調子に乗ってざまあされたゲス勇者、娘たちに逆襲されるの巻

松本生花店

文字の大きさ
上 下
2 / 58
第1章 すっごく嫌だけど我慢して一緒に住んであげる

1-1

しおりを挟む
 時刻は昼間、場所は王都ヴェルジュの有名な広場。にぎやかな露店がつらなるなか、コウスケも星のマークが描かれた石を並べてその中に加わっていた。

「さあさあ、よってらっしゃい! 見てらっしゃい! 今日はお前らに特別に良いものを売ってやる」

 領主の座を追われてから10数年。様々な居住地や職を転々としたコウスケは王都に流れ着き自警団の団員職になんとか就くことができた。
 自警団の仕事内容は市民同士のトラブルの解決や犯罪者の拘束など王都の治安維持。
 俸給は基本給に犯罪者を捕まえた歩合給で支払われる。
 だが犯罪者の拘束は運要素も強いので基本給だけの俸給になることも多い。
 基本給は10万G。薄給であるため自警団員は、なにかしらの兼業をしている場合が大半である。
 コウスケもその1人だ。



 威勢よく呼び込みをするコウスケの露店の周囲には沢山の人だかりができていた。
 観衆の中から声を上げる。

「ゲス勇者。今日はどんなインチキなものを売るんだ!?」
「おいおい俺がいつインチキなもんなんて売った!?」
「毎日だろ!」

 笑いながらヤジを飛ばす観衆に、コウスケはまなじりを吊り上げた。

「今回は本物だ! なんとこれは幸運を呼ぶ魔法の石よ」
「魔法の石?」
「おう! これには特殊な魔力が秘められていてな。持ってるだけで強力な幸運が降りかかるってしろものよ!」
「なるほど。それ作るために昨日、河原で石拾ってたんだな」

(しまった見てた奴がいたのか)

 コウスケは激しく焦った。
 しかし引くわけにはいかない。
 大きさがそれっぽい石を選んで集めること。
 それを家まで運ぶこと。
 1つ1つの石に星の絵を描いていくこと。
 どれも結構な手間である。なんとしてでも、元を取らなければ。

「なに言ってんだ。これを作ったのは俺と昔パーティー組んでた今をときめく賢者だぞ。俺だからってことで特別に卸してもらったのよ!」
「おいおい、賢者様の名前勝手に使うのはやべえだろ」
「嘘だと思うなら買って試してみやがれ! 今ならたったの1万Gよ!」
「ギャハハッぼったくりすぎだろ」

 大笑いが響き渡るなか、冷かしの1人が手を上げた。

「俺さっきカジノで勝ったからシャレで買うよ」
「おっしゃ! 毎度ありい! おい、お前らも幸運になりたきゃ買え」

 コウスケが幸運を呼ぶ魔法の石を渡したその時、買った冷かしの頭上に大きな糞が落ちてきた。冷かしの首から上は糞に埋もれる。

「おい! なにがあったんだ!?」

 パニックになりながら空を見る。
 大きな鳥が飛んでいる。
 どうやらあの鳥の糞が落ちてきたようだ。

「うぎゃあああ! 汚ねえ」

 糞に視界をふさがれた視界がふさがれた冷かしが混乱してふらふらで歩く。
 観衆は叫び声をあげながらそれをさけた。

「ふご、ふご……」

 首から上が糞で埋まってしまっているため、冷かしは呼吸ができず苦しそうだ。

「はは……ウンがいっぱいついただろ。だからこれから良いことが……」
「ふぐふぐ! ふぐふぐ!」
「やめろ! くるな! こっちくんな!」

 冷かしの不幸は、これで終わらなかった。
 糞で視界を奪われた、冷かしは、おぼつかない足取りのまま軒下にぶら下がっていた蜂の巣に突っ込んで行ってしまったのだ。

「ふぐううう! ふぐううう!」

 倒れこむ冷かしの身体を、蜂たちは容赦なく刺していった。
 冷かしの体のあちこちは、みるみる真っ赤に腫れあがっていく。

「むご過ぎる……」

 観衆たちは皆、冷かしのあまりの惨状に、言葉を失った。

「お、おめえら……こ、この幸運を呼ぶ魔法の石を買うとだな。しあわせに……」
「なるわけねえだろ!」
「ゲス勇者、これどっかのダンジョンの呪われたアイテムとかじゃねえのか?」
「マジかてめえ、俺らにどんな恨みがあるんだ!?」
「いや、本当に幸せになるんだ。たのむ2000、いや1000Gで良いから買ってくれ!」

 騒ぎ立てる観衆たちに、取り乱しながらコウスケは訴え続けた。

「ごめん、通して」

 そんな中、観衆たちの合間をぬうようにして1人の少女が目の前に現れた。

 背丈と顔つきから考えるに少女の年齢は12歳くらいだろうか。
 髪はオレンジ色で、鎖骨くらいにかかる位の長さだ。
 年頃であるにも関わらずボサボサで手入れがされていない。
額には二本の角が生えている。
 魔族の部族の1つ、オーガ族かと思ったがそれにしては角が小ぶりだ。
 恐らくハーフオーガだろう。
 服装は、女の子が着るものと思えないほど軽装で汚くみすぼらしい。
 スラム街から来たのだろうか。
 アクセサリの様なものはつけていないが、背中に木剣を背負っていた。

「ねえ? アンタがゲス勇者?」

 少女は突然機嫌が悪そうな声色で話しかけてきた。

「あ、ああ」

 少女は鋭い目つきでコウスケを見つめ続けている。

「おめえもしかして……」

 やっと分かったかっと、言いたげな機嫌の悪い表情を少女はコウスケに向けたが、続くコウスケの言葉はあまりに見当違いのものだった。

「幸運を呼ぶ魔法の石を買いてえんだな!」

 だからわざわざ人々をかき分けてまで前にでてきたのだ。
 機嫌が悪そうなのは早く欲しくてイライラしているに違いない。

「いいぞ! まだガキだから特別に安くしてやる。1000Gでどうだ?」

 これ以上不機嫌にさせては商売のチャンスを逃がす。
 そう思って笑顔で石を勧めたコウスケに、少女はさらに憤るばかりだった。

「ふざけるな!」
「んだよお。てめえも冷かしか」

(めんどくせえ、なにキレてんだコイツ)

 心の中でそうつぶやきながらどうやってこのガキを追っ払おうか、考え始める。
 しかし次の瞬間少女が口にしたのは、思いもつかない言葉だった。

「私はアンタの娘だ!」
「はあ!?」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...