186 / 328
第九章 ルミーヴィアへの旅編
第180話 ニザヘナにて
しおりを挟む
マリーに回復魔法をかけてもらいながら、やってきた削り氷を三人で一つずつ食べた。三人同時に食べていたので、さっきは兄さんで今度は俺といったようにひっきりなしにマリーにかけてもらうことになってしまい申し訳なかったが、マリーは「今は食べるものないし、別に」と言っていたのでその言葉に甘えることにした。
その後でいくつか追加で食べたところで、みんなそれ以上は食べられなくなってしまったため、お店を出ることにした。
「ふぅ……美味しかった」
そう言って満足そうにお腹をさする師匠は、本当に幸せそうだ。もう旅の目的を完遂したかのようなほっこりとした雰囲気になっているが、まだルミーヴィアには着いていない。
だからといってどうせ今日はこれ以上は進めないのだ──ならば、この街をめいっぱい楽しむしかないだろうということで、観光をすることとなった。
とはいえあまり観る場所はなく、街の中心にそびえる鐘撞き堂に上がって鐘が鳴るのを見て、それから古びた教会の壁に描かれた絵を見て、宿をとった。
空には赤みがさしているが、まだ外は明るく夕食までには時間がある。宿屋の部屋で兄さんと何をしてすごそうかと話していると、突然扉が叩かれる。
「コルネくん、暇してない?」
静かな部屋にいきなり飛び込んできた音に一瞬ビクッとするが、扉の向こうからは少しくぐもった緊張感のない師匠の声が聞こえてくる。
鍵を開けると師匠がいつぞやのカードゲームを持って立っていた。アクスウィルに行ったときに持っていた四つのスートが描かれた一般的なものだ。
この微妙にできてしまった空き時間にピッタリのアイテム──師匠が背負っていた小さめの鞄にいったい何が入っているんだろうと思っていたが、まさかそんなものが入ってるとは思わなかった。
俺も相当浮かれていたと自覚しているが、やっぱり師匠の方が俺よりもこの旅を楽しみにしていたんだと改めて思った。
「マリーさんも誘ってみんなでやろうよ、こういうゲームは人数が多ければ多いほど盛り上がるからね」
たしかに三人だとイマイチ盛り上がりに欠けるゲームはかなりある。四人で出来るとなると楽しみだ。
「俺は鍵閉めてから行くから、コルネは先にロンド様と行っといて」と兄さんが部屋の奥に消えていったので、師匠と先にマリーの部屋へ向かうことにした。きっと兄さんもすぐに来るだろう。
* * *
ベリーづくしのスイーツはどれもとても美味しかった。まさかこんな甘くて美味しいものが食べられるなんて思ってもいなかった。
そして高い鐘撞き堂からいい景色を見たり、いくつかお店に入ってみたりして──すっごく楽しい時間だった。
こんなに楽しい気持ちになったのはいつぶりだろうか。だから、ああ、こんな時間がいつまでも続けばいいのに──そう願ってしまう。
分かっている。どんな旅だって必ず終わりは来るし、私はルミーヴィアで回復魔法を極めなければいけない。これはその出立のための旅。
アルノさんに紹介状はもう書いてもらっているし、そのためにみんなに付いてきてもらったのに、やっぱりやめました、なんて口が裂けても言えるはずがない。
何より自分で決めたことじゃないか。ここでやめるわけにはいかない。
でも──レネさんは性格がきついってアルノさんは言ってたし、ルミーヴィアに行けばひたすらに厳しい修行の日々が待っていて、一切楽しみはないかもしれない。
だから、この旅を楽しもう。いずれ──明日か明後日には終わる旅だと分かっていても、今この瞬間を全力で楽しもう。
そこまで考えたところで、コン、コン、というノックの音に現実に呼び戻される。
「マリーさん、カードゲームやらない?」
ロンド様の声が扉越しにする。アルノさんやコルネも側にいるらしく、二人の喋り声も一緒に聞こえてくる。
「もちろんやります!」
何かを振りきるように私はそう答え、扉を開ける。
その後でいくつか追加で食べたところで、みんなそれ以上は食べられなくなってしまったため、お店を出ることにした。
「ふぅ……美味しかった」
そう言って満足そうにお腹をさする師匠は、本当に幸せそうだ。もう旅の目的を完遂したかのようなほっこりとした雰囲気になっているが、まだルミーヴィアには着いていない。
だからといってどうせ今日はこれ以上は進めないのだ──ならば、この街をめいっぱい楽しむしかないだろうということで、観光をすることとなった。
とはいえあまり観る場所はなく、街の中心にそびえる鐘撞き堂に上がって鐘が鳴るのを見て、それから古びた教会の壁に描かれた絵を見て、宿をとった。
空には赤みがさしているが、まだ外は明るく夕食までには時間がある。宿屋の部屋で兄さんと何をしてすごそうかと話していると、突然扉が叩かれる。
「コルネくん、暇してない?」
静かな部屋にいきなり飛び込んできた音に一瞬ビクッとするが、扉の向こうからは少しくぐもった緊張感のない師匠の声が聞こえてくる。
鍵を開けると師匠がいつぞやのカードゲームを持って立っていた。アクスウィルに行ったときに持っていた四つのスートが描かれた一般的なものだ。
この微妙にできてしまった空き時間にピッタリのアイテム──師匠が背負っていた小さめの鞄にいったい何が入っているんだろうと思っていたが、まさかそんなものが入ってるとは思わなかった。
俺も相当浮かれていたと自覚しているが、やっぱり師匠の方が俺よりもこの旅を楽しみにしていたんだと改めて思った。
「マリーさんも誘ってみんなでやろうよ、こういうゲームは人数が多ければ多いほど盛り上がるからね」
たしかに三人だとイマイチ盛り上がりに欠けるゲームはかなりある。四人で出来るとなると楽しみだ。
「俺は鍵閉めてから行くから、コルネは先にロンド様と行っといて」と兄さんが部屋の奥に消えていったので、師匠と先にマリーの部屋へ向かうことにした。きっと兄さんもすぐに来るだろう。
* * *
ベリーづくしのスイーツはどれもとても美味しかった。まさかこんな甘くて美味しいものが食べられるなんて思ってもいなかった。
そして高い鐘撞き堂からいい景色を見たり、いくつかお店に入ってみたりして──すっごく楽しい時間だった。
こんなに楽しい気持ちになったのはいつぶりだろうか。だから、ああ、こんな時間がいつまでも続けばいいのに──そう願ってしまう。
分かっている。どんな旅だって必ず終わりは来るし、私はルミーヴィアで回復魔法を極めなければいけない。これはその出立のための旅。
アルノさんに紹介状はもう書いてもらっているし、そのためにみんなに付いてきてもらったのに、やっぱりやめました、なんて口が裂けても言えるはずがない。
何より自分で決めたことじゃないか。ここでやめるわけにはいかない。
でも──レネさんは性格がきついってアルノさんは言ってたし、ルミーヴィアに行けばひたすらに厳しい修行の日々が待っていて、一切楽しみはないかもしれない。
だから、この旅を楽しもう。いずれ──明日か明後日には終わる旅だと分かっていても、今この瞬間を全力で楽しもう。
そこまで考えたところで、コン、コン、というノックの音に現実に呼び戻される。
「マリーさん、カードゲームやらない?」
ロンド様の声が扉越しにする。アルノさんやコルネも側にいるらしく、二人の喋り声も一緒に聞こえてくる。
「もちろんやります!」
何かを振りきるように私はそう答え、扉を開ける。
0
お気に入りに追加
232
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。
なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。
しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。
探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。
だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。
――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。
Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。
Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。
それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。
失意の内に意識を失った一馬の脳裏に
――チュートリアルが完了しました。
と、いうシステムメッセージが流れる。
それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる