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第3章 ギャハハ、お前らも俺と同じ所まで堕ちてきやがれ!
3-6
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「お名前とエントリー番号をお伺いしても大丈夫でしょうか?」
ついに迎えた入団試験当日。
スカーレットは少し緊張していたながら、参加の手続きを行っていた。
「182番、スカーレット・ヒセキです」
「確認できました。あと、お持ちの木刀……」
(ぼくとう? この変な木剣のことかな?)
「魔力は付与されておらず、特殊なトラップも施されていないようですので、試験でそのまま使用できますが、どうしますか?」
この変な木剣を多くの人が見ている場で、使う事には抵抗があった。
だが、これを使って2週間練習をしてきたので、違うものを貸してもらうよりは、扱いやすい様にも感じる。
「……使わせてください」
迷ったが、少しでも優勝する可能性が高い方を選択した。
受付を済ませた後、ヴィオレに合流する。
「パパは、いないみたいね」
「来たら締め上げてやる」
家に出る前にボコボコにして縛り上げてきたが、ゲスなコウスケがどんな行動をとるか分からない。
警戒して周囲を見渡す中、先ほどまでいた受付から大きな声が聞こえてきた。
「なんで、ダメなんだよ!」
声の主は、このまえ締め上げた金持ちのボンボンだった。
どうやら入団試験に参加するらしい。
横にいるデブハゲ中年は、ボンボンの父親だろうか。
驚きながらも何故揉めているのか興味がわき、聞き耳を立てた。
「探知機で確認しましたところ、この木剣には強力な雷の魔力が付与されていました。試験の主旨に反しますので、使用できません」
「ふざけるな! ワシは王室御用達の商家、ダイヤクラフター商会の当主だぞ! こいつはワシの息子だ! だから特例でこの木剣を使わせろ!」
「パパは金持ちで偉いんだ! 俺もその息子だから偉くて剣も天才的に上手い! だから特別に許されるんだ!」
「そうだ! ラットはワシの息子だ! だから、剣聖ジャッロが率いる煌剣団に入団するに相応しい人間だ!」
「従えない場合はご辞退ください」
「下っ端の分際でふざけるな! パパがジャッロに言えば、お前なんかクビだぞ!」
「なに言ってるのアイツら」
「構ってる暇ないわ。行きましょ」
非常識すぎる親子に背を向けて、会場に向かい歩き出した。
◇
(実家で収穫の手伝いをしなきゃいけないのに。早く終わってくれないかなあ)
顔立ちが整った長身の優男は、憂鬱な気分で団長の椅子に座っていた。
「ジャッロ団長!」
「どうしたんだい?」
「受付で変な親子が騒いでいまして、それでジャッロ団長にこれをと……」
そう言って団員は、沢山の金貨が入った袋を渡してきた。
ざっと500万Gはありそうだ。
ジャッロは大きくため息をついた後、すっかり恐縮している団員に袋をつき返した。
「君たちで対応しておいてくれ」
「は、はい」
「こんな下らないことを団長に報告するな!」
「しかし、自分の名前を出せば団長は、絶対に言うことを聞くなどと……」
「そんなことを言いそうな知り合いは、いないかな」
本当は1人だけ言いそうな友人がいた。
だが、その友人は自分にカネを渡して来るはずがない。
「は、はい! 失礼いたしました」
報告に来た団員が、去っていく。
「部下が、すみません。楽しみにされていたにも関わらず、台無しにするようなことを耳に入れてしまいまして」
こんな報告をするなと恫喝した団員が、必死に取り繕ってきた。
(僕がこんな事をいつ楽しみにしたっていうんだい)
元々ジュニアチームは、子供たちが身分、人種にとらわれず、気軽に楽しく剣術が学べる道場として作ったはずだった。
ここで、オフの日に子供たちと触れあいながら、剣術の楽しさを伝える……。ジャッロはそんなことを考えていた。
だが、団員たちが暴走してしまい気づいたときには、将来チームを背負って立つような有望な人材だけを選抜、育成する機関に変容していた。
子供たちと触れないながら指導することは無い。
というか団員がさせてくれなかった。
活動する子供たちの表情も真剣そのもので、楽しさは微塵も感じない。
ジャッロの当初の理想と全く異なったものになっているジュニアチームとは、正直、できるだけ関わりたくなかった。
「この試験で有望な若手を入れれば、我が煌剣団は、ますます安泰ですね」
「そうだね」
さらに言えば、ジャッロは今の立場も不満だ。
強い相手と戦えて、人助けができる仕事をしたい。でも堅苦しいのは嫌だから気ままにやりたい。
これが勇者パーティー解散後に、ジャッロが冒険者になった理由だ。
だが、今の立場は堅苦しく、とても不自由だった。
自分に教えを請いたいという新人の冒険者達に、知っている事を教えていたら、知らないうちに祭り上げられて、こんな事になってしまった。
本音を言わせてもらえば、団を解散させたいとすら何度も思っていた。
だが、団で得たおカネで、貧しい両親に仕送りをしたり、妻子を養っている団員も多い。
それを考えると自分の一存で解散させる事は、とてもできなかった。
「これが、エントリーした子供たちのリストです」
(甥っ子たちに、お土産なにあげようかな……)
「やはり優勝は、サンベリア地方から来ているショット君ですかね?」
参加者リストをペラペラとめくっていた時、リストに載っている、ある女の子が目についた。
(……ヒセキ)
連合王国の姓ではない。
(親御さんは、やっぱり東の方からこっちに来たのかな。でもハーフ鬼(オーガ)だからな。あの地域に魔族は、ほとんどいないはずだし)
ここで、同じ姓の友人の事を思い出す。
(そういや相棒、また連絡返してくれなかったな。こっちにいるみたいだから一緒に飲みたいって思ったのに。忙しいのかな?)
ジャッロ・ホアンソオ。彼はとびぬけた富、影響力、実力、容姿を持ちながら、それを鼻に欠けない気さくな性格の持ち主だった。
しかし、戦い以外のことでは、鈍感で空気が読めない男だった。
ついに迎えた入団試験当日。
スカーレットは少し緊張していたながら、参加の手続きを行っていた。
「182番、スカーレット・ヒセキです」
「確認できました。あと、お持ちの木刀……」
(ぼくとう? この変な木剣のことかな?)
「魔力は付与されておらず、特殊なトラップも施されていないようですので、試験でそのまま使用できますが、どうしますか?」
この変な木剣を多くの人が見ている場で、使う事には抵抗があった。
だが、これを使って2週間練習をしてきたので、違うものを貸してもらうよりは、扱いやすい様にも感じる。
「……使わせてください」
迷ったが、少しでも優勝する可能性が高い方を選択した。
受付を済ませた後、ヴィオレに合流する。
「パパは、いないみたいね」
「来たら締め上げてやる」
家に出る前にボコボコにして縛り上げてきたが、ゲスなコウスケがどんな行動をとるか分からない。
警戒して周囲を見渡す中、先ほどまでいた受付から大きな声が聞こえてきた。
「なんで、ダメなんだよ!」
声の主は、このまえ締め上げた金持ちのボンボンだった。
どうやら入団試験に参加するらしい。
横にいるデブハゲ中年は、ボンボンの父親だろうか。
驚きながらも何故揉めているのか興味がわき、聞き耳を立てた。
「探知機で確認しましたところ、この木剣には強力な雷の魔力が付与されていました。試験の主旨に反しますので、使用できません」
「ふざけるな! ワシは王室御用達の商家、ダイヤクラフター商会の当主だぞ! こいつはワシの息子だ! だから特例でこの木剣を使わせろ!」
「パパは金持ちで偉いんだ! 俺もその息子だから偉くて剣も天才的に上手い! だから特別に許されるんだ!」
「そうだ! ラットはワシの息子だ! だから、剣聖ジャッロが率いる煌剣団に入団するに相応しい人間だ!」
「従えない場合はご辞退ください」
「下っ端の分際でふざけるな! パパがジャッロに言えば、お前なんかクビだぞ!」
「なに言ってるのアイツら」
「構ってる暇ないわ。行きましょ」
非常識すぎる親子に背を向けて、会場に向かい歩き出した。
◇
(実家で収穫の手伝いをしなきゃいけないのに。早く終わってくれないかなあ)
顔立ちが整った長身の優男は、憂鬱な気分で団長の椅子に座っていた。
「ジャッロ団長!」
「どうしたんだい?」
「受付で変な親子が騒いでいまして、それでジャッロ団長にこれをと……」
そう言って団員は、沢山の金貨が入った袋を渡してきた。
ざっと500万Gはありそうだ。
ジャッロは大きくため息をついた後、すっかり恐縮している団員に袋をつき返した。
「君たちで対応しておいてくれ」
「は、はい」
「こんな下らないことを団長に報告するな!」
「しかし、自分の名前を出せば団長は、絶対に言うことを聞くなどと……」
「そんなことを言いそうな知り合いは、いないかな」
本当は1人だけ言いそうな友人がいた。
だが、その友人は自分にカネを渡して来るはずがない。
「は、はい! 失礼いたしました」
報告に来た団員が、去っていく。
「部下が、すみません。楽しみにされていたにも関わらず、台無しにするようなことを耳に入れてしまいまして」
こんな報告をするなと恫喝した団員が、必死に取り繕ってきた。
(僕がこんな事をいつ楽しみにしたっていうんだい)
元々ジュニアチームは、子供たちが身分、人種にとらわれず、気軽に楽しく剣術が学べる道場として作ったはずだった。
ここで、オフの日に子供たちと触れあいながら、剣術の楽しさを伝える……。ジャッロはそんなことを考えていた。
だが、団員たちが暴走してしまい気づいたときには、将来チームを背負って立つような有望な人材だけを選抜、育成する機関に変容していた。
子供たちと触れないながら指導することは無い。
というか団員がさせてくれなかった。
活動する子供たちの表情も真剣そのもので、楽しさは微塵も感じない。
ジャッロの当初の理想と全く異なったものになっているジュニアチームとは、正直、できるだけ関わりたくなかった。
「この試験で有望な若手を入れれば、我が煌剣団は、ますます安泰ですね」
「そうだね」
さらに言えば、ジャッロは今の立場も不満だ。
強い相手と戦えて、人助けができる仕事をしたい。でも堅苦しいのは嫌だから気ままにやりたい。
これが勇者パーティー解散後に、ジャッロが冒険者になった理由だ。
だが、今の立場は堅苦しく、とても不自由だった。
自分に教えを請いたいという新人の冒険者達に、知っている事を教えていたら、知らないうちに祭り上げられて、こんな事になってしまった。
本音を言わせてもらえば、団を解散させたいとすら何度も思っていた。
だが、団で得たおカネで、貧しい両親に仕送りをしたり、妻子を養っている団員も多い。
それを考えると自分の一存で解散させる事は、とてもできなかった。
「これが、エントリーした子供たちのリストです」
(甥っ子たちに、お土産なにあげようかな……)
「やはり優勝は、サンベリア地方から来ているショット君ですかね?」
参加者リストをペラペラとめくっていた時、リストに載っている、ある女の子が目についた。
(……ヒセキ)
連合王国の姓ではない。
(親御さんは、やっぱり東の方からこっちに来たのかな。でもハーフ鬼(オーガ)だからな。あの地域に魔族は、ほとんどいないはずだし)
ここで、同じ姓の友人の事を思い出す。
(そういや相棒、また連絡返してくれなかったな。こっちにいるみたいだから一緒に飲みたいって思ったのに。忙しいのかな?)
ジャッロ・ホアンソオ。彼はとびぬけた富、影響力、実力、容姿を持ちながら、それを鼻に欠けない気さくな性格の持ち主だった。
しかし、戦い以外のことでは、鈍感で空気が読めない男だった。
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