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第四章 初めての単独討伐クエスト編
第72話 ジャン・オランド
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領主の館で、領主アラン・オランドの三男──ジャン・オランドは今日も勉学に励む。帝王学に経営学──どれも領主アランから学ぶように言われたものだ。
兄二人が別段病弱であるというわけではないため、三男であるジャンが家督を継ぐ可能性は高くない。しかし、もしものときのためにジャンも兄たちと同じように領主になるための勉強をするのだ。
ジャンは冒険者パーティに入ってから別人のように変わった。我儘で、勉強をほったらかして遊びまわっていたのが嘘のように、今では家庭教師の話を真面目に聞いている。
使用人の間では、「パーティの冒険者が厳しかった」だとか「弱肉強食の自然の厳しさに触れて悟りを開いた」だとか根拠のない憶測が飛びかっているが、実際はそうではない。
「ふぅ……」
勉強が一区切りついたようで、ジャンは本を閉じ、伸びをする。そして引き出しに隠している冒険者証を取り出し、眺めながら呟く。
「また討伐に行くんだ。絶対に……!」
ジャンはまだ討伐クエストに行くことを諦めていなかった。短い冒険者生活から帰って、ジャンは最初の討伐クエストを忘れられずにいた。
初めてモンスターを倒した達成感、パーティメンバーが一緒になって喜んでくれたこと。頑張ったね、と褒めてくれて嬉しかったこと。
どれもがジャンにとっては大切な思い出だった。
その後、みんないなくなってしまったことは悲しかったが、それでもあの楽しかった時間は本物だったと思いたかった。
だから、次にどこかのパーティに入ったときは、もっと──ずっと長くパーティに居続けて、たくさんクエストに行きたいとジャンは思った。しばらくはそんな機会はないだろうが、もしまた機会に恵まれたなら、それを最大限生かしたい、と。
そのために、ジャンは小さい頃から育ててくれた乳母にどうしたら人と仲良く出来るのか相談した。
「その人がされて嬉しいことをするんだよ」
彼女が返した言葉はそれだけだった。
その日から、ジャンは屋敷中の使用人に「どんなときに嬉しくなる?」と訊いてまわった。「空にきれいな虹がでたとき」「ジャン様が元気に遊ぶのを見ているとき」「育てている花が綺麗に咲いたとき」「ジャン様がきちんと勉強しているとき」と返答は様々であったが、自分が出来るものならやろうと思った。
それからジャンは元気に遊んだり、きちんと勉強したり、綺麗に咲いた花があると庭師に教えたりした。そうすると、今まで愛想笑いばかりしていた使用人たちが、彼を褒めるようになった。
それが嬉しくて、彼は色んなことを頑張るようになった。ご褒美をあげると言われたときは、モンスターの図鑑を買ってもらったり、剣の稽古を騎士につけてもらったりと討伐クエストの役に立つようなものをねだった。
少しずつ、少しずつ、討伐クエストの準備を整えるのだ。
兄二人が別段病弱であるというわけではないため、三男であるジャンが家督を継ぐ可能性は高くない。しかし、もしものときのためにジャンも兄たちと同じように領主になるための勉強をするのだ。
ジャンは冒険者パーティに入ってから別人のように変わった。我儘で、勉強をほったらかして遊びまわっていたのが嘘のように、今では家庭教師の話を真面目に聞いている。
使用人の間では、「パーティの冒険者が厳しかった」だとか「弱肉強食の自然の厳しさに触れて悟りを開いた」だとか根拠のない憶測が飛びかっているが、実際はそうではない。
「ふぅ……」
勉強が一区切りついたようで、ジャンは本を閉じ、伸びをする。そして引き出しに隠している冒険者証を取り出し、眺めながら呟く。
「また討伐に行くんだ。絶対に……!」
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どれもがジャンにとっては大切な思い出だった。
その後、みんないなくなってしまったことは悲しかったが、それでもあの楽しかった時間は本物だったと思いたかった。
だから、次にどこかのパーティに入ったときは、もっと──ずっと長くパーティに居続けて、たくさんクエストに行きたいとジャンは思った。しばらくはそんな機会はないだろうが、もしまた機会に恵まれたなら、それを最大限生かしたい、と。
そのために、ジャンは小さい頃から育ててくれた乳母にどうしたら人と仲良く出来るのか相談した。
「その人がされて嬉しいことをするんだよ」
彼女が返した言葉はそれだけだった。
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それが嬉しくて、彼は色んなことを頑張るようになった。ご褒美をあげると言われたときは、モンスターの図鑑を買ってもらったり、剣の稽古を騎士につけてもらったりと討伐クエストの役に立つようなものをねだった。
少しずつ、少しずつ、討伐クエストの準備を整えるのだ。
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