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第1章 すっごく嫌だけど我慢して一緒に住んであげる
1-4
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「おじさん、おかわり」
料理屋の店主は再び皿を差し出した。
さっきからいったいこのガキはどんなだけ食うのだろうか。
いっぱい稼いだがこのままだと金が無くなり、
このガキと別れた後にお姉ちゃんのお店に行く予定がおじゃんになりかねない。
「おめえ、もっと遠慮ってもんをだな……」
「ゲス勇者が食べて言っていったんでしょ」
「ったく口の減らねえクソガキだな」
生意気な態度に腹が立ったが、どうすることもできないのでとりあえず酒を呑むことにした。
「オヤジ! 麦酒くれ!」
「おじさん、私もオレンジの絞り汁ちょうだい」
差し出された酒を口に運びながら、バクバクと飯を食い続ける少女に疑問に思った事を聞いてみる。
「で、クソガキ。おまえ名前は?」
「スカーレット」
「歳はいくつだ?」
「12歳」
たのんだ食事を口いっぱいにほお張り続けながらスカーレットはこたえる。
手と口を休める気配は一切ない。
身なりから貧乏人の子供だとは思っていたが、飯が食えないほどなのだろうか。
戦争中の昔ならばともかく今のこの国でそんなことは滅多にない。
なにか理由があるのだろうか。
それともくいじがはっているだけなのだろうか?
色んな疑問が頭をよぎったが深入りしたところで金になりそうにないのでこの詮索をすることはやめて、疑問に思ったことを聞くことにした。
「俺のガキだってのはマジか?」
「みたいだね。嫌でたまらないけど」
「身に覚えが……」
数えきれないくらいあった。領主をしていて調子にのっていたころは金と名声につられた女たちと手当たり次第に一夜の関係をもった。
そのことを思い出し言葉がつまる。
「身に覚えあるんだね」
「ねえよ!」
「じゃあなんでさっき、固まったの?」
いちいち腹の立つガキだ。まぎらわせるために、麦酒を一気に飲み干して話を進める。
「お前が俺のガキだっていうのは誰が言ったんだよ?」
「ママ」
「しょ、証拠はあんのかよ!」
「私の眼を見て」
スカーレットの瞳を凝視する。
瞳の色は両方とも黄色だ。だが、右目の瞳には小さいが黒い炎の模様がある。
これには見覚えがある。初代勇者の血が入っている者によくある特徴だ。
11歳から14歳の時期に、片方の瞳のどちらかに黒い小さな炎の模様が表れる。
これはどんどん広がっていき、一年くらいで片方の瞳は完全に黒色になる。
「こ、これだけじゃ証拠になんねえな……」
たしかに確たる証拠ではない。しかし、初代勇者の血を受け継ぐ子孫は全世界に1000人ほどしかいない。また、コウスケの生まれ故郷である勇者の里や、その近辺にずっと定住している者が大半だ。鬼の女性とそういう行為に及ぶことができるものなど滅多にいないだろう。
(大丈夫、俺と決まったわけじゃない)
心の中で言い訳しながらコウスケは話しを進めていく。
「で、おめえの死んだお袋さんは」
「勝手に殺さないで! ママは生きてる!」
食べ物をほおばり続けながら強い口調と眼光でスカーレットは言い放つ。
「分かった悪かった」
「おめえのお袋さんは俺とどこで出会ったつってんの?」
「覚えてないんだ。最低だね」
スカーレットの目には、強い怒りと軽蔑が浮かんでいた。
「絶対殺してやるから……」
どうやら母親のことは完全に地雷のようだ。
自分になにか非があるかも知れないが、奢ってやっているのに、この言い草には腹が立った。
「ッケ! クソガキが……」
気づけば腹も減ってきたので、とりあえず飯をたのむことにした。
「オヤジ小腹空いたわ」
「おじさん、私ももっと食べたい」
真似してんじゃねえよという視線を互いに向けながら注文をとりにきた店主にオーダーを伝える。
「「グレートボアのステーキ」」
声を出すタイミングも一緒だった。
しばらくの沈黙の後、スカーレットが口を開いた。
「おじさん、私、グレートボアのステーキ2枚」
「オヤジ、俺は3枚、こいつの2倍くらいあるデカい奴をくれ」
「私、やっぱり10枚」
「俺は300枚だ!」
しばらくにらみ合い、スカーレットが口を開く。
「なんで私と、はり合おうとするの! バカじゃないの!」
「張り合ってねえよ! 腹空いてんだよ」
そんな二人の間に店主は気まずそうに割って入ってきた。
「あのう、そんなにないんですが……」
「じゃあ、出せるぶん全部もってこい!」
しばらくしたのちグレートボアのステーキがでてきた。
長さ60cm、厚さは8cm、それが30枚づつ2人の前に置かれる。
2人はにらみ合いを続けながらそれを貪り食べた。
「おっしゃー!」
先に完食したのはコウスケだった。
「なにがおっしゃよ……やっぱり、はり合ってるじゃない」
くやしそうなスカーレットにコウスケは勝ち誇った言葉を投げかける。
「悔しかったらもっと早く食えるようになれや」
「絶対いつか殺してやるから」
「おっ今やんなくていいのか?」
からかうコウスケを見ながらスカーレットはばつが悪そうに吐き捨てた。
「もうそんな気分じゃない」
「そっか、じゃあ会計してくんな。オヤジ、おあいそだ」
そう言ってコウスケは店主のもとに向かう。
「ゲーー! こんなになんのか!? なあオヤジちょっとでいいからまけてくんねえか?」
「いつもまけてるじゃないですか。今日はかんべんしてくださいよ」
◇
値切りの交渉をするコウスケをスカーレットは呆れた目で遠目から伺う。
アイツは本当にどうしようもない奴だった。
でも、そのおかげで久しぶりに満足いく食事ができたのも事実だった。
「ありがとう」
コウスケを見ながら思わずポツリとそうつぶやいてしまった。
その事に気づいたスカーレットは、慌てて口を塞ぎ違う方向を向く。
アイツはママの人生を台無しにした全ての諸悪の根源、絶対にありがとうなんて言ってはいけない男だ。
明後日の方向を向きながらスカーレットは自分に言い聞かせ続けた。
料理屋の店主は再び皿を差し出した。
さっきからいったいこのガキはどんなだけ食うのだろうか。
いっぱい稼いだがこのままだと金が無くなり、
このガキと別れた後にお姉ちゃんのお店に行く予定がおじゃんになりかねない。
「おめえ、もっと遠慮ってもんをだな……」
「ゲス勇者が食べて言っていったんでしょ」
「ったく口の減らねえクソガキだな」
生意気な態度に腹が立ったが、どうすることもできないのでとりあえず酒を呑むことにした。
「オヤジ! 麦酒くれ!」
「おじさん、私もオレンジの絞り汁ちょうだい」
差し出された酒を口に運びながら、バクバクと飯を食い続ける少女に疑問に思った事を聞いてみる。
「で、クソガキ。おまえ名前は?」
「スカーレット」
「歳はいくつだ?」
「12歳」
たのんだ食事を口いっぱいにほお張り続けながらスカーレットはこたえる。
手と口を休める気配は一切ない。
身なりから貧乏人の子供だとは思っていたが、飯が食えないほどなのだろうか。
戦争中の昔ならばともかく今のこの国でそんなことは滅多にない。
なにか理由があるのだろうか。
それともくいじがはっているだけなのだろうか?
色んな疑問が頭をよぎったが深入りしたところで金になりそうにないのでこの詮索をすることはやめて、疑問に思ったことを聞くことにした。
「俺のガキだってのはマジか?」
「みたいだね。嫌でたまらないけど」
「身に覚えが……」
数えきれないくらいあった。領主をしていて調子にのっていたころは金と名声につられた女たちと手当たり次第に一夜の関係をもった。
そのことを思い出し言葉がつまる。
「身に覚えあるんだね」
「ねえよ!」
「じゃあなんでさっき、固まったの?」
いちいち腹の立つガキだ。まぎらわせるために、麦酒を一気に飲み干して話を進める。
「お前が俺のガキだっていうのは誰が言ったんだよ?」
「ママ」
「しょ、証拠はあんのかよ!」
「私の眼を見て」
スカーレットの瞳を凝視する。
瞳の色は両方とも黄色だ。だが、右目の瞳には小さいが黒い炎の模様がある。
これには見覚えがある。初代勇者の血が入っている者によくある特徴だ。
11歳から14歳の時期に、片方の瞳のどちらかに黒い小さな炎の模様が表れる。
これはどんどん広がっていき、一年くらいで片方の瞳は完全に黒色になる。
「こ、これだけじゃ証拠になんねえな……」
たしかに確たる証拠ではない。しかし、初代勇者の血を受け継ぐ子孫は全世界に1000人ほどしかいない。また、コウスケの生まれ故郷である勇者の里や、その近辺にずっと定住している者が大半だ。鬼の女性とそういう行為に及ぶことができるものなど滅多にいないだろう。
(大丈夫、俺と決まったわけじゃない)
心の中で言い訳しながらコウスケは話しを進めていく。
「で、おめえの死んだお袋さんは」
「勝手に殺さないで! ママは生きてる!」
食べ物をほおばり続けながら強い口調と眼光でスカーレットは言い放つ。
「分かった悪かった」
「おめえのお袋さんは俺とどこで出会ったつってんの?」
「覚えてないんだ。最低だね」
スカーレットの目には、強い怒りと軽蔑が浮かんでいた。
「絶対殺してやるから……」
どうやら母親のことは完全に地雷のようだ。
自分になにか非があるかも知れないが、奢ってやっているのに、この言い草には腹が立った。
「ッケ! クソガキが……」
気づけば腹も減ってきたので、とりあえず飯をたのむことにした。
「オヤジ小腹空いたわ」
「おじさん、私ももっと食べたい」
真似してんじゃねえよという視線を互いに向けながら注文をとりにきた店主にオーダーを伝える。
「「グレートボアのステーキ」」
声を出すタイミングも一緒だった。
しばらくの沈黙の後、スカーレットが口を開いた。
「おじさん、私、グレートボアのステーキ2枚」
「オヤジ、俺は3枚、こいつの2倍くらいあるデカい奴をくれ」
「私、やっぱり10枚」
「俺は300枚だ!」
しばらくにらみ合い、スカーレットが口を開く。
「なんで私と、はり合おうとするの! バカじゃないの!」
「張り合ってねえよ! 腹空いてんだよ」
そんな二人の間に店主は気まずそうに割って入ってきた。
「あのう、そんなにないんですが……」
「じゃあ、出せるぶん全部もってこい!」
しばらくしたのちグレートボアのステーキがでてきた。
長さ60cm、厚さは8cm、それが30枚づつ2人の前に置かれる。
2人はにらみ合いを続けながらそれを貪り食べた。
「おっしゃー!」
先に完食したのはコウスケだった。
「なにがおっしゃよ……やっぱり、はり合ってるじゃない」
くやしそうなスカーレットにコウスケは勝ち誇った言葉を投げかける。
「悔しかったらもっと早く食えるようになれや」
「絶対いつか殺してやるから」
「おっ今やんなくていいのか?」
からかうコウスケを見ながらスカーレットはばつが悪そうに吐き捨てた。
「もうそんな気分じゃない」
「そっか、じゃあ会計してくんな。オヤジ、おあいそだ」
そう言ってコウスケは店主のもとに向かう。
「ゲーー! こんなになんのか!? なあオヤジちょっとでいいからまけてくんねえか?」
「いつもまけてるじゃないですか。今日はかんべんしてくださいよ」
◇
値切りの交渉をするコウスケをスカーレットは呆れた目で遠目から伺う。
アイツは本当にどうしようもない奴だった。
でも、そのおかげで久しぶりに満足いく食事ができたのも事実だった。
「ありがとう」
コウスケを見ながら思わずポツリとそうつぶやいてしまった。
その事に気づいたスカーレットは、慌てて口を塞ぎ違う方向を向く。
アイツはママの人生を台無しにした全ての諸悪の根源、絶対にありがとうなんて言ってはいけない男だ。
明後日の方向を向きながらスカーレットは自分に言い聞かせ続けた。
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