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第六章 レオンの剣術道場編
第99話 レオンの剣術道場 其の十
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軽く戸を叩くと、すぐに長身のムキムキお兄さんが出てくる。この道場にいる人は基本的にムキムキなので、求めていたわけではないが特に意外性はなかった。
「あの、ヨーゼフさんはいらっしゃいますか?」
「ヨーゼフね、見舞いに来てくれたのか。ちょっと待ってな──おーい、ヨーゼフ! お客さんだよ」
部屋の奥に呼びかけると、誰かがこちらに向かってくる足音がする。その足音はひどくゆっくりで──まるで怪我でもしているみたいだった。そういえばさっき「見舞い」という言葉が聞こえたような……
「コルネ様ではないですか。もしかしてお見舞いに来ていただいたのでしょうか。でも一体誰から……いえ、何でもありません」
俺の顔を見て驚いた様子を見せるヨーゼフさん。見れば、腰──より少し下に手を当てている。お見舞いとはこのことだろうか。
「いえ、そうではないのですが……腰、大丈夫ですか?」
「ええ、しばらく安静にしていれば治るそうです。尻餅をついたときに骨を折ってしまいまして」
運が悪いと尻餅でも骨折することがあるからな。ヨーゼフさん大変だなぁ。
「それで、要件はなんですか?」
「ええと…………俺が実は悪の組織で精巧に作られた人形で、その親玉である俺の師匠が遠くから操ってるという噂を流しました?」
「はい?」
意味の分からない質問を受けてキョトンとするヨーゼフさん。俺も初めて聞いたときは意味が分からなかったのだから当然の反応だ。
聞けば、ヨーゼフさんは友人に俺の魔力操作のことを「操られているみたいで、まるで人形のようだった」とは話したが、そんな噂は知らないということだった。
きっとこれに尾ひれがついて出回ったのだろう。ヨーゼフさん自身が噂を流したかはともかく、出どころについての俺の推理は正しかったようだ。
そしてどうやら骨折は俺の動きを再現するために、何度も尻餅をついた結果らしい。どうしてまたそんなことを……と思ったが、あの動きに感銘を受けたらしい。
「それで、再現は出来たんですか?」
案内役に連れてきていた友人がヨーゼフさんに尋ねる。俯いて答えだすヨーゼフさん。
「どうやったらあの不自然な動きが出来るのか全く分からず、結局再現できませんでした……ですから、俺に教えていただけないでしょうか!」
ガバッと顔を上げ、突如俺の両腕を掴むヨーゼフさん。ヨーゼフさんはあれを体術の一種だと思っているようだが、魔力操作であって体術とは関係がない。
気まずい……体術ではないと分かれば落胆するのは目に見えている。でも、ここで下手に誤魔化せば、何度も訊かれることになってよくないだろう。
ここは正直に──
「あ、あれは体術ではなくてですね……魔力操作というもので──」
「魔力」と言ったあたりでヨーゼフさんの目から光がスッと消える。おそらく体術ではなく魔法関連のものだと理解したのだろう。
「じゃあ俺は何のために──何のためにあんなことを何百回も……」
項垂れ、床に座り込んでしまうヨーゼフさん。勝手に期待されただけなんですけど、なんかごめんなさい……
「あの、ヨーゼフさんはいらっしゃいますか?」
「ヨーゼフね、見舞いに来てくれたのか。ちょっと待ってな──おーい、ヨーゼフ! お客さんだよ」
部屋の奥に呼びかけると、誰かがこちらに向かってくる足音がする。その足音はひどくゆっくりで──まるで怪我でもしているみたいだった。そういえばさっき「見舞い」という言葉が聞こえたような……
「コルネ様ではないですか。もしかしてお見舞いに来ていただいたのでしょうか。でも一体誰から……いえ、何でもありません」
俺の顔を見て驚いた様子を見せるヨーゼフさん。見れば、腰──より少し下に手を当てている。お見舞いとはこのことだろうか。
「いえ、そうではないのですが……腰、大丈夫ですか?」
「ええ、しばらく安静にしていれば治るそうです。尻餅をついたときに骨を折ってしまいまして」
運が悪いと尻餅でも骨折することがあるからな。ヨーゼフさん大変だなぁ。
「それで、要件はなんですか?」
「ええと…………俺が実は悪の組織で精巧に作られた人形で、その親玉である俺の師匠が遠くから操ってるという噂を流しました?」
「はい?」
意味の分からない質問を受けてキョトンとするヨーゼフさん。俺も初めて聞いたときは意味が分からなかったのだから当然の反応だ。
聞けば、ヨーゼフさんは友人に俺の魔力操作のことを「操られているみたいで、まるで人形のようだった」とは話したが、そんな噂は知らないということだった。
きっとこれに尾ひれがついて出回ったのだろう。ヨーゼフさん自身が噂を流したかはともかく、出どころについての俺の推理は正しかったようだ。
そしてどうやら骨折は俺の動きを再現するために、何度も尻餅をついた結果らしい。どうしてまたそんなことを……と思ったが、あの動きに感銘を受けたらしい。
「それで、再現は出来たんですか?」
案内役に連れてきていた友人がヨーゼフさんに尋ねる。俯いて答えだすヨーゼフさん。
「どうやったらあの不自然な動きが出来るのか全く分からず、結局再現できませんでした……ですから、俺に教えていただけないでしょうか!」
ガバッと顔を上げ、突如俺の両腕を掴むヨーゼフさん。ヨーゼフさんはあれを体術の一種だと思っているようだが、魔力操作であって体術とは関係がない。
気まずい……体術ではないと分かれば落胆するのは目に見えている。でも、ここで下手に誤魔化せば、何度も訊かれることになってよくないだろう。
ここは正直に──
「あ、あれは体術ではなくてですね……魔力操作というもので──」
「魔力」と言ったあたりでヨーゼフさんの目から光がスッと消える。おそらく体術ではなく魔法関連のものだと理解したのだろう。
「じゃあ俺は何のために──何のためにあんなことを何百回も……」
項垂れ、床に座り込んでしまうヨーゼフさん。勝手に期待されただけなんですけど、なんかごめんなさい……
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