パーティを抜けた魔法剣士は憧れの冒険者に出会い、最強の冒険者へと至る

一ノ瀬一

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第七章 里帰りと収穫祭編

第131話 収穫祭に向けて 其の六

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 師匠は呑み込みが早く、日が完全に落ちる前に最後までカウントに合わせて動きを確認することが出来た。

 動き自体は型稽古を元にしているので、それなりに早く出来るようになると思っていたが、まさかここまでとは。

 カウントの合わせ方も事前の説明なしでその場でやっていたというのに、サッとやってのけるところは流石としか言いようがない。まだ動きを覚えたわけではないが、それは繰り返しやれば大丈夫だろう。



 マシューさんたちと一緒にやることになって数日後、初めての合同練習の日が来た。

 今日までの数日は、毎日の修行を早く終わらせて、その分を二人で練習をする時間に充てていた。

 型稽古は無理だが、他の一人でやるものはなるべく早く行った。筋トレ、素振り、魔法剣の発動──全部を早くやった結果、しばらく動けなくなってしまったが、それでもいつもよりは早く終わったはずだ。

 ペースを上げた俺の横で師匠も同じメニューをしていたが、師匠は息一つ乱していなかった。師匠が俺に合わせてくれていたことが、改めて分かった。

 師匠も俺も、今日までに一通りは出来るように仕上げてきた。準備は万端だ。

 二人で動きの細部を確認をしつつ待っていると、マシューさん一家が楽器を抱えてやってくる。

「お邪魔しま──」
「わぁ、ひろーい!」
「お邪魔します、でしょ」
「おじゃまします!」

 ドリーをたしなめるセレナさん。

「本日はお招きいただきありがとうございます」
「お茶をお淹れしますね」

 そう言って奥に消えようとするヘルガさん。

「いえ、結構です。練習時間が少ないので、すぐにやり始めた方がいいでしょう」
「こちらとしては助かるのですが──」
「いいんです。練習のために来たのであって、客人として来たわけではありませんから」

 なるほど、と納得して道場の裏へ四人を連れていき、すぐに練習が始まる。



「すごい……ですね。合わせたのは初めてというのに」
「パチパチってしてすごかった!」
「ドリーもあれやりたーいー」

 最初の演奏が終わった。ドアとの高さを埋めるための石段に座って演奏をしていた、マシュー一家からの反応はいいものだった。

 特に子どもたちに受けていたのがよかった。大人は気を遣うが、子どもはつまらなかったら正直につまらないということが多いからな。

 いい反応をもらえて嬉しい反面、いざ合わせてみると思うように動けなかったり、リズムとズレてしまったりした部分があり、もどかしかった。師匠もきっと同じことを考えているだろう。

「ねぇお兄ちゃん、最初剣に何もついてなかったけどなんで?」

 ドリーから質問が飛んでくる。昼間には微弱に光っている魔法剣は見えないのだから、そう見えるだろう。建物の陰まで行って改めて光の魔法剣を使う。

「ちょっと光ってる?」

 たしかに日陰でもまだ明るすぎて霞んでしまっているから、その反応も無理はない。本番は元々のマシューさんの演奏の予定通り夕方なので、そこは心配ないだろう。

 次の演奏をしてもらう前に師匠と出来なかったところの確認をする。

「盛り上がるところの前と最後ですね」
「そうだね、前の方が僕が早く行っちゃって崩れちゃったから今度は気を付けるよ。たしかエイトで待って、次から動きだすんだよね」
「それで合ってます。最後の方は俺がもたもたしてて間に合わなかったので、次はばっちり決めます。初めてで最後をビシッと決められるのすごいですね、師匠──」

 そこまで口に出してからはっとする。そういえば俺は心の中では何度も思っているが、面と向かって師匠のことをすごいと言ったことはあまりなかった気がする。

 もし初めてだった場合、「コルネくんが初めてすごいって言ってくれた」と師匠はこの場で泣いてしまうかもしれない。そしてもはや師匠が泣くのは日常茶飯事みたいなところがあるが、他の人には泣くのを見られたくないのかもしれない。

 師匠の目元を見ると、潤んでいるのが分かる。どうにか耐えているようだが、どんどん目の淵に貯まる雫の量が増えていく。

 まずい──そう思った矢先、師匠はおもむろにポケットからハンカチを出す。まるで泣いてなどいないかのように落ち着き払っている。

「目にゴミが……」

 マシュー一家に聞こえるようにそう呟いて、目元の水分をしっかりと拭き取る師匠。涙が出たこと自体を否定せず、それを生理的反応だと思わせることで危機を回避したようだ。

 ここで泣いているところは見られなかったとしても、目が赤くなってしまい、泣いたということはバレてしまう。それならばいっそ、それを仕方のないことだとしてしまった方がよい──この状況において最善の判断だろう。

 涙を拭き終えた師匠は、顔を上げていつも通りの調子で言う。

「もう一回、お願いします」
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