35 / 328
第二章 ダンジョン編
第32話 ダンジョン探索 其の十一
しおりを挟む 手紙の返信を携えた先触れを出していたお蔭で、私達がソルツァグマ修道院へ着いた時にはサリューン枢機卿、メンデル修道院長、ファブリス司祭達、エヴァン修道士他数人の修道士達と共に出迎えてくれていた。
ヴェスカル、グレイ、イドゥリースが先に下車。私はグレイの、ついて来たメリーはイドゥリースのエスコートで馬車を降りると、彼ら全員聖職者の礼を取って深々と頭を垂れる。
「聖女マリアージュ様、そしてグレイ猊下――お久しゅうございます。エヴァン修道士とファブリス司祭よりマンデーズ教会にて起こされた奇跡を聞き及びましたが、無事にお戻りになられた事に太陽神への感謝を」
サリューン枢機卿の口上に、私とグレイも返礼をした。
「ファブリス司祭、他の方々も。お元気でしたか?」
「お陰様にて、大変良くして頂いております」
「それは良かったわ。メンデル修道院長、私の我儘で急な話になったにも関わらず、快く受け入れて下さり感謝致します」
「聖女様のお頼みとあらば。寧ろ、奇跡の話を当事者から直接聞けて役得にございました」
「ヴェスカルはこちらへ」
「はい」
エヴァン修道士が声を掛けたことにあれ? と思う。そう言えばべリーチェ修道女の姿が無い。
そんな疑問が顔に出ていたのか、エヴァン修道士は「既にヴェスカルは学び終えましたから」と言う。
「聖女様、新年の儀にも関係あるのですが、ヴェスカルの事でお話が」
曰く、ファブリス司祭達と同時にヴェスカルとエヴァン修道士も位階を上げるという事になったらしい。
ヴェスカルは『聖女専属侍祭』、エヴァン修道士は『聖女専属書記』という特別位階だという。
どういうことか訊けば、私専属というだけでやる事自体は今までと大して変わらないんだとか。
ヴェスカルは私の小間使い的な位置付け、エヴァン修道士も聖女の記録専門職になる。
役職名が付く、それだけである。
ただ二人共権限的には司祭にも匹敵するそうでこれまでにない特別職。正装も普通の聖職者達とは違うものになっており、今日はそのサイズ合わせと本番練習があるという。
「位階をお授けになるのは聖女様ですから、また後程お会いしましょう」
エヴァン修道士とヴェスカルと別れた後、私達も行きましょうということになり歩き出す。
今気が付いたが、修道院を囲むように立っている騎士達に気付いた。王宮の制服を着ている。恐らくサリューン枢機卿の警護だろう。今日は流石に修道院は貸し切り状態であるようだ。
向かった先の聖堂で新年の儀の一連の流れを説明される。第一王子アルバートとメティ、王族、貴族達、ファブリス司祭達聖職者、民衆……祝福対象はてんこ盛りである。
新年の祝いで大体的にお披露目するのが効果的なのだろうから仕方ないが。
聖句を覚え直し、途中でエヴァン修道士とヴェスカルを加え。リハーサルを数回終えた時には既に私はヘトヘトになっていた。
***
お腹が鳴った昼過ぎ。漸くそれなりになってきたところでべリーチェ修道女達女性陣がランチを持って来てくれた。
ああ、彼女達の背後に後光が見える……。どうせなら一緒に食べようと誘って近況などを聞くと――
「え、メイソンの?」
「はい。ヴェスカルの手も離れましたし」
何と、べリーチェ修道女はメイソンの世話をしてやっているらしい。今は出家したとは言え、メイソンは元大貴族のドラ息子である。
調き……もとい、上下関係をみっちり教え込んだ私と違い、べリーチェ修道女には横柄な態度を取っている可能性がある。
「大変よね?」
首を傾げて訊ねると、「ええ、まあ……」と苦笑交じりの微笑みを返された。
「聖女様がマンデーズ教会に向かわれた事を知った時は、また置いて行かれたと暫く駄々を捏ね不貞腐れていて手を焼きましたが――何とか言い含めて仕事を与えてみたら、最近やっと聖職者としての自覚が出て来たようで真面目に働いておりますわ」
何と、子供達を教えているんですよ!
「グッ、ゲホゲホッ……」
その言葉の衝撃たるや。
私は口に含んだシチューを危うく噴き出しかけた。
子供達を教える? 教師? あの馬鹿で変態な雄豚奴隷メイソンが!?
「嘘だ。信じられない……」
幻聴を疑っていると、愕然とした様子で震え声を出すグレイ。全く同感だ。
驚かせる事に成功したとでも言わんばかりにクスクスと笑うべリーチェ修道女。
「猊下、本当ですわ。そろそろ午後の授業が始まる所でしょう。ご覧になられますか?」
どうしよう、子供達が凄く心配なんだけど。
リハーサル……でも、少しだけなら見ても良いかしら?
凄く気になるんだけど。
ちらり、とサリューン枢機卿やメンデル修道院長を見る。
すると、苦笑いを浮かべながら「賢者様の聖句のおさらいをしたいですし、半時程度なら構いませんよ」と許可が出た。
どこかげんなりした恨めしそうな様子でこちらを見るイドゥリース、それを励ますメリー。
彼らに頑張れとエールを送り後でねと手を振って、授業が行われている教室に行ってみる事に。
「畏まりました。こちらへどうぞ」
べリーチェ修道女の案内で向かった先――そこは私が講義をしたこともある古びた大きな石板、もとい黒板のある部屋だった。
子供達のはしゃぐ声が聞こえて来る。怖いもの見たさで、私はごくりと唾を飲み込んだ。
ヴェスカル、グレイ、イドゥリースが先に下車。私はグレイの、ついて来たメリーはイドゥリースのエスコートで馬車を降りると、彼ら全員聖職者の礼を取って深々と頭を垂れる。
「聖女マリアージュ様、そしてグレイ猊下――お久しゅうございます。エヴァン修道士とファブリス司祭よりマンデーズ教会にて起こされた奇跡を聞き及びましたが、無事にお戻りになられた事に太陽神への感謝を」
サリューン枢機卿の口上に、私とグレイも返礼をした。
「ファブリス司祭、他の方々も。お元気でしたか?」
「お陰様にて、大変良くして頂いております」
「それは良かったわ。メンデル修道院長、私の我儘で急な話になったにも関わらず、快く受け入れて下さり感謝致します」
「聖女様のお頼みとあらば。寧ろ、奇跡の話を当事者から直接聞けて役得にございました」
「ヴェスカルはこちらへ」
「はい」
エヴァン修道士が声を掛けたことにあれ? と思う。そう言えばべリーチェ修道女の姿が無い。
そんな疑問が顔に出ていたのか、エヴァン修道士は「既にヴェスカルは学び終えましたから」と言う。
「聖女様、新年の儀にも関係あるのですが、ヴェスカルの事でお話が」
曰く、ファブリス司祭達と同時にヴェスカルとエヴァン修道士も位階を上げるという事になったらしい。
ヴェスカルは『聖女専属侍祭』、エヴァン修道士は『聖女専属書記』という特別位階だという。
どういうことか訊けば、私専属というだけでやる事自体は今までと大して変わらないんだとか。
ヴェスカルは私の小間使い的な位置付け、エヴァン修道士も聖女の記録専門職になる。
役職名が付く、それだけである。
ただ二人共権限的には司祭にも匹敵するそうでこれまでにない特別職。正装も普通の聖職者達とは違うものになっており、今日はそのサイズ合わせと本番練習があるという。
「位階をお授けになるのは聖女様ですから、また後程お会いしましょう」
エヴァン修道士とヴェスカルと別れた後、私達も行きましょうということになり歩き出す。
今気が付いたが、修道院を囲むように立っている騎士達に気付いた。王宮の制服を着ている。恐らくサリューン枢機卿の警護だろう。今日は流石に修道院は貸し切り状態であるようだ。
向かった先の聖堂で新年の儀の一連の流れを説明される。第一王子アルバートとメティ、王族、貴族達、ファブリス司祭達聖職者、民衆……祝福対象はてんこ盛りである。
新年の祝いで大体的にお披露目するのが効果的なのだろうから仕方ないが。
聖句を覚え直し、途中でエヴァン修道士とヴェスカルを加え。リハーサルを数回終えた時には既に私はヘトヘトになっていた。
***
お腹が鳴った昼過ぎ。漸くそれなりになってきたところでべリーチェ修道女達女性陣がランチを持って来てくれた。
ああ、彼女達の背後に後光が見える……。どうせなら一緒に食べようと誘って近況などを聞くと――
「え、メイソンの?」
「はい。ヴェスカルの手も離れましたし」
何と、べリーチェ修道女はメイソンの世話をしてやっているらしい。今は出家したとは言え、メイソンは元大貴族のドラ息子である。
調き……もとい、上下関係をみっちり教え込んだ私と違い、べリーチェ修道女には横柄な態度を取っている可能性がある。
「大変よね?」
首を傾げて訊ねると、「ええ、まあ……」と苦笑交じりの微笑みを返された。
「聖女様がマンデーズ教会に向かわれた事を知った時は、また置いて行かれたと暫く駄々を捏ね不貞腐れていて手を焼きましたが――何とか言い含めて仕事を与えてみたら、最近やっと聖職者としての自覚が出て来たようで真面目に働いておりますわ」
何と、子供達を教えているんですよ!
「グッ、ゲホゲホッ……」
その言葉の衝撃たるや。
私は口に含んだシチューを危うく噴き出しかけた。
子供達を教える? 教師? あの馬鹿で変態な雄豚奴隷メイソンが!?
「嘘だ。信じられない……」
幻聴を疑っていると、愕然とした様子で震え声を出すグレイ。全く同感だ。
驚かせる事に成功したとでも言わんばかりにクスクスと笑うべリーチェ修道女。
「猊下、本当ですわ。そろそろ午後の授業が始まる所でしょう。ご覧になられますか?」
どうしよう、子供達が凄く心配なんだけど。
リハーサル……でも、少しだけなら見ても良いかしら?
凄く気になるんだけど。
ちらり、とサリューン枢機卿やメンデル修道院長を見る。
すると、苦笑いを浮かべながら「賢者様の聖句のおさらいをしたいですし、半時程度なら構いませんよ」と許可が出た。
どこかげんなりした恨めしそうな様子でこちらを見るイドゥリース、それを励ますメリー。
彼らに頑張れとエールを送り後でねと手を振って、授業が行われている教室に行ってみる事に。
「畏まりました。こちらへどうぞ」
べリーチェ修道女の案内で向かった先――そこは私が講義をしたこともある古びた大きな石板、もとい黒板のある部屋だった。
子供達のはしゃぐ声が聞こえて来る。怖いもの見たさで、私はごくりと唾を飲み込んだ。
0
お気に入りに追加
232
あなたにおすすめの小説
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。
なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。
しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。
探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。
だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。
――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。
Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。
Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。
それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。
失意の内に意識を失った一馬の脳裏に
――チュートリアルが完了しました。
と、いうシステムメッセージが流れる。
それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

無能扱いされた実は万能な武器職人、Sランクパーティーに招かれる~理不尽な理由でパーティーから追い出されましたが、恵まれた新天地で頑張ります~
詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)
ファンタジー
鍛冶職人が武器を作り、提供する……なんてことはもう古い時代。
現代のパーティーには武具生成を役目とするクリエイターという存在があった。
アレンはそんなクリエイターの一人であり、彼もまたとある零細パーティーに属していた。
しかしアレンはパーティーリーダーのテリーに理不尽なまでの要望を突きつけられる日常を送っていた。
本当は彼の適性に合った武器を提供していたというのに……
そんな中、アレンの元に二人の少女が歩み寄ってくる。アレンは少女たちにパーティーへのスカウトを受けることになるが、後にその二人がとんでもない存在だったということを知る。
後日、アレンはテリーの裁量でパーティーから追い出されてしまう。
だが彼はクビを宣告されても何とも思わなかった。
むしろ、彼にとってはこの上なく嬉しいことだった。
これは万能クリエイター(本人は自覚無し)が最高の仲間たちと紡ぐ冒険の物語である。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる