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第八章 新しいメニューと緊急クエスト編
第154話 緊急クエスト 其の二
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答えは簡単だ。師匠を呼びに行く──現時点ではこれが最善だろう。たとえ俺がここを離れても離れなくてもオーガと戦えば、勝てる見込みは薄い。
オーガの巨体から繰り出される攻撃を防ぐのは難しいため、膠着状態を作って俺が帰ってこないことを不審に思った師匠が駆けつけるという展開も不可能だ。
俺は急いでギルドの冒険者に事情を説明する。今から師匠を呼んでくるので、オーガが人里に下りてこない限り、手は出さないこと。師匠がすぐには捕まらない可能性があるが、必ず連れてくるので、それまでは偵察隊が帰ってきても待っていてほしいこと。
全員が理解しなくてもいい。一通り説明し終えて、分かったか訊くと半分以上が頷いた。これなら誰か一人くらいは理解していて、まだ分かっていない人にも説明してくれるだろう。
被害が出そうになければ手を出さずないこと、と念を押して俺は冒険者ギルドを飛び出す。
ラムハへの道をかつてないほどに飛ばす。道場に着くまでの体力が残っていればいい、師匠さえヴィレアに着けばいいのだから──最初はそう思いかけたが、すぐに思い直す。
師匠が外出していたら、街を探さないといけなくなる。だからその分の体力も残しておかないと。今は最悪を想定しなければ。
だから、道場で倒れない程度に飛ばす。体力を残しつつ走ってもいつもよりは速いはずだ。
もうすぐラムハだ。顔パスで門を抜け、すぐに人の少ない通りへ入り、驚いた顔の通行人を置き去りにして道場への最短ルートを走る。
角を曲がるときはぶつからないようスピードを落として直線では少し上げる、そして次の角の手前でまたスピードを落とす──これをひたすら繰り返して道場へとたどり着く。
「師匠! 師匠いますか!」
息が上がるのを抑えつつ大声で叫びながら、玄関の扉をドンドンと叩く。俺の様子が普通ではないことを察知したのか、ヘルガさんがすぐに出てきて鍵を開ける。
「師匠は今どこに?」
「ロンド様ならちょうど今から出かけられるところです。ロンド様を呼びに戻ってきたんですね?」
質問に首肯を返すとヘルガさんは後ろを振り返り、「緊急事態です! すぐに討伐に向かう準備を!」と、中で準備をしているであろう師匠に大声で呼びかける。
俺が師匠を急いで呼びに戻るなど、討伐しかないと踏んでだろう。これだけ焦っている俺を前にして、素早く沈着に状況を分析し、推測している──すごいとしか言いようがない。
「これでよかったですか?」
「は、はい」
「ロンド様には移動しながら伝えるとして、報告のために私に状況の説明を」
冷静なヘルガさんを見て気が緩んでしまい、返答が少し遅れてしまう。
「はい──ヴィレアに行ったらオーガが出たとのことで、それで師匠を呼びに」
「オーガですか。今オーガはどこに?」
「俺がギルドを出発したときは、まだ人里には下りていないようでした」
なるほど、と呟きヘルガさんは顎に手をあてて、何やら考え始める。すると、足でブレーキをかけながら、師匠が玄関へと現れる。
「行こう、コルネくん」
オーガの巨体から繰り出される攻撃を防ぐのは難しいため、膠着状態を作って俺が帰ってこないことを不審に思った師匠が駆けつけるという展開も不可能だ。
俺は急いでギルドの冒険者に事情を説明する。今から師匠を呼んでくるので、オーガが人里に下りてこない限り、手は出さないこと。師匠がすぐには捕まらない可能性があるが、必ず連れてくるので、それまでは偵察隊が帰ってきても待っていてほしいこと。
全員が理解しなくてもいい。一通り説明し終えて、分かったか訊くと半分以上が頷いた。これなら誰か一人くらいは理解していて、まだ分かっていない人にも説明してくれるだろう。
被害が出そうになければ手を出さずないこと、と念を押して俺は冒険者ギルドを飛び出す。
ラムハへの道をかつてないほどに飛ばす。道場に着くまでの体力が残っていればいい、師匠さえヴィレアに着けばいいのだから──最初はそう思いかけたが、すぐに思い直す。
師匠が外出していたら、街を探さないといけなくなる。だからその分の体力も残しておかないと。今は最悪を想定しなければ。
だから、道場で倒れない程度に飛ばす。体力を残しつつ走ってもいつもよりは速いはずだ。
もうすぐラムハだ。顔パスで門を抜け、すぐに人の少ない通りへ入り、驚いた顔の通行人を置き去りにして道場への最短ルートを走る。
角を曲がるときはぶつからないようスピードを落として直線では少し上げる、そして次の角の手前でまたスピードを落とす──これをひたすら繰り返して道場へとたどり着く。
「師匠! 師匠いますか!」
息が上がるのを抑えつつ大声で叫びながら、玄関の扉をドンドンと叩く。俺の様子が普通ではないことを察知したのか、ヘルガさんがすぐに出てきて鍵を開ける。
「師匠は今どこに?」
「ロンド様ならちょうど今から出かけられるところです。ロンド様を呼びに戻ってきたんですね?」
質問に首肯を返すとヘルガさんは後ろを振り返り、「緊急事態です! すぐに討伐に向かう準備を!」と、中で準備をしているであろう師匠に大声で呼びかける。
俺が師匠を急いで呼びに戻るなど、討伐しかないと踏んでだろう。これだけ焦っている俺を前にして、素早く沈着に状況を分析し、推測している──すごいとしか言いようがない。
「これでよかったですか?」
「は、はい」
「ロンド様には移動しながら伝えるとして、報告のために私に状況の説明を」
冷静なヘルガさんを見て気が緩んでしまい、返答が少し遅れてしまう。
「はい──ヴィレアに行ったらオーガが出たとのことで、それで師匠を呼びに」
「オーガですか。今オーガはどこに?」
「俺がギルドを出発したときは、まだ人里には下りていないようでした」
なるほど、と呟きヘルガさんは顎に手をあてて、何やら考え始める。すると、足でブレーキをかけながら、師匠が玄関へと現れる。
「行こう、コルネくん」
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