躍しているシスターくらいにはならないと、アタシに回復魔法を習いたいと思う人はいないだろう。
だから、アルノからの手紙を読んだときはすごく嬉しかった。ずっと走り続けてきて、やっとここまで来れたんだと思った。
せっかくアタシに習いたいと言ってくれた初弟子──絶対に立派に育てて見せる。心の中でそう固く誓った。
彼と一緒にいたのは教会の烏の他のメンバーではなく、彼よりも一回り年下の少年と少女──そして、甘いマスクの優しそうな男性。
少女の方はおそらく手紙にあったマリーちゃんだろう。不安そうな表情を浮かべているのを見て少し心配になるが……まあ、こんなのが自分の師匠だと知ったら不安にもなるか。
彼女は記念すべきアタシの初弟子になる子だ。アタシにとって、弟子とは大きな意味をもつ。
アタシは王都の教会でシスター候補として育てられた。王都の教会にはいつもたくさんの人が回復魔法をかけてもらうためにいろいろな場所からやってくる。
シスターになる条件として回復魔法を使えなければならないため、全てのシスターは回復魔法を使えるのだが、その中でも王都のシスターは特別だ。回復魔法の腕が抜群によく、そのためだけに遠くから病体に鞭打ってやってくる人もなかにはいる。
だから王都の教会ではシスター候補を育成して、より効果の強い回復魔法を使える人材を選りすぐる。常に周りと競わされて、落ちこぼれだと判断されれば追い出される。だからアタシは毎日毎日必死に回復魔法を練習した。
元から才能があったのか、他の子と比べると中の上くらいでしばらくは追い出されることはないと思っていた。
ある日、アタシは廊下を歩いている司教様たちの会話を偶然聴いてしまった。
「今日も馬鹿みたいに朝から晩まで働いてやんの、いくら頑張ってもシスターにはお金はほとんど入らないのにな! ほんと、いい金儲けの道具だぜ。まあ本人たちは回復魔法を自分にもかけてるから働きすぎてる自覚すらないかもしれないがな!」
「おいおい、言ってやるなよ。あいつらのおかげで俺らは美味い酒が飲めるんだからさ」
誰もいないと思っているのか、ギャハハと大きな笑い声をたてながら柱の陰に隠れているアタシの横を通り過ぎていく。いつも厳格な司教様たちは裏でシスターたちを嘲けり笑っていたのだ。
それからアタシは信者に回復魔法をかけているシスターに本当にお金が入っていないのか、たまに回復魔法を教えにきてくれるときを見計らって訊いてみた。
司教様の話は本当だったようで、アタシにはキラキラしているように見えていたシスターの生活も実際は働きづめらしく、魅力的とは到底思えなかった。
神に仕える身だからお金はちょっとでいいの──話を聴いたシスターはそう言っていたが、それなら司教様だってお金はちょっとでいいはずだ。
来る日も来る日も回復魔法を必死に練習してやっとシスターになったというのに、働きの対価である信者から入ったお金は司教様へと渡り、シスターたちは報われないまま司教様たちだけが甘い汁を吸っている──アタシはこの構造が許せなかった。
しかし、だからといって何の権力もないただの小娘のアタシには何もできなかった。
アタシは次の日、教会から追い出されるために精神を病んでしまったふりをした。計画通り、アタシはすぐに教会から放り出された。
毎日同じことの繰り返すのといつ追い出されるか分からない恐怖で、精神が荒んでしまう子はたくさんいたから、大して確かめもされなかった。
そこからアタシは冒険者になった。王都にはたくさんパーティを組んでいない冒険者がわんさかいたから、幸いにも教会で渡された小銭が尽きる前にパーティを組めた。
アタシはしばらく教会に対抗する術を考えてようやく思いついた。今、腕のいい回復魔法使いはみんな教会に属している。
教会以外の回復魔法の使い手が増えれば、少しはあいつらの懐も寂しくなるはずだ。そして質の高い回復魔法は教会の専売特許ではないと民衆が分かれば、教会に行く人も回復魔法を上達させるために教会に入る子どもたちも減るだろう。
最終的に教会に入る子どもを減らすためには、他に回復魔法を学べる場所が必要になる。現在、私塾という形で大人数を抱えていて知名度もあるのはSランク冒険者のレオンとサラの二人のところだけ。
Sランクとまではいかなくとも、人を集めようとすると教える側にはある程度の知名度は必要だ。だからとりあえずアタシはパーティのランクを上げていく必要がある。もちろん回復魔法の腕も、だ。
せめて現役で活躍しているシスターくらいにはならないと、アタシに回復魔法を習いたいと思う人はいないだろう。
だから、アルノからの手紙を読んだときはすごく嬉しかった。ずっと走り続けてきて、やっとここまで来れたんだと思った。
せっかくアタシに習いたいと言ってくれた初弟子──絶対に立派に育てて見せる。心の中でそう固く誓った。
0
お気に入りに追加
232
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。


ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる