パーティを抜けた魔法剣士は憧れの冒険者に出会い、最強の冒険者へと至る

一ノ瀬一

文字の大きさ
上 下
177 / 328
第九章 ルミーヴィアへの旅編

第171話 旅立ち

しおりを挟む
 師匠が書類を提出してから二週間が経過した頃、国から申請が通ったという報せがあった。出発予定日が三日後に迫っていてハラハラしていたところへの一報に、歓びも一入ひとしおだ。

 二週間ぶりにミャクーまでひとっ走りして報告を入れてくると、二人とも安心した様子だった。

 俺たちの旅程はこうだ──まず俺と師匠がミャクーまで二人を迎えに行き、そこからラムハや他の都市を経由しつつ北上していく。

 二人にラムハに来てもらった方が手っ取り早いのだが、マリーは出来るだけギリギリまで家族といたいだろうということを考慮してこうなった。

 まあ俺と師匠は魔力操作ですっ飛ばして行けば、さして時間がかかるわけではない。この後、三日かけてゆっくりとルミーヴィアまで歩いていくことを考えれば、大した負担にはならないだろう。

 今回の旅では行ったことのない北東部の都市に寄ることになっており、とても楽しみだ。




 出発日当日──しっかりと朝餉を食べた後、ヘルガさんに見送られた俺と師匠は走ってミャクーへと向かう。

「コルネくん、速くなったね。急がなくても集合の時間には間に合いそうだけど──無理はしてない?」
「ありがとうございます。軽く走ってるだけですよ」

 やはり師匠の目から見ても修行のメニューが一新されてからスピードは格段に上がっているようだ。俺はこのくらいのスピードでいつもヴィレアに行っていたから慣れてしまっていたが、師匠が俺の走りを見るのは久しぶりだろう。

「僕、あの辺は久しぶりに行くからもう楽しみで楽しみで、昨日なかなか寝付けなくってさ。コルネくんはちゃんと寝られた?」
「俺も同じですよ。いまだに旅の前はこうですね」

 俺だけかと思っていたら師匠も楽しみで寝付けなかったとは──もしかしたら結構似た者同士なのかもしれない。

 その後もどこで何を食べたいだとか、ここの名所に行きたいだとか、喋りながら走っているとミャクーが見えてくる。



 集合場所であるマリーの店の前には、すでにマリーと兄さん、そしてマリーのお父さんが集まっていた。

 あまりスピードを落とさずに来てしまったため、急に俺たちが現れてびっくりしている三人に師匠が挨拶をする。

「はじめまして、ロンドです。マリーさんとアルノくん、かな。いつもコルネくんがお世話になってます。今回は一緒に旅をするということで、よろしくお願いします」
「はじめまして、マリーと申します。この度は私の旅に付き合っていただいてありがとうございます。護衛としての報酬もお支払いできませんのに……本当に助かりました。相場には程遠いですが、お支払いしますね」
「いえいえ、そんな──そのお金はとっておいて自分のために使いなさい。きっと向こうでお金が必要になるし、何よりそれ以上の報酬が待ってるからね」

 俺のよく知るマリーが師匠に丁寧に挨拶しているのは、なんというか新鮮だ。

「はっ、はじめまして。アルノと申します。あ、あの今回は本当にロンド様と旅ができるということで──図々しいお願いだったと思いますが、きょ、許可していただいてありがとうございます」
「アルノくん、きみには是非一度会ってみたくてね。今のコルネくんがあるのも、きみが剣術を教えてくれていたからといっても過言じゃないよ。本当にありがとう」
「……っ!」

 師匠の前でガチガチになっていた兄さんは予想もしていなかった言葉が返ってきたために、感激しているようだ。

「えーと、そちらは──」

 マリーのお父さんを差して探るように訊く師匠。そうか、マリー以外は初対面だし、一緒に行く面子にも入っていなかったのだから分かるはずがない。

「マリーの父です。この度は娘とルミーヴィアまでご一緒いただけるということで、ありがとうございます。本当に娘も困り果てていたところでして、なんと感謝を伝えればよいやら。うちの娘をよろしくお願い致します、ロンド様」

 そう言って深々と頭を下げるマリーのお父さん。

「頭を上げてください。お父様、娘さんは責任を持ってルミーヴィアまでお送りします。僕の方こそ、普段あまりラムハから出られないので娘さんには感謝しています」

 一通り挨拶を終えて、そろそろ出発しようかという雰囲気になる。

「じゃ、私行ってくるよ、パパ。元気でね」
「向こうでもしっかりやるんだよ。体には気を付けて──」

 涙声になりながらそう言ってマリーをぎゅっと抱きしめるお父さん。マリーの方も泣いている。

長い抱擁の後に、赤い目のままマリーのお父さんは優しい顔で告げる。

「いってらっしゃい、マリー」
「いってきます、パパ」

 そう言ってマリーは歩きだす。それに続いて俺たちも一緒に歩きだした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

処理中です...