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第2章 2人の娘「「ねえ、パパ、誰この子?」」
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マーヴィ―先生は優しく微笑みながら、ヴィオレに紅茶とクッキーを差し出してくれた。
「ごめんなさいね。こんなもてなししかできなくて」
「と、とんでもないです」
今、自分は憧れの人と対峙している。
ヴィオレはとても緊張をしていた。だがそれは幸福な緊張でもあった。
「ギャー――!」
緊張と幸せをぶち壊す絶叫が聞こえてきた。
声の主は男のようだ。
「冷気保存箱を漁ろうとして電撃トラップにかかっただけだから気にしないで」
簡単に人が絶命してしまうほどの魔力量を感知した。
一瞬ビクッと体が跳ねたが、再び湧きあがった緊張と喜びがすぐにそれを打ち消した。
男が絶命してようが、どうでもいい。今はそれより、マーヴィ先生だ。
「そう言えばまだ名前を聞いていなかったわね」
「は、はい! アルボリ地方から参りましたヴィオレ・パープルウッドと申します」
「ずいぶん遠くから訪ねてくれたのね。今日はどんなごようかしら?」
「はい! 先生に私の魔法を見て頂いて……」
面識がない人間がいきなり家を訪ねて、魔法を見てくれなど、失礼すぎることに今になって気づき言葉をつまらせる。
「私で良ければ見せて欲しいわ」
この一言で引っかかっていたものが解消された。
「ほ、本当ですか! いま準備します!」
喜びながらバッグを開けた。
ボロボロの魔導書や必死に治したタリスマンを払いのけ、スティックを探す。
(そんな)
スティックは折れていた。
ひび割れなどを起こしてボロボロだったが、ついに寿命がきたようだ。
(これじゃ魔力のコントロールができない)
「大丈夫?」
バッグを覗きこんだマーヴィ―先生が、ヴィオレに心配そうに声をかけてきた。
「もし良ければ私のスティックを貸そうかしら?」
強い恥ずかしさと情けなさが、ヴィオレを襲った。
だが、それを悟られまいと敢えて明るく振る舞う。
「いえ、大丈夫です!」
バッグに入っているハンカチを手にとった。
「こうして、こうすれば……」
ハンカチを巻き付けてスティックを補修する。
これで魔力のコントロールは少しだけましになった。
「すいません。お見苦しいところをお見せしました。さっそく私の魔法をお見せします」
◇
ヴィオレがスティックを振り上げると、次の瞬間隣に同じポーズをとったヴィオレが現れた。
「幻影生成……」
ヴィオレの幻影を見たマーヴィ―は驚きを隠せなかった。
幻影生成は頭に思い描く術式がとても複雑である。ヴィオレのような年端のいかない少女に覚えきれるものではない。
さらに詳細に細部まで似せるための魔力のコントールは非常に難しい。
それをスティックが折れている状態でやってのけているのだ。
だが、やはり負担は大きいようだ。
幻影をしばらく出した後、ヴィオレは額に汗をかきながら床にひざをついていた。
「はあ、はあ……どうでしょうか先生?」
不安そうな顔でたずねてきたヴィオレを、安心させるように笑みを浮かべる。
「素晴らしい才能だわ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「魔法学園は受験するのかしら?」
「は、はい……その、つもり……です」
「そう、入学楽しみにしているわ」
◇
(やった! 先生に認めてもらえた)
「お~い、冷血クソ女、俺の茶菓子はねえのか?」
あの男がやってきた。
普通に死ぬはずの電撃をうけたはずなのに傷一つない。
(やっぱり、あんな量の魔力は間違いだったか)
きちんと魔力量を感知できなかった未熟さを実感するなか2人は会話を始めた。
「用意していると思う?」
「今から用意しろ」
マーヴィ―先生とこの男は、どんな関係なのだろうか?
接点がどうしても分からない。
「貴金属棚や骨董魔道具には手をつけなかったのね」
「どうせ即死魔法でもかけてんだろ」
「カンがいいのね。残念」
ここでマーヴィ―先生が再び笑いかけてきた。
「ヴィオレさん、せっかく来てもらったのにごめんなさい。少しだけ席を外してくれるかしら」
「は、はい」
◇
コウスケはまだいくつか残っているクッキーに手をつけた。
かなりいい味である。
恐らくどこかの高級菓子屋のものだろう。
「コウスケ、気づいているわよね」
「は? なにがだ?」
「とぼけないで」
「さっきの子のことよ」
「なんだ? やっぱりお前の隠し子だったのか?」
「一緒にしないで」
「一緒ってなんだよ」
「鬼(オーガ)の女に子ども押し付けられて育ててるんでしょ」
「ぶフ……ッ」
思わずクッキーを噴き出した。
「ぷぷ……あと私の名前を勝手に使って幸運を呼ぶ魔法の石とかいうものを売るのは止めてくれないかしら」
「なんのことだか……」
「ぷくく‥‥…誤魔化そうとしても無駄よ。コウスケは王都一の笑い者だから私の所にもすぐに噂が入るの」
マーヴィ―は顔面が崩れた笑い顔を浮かべていた。
普段はクールビューティーを気取っているが、一旦ツボに入ると不細工にぶっ壊れた笑い顔を浮かべて大笑いをすることは変わっていないようだ。
なお笑いのツボは身近な人間のゴシップや、他人の不幸などだ。
(ハハ……相変わらずタチが悪りい女だ)
「ごめんなさいね。こんなもてなししかできなくて」
「と、とんでもないです」
今、自分は憧れの人と対峙している。
ヴィオレはとても緊張をしていた。だがそれは幸福な緊張でもあった。
「ギャー――!」
緊張と幸せをぶち壊す絶叫が聞こえてきた。
声の主は男のようだ。
「冷気保存箱を漁ろうとして電撃トラップにかかっただけだから気にしないで」
簡単に人が絶命してしまうほどの魔力量を感知した。
一瞬ビクッと体が跳ねたが、再び湧きあがった緊張と喜びがすぐにそれを打ち消した。
男が絶命してようが、どうでもいい。今はそれより、マーヴィ先生だ。
「そう言えばまだ名前を聞いていなかったわね」
「は、はい! アルボリ地方から参りましたヴィオレ・パープルウッドと申します」
「ずいぶん遠くから訪ねてくれたのね。今日はどんなごようかしら?」
「はい! 先生に私の魔法を見て頂いて……」
面識がない人間がいきなり家を訪ねて、魔法を見てくれなど、失礼すぎることに今になって気づき言葉をつまらせる。
「私で良ければ見せて欲しいわ」
この一言で引っかかっていたものが解消された。
「ほ、本当ですか! いま準備します!」
喜びながらバッグを開けた。
ボロボロの魔導書や必死に治したタリスマンを払いのけ、スティックを探す。
(そんな)
スティックは折れていた。
ひび割れなどを起こしてボロボロだったが、ついに寿命がきたようだ。
(これじゃ魔力のコントロールができない)
「大丈夫?」
バッグを覗きこんだマーヴィ―先生が、ヴィオレに心配そうに声をかけてきた。
「もし良ければ私のスティックを貸そうかしら?」
強い恥ずかしさと情けなさが、ヴィオレを襲った。
だが、それを悟られまいと敢えて明るく振る舞う。
「いえ、大丈夫です!」
バッグに入っているハンカチを手にとった。
「こうして、こうすれば……」
ハンカチを巻き付けてスティックを補修する。
これで魔力のコントロールは少しだけましになった。
「すいません。お見苦しいところをお見せしました。さっそく私の魔法をお見せします」
◇
ヴィオレがスティックを振り上げると、次の瞬間隣に同じポーズをとったヴィオレが現れた。
「幻影生成……」
ヴィオレの幻影を見たマーヴィ―は驚きを隠せなかった。
幻影生成は頭に思い描く術式がとても複雑である。ヴィオレのような年端のいかない少女に覚えきれるものではない。
さらに詳細に細部まで似せるための魔力のコントールは非常に難しい。
それをスティックが折れている状態でやってのけているのだ。
だが、やはり負担は大きいようだ。
幻影をしばらく出した後、ヴィオレは額に汗をかきながら床にひざをついていた。
「はあ、はあ……どうでしょうか先生?」
不安そうな顔でたずねてきたヴィオレを、安心させるように笑みを浮かべる。
「素晴らしい才能だわ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「魔法学園は受験するのかしら?」
「は、はい……その、つもり……です」
「そう、入学楽しみにしているわ」
◇
(やった! 先生に認めてもらえた)
「お~い、冷血クソ女、俺の茶菓子はねえのか?」
あの男がやってきた。
普通に死ぬはずの電撃をうけたはずなのに傷一つない。
(やっぱり、あんな量の魔力は間違いだったか)
きちんと魔力量を感知できなかった未熟さを実感するなか2人は会話を始めた。
「用意していると思う?」
「今から用意しろ」
マーヴィ―先生とこの男は、どんな関係なのだろうか?
接点がどうしても分からない。
「貴金属棚や骨董魔道具には手をつけなかったのね」
「どうせ即死魔法でもかけてんだろ」
「カンがいいのね。残念」
ここでマーヴィ―先生が再び笑いかけてきた。
「ヴィオレさん、せっかく来てもらったのにごめんなさい。少しだけ席を外してくれるかしら」
「は、はい」
◇
コウスケはまだいくつか残っているクッキーに手をつけた。
かなりいい味である。
恐らくどこかの高級菓子屋のものだろう。
「コウスケ、気づいているわよね」
「は? なにがだ?」
「とぼけないで」
「さっきの子のことよ」
「なんだ? やっぱりお前の隠し子だったのか?」
「一緒にしないで」
「一緒ってなんだよ」
「鬼(オーガ)の女に子ども押し付けられて育ててるんでしょ」
「ぶフ……ッ」
思わずクッキーを噴き出した。
「ぷぷ……あと私の名前を勝手に使って幸運を呼ぶ魔法の石とかいうものを売るのは止めてくれないかしら」
「なんのことだか……」
「ぷくく‥‥…誤魔化そうとしても無駄よ。コウスケは王都一の笑い者だから私の所にもすぐに噂が入るの」
マーヴィ―は顔面が崩れた笑い顔を浮かべていた。
普段はクールビューティーを気取っているが、一旦ツボに入ると不細工にぶっ壊れた笑い顔を浮かべて大笑いをすることは変わっていないようだ。
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