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第4章 強盗殺人の現行犯でお前を拘束する

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 酒場での乱闘から数日後、衛兵隊庁舎に呼び出されたコウスケは、取り調べを受けていた。

「50人ほどのゴロツキが全員重症。ダイヤクラフター商会の会長も激しい暴行を受けた末に、全身露出の状態で亀甲縛りにされて城門の前に吊るされていた。更にそれを撮影した幻影紙が王都中にまかれたという報告も受けている。お前知っているよな?」

「え、ええ。噂には聞いています。ジャッロもマーヴィ―も派手にやっちゃったみたいですね。元パーティーリーダーとして恥ずかしい限りです。厳罰に処してください」
「とぼけるな! 剣聖様や賢者先生がこの様なことをするはずがない! お前がやったんだろうが!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。50人相手に俺なんかが勝てる訳……」
「なにかまたゲスな悪知恵を働かせたのだろう!」
「いや、ゲスな悪知恵働かせても50人も倒したら普通に強い奴ですよ」
「むう……ダスティン会長はお前にやられたと証言しているし、被害者の証言も沢山ある! どんな卑怯な手段を使ったかは知らんが、犯人はお前で間違いないはずだ!!」

(強制的に酒を大量に飲ませて、何発も頭をぶん殴ったのに、どうして記憶が飛んでねえんだ!)

「だ、誰かが変装していたんです」
「ふざけるな!」

 必死に見苦しい言い訳を続ける中、

「そこまでだ」

 デミトリウスが部屋に入ってきた。

「ダイヤクラフター商会が、先に逆恨みで放火や襲撃をしたことは間違いない。さらにあの商人は以前から、かなり無茶なことをしていて各所から嫌われていたようだからな。世論は商人を成敗した剣聖様と賢者先生を絶賛する声が圧倒的だ。これ以上探る必要はないだろう」
「しかし……」
「副隊長閣下。ありがとうございます!」
「少し個人的に話す。席を外してくれ」

 部屋を後にする衛兵の後姿を見ながら、コウスケはベロベロバーと舌を突き出した。

「これでよろしいでしょうか? 勇者様」

 デミトリウスの冷静な言葉で我に返ったコウスケは、いい歳をしたオヤジでありながら子供じみた行動をした自分が恥ずかしくなってきた。

「は、はい。ありがとうございます。副隊長閣下には本当に迷惑をかけっぱなしで」
「差し出がましいですが、ご自身も商人討伐に参加されたことをアピールされてはいかがでしょうか? そうすれば今の勇者様の評判も昔のように変わるかと……」

 ジャッロとマーヴィ―を絶賛する世間の声を聞いて、それも考えた。
 しかし金も権力もあり、人々から称賛されている剣聖、賢者と、ゲス勇者と呼ばれ世間から馬鹿にされて嫌われている今の自分とでは同じことをしても人々の捉え方は、まるで違う。
 大衆はコウスケだけを極悪人として吊るし上げて、責任をとらせるようとするだろう。
ご立派な剣聖、賢者がコウスケをかばっても、大衆は都合の良いように解釈して、聞き耳を持つわけがない。

「勘弁してくださいよ。今の平和な世の中で、ものを言うのは、カネと権力、あとアホな大衆を扇動できる名声ですからね。それがない俺の言う事なんて、大衆から見たらゴミ虫のたわ言です。恥かくだけすって」
「勇者様、あなたの口からその様な言葉、聞きたくなかったです」
「副隊長閣下、今回も助けて頂き本当にありがとうございます!」

 失望するデミトリスを横目に、コウスケは深々と頭を下げた。



「ゲス勇者共のせいでワシは大恥をかいた」

 ヴェディの自宅になんの連絡もなく現れたダスティンは、挨拶すらせずに息巻いている。
 非常に鬱陶しい。

「商会との取引を打ち切りたいという、薄情なゴミも数えきれないくらい現れた」

 あれだけの事をしたならば当然である。
 それでありながら、今回お縄にならなかったのは、ヴェディの根回しによるものなのだが、それすらも理解できていないようだ。

「おい貴様! ワシをこんな目に合わせたゲス勇者と剣聖、賢者を、この世から亡き者にしろ! これは命令だ!」
 
 この男は誰のおかげで、王室御用達の商人になれたと思っているのだろうか。
 勇者パーティーのメンバーは、ヒセキ・コウスケを除き、英雄として誰からも尊敬されている。ヴェディの力を持ってしてもその影響力を削ぐことは難しい。
 それなのに、このバカはどうして自分が勇者パーティーのメンバーたちより偉いと思う事ができるのだろうか。
 怒りを通り越して呆れてしまう。


「誰のおかげで今の立場にいるか分かっているだろ! 断ることは許さんからな!」

 自分がヴェディに命令を出来る立場だと勘違いしているようだ
 こいつは馬鹿なので、おだてれば扱いやすいと思い、拾い上げて手駒として育て上げてきた。
 この見立ては正しく、だいぶ重宝した。だが、ここまで馬鹿だったとは予想外だ。
 放っておけば、さらに大きな問題を起こすことは間違いない。そろそろこの駒も潮時だろうか。

「ちょっと」

 どう始末をつけようか考えていると、耳の長い醜い生き物が突然部屋の中に入ってきた。

「アンタがゲス勇者なんか紹介しなければこんな事にはならなかったのよ!」

 昔あてがった女の一人か。
 しかし、こんな醜いものを紹介した記憶はない。
 だが、この状況で現れたということは、あの事をどこかで聞いた可能性がある。
 早々に口を塞がねばならない。
 丁度手元には今、ナイフがある。

「離婚されたうえに、慰謝料まで、一体どうし……」

 投げたナイフはキレイに眉間に刺さり、醜い生き物は床に倒れ込んだ。

「ひいいいい」

 醜い生き物の死骸を見ながら、ダスティンは汚い悲鳴をあげている。
 実に不快だった。この場で口をコイツの口も封じようと思ったその時、少し面白いことを思いついた。
 最近のヒセキ・コウスケの言動を考えるに、あの事件の真相に、やっとたどり着いたのだろう。
 だが、物的証拠になるものは、まだ何も持っていないので、今頃必死に探し回っているに違いない。
 ならば近いうちにそれを預けているダスティンにたどり着いてしまうかも知れない。
 だったら、その時に両方始末してしまえば良いではないか。
 そう考えたヴェティは敢えて下手に出て、役に立ちそうなヒセキ・コウスケとその周辺の情報をダスティンに伝えることにした。


「申し訳ございません。お詫びの印に、間者が仕入れたヒセキ・コウスケの情報をお伝えいたします。実は最近のヒセキは……」
「……なるほどな。今の情報を聞いていい方法を思いついたぞ。今日の所はこれで大目に見てやる」

 そそくさと立ち去っていくダスティンの後ろ姿を見ながら、ヴェディはこみあげる笑いを必死にこらえていた。


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