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第1章 すっごく嫌だけど我慢して一緒に住んであげる

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 久しぶりの運動がこたえたコウスケは座り込んだまま身体を休めていた。
 同時に休むコウスケに抱きついたまま一向に離れようとしないスカーレットが気になっていた。

「おいクソガキ、いつまでくっついてやがる」
「うるさいわね。ちょっとくらい我慢してよ」

 そんなやりとりをする中、物陰を感じて上を見上げる。
 そこには、廃墟に入ってきたときにはすでにぶっ倒れていた鬼(オーガ)の女が剣を持って立っていた。

「久しぶりだね。ゲス勇者」
「おめえ誰だ?」
「ママ……」

 女を見たスカーレットの顔色は一転して青白なる。
 
(ああ、これが言っていた奴か。全く記憶にねえなあ)

「クソガキ、ちょっと離れてろ」

 自分を殺しに来ていることは明らかなのでスカーレットをどかせて立ち上がる。

「アンタのせいでアタシの人生は滅茶苦茶になったんだ!」

 コウスケが立ち上がると同時に女は斬り込んできた。

「アンタのせいでこのガキ産まなきゃ、アタシは今ごろ魔族軍の親衛隊にいたんだ!」
「当時、魔族とはもう和解してたから、俺殺しても意味なかったと思うがな~」

 女が斬り込んでくる剣はスピードが遅く技のキレも皆無だった。
 コウスケは鼻をほじりながらゆっくりよける。

「うるさい! あの時、お前を殺せばアタシたちの意見が絶対魔族の主流になった!」
「あっそう。でもこんな腕じゃ親衛隊は無理だったと思うな~」

 あ~めんどうくせえなあと、コウスケは思いながら女の連撃を適当によけていく。
 ついでにポケットからフロストジェルを取り出して女が足を運びそうな場所に垂らした。

「なにを言うか! お前はさっきからよけるのに必死で反撃できないじゃないか!」
「あーハイハイそうですか」
「あの時、お前が頭の悪そうなアバズレエルフを誘わなければ絶対に!」

 剣がコウスケの左肩に振り降りてきた。
 よけるのが面倒くさくなったのであたってやることにした。
 左肩の筋肉に力を入れる。

「な!?」

 左肩に剣があたる。
 血が少しだけにじんだ。
 だが、それで終わりだった。
 普通の人間やモンスターなら十分に殺傷できただろう。
 だが、勇者を殺すには全く力が足りていない。

「うーん、お前のクソガキの剣の方が速くて痛かったな」
「ごちゃごちゃ……な、なんだい足が動かない」

 女は足にフロストジェルをいっぱい垂らせれていることに今気づいたようだ。
 ちなみに女の床周辺にもいっぱい垂らしている。

「あちょー!」

 コウスケはふざけた声をあげながらふざけたポーズで女を蹴る。
 女はフロストジェルがいっぱい垂らされた床に尻もちをついた。

「ち、畜生」
「……」

 地面に密着して動けなくなった女のもとに落ちていた剣をもったスカーレットがゆっくりと歩いてきた。

「な、なんだいスカーレット」

 スカーレットは剣を持ったままずっと母親を見ている。
 女の表情は段々と恐怖に満ちていった。

「クソガキ、殺したら報奨金が3割引きになるから絶対殺すなよ」

「な、なんだい、アンタ私を殺すってのかい!」

 女はますます取り乱し叫び始めた。

「ふざけんじゃないよ! ここまで育ててやった恩を忘れたのかい!?」

 スカーレットは無表情で剣を持ったまま立っている。

「ヒ! ヒイイイイイッお願いだからやめておくれ、止めておくれ、スカーレット様」

 見苦しく懇願する女を見続けながら、スカーレットは冷たく言い放った。

「しないよ。この人にそんな価値なんてない」

 この一言であたりは静まり返った。
 しばらくして、女は笑い始めた。

「ハハ、アハハハハ」

 どの様な形でも生きながらえたのが嬉しいのだろう。
 スカーレットは呆れと軽蔑の目で女を見続けている。

「なに笑ってんだおめえ、この国の女王様は大変な子供好きだからぜってえに死刑になるぞ」

 コウスケは呆れた顔で面倒くさそうに言った。

「まあ、火あぶりか、しばり首のどちらがいいかくらいは選ばせてくれんじゃねえか?」

 女はコウスケの話を聞き、どんどん顔が青くなっていった。

「なに言ってんだい! そんな事したら魔族の国が……」
「あのなあ、今の魔王は世界から認められるために人間の国と仲良くしようって考えてるわけ。そんなときに人間は下等で魔族は優れてるなんて考えてる奴は邪魔なの」
「そ、そんな……」
「そういう考えだからこういう活動してたんじゃねえの?」

 絶望する女にコウスケは面倒くさそうに話し続けた。

「まあ、お前らにとっちゃその考えも自己顕示欲を満たしてアホな行為を正当化するための道具にすぎねえってのは分かってたけどな」
「た、助けて! 助けとくれよ!」
「じゃ、詰所に連絡してお前ら運ぶ応援呼ぶからちょっと待っててくれ」

 コウスケはみっともなく大声を出す女に背を向けて、連絡用の伝書鳩を呼ぶための笛を取り出そうとポケットの中を手探りし始めた。
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